380.新暦0003年
〝新暦三年〟
私の見ていないところで陽滝姉も成長していたと知り、すぐにフーズヤーズ城内の調査に乗り出す。
私と師匠が旅に出ている間、陽滝姉がどこでどんなことをしていたのか知りたかった。
痕跡を見つければ、あの新しい『氷の力』の詳細を推測できる。場合によっては、模倣できる可能性もである。
まずは何よりも大切なのは知ること。そう『冒険』で学んでいた私は、城内を駆け回り続けた。しかし、その調査の途中で、一人の使徒が私を呼び止める。
「――ティアラ! 話があるわ! とってもいいお話がね!」
この二年で仲良くなった女性が、私の前に立ち塞がった。
「シス姉? ……話ってなに?」
私は敬語を使わず、友人として話す。ちなみに、この愛称を『理を盗むもの』以外で許されているのは私くらいだ。なので、ちょっとした自慢である。
「ふっふっふ。これから先の戦いを確実に乗り越えるための完璧な計画よ。計画名は『光の御旗』、そう私たちは呼んでるわ――」
ただ、その姉代わりとなってくれた使徒は、妹分である私に犠牲となることを強いろうとした。
シス姉の持ちかけた話を全て聞いたとき、流石の私でも表情が濁った。
「――えーっと、つまり、私がフーズヤーズの旗印に?」
「ええ、そうよ! ありがたく思いなさい! ティアラ・フーズヤーズは大陸統一のための礎となれるのよ! 私たち使徒の目的達成のために死ねることを、誇りに思いなさい! あなたは使徒シスの選んだ『聖女』として、永遠に歴史書に残るのだから!!」
友人の癖に、何の迷いもなく私の死を口にする。
いつも通りのシス姉だなと思いながら、彼女の後ろに控えていたもう一人の使徒ディプラクラ様にも目を向ける。
「……うむ、いまシスの言った通りじゃ。すでにおぬしは各地にて、『救世主』様に付き従う『聖女』様と噂されておる。ゆえに、適役じゃと判断した。無論、すでにおぬしの家族である王たちとも話はついておるぞ」
どこか自慢げに、ディプラクラ様は私の未来を語っていく。
父たちが私を売ったことは気にしないが、その新たな役目は簡単に容認できるものではなかった。
「ちょっと待ってください……! 急にそんなことを言われましても、まだ心の準備ができていません……!」
いま私は、陽滝姉のことだけで手一杯なのだ。
そんなことをしている暇は一秒もない。
「む? フーズヤーズの旗印ということは、『北連盟』との戦いの切り札になるわけじゃが……おぬしの好みではないか? 逆境からの大逆転劇、その中心に立てるのじゃぞ?」
ディプラクラ様は人の心に対して勤勉だ。
その思慮深さと観察力で、私の好みを把握している。確かに、これから起こるであろう大戦争の切り札になれるのは、とても魅力的な提案だ。『理を盗むもの』たちが戦う中、堂々と横から殴りつけれるのは、想像するだけで心が躍る。
ただ、いまフーズヤーズの旗印なんて道に入ってしまえば、そこから二度と抜け出せない気がするのだ。
それは例えば、
〝フーズヤーズの旗印となったティアラ・フーズヤーズは『光の御旗』として、『南連盟』の希望の象徴となる。しかし、その旗を持つということは、フーズヤーズの宿命を全て背負うということでもあった。万物の『代わり』でいることを託されたティアラ・フーズヤーズは、その凄惨な戦いの果てに、愛する人の前に立たされる。――全ては『代わり』となる為。それが『光の御旗』と呼ばれる少女の産まれてきた役目だった〟
という最後の頁。
つい先日、自分の甘さを再確認したからこそ、そこに落ちることだけは絶対に見過ごせなかった。私は心中で「死んで堪るか」と毒づきつつ、その道から逃れるために言葉を紡ぐ。
