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異世界迷宮の最深部を目指そう  作者: 割内@タリサ
4章.私と貴方がここにいる証明
144/518

143.第二パーティー

―名前 セラ・レイディアント HP269/269 MP109/109 クラス騎士

   レベル 22

  筋力6.61 体力8.24 技量9.54 速さ11.02 賢さ5.74 魔力8.00 素質1.57――

――先天スキル 直感1.77

   後天スキル 剣術2.14 神聖魔法0.90――


――魔法『影慕う死神グリム・リム・リーパー』 ランク19――


 セラさんとリーパーのステータスを確認し終える。

 31層を歩きながら、僕は全員へ方針を通達する。


「まずは僕とラスティアラに任せてくれないかな。色々と特訓した成果を確認したいんだ」


 リーパーとセラさんに迷宮での主体性は余りない。特に反対はなく意見は通った。


「じゃあ、アタシは見学してるね」

「私はお嬢様とリーパーを守ることだけを考えておこう」


 僕とラスティアラを先頭にして、倒しやすそうなモンスターを探す。

 そして、群れからはぐれた小型のモンスターを一匹だけ見つける。


――クリスタルアント ランク26―― 


 上の階層でよく見かけた水晶蟻だ。

 『ディメンション』で先制を取った僕とラスティアラは、少し離れた所から魔法を唱える。


「――『フレイムアロー』!」

「――『クォーツパララクス』!」


 先んじて、ラスティアラの身体から燃え盛る火炎が噴出し、火の鳥に変化して襲いかかる。

 通常の『フレイムアロー』とは違い、まるで生きているかのように炎は迷宮内を滑空する。回廊を歩いていたクリスタルアントは飛来する炎に気づき、小さな身体をさらに低くしてかわそうとする。

