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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
第三章 災厄ノ来訪者ト死ノ狂宴
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第十五話 何事にも準備が必要Ⅱ――戦いは敵を知る所から

 PM 13:14:43

 limit 2:45:17



 ごく簡単な自己紹介の後、セルリアがボコボコにされた勇麻に治癒を施しつつ、改めて話し合いが始まった。

 もとより才気から受けた背中の傷が酷かった為、ここで治療ができたのは大きい。

 セルリアは自分の治癒などせいぜい応急処置程度の事しかできないと言うが、その応急処置でもあるだけありがたい事なのだ。

 何故かほとんどのメンバーの衣服が既に少し破けていたり、頬や腕に擦り傷があったりするが、一応念の為に言っておくと、『ユニーク』との戦いはまだ始まっていない。

 もっとも、その原因は分り切っているが。

 

「さて、それじゃあ改めて情報の共有といきましょうか」


 そう切り出したのは綺麗なブロンドのセミロングに、翠の瞳をした少女、シャルトルだ。


「とは言っても、私達は今回、背神の騎士団(アンチゴッドナイト)の任務としてネバーワールドに潜入していた訳ではなく、完全なプライベートで遊びに来ていただけなんで、奴らに関する情報なんてほっとんど持ってないんですけどねぇー」

 

 てへぺろと片目を瞑って舌を出すシャルトルと目が合う。

 別に勇麻個人に向けた物でもないだろうが、こちらを向いてやられると思わずドキリとしてしまう。あざと可愛いくて心臓に悪いからちょっとやめて欲しい。


「てか、背神の騎士団(アンチゴッドナイト)の連中もネバーワールドに遊びに来たりするんだな」

「あら、そんなに意外だったかしら~?」

「意外っていうか、まぁ。単に最初の印象ってのもあるんだろうけどさ」


 彼女達に関しては第一印象がちょっとアレだった為、殺伐としたシチュエーションばかり思い浮かんでしまうというのもあるだろう。

 それと、これは勇麻の純粋な感想ではあるが、彼女ら背神の騎士団(アンチゴッドナイト)のメンバーとネバーワールドのような遊園地は対極の位置にあるような気がしてならないのだ。

 この四姉妹ならまだしも、レアード辺りが無表情な姉を引きずって一人はしゃぎながらネバーワールドを回っている情景を思い浮かべると、一人腹筋がよじ切れそうになる。 

 にこやかなセルリアに泉は顔をしかめて鼻を鳴らし、


「ケッ、そんな腑抜けた調子で汚れた禿鷲(ダーティーコンドル)だの創世会だのと戦っていけんのかよ」

「へー、なら確かめてみるか? このスカーレ様が相手になってやるぜ」

「あ? お前が俺とやろうってか? ……上等じゃねえか。お前ら背神の騎士団(アンチゴッドナイト)は前々から気に食わなかったんだよ、今ここで叩き潰してやるよ」


 売り言葉に買い言葉。

 この二人、どうやら水と油らしい。

 すぐにケンカを買おうとするスカーレをセルリアが笑顔を少し険しくしたしなめる。


「こら、スカーレちゃん。いい加減にしなさいって言ってるでしょう?」

「セルリア姉、だってアイツが……」


 味方の出現に楓もすかさず泉に注意した。


「もう、泉くんもだよ。いちいち突っかからないのっ。というか、はしゃいでたのは泉くんも一緒でしょ?」

「あ? 俺は別にはしゃいでねえし」

「スカーレちゃん。ケンカするのなら私達も混ぜなきゃだめじゃない~」

「全然味方じゃなかった!?」

「……よし、セルリアのあねさまは少し黙ってようか。アンタが入ると話がどんどんややこしい方向に流れていく」


 にこにこしながら首を傾げているあたり、この人には悪気も自覚もなさそうだ。

 まあ悪気も自覚もないのが一番の問題なのだが。


「さて、話を戻すぞ。……シャルトル」

「あ、はい。なんですかぁー?」

「お前らに一つ確認を取りたいんだが、今回のこの件に関して、背神の騎士団(アンチゴッドナイト)はどう動くつもりなんだ?」


 天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)、しいては創世会と敵対関係にある背神の騎士団(アンチゴッドナイト)と『ユニーク』の目的とは、一部重なる部分がある。