「レガシィ様は? 彼は、どう言っていました? それと陽滝姉も……」
誰かが計画に反対していないか確認を取ろうとした。それにはシス姉が間を置かずに答えてくれる。
「レガシィと陽滝? そういえば最近二人は、一緒に何かやっているわね。まだ二人には賛成かどうかは聞いてないわ」
「え? あの二人が一緒に何かをやっている……?」
私の思惑から少し逸れて、意外な情報が入ってきた。
いままで一度もなかった組み合わせに、目を見開く。
なによりも、あの物静かなレガシィ様が、能動的に行動していることに違和感を覚えた。
それにはディプラクラ様も同様だったようで、私と同じ反応を見せる。
「なにっ? あのレガシィがか?」
「あなたも知らなかったの? ……へー、ディプラクラは知らなかったのね。へー」
「むう、急になんじゃ……?」
シス姉は自分だけが知っていたことに優位を感じたようで、にやついた意地悪な顔でディプラクラを煽った。
そのとき、彼女の競争心が妙に強まっていることにも違和感を覚えた。
だが、いまは自分の安全を優先して、詳しく二人について聞き出す。
「シス姉。いま陽滝姉とレガシィ様は、どこにいるの?」
「二年前、あなたが最初に療養していた塔ね。あそこで妙な研究を、ずっとしてるわ」
私が療養という名の幽閉がなされていた場所に、ずっと二人はいたらしい。
あの空っぽの塔が再利用されているのは盲点だった。だからこそ、そこが陽滝姉の二年間の隠れ家だったと確信できる。
「すみません、ディプラクラ様!! ちょっとお二人に聞いてきます! お話はまたあとで――!」
後ろからシス様とディプラクラ様が呼び止めたけれど、私は構わず塔に向かって駆け出した。
この二年間、あの場所に戻ったことは一度もなかったが、道順を間違えることはなかった。
敷地の隅にある懐かしの我が家まで、真っ直ぐ進み――ずらりと警備兵の並ぶ入り口前まで辿りつく。
ただ、私の姿を見つけた兵士たちは慌てた様子で、私の歩みを止めようとした。
「ティアラ姫……!? このようなところに、姫様が来ては――」
「このようなところ? この塔は、私が病を乗り越えるまで支えてくれた場所! なにより、私が初めて『異邦人』様と出会った思い出の場所! どきなさい!!」
私は一喝して、門番となっていた兵たちを退けさせた。
そして、家主のように、堂々と塔の中に帰還する。
かつて古びた階段と最上階しかなかった塔は、激変していた。
天井は異様に低くなり、大量の本棚が持ち運ばれて、見たことのない研究者たちで埋め尽くされている。彼らを押し退けて、見覚えのある階段を上がる。その先に待っていたのは初めて見る二階。その広々とした会議室のような部屋を通り抜けて、次の階段も早足で上がっていく。三階まで辿りつくと、ファニアで見た研究院の地下と同じような光景が広がっていた。
大きな解剖台を中心に、無数の『魔人』の死体が周囲に積み上げられている。
中には解剖が終わり、臓器を散乱させている死体もあった。その地獄のような空間には、私の見知った顔が並んでいた。
一人目はファニアの領主ヘルミナ・ネイシャさんだ。彼女は入室してきた私に気づいて、目を丸くしながら、作業の手を止めた。
「え、ティアラちゃん……!? これは……、その……」
とてもばつが悪そうに目を泳がせてから、言い訳しようとする。私は血液特有の鉄の臭いに鼻を痛ませながらも、彼女に微笑みかけて安心させる。
「そのままやってていいよー。私のことは気にしないでー」
「……あの、怒らないのですか?」
「怒るわけないよ。これでも、私はヘルミナさんの『血の力』のファンの一人だからね。――でも、ちょっと見学させてね」
「は、はい」
語気を強めてヘルミナさんを大人しくさせ、私は二人目の見知った顔に目を向ける。