 ラスティアラはにやりと笑う。

 右手の人差し指を立たせ、指揮棒のように振るう。すると、訓練された飼い鳥のように炎はクリスタルアントを追いかけ始める。


 見事な魔法操作だ。

 僕も負けていられない。

 『アレイス家の宝剣ローウェン』で地面の砂をえぐり飛ばしつつ、地属性の魔力を浸透させる。砂は水晶へと変じながら、その形を杭のように尖らせた。

 散弾のような魔法が、逃げるクリスタルアントへ襲いかかる。


 しかし、二つの魔法に追われながらも、クリスタルアントは驚異的な身体能力で粘ってみせる。火の鳥をかわし、水晶の散弾を見切り、せかせかと多足を動かして逃げる。


 というより、僕たちの魔法操作が甘いのもある。

 僕とラスティアラは唸りながら、さらに魔法へ力をこめていく。


 僕は避けられた杭の側面から、枝のようにさらなる杭を生やさせてクリスタルアントの意表を突く。ラスティアラは火の鳥を二羽に分裂させて、逃げ場を塞ぐ。


 それでようやく二人の魔法をクリスタルアントへ直撃させることに成功する。

 だが、それでもクリスタルアントの水晶の体を突破はできていない。表面が少し焦げ、細い杭が僅かに刺さっただけだ。


「こ、このぉ――『フレイムカッター』!」

「とどめだ――『クォーツバレット』!」


 魔力にものを言わせて、魔法を足す。大人気ない行為だが、そうしなければ倒せそうになかった。

 今度は攻撃力を重視した魔法だ。


 鋭い刃のような炎と、貫通力の高い三角錐の水晶が宙を走る。

 ダメージによって動きが鈍くなっていたクリスタルアントに魔法は直撃する。

 しかし、まだ足りていなかった。


 魔法操作も甘ければ、威力も甘かった。

 昨日の特訓で僕たちが成長したのは確かだ。大陸の一般的な魔法使いが見れば、その上達振りに卒倒することだろう。

 しかし、相手は前人未到の迷宮30層越えのモンスターだ。そう簡単にはいかない。

 その結果――


「『フレイムカッター』『フレイムカッター』『フレイムカッター』!!」

「『クォーツバレット』『クォーツバレット』『クォーツバレット』!!」


 僕達は連射で解決してしまう。


 物量作戦によって削られきったクリスタルアントは光になって消えていく。

 それを汗だくで僕たちは見送る。

 無言で魔石を拾い、迷宮探索を再開しようとする。


 そこでリーパーがあっさりと言う。


「んー、斬ったほうが早くない?」


 根本から間違っていると指摘されてしまう。

 僕たちは悔しそうな表情を浮かべ、少しの逡巡のあとに頷くしかなかった。

 ラスティアラは頷きながら、涙目で駄々っ子のように言う。


「そうだけど! 今日は魔法使いがやりたかったの! 私も魔法使いっぽく、敵をばぁーっと殲滅したかったの!」

「う、うん、わかったよ。ラスティアラお姉ちゃんは魔法で戦いたいんだね。……それじゃあ、私とセラお姉ちゃんで敵を引きつけるから、後ろで時間をかけて魔法を編んでみたらどうかな?」

「うん、そうする……」


 リーパーはラスティアラをあやしつけながら、宙から黒い大鎌を取り出す。


「よし、セラお姉ちゃん。協力して」

「ああ、お姉ちゃんが協力してやろう。おい、カナミ、ちょっと向こう見てろ」


 セラさんは優しい目で――というか欲にまみれた目でリーパーの要望に応える。前から薄々と思っていたが、セラさんは可愛い女の子に甘い。甘すぎて犯罪臭く感じるほどだ。


 言われたとおりに、僕はそっぽを向く。そして、『ディメンション』でセラさんがメイド服を脱いでいるのを感じて、急いで魔法を切る。

 男には恥ずかしい布のすれる音が耳に入ってくる。

 そして、めきめきと肉と骨が変形する音が鳴り、リーパーがセラさんの代わりに言う。


「もういいよ、お兄ちゃん。セラお姉ちゃんの服と武器預かってて」


 振り向いた先には、『獣化』したセラさんがいた。

 どうやら、本気のようだ。

 脱ぎたてのメイド服を『持ち物』に入れ、僕たちは陣形を変える。


「それじゃ、今度はアタシとセラお姉ちゃんが先頭だね。『ディメンション』の索敵もアタシがやるから、後衛の二人は魔法に集中してて」


 無駄に経験の豊富なリーパーは、よどみなく全員へ指示を出す。

 そして、迷宮探索が再開される。


 砂の海の31層を歩く。

 リーパーの落ち着きのない先導のせいで、すぐに新たなモンスターと接触した。


 現れたのは蜘蛛の形をした大型のモンスターだ。

 しかし、その細い身体と滑らかな移動方法から蜘蛛とは違う種であることを理解する。このモンスターは砂の海を走るアメンボのようなものだ。おそらく、足場の悪さに影響されることなく戦うはずだ。


――サンドサーフェイス ランク32――


「セラお姉ちゃんと撹乱してくるねー。――魔法『ディメンション・小夜ダーク』」


 リーパーはセラさんの背中に乗り、魔法の闇を噴出させる。闇は黒き衣を纏うかのように、セラさんの巨体ごと包んでいく。

 そして、闇が走る。獣の四本足が砂を蹴り、悪条件をものともしない速度を叩き出す。

 ステータスの速さにおいて、僕とラスティアラはセラさんを大きく上回っている。しかし、いま目の前に見える光景は、その数値とは逆だ。闇の狼は砂の海を誰よりも速く駆け抜けていた。


