7
それから少しずつ、我が家で次女のことが話されるようになった。僕は彼女が心配したほど家庭から浮くことはなかった。
一年後、東京に進学した僕が宗教じみた政党の勧誘を受けるようになったことは、また別の機会に話そうと思う。だからここからは、もう少し時間を開けた、五年後の話をしよう。
大学卒業時に無事中堅企業へ就職を果たした僕は、ある晩の帰宅途中、姉の夫から電話を受けた。
「昌くん、生まれたよ!」
上擦った声が電話口で聞き取りづらかったが、どうにか意味は分かった。
「おめでとうございます。男の子ですか、女の子ですか?」
「柑和そっくりな女の子だ」
「……生まれたてで、そっくりですと?」
親馬鹿ここに極まる。きっとこの男は、妻を溺愛するように娘を大切にするだろう。そして思春期の娘にお父さん嫌いと言われて涙の晩酌だ。間違いない。
「きっと美人になるぞ。名前も決めたんだ。俺が発表したらなぜか柑和が驚いていたけど」
「へえ、どういう名前です?」
「『亜紀』っていうんだ。きっと美人になるぞ、柑和の娘だからな」
僕も多分、姉と同じくらい驚いた。
しかしなんにせよ、めでたいことだ。
「そんなに美人になったら、僕がいただきましょうかね。せっかく血縁もないことですし……」
冗談半分で言ってやると、姉の夫は面白いくらい慌てた。
「昌くんそれは犯罪だ、お義兄さん許さないからな! あれ、お父さんか!?」
「ひとまず深呼吸しましょうか」
姉の素直な夫は、電話口ですぅはぁしだした。僕は必死に笑いをこらえる。
「……よし、落ち着いたぞ。週末にでも見舞いに来てやってくれ。きっと柑和も喜ぶ」
「せっかくですが、未婚男子に産婦人科は敷居が高いので退院後にします。それじゃあ『お義父さん』、失礼しますね」
「ちょっと待て!」
僕は電話を切った。
……いや無論、天地神明に誓って、姪っ子に手を出そうとは思っていない。僕だって二十二歳差は遠慮したい。あまりにも義兄の反応が可笑しいから、ついからかいすぎただけだ。
会社近くに借りたアパートの鍵を開けながら、まだ見ぬ姪に心中で謝罪する。
ごめんね、亜紀ちゃん。叔父さんにとって『アキ』って名前は特別なんだ。だから君のお父さんが叔父さんを番犬のごとく排除しにかかると思います。
亜紀ちゃんが中学生くらいになったら、ジュースでも奢って、同じ名前の叔母について話しをしてあげよう。ちょっと信じられないかもしれないけど、と前置きして。いや、信じられるか。姉さんの娘だしな。
アキ、僕は、僕たちの家族を守れているかい?
強く念じてみても、頭痛は起きない。あの日以来一度もなかった。そのことがあるいは寂しいのかもしれないが、後悔はしていない。
こんなふうにさり気なく、アキのことを思い出せるようになったからだ。僕だけでなく、家族の皆が。
電柱はもう、踊らない。少なくとも、僕の周りでは。
変わらない日常と楽しみに満ちた未来が、ここにある。