部屋の中心で子供の使徒が、ヘルミナさんを始めとした研究員たちに指示を出していた。
レガシィ様がこんなにもはきはきと喋っているところを私は初めて見た。その上、意外にもリーダーシップが取れている。研究員の誰もが彼の言葉をよく聞き、淀みなく動いているのだ。
そのレガシィ様に私は声をかけようとするが――
「――ティアラか。おまえが帰ってくるのを待っていた。いま俺は『人』の仕組みを知るために、『人』を一から作っているところだ。そこにいる優秀な『人』ヘルミナ・ネイシャの協力を得て、安全に『魔の毒』を浄化できる存在を目指している」
私が聞くよりも先に向き直られ、簡潔にいまの状況を答えられてしまう。
その「安全に『魔の毒』を浄化できる存在を作る」という話を、私は二年前に聞いたことがあった。これはヘルミナ・ネイシャの構想していた『魔石人間』計画だ。あの荒唐無稽な計画に、この使徒は躊躇することなく手を出したようだ。
しかも、いま軽く見た限りだが、百年はかかるとされていた計画が形になりかけていた。
二年前に『血の力』を模倣し、ずっと主力として鍛えてきたからこそ、この部屋の解剖台の上にある実験作の出来の良さに私は気づく。
驚きで声の出ない私に対し、レガシィ様は私の望む情報を出し続ける。
「もはや、これは当初の『魔人』の作成ではないだろうな……。人工的な『理を盗むもの』の作成と言ったほうが正しいだろう。『使徒』の俺は、『魔人』より『理を盗むもの』を作るほうが向いていた」
「ヘルミナさんの知識で、レガシィ様が新しい『理を盗むもの』を……?」
その役割分担で、本当に「安全に『魔の毒』を浄化する『理を盗むもの』」が完成できるのならば、あらゆる問題が進展するだろう。研究の進みようによっては、最終目標である「星全ての『魔の毒』を循環できる存在」だって夢ではない。
その夢に至るための計画を、解剖台の前に立ったレガシィ様は一切隠すことなく話し続けていく。
「これには、人為的に『呪い』を背負わせる予定だ。『呪い』は他者の心を誘導する力である『魅了』を選んだ。これならば、制御さえ間違えなければ誰も不幸にならないどころか、幸福を呼ぶ」
狙いは『呪い』の発生を抑えるのではなく制御することらしい。
それは、いま私が挑戦している『呪い』の回避方法と少し似ていた。
「『呪い』の案は、そっちの『異邦人』から貰った。『魅了』の『呪い』ならば人々の心の支えとなり、世界平和にも貢献できる可能性があるらしい。前例が、向こうの世界にあると聞いた」
レガシィ様は話の終わりに、自らの協力者に目を向ける。その視線の先には、部屋の隅で座り込んでいた『異邦人』が髪を梳いていた。
「……陽滝姉、こんなところでこんなことしてたんだね」
名前を呼びながら、つい先日私に死の宣告をした相手に近づく。
それに陽滝姉は笑顔で応えていく。
「私は見ているだけですよ。主導はレガシィとフーズヤーズ国で、あくまで私は助言者に過ぎません。レガシィ自身に頼まれて、『人』初心者の彼が、人道から外れたことをしでかさないかを見張ってるだけです」
「へー……。頼まれて、ね」
こんなにも信じられない言葉はないと思いつつ、私は目を凝らす。
陽滝姉の足元から伸びた『糸』が、例の白い庭のときと同じように建物の床を真っ白に染め上げていた。
そして、レガシィ様とヘルミナさんに一本ずつ『糸』が繋がっている。
「助言者かー。なんかちょっと楽しそうだね。私もアドバイザーになろっかなー」
「レガシィはあなたに親近感を抱いているようなので、きっと歓迎してくれますよ。私のような助言者ではなく、協力者扱いとして計画に参加できるはずです」