 サンドサーフェイスも負けじと駆ける。スケートのように砂の上を滑らかに進み、カーチェイスにも似た勝負が始まる。

 砂埃が舞い、水晶アメンボと闇が何度も交錯する。

 勝負はすぐに傾いた。

 セラさんは一人じゃない。背中に闇と次元の魔法使いを乗せている分、有利だった。

 走ったあとに闇が残り、次元が歪み、視界が塞がれていく。


 セラさんの高速の動きも相まり、とうとう二人はサンドサーフェイスの視界を切り、背中を取る。


「背後取った!」


 セラさんの巨体による体当たりのあと、リーパーの斬撃が繰り出される。サンドサーフェイスの多足の内の一本が斬り飛ばされる。


 足を失いながらも、サンドサーフェイスは残りの足を使って反撃に出る。


「振り返るのが遅い! まだまだ敵じゃないね!」


 しかし、むなしくも中身のない闇を切るだけだ。

 もうリーパーとセラさんはその闇の中にいない。二人はサンドサーフェイスの死角へ死角へと動き続け、その姿を一向に捉えさせない。


 その戦いぶりは撹乱どころではない。圧倒していると言っていい。

 それでも、僕たちは言われたとおりに魔法を練っていた。その魔法の完成をリーパーの『ディメンション』が感じ取る。


「そろそろだね……」


 リーパーはセラさんと人馬一体とも言える動きを見せ、魔法を放ちやすい場所へと的を誘導してくれる。

 そして、ぱちんと指を鳴らす。


「――そして、夜は明ける――」


 充満していた闇全てが晴れていく。

 突然視界が広がり、サンドサーフェイスは戸惑う。


「えい」


 その背中にリーパーの蹴りが叩き込まれる。

 体勢を崩しながら、サンドサーフェイスは砂の海に倒れこんだ。

 完璧だった。魔法を叩き込むのに絶好の条件が整った瞬間だ。


「『フレイムアロー』!」

「『クォーツバレット』!」


 後衛二人の渾身の魔法が放たれる。

 最高火力の炎と、最大出力の水晶弾がサンドサーフェイスに打ち込まれる。


 紅蓮の炎が燃え上がり、その中心を回転する銃弾が貫く。


「や、やった!?」


 ラスティアラは叫ぶ。僕も期待をこめて呼応する。


「やったか!?」


 だが、炎が消えたあとに残っていたのは、胸に水晶弾を受けながらも動こうとするサンドサーフェイスだった。

 重症なのは確かだが、倒すまでは至らなかったようだ。


 そこへ、リーパーの無慈悲な鎌が振るわれる。

 さくっと真っ二つにされたサンドサーフェイスは光となって消えた。


「……やっぱり、斬ったほうが早くない?」


 リーパーは苦笑いを浮かべる。

 嫌みではなく、心の底からの助言だった。


 僕とラスティアラは小さく「うん」と頷いて、腰に下げた剣を抜く。

 やはり、一朝一夕では何ともならない。それを認めるしかない。


「せっかくみんなで来てるんだからさ、みんなそれぞれの得意なことを伸ばすのが一番だよ。焦って付け焼刃を足しても、事故の元になっちゃうからね」


 リーパーの正論に、僕とラスティアラはまた小さく「うん」と頷くしかなかった。

 反論する気力も湧かない。

 意気揚々と昨日の特訓の成果を見せようとしたものの、余りに無残な結果だった。

 

 僕たちは顔を暗くして歩く。

 それを見たリーパーがフォローを入れる。


「で、でも、少しずつ苦手なものをなくすのもいいことだよねっ。これから、訓練を繰り返せば、いつかは強い武器になるかもね……!」


 わたわたと手を動かして、僕達を必死に励ますリーパー。

 こんな小さな子に気を遣わせているという事実に死にたくなる。

 だから、また小さく「うん」と頷くしかなかった。どうしても、最下層まで落ちきったテンションは浮かび上がってくれなかった。


 リーパーはため息をついて、仕方なく僕たちを先導し始める。

 こうして、リーダーリーパーによって、僕たちは31層を進んでいった。



◆◆◆◆◆



 前と違い、今度の迷宮探索はわかりやすい形となった。

 リーパーが先頭で索敵して、接触しそうなモンスターがいれば斬る。延々と、その繰り返しだ。


 基本的にはセラさんが撹乱して、リーパーがとどめを刺す。

 それはセラさんの攻撃力では敵にダメージを与えられないからだ。彼女には『獣化』したとき専用の武器を用意してあげたほうがいいかもしれない。

 狼形態のサイズを『ディメンション』で正確に測りつつ、二人の戦いを見守る。


 ちなみにラスティアラと僕はショックで後方に下がっている。それでも戦闘は問題なく終わっていくのだから、そのショックから立ち直れない。苦戦するリーパーとセラさんに「しょうがないなぁ」と言いながら手助けするシーンを、心のどこかで期待していたのだ。


 テンションの沈みきっている後方と違い、前方は楽しそうにおしゃべりしている。ちなみに、何度もメイド服を着直すわけにもいかないので、いまセラさんは大きめの外套を一枚羽織っているだけだ。

 彼女の変身能力は目の毒だったので、僕がサイズの合うものを渡した。いまはリーパーとお揃いになっている状態だ。

 その外套ならば変身しても、そのまま戦うことができる。


 ただ、それでも目の毒は中和しきれない。どれだけ大きな外套を纏おうと、中身は裸なのだから当然だ。リーパーは下着を嫌うので、前方では裸に外套の女の子が二人戦っているという犯罪的な風景になっている。

 

「凄いな、リーパー。君の鎌はどうなってるんだ?」


 仲のいい話し声が聞こえてくる。


「この鎌は私そのものだからね。魔力さえあれば出し入れ自由! 鎌限定だけど、お兄ちゃんの『持ち物ディ・ポーチ』みたいなものだよ!」

「それは羨ましいな。私にも君のように特殊な能力がたくさんあればいいのだが……」

「わんわんになれるじゃん! あれ、凄い羨ましい!」

「わんわん……!? いや、あれは犬ではなく、狼なのだが……?」

「え、あれって狼なの……? 随分と小さい狼なんだね……」

「いや、一族の中でも大きいほうなのだがな、あれでも」

「え、あれ? そうなの?」

「できれば、狼と呼んで欲しい。わんわんはその、恥ずかしい、似合わないし」

「そんなことないよ……! 可愛いお姉ちゃんには似合うよ、わんわん!」

「いや、そんな、止めてくれ。嘘でも恥ずかしい。可愛いというのは、おまえやお嬢様のようなものを言うんだ」

「そんなことないよね! ねえ、お兄ちゃん!!」


 会話のない後方を気遣ってか、リーパーは話題を振る。

 だが、内容が最悪だ。


「なぜそこで僕に振るんだ……? ――ほらあ、睨まれた!」 


 人を殺しそうな目をセラさんに向けられる。

 ゆっくりとセラさんは僕を脅す。


「正直に言え、カナミ。おまえはあの子の保護者代わりだろう? ものごとの真偽をはっきりと伝えるのが、おまえの役目だ」

「う、うーん、可愛さか……」


 正直に言うと、セラさんは可愛い部類だと思っている。

 他の面々と違い、慈愛に満ちていて、女の子らしく潔癖。それでいて可愛いもの好き。

 素直になれないところも子供っぽくて可愛らしい。他のやつらは素直すぎるやつか、達観しているやつばっかりで、可愛らしさとは縁遠い。

 僕の中ではディアと一位争いをしているほどだ。


 ちなみにラスティアラとリーパーは逆だ。精神的に男前すぎて、可愛いというのとは少し違う。


 だが、それら全てを正直に話すわけにはいかない。

 

「どちらかというとセラさんはカッコいい女性だね。ただ、リーパーの言うことも少しわかるよ。セラさんはカッコいいところと可愛いところ、両方を兼ねそろえている女性だと思うよ」


 とりあえず、どちらも選ばない無難な言葉で濁してみる。


「き、貴様! 貴様はそうやって、いたいけな少女たちをたらしこんできたのだな……! この外道めが……!!」


 セラさんは顔を赤くして怒る。

 社交辞令っぽい発言はお気に召さなかったようだ。はっきりと否定の言葉が欲しかったのかもしれない。しかし、女性に対して正面から可愛くないと言うのは失礼すぎる。最初からどうしようもない問題だったのだ。