軽い牽制で提案したことだったが、あっさりと了承される。
その軽さから、もう『魔石人間』計画は止められないのだとわかった。
さらに言えば、いまここで私が〝ティアラ・フーズヤーズは『光の御旗』という役目を、出来上がる『魔石人間』に押し付ける〟ことを思いつくのも、陽滝姉の誘導の可能性が高い。
「へえ……。いまからでも参加できるなら、しようかな……」
それでも、この塔で起こることを放置はできない。例の『光の御旗』計画を受け入れることもできない。
いまの私にできる最善は、計画に参加して〝ティアラ・フーズヤーズは『光の御旗』という役目を、出来上がる『魔石人間』に押し付ける〟しかないと、様々な未来予測できるスキルが答えを出していた。
「――構わない、ティアラ。歓迎する」
レガシィ様は私に目を向けることなく、頷いた。その後ろ姿を前に、これから協力していく仲間に本音を一つだけぶつける。
「……レガシィ様、いま私は少し驚いています。正直なところ、あなたはもっと無気力な方かと思っていました。それこそ、この世界でやりたいことなんて一つもないと」
「この世界でやりたいこと、か……。確かに、それは俺にないものだろうな。だからこそ、俺は知りたいんだ。もし俺と同じような存在が生まれたとして、どうなるのか。何を考えるのか。何を求めるのか。どこへ行くのか。それを見てみたい。おまえと一緒で、好奇心で――ただ、見てみたいと思って、『人』を作ろうとしている」
私の本音に、レガシィ様も本音で応えてくれた。
ずっと気づかなかったことだが、陽滝姉の言うとおり、彼は私に強い親近感を抱いているようだ。ただ、その言葉を紡ぐ彼の後姿は、見ていて不安で堪らなくなる。
「もしかしたら、これが俺の生まれた意味を教えてくれるかもしれない……。そうすれば、やっと俺は俺が知れる……。やっと俺も、他のみんなのように『人』らしくなれる……!」
燃え盛る炎の光に吸い寄せられる羽虫のように見えるのだ。
その隣にいる血塗れの女性も同じだ。『血の力』による世界救済を願う彼女は、興奮した様子で呟き続ける。
「い、行けるっ。ここでなら、今度こそ行ける……! 私と使徒様の知識が合わせれば、一人じゃ届かなかった深遠まで……! あと少しで、今日まで犠牲になった人たちが、安心して眠れる……!!」
ヘルミナさんはマッドサイエンティスト気味だったが、一度領主という役職についてからは、その狂気は鳴りを潜めていた。しかし、ここに来て、急激に心が不安定になっていっているのがわかった。
『魔石人間』計画という希望に向かって突き進む二人。
そして、それを後方で見守り続けている陽滝姉。
彼女の黒い瞳を見て、私は確信する――
急に『光の御旗』を計画したディプラクラ様。
仲間である使徒たちに強い競争心を持ったシス姉。
迷子のように自分探しを始めたレガシィ様。
再び血の研究に取り憑かれたヘルミナさん。
――これが陽滝姉の言っていた「片手間ではない本当の最終章の始まり」とわかり、急いで私はスキル『読書』を発動させる。
ありとあらゆる情報を基にして、この物語の最後の頁を読もうとする――が、全く先は見えない。
「でも今日は、ひとまず帰るね……。たぶん、シス姉とディプラクラ様が私を捜してると思うから……」
「そうか。なら、あとで研究成果を誰かに持っていかせよう。俺はおまえの助言を期待している」
私は経過報告を受け取る約束だけをしてから、部屋から出た。
会議室の二階を通り、研究員でごった返しになっている一階から、塔の外に出る。
そして、『光の御旗』計画の答えを他の二人の使徒様たちに伝えようとして、元の場所に向かって歩く。
ただ、その道の途中で、別の塔から出てきた師匠と鉢合わせた。