 セラさんはそっぽを向いて、先へと進む。

 怒りが半分、照れが半分と言ったところだろうか。

 正直、どう答えても彼女の機嫌は損ねていたと思う。しかし、ベターな選択はできたと信じるしかない。


 リーパーの手を引いて先へ先へと進むセラさんの後ろを、僕は歩き続ける。


 少しずつ僕とラスティアラのテンションも戻ってきて、戦闘にも参加し始める。むしろ、強引にでもテンションを戻して復帰しないと、何のために僕たちはいるのか見失いそうだった。


 迷宮を前衛四人の力押しで斬り進んでいく。


 ただ、昨日とは道が違う。

 リーパーは真っ直ぐと階段へ向かわず、迷宮の中をうろちょろと歩き回っていた。


「リーパー、どこへ向かってるんだ? 階段は向こうだぞ?」


 僕の『ディメンション』は階下への階段を捉えていた。

 距離的にリーパーも捉えているはずだ。


「うん、わかってるよ。ただ、向こうに面白そうなものがあるんだ」

「面白そうなもの?」


 リーパーの『ディメンション』に合わせて、僕も感覚を広げる。

 そして、彼女の言っていた『面白そうなもの』を見つける。


 砂の海に祭壇が建っていた。

 それに似たものを僕は知っている。

 スノウと迷宮探索をしていたとき、『ルフ・ブリンガー』を見つけた24層の祭壇とそっくりだった。


 また祭壇には剣が突き刺さり、捧げられている。


「ねっ、面白そうでしょ? 迷宮でモノ集めするのも悪くないんじゃないかな?」


 玩具コーナーを見つけた子供のように、リーパーは先頭を走る。

 仕方なく僕たちは、そのあとに続く。


 祭壇の形状は砂漠のピラミッドの上半分を切り取ったような台形だ。

 台の上にある剣の前で、リーパーは頬を上気させて見つめている。


 リーパーが動くより先に、僕は『注視』する。


――レイクド・ブレイド

   攻撃力5 精神汚染+1.50――


「ま、まて! 触るな!!」

「え、なんで?」


 剣にリーパーの手が触れる直前で制止する。


「前、迷宮で呪われた剣を拾ったことがあるんだ。……どうやら、これも駄目っぽいな」


 『表示』された文が物騒なことこの上ない。

 警戒しつつ、僕は『ディメンション』で細部まで調べようとする。


 すると化学反応のように、剣からおどろどろしい薄霧が噴き出し始める。


「お! 急に魔力が漏れ出した! こいつ猫被ってたな!」


 リーパーは獣のように跳ねて距離を取る。


「ただの不良品バッドアイテムだ。壊そう」


 剣を構え、破壊することをみんなへ伝える。

 リーパーは惜しみながらも、それに頷く。だが、ラスティアラだけ納得しなかった。


「待って! ねねっ、呪いの武具を扱えたら、なんだか格好良くない?」


 今度はラスティアラが玩具コーナー内の子供のように顔を輝かせる。


「おい、やめろよ? 冗談でも駄目だからな」

「英雄譚のお約束だよね、呪いの武具。仲間が装備してしまったのを、必死に助ける主人公とかいいよね。ね、誰か持ってみない? 大丈夫、ちゃんと私が助けるからさ」

自作自演マッチポンプすぎるだろ……。駄目だ、こいつは壊す」

「いや、例えばさ、もしその剣を持ってさ、呪いを乗り越えたりとかしたらさ、すごく強い武器に進化する気がしない?」

「……いや、ただの前科ありの剣でしかないだろ」


 少しだけ考えてしまう。ラスティアラの言うロマンを少し解ってしまうのが嫌だった。

 必死に首を振って、僕は剣を横に振り抜いた。


 剣としての位は『アレイス家の宝剣ローウェン』のほうが遥かに上だった。

 あっさりと『レイクド・ブレイド』は折れてしまう。

 ラスティアラは未練たらたらで嘆く。


「あ、あぁー……。くぅ、カナミの『注視アナライズ』さえなければ……!」

「なかったら、大事だったからね」

「けど、ものの『呪い』までわかるなんて、カナミの物品鑑定能力って便利だよね。他の能力は次元魔法で説明つきそうだけど、これだけは仕組みが予想もつかないな。どういう魔法構築なんだろ……」