表情は黒い仮面でわからなかったが、また新たな希望を一つ見つけたとわかる明るい声で、私の名前を呼ぶ。
「ティアラ! こんなところにいたのか! 次に行く場所が決まったから聞いてくれ!」
ちらりと、師匠の背後にある塔を見る。
二年の間、『呪術』の研究と練習をしてきた塔だ。こちらも増築が繰り返されて、大きな城のように巨大化してしまっている。
この塔では、他国の研究員たちが多く滞在していて、『魔の毒』の病の対処と治療を主に行なっている。
先ほどのフーズヤーズの隅にあった塔が裏の研究院ならば、こちらは表の研究院だろう。
そして、表側しか知らない師匠は、夢見る少年のように旅の概要を私に説明していく。
「南西の渓谷に、『神鉄鍛冶』の担い手って呼ばれる土蟻の混じりさんがいるらしいんだ。その人に会いに行こう! 『魔の毒』を吸収する腕輪やネックレスを作って、病気の人たちを助けてるって話もあるみたいなんだ。その人の技術を教えてもらえたら、きっと陽滝の治療もさらに進む……!」
今の私とは対照的に、師匠の機嫌は頗るいい。
この二年の間、予定通りに各国の優秀な研究者たちがフーズヤーズに集まり、一致団結して『魔の毒』の研究を行い――きっちりと陽滝姉の病は快方に向かっていったのだから、当然だろう。
ただ、このフーズヤーズ国で行なわれている研究は、陽滝姉の治療だけに向かっているわけではない。先ほど見た地獄の釜のような実験にも加担しているのだから、師匠のように私は素直に喜べない。
なにより、いまは陽滝姉の作った世界の流れとでも呼ぶべきものを感じて、言いようのない不安が溢れて止まらない。
急いで私は、次の『冒険』の損得を計算していく。
今度の旅先でも師匠が『救世主』活動をするのは問題ないだろう。その傍にいる私は『聖女』扱いになるのも、容易に予測できる。だが、その『聖女』の身代わりの当てはできている。それならば、私が選択できる最善は――
「……ティアラ?」
私が神妙な面持ちで考えていると、心配そうに声をかけられてしまった。すぐに私は笑顔で答えを出す。
「なんでもないよ、師匠っ。その『神鉄鍛冶』っていうの楽しみだね。最近はどこも治安が良くなってきて、時間に余裕も出てきたからねー。今回は時間をかけて、鍛冶仕事を教えて貰おうよ!」
「……ああっ。一緒に教えて貰おう」
「私たちの手で、陽滝姉のためのアイテムを作ろう! ディプラクラ様に頼ってばっかりじゃなくて、たまには自分たちで作らないとねー!」
「そうだね、ティアラ。僕たちにだって、もう魔法道具を作れる下地は出来てる。そろそろ挑戦してみるのも悪くない」
師匠にフーズヤーズの裏で行なわれている血生臭い実験を知らせる必要はない。
いま『冒険』を中止してフーズヤーズの自浄を行なっても、私の盗める技術の先が減るだけだ。ならば、まずは『神鉄鍛冶』とやらを優先する。
『異邦人』の世界の様子を聞く限り、陽滝姉が鍛冶技術を持っている可能性は低い。ここで『神鉄鍛冶』の力を得れば、陽滝姉に対抗できる手札になりえる。
「うん、一緒に作ろうね……。私たちの手で、陽滝姉のための武器を――」
一つでも対抗できるものがあれば、この常に後手を指しているような感覚から抜け出せると思った。
――こうして、私は次の『冒険』に向かう。
この三年目で、私は『魔石人間』計画に『光の御旗』を押し付け、『神鉄鍛冶』のスキルを得ることに成功する。フーズヤーズの調査も終えて、今日までの陽滝姉の行動も全て把握する。
けれど、後手の感覚は拭えない。
それどころか、指し手全てを操られているかもしれないという不安があった。もう何もかも手遅れなのではないかという恐怖ばかりが、どこまでも膨らんでいく。