 ラスティアラはぺちぺちと僕の顔の表面を触る。

 眼球に『何か』ないかと確認しているようだ。


 僕もずっと気になっていることだ。

 なぜ、僕は『注視』なんて便利なものを持っているのか。最初から次元魔法と氷結魔法が扱えて、素質まで優遇されているのか。

 その仕組み、その理由。それを解明できれば多くの疑問の答えを根本から解決できる気がする。


 そして・・・僕はその答えに・・・・・・・辿りつきかけている・・・・・・・・・


 今日までの異世界生活で、辿りつけるだけの情報が揃ってしまっていた。そして、その情報を正確に処理する能力が僕にはある。

 ただ、その辿りつきかけている答えは、余りにも――


「しかし、リーパーの言う物集めも悪くないね! この調子で次々と探そっか!」

「おーう!」

「武器を集めて、パワーアップだ!」


 ――今は迷宮内だ。注意を削ぐのはよくない。


 いまある情報だけでは、推測できても確信はできない。無闇に思考を空回りさせるくらいなら、堅実に迷宮探索を進めるべきだ。


 楽しそうに先導する仲間たちの後ろで首を振る。


 リーパーたちは祭壇探しを優先する方針に変えるようだ。

 じっくりとレベル上げができるので僕から異論はない。

 リーパーたちの好きにさせてやろうと思う。


 一行は31層、32層、33層と祭壇を探しながら進んでいく。


 32層の飛行系モンスターは基本的に無視する方針だ。増援を呼ばれることもあったが、リーパーの闇の魔法のおかげで振り切るのは容易だった。


 リーパーの魔法は逃走において、その真価を発揮した。

 魔法の闇で姿をくらませつつ、次元魔法で最適な逃走ルートを割り出すことができる『次元の夜ディ・ナイト』に対し、モンスターたちに追撃する術はなかった。


 戦いやすい相手とだけ戦い、嫌な相手とは戦わずに逃げる。

 リーパーは迷宮探索において最も必要な能力を持っていた。


 戦闘と逃走を繰り返し、いくつもの祭壇を見つけていく。

 ただ、祭壇のアイテムにろくなものはなかった。


――コールアウター

   防御力6 精神汚染+1.20――

――アルルコンフェイス

   防御力4 耐魔力1 精神汚染+0.50 混乱+1.00――

――ブラッドソード

   攻撃力4 

   血を吸わせることで一時的に攻撃力が強化される。

   精神汚染+0.50 興奮+1.00――


 などなど……。


「また呪われてるね……」

「カナミっ、もう呪いものも装備してみようよ! 大丈夫大丈夫! これが英雄譚なら、主人公の私は呪いとか余裕で乗り越えるから!!」


 基本的に呪いものばかりで、『精神汚染』という記述が必ず書かれている。

 駄々をこねるラスティアラの横で、僕は黙々と呪いものを破壊していく。解呪できなければ触るのも危険なのだから仕方ない。一応、精神汚染の危険がなくなった破片は凍らせてから『持ち物』へ入れている。もしかしたら、再利用ができるかもしれないからだ。


 たまに呪われていない装飾品を見つけるものの、そういったものは大した効果は得られない。何の魔力も持たないただの装飾品だ。


 有用な武具は10に1つあればいいほうだ。

 そして、迷宮探索が数時間ほど過ぎたところで、ようやくまともな武器を見つける。

 羽の意匠があしらわれた乳白色の剣だ。


――ヘルヴィルシャイン家の聖双剣・片翼

   攻撃力2

   片翼を失い、本来の力は失われている――


 『注視』の結果を仲間に伝える。


「――これは呪われてないな。昔のヘルヴィルシャイン家の一品みたいだぞ」


 途中で見つけた装飾品の王冠を頭に乗せたラスティアラが喜ぶ。


「や、やった! やっときたー!!」

「けど、双剣の片方だけだな。二つあれば強いみたいだけど……、このままじゃ意味ないな」

「探せ! もう一本を探せ!」


 ラスティアラは号令をかけ、リーパーに『ディメンション』を展開させる。


「すぐ近くに、もう一つ祭壇発見したよ、お姉ちゃん!」

「よし、行こう!」


 全力疾走する二人の後ろを、僕とセラさんはついていく。

 もう目新しくもない祭壇へ辿りつくと、ラスティアラは呆然と立ちつくしていた。


 その目線の先は祭壇の中央。

 剣の刺さっていたであろう跡を涙目で見つめている。


「か、空っぽじゃん……っ」

「うん、空っぽ。だからもう片方がここにあったんじゃないかな?」

「先に言ってよ! すごい期待してきたのに!」

「言っても、お姉ちゃんは見るまで信じないと思ったからね。ぎりぎりまで夢を見させてあげたんだよっ」

「確かに夢は見れたよ、ありがとう! くっそー!!」


 人生を楽しんでる二人の横で、僕は冷や汗を垂らす。

 空っぽなのはまだいい。何も跡が残っていなければ問題ない。


 しかし、剣の刺さっていた跡が残っているというのはおかしい。


 僕たちがいるのは33層だ。

 30層より先は、連合国のどんな探索者でも辿りつけない領域だ。だから、先ほどから手付かずの祭壇を荒らすことができている。

 なのに、この祭壇には人が訪れた形跡がある。


 つまり、今この迷宮の奥には誰かがいるということだ。僕たちよりも先に33層へ訪れ、祭壇の剣を抜いていった『誰か』が――


「ないの!? 本当にないの!?」


 祭壇の周囲を探し回るラスティアラを宥める。


「ラスティアラ、もう諦めろ。そもそも迷宮内で武器集めなんて無理があったんだ。そんなことするくらいなら、地道にモンスターを狩ったほうがいい」

「うぅ、トレジャーハントで一発逆転がいい……」

「もう一発逆転は十分狙っただろ。そろそろ、真面目に奥へ行こう」


 先へ進むことを提案する。

 『並列思考』によって迷宮の奥にいる『誰か』の推測が終わり、僕は全身から戦意を溢れさせる。


 『誰か』の可能性があるのは、まず連合国最強のグレンさん。しかし、先日話した感触ではありえないと思う。

 残るは剣聖のフェンリルさんか『天上の七騎士セレスティアル・ナイツ』のパーティー。

 そして、守護者ガーディアンの力を得たパリンクロン・レガシィ。


 いまのパリンクロンならば単独で30層の奥へ進んでいてもおかしくない。ヴァルト本国にいるというレイルさんの言葉は疑っていないが、それでもパリンクロンの可能性はあると判断している。


 戦意が身体を前へと進ませる。


「さあ、34層へ行くぞ。リーパー、厄介な敵がいたら妨害してくれ」

「うん、わかった。ゴミばっかりで物集めも飽きてきたしね。そろそろ先へ進もっか」


 拗ねているラスティアラの手を引いて、僕たちは階段を目指す。

 近寄ってくるモンスターは速めにリーパーの『次元の夜ディ・ナイト』で遠ざけたので、真っ直ぐと34層へ辿りつくことが出来た。


 ずっと「トレジャーハント――、呪いの剣から聖剣に進化――、からの一発逆転……――」と呟いて落ち込んでいるラスティアラは、リーパーが愚痴を聞いてあげることで何とか落ち着かせた。



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セラさんェ、、、、、
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