 勿論、正義の味方を語る背神の騎士団(アンチゴッドナイト)と『ユニーク』のやり方は全く異なる物だが、一度立ち位置をはっきりさせておいた方が安心して戦えるという物だ。

 こちらの質問の意図をキチンと察したシャルトルは、その翠の瞳に若干真剣な色を灯して、


「既に動いてるみたいですよ。勿論、『ユニーク』の連中をぶっ潰す為に。とは言っても、今のところネバーワールド内に侵入する手段がないみたいでぇ、手の出しようがないって感じですけどねぇー」

「あれか、下手に入ったら人質ごとドバーンっていうテロのお約束みたいな警告が外に出てる訳か」

「まあそれもあるみたいですけどぉー。そっちよりも、何やら厄介な邪魔者が入ってるらしくてですねぇー。……まあ未確認情報なんで、詳しく分かり次第お伝えしますよ。要するに、現段階では背神の騎士団(アンチゴッドナイト)からの増援はないと思って頂ければって話です」

「そうか、まあ元からそう上手く話が転がるとは思ってないしな。最悪の想定から外れてくれただけ、全然ありがたいよ」

「ったく、少しはアタシらの事信用しろよな。言ってんだろ、このスカーレ様はこれでも一応正義を名乗る側だって」


 むくれたように頬を膨らませるスカーレに、勇麻は素直に頭を下げる。


 彼女達四姉妹やカルヴァート姉弟、黒米さん。そして副団長夫婦など、背神の騎士団(アンチゴッドナイト)を構成するメンバーが良い人達だという事を勇麻は知っている。だが、背神の騎士団(アンチゴッドナイト)という組織がこの件についてどのような判断を取るかとそれはまた別の話だ。

 大義の為に少しの犠牲を払う事を躊躇わないような人間がトップにいるとしたら、あえて『ユニーク』の横暴を見過ごす可能性だって考えられなくはなかった。

 創世会が大きなダメージを負えば、背神の騎士団(アンチゴッドナイト)もまた、得をするからだ。

 つまりここで彼らが動いた、という事は、背神の騎士団(アンチゴッドナイト)のトップに立つ人間は、そのメンバーに見合った甘っちょろい人間だという話だ。

 目的の為でなく、きちんと民衆の味方としてその力を振るえるような人物なのだろう。

 もっとも、彼らがアリシアに与えた優しい『任務』を思えば、疑う余地などなかったのかもしれないが。

 

「さて、じゃあ次はこっちの番だな。つっても、ほとんどアリシア任せなんだけど……って事で、頼めるか? アリシア」

「うむ。勇麻に頼られるのは悪い気がしない。どんどん頼ってくれていいのだ」


 表情を変えないまま胸を張るアリシアに勇麻は嬉しさ混じりに苦笑する。

 

「分ったよ。じゃあよろしく頼んだぜ、アリシア」

「うむ。任せておくのだ。タイタニックに乗ったつもりでいてくれ」

「いやアリシアさん。たしかに大きい船だけどそれ沈むヤツ!」

「ふむ。でも私は好きだぞ? タイタニック」

「好き嫌いの問題じゃないから。不吉だから!」


 

☆ ☆ ☆ ☆



 『天智の書』。

 恒久的に世界中の知識を蒐集し続けると伝えられている神器で、古代の遺跡から出土しそうな雰囲気を持つ、歴史を感じさせる古びた見た目の魔本である。

 世界中のありとあらゆる書物。文献。論文。ネット上に投稿された文章。果ては漫画から子どもの日記の内容まで、何らかの文字として世界に一度出力された物ならば、どんな物であろうと蒐集しゅうしゅうする事ができる。

 『天智の書』は世界中の知識を溜めこんだ智の宝庫であると言えるだろう。

 そして『天智の書』最大の利点は、その膨大な情報の山から自分の知りたい情報だけをピンポイントで抜き出す事ができる検索能力にこそある。

 契約者の頭と同期し、脳内のイメージを参考に検索を掛ける為、契約者が見たことのある物か知っている物など、何かしら具体的なイメージを持つ物でないと検索する事ができない、という制約があるのが玉に傷だが、それでも十二分に強力な神器である事に変わりはない。


 アリシアはそんな『天智の書』の契約者であり、『天智の書』による知識の補助を受ける形で、自身の神の力(ゴッドスキル)を意図的に暴走状態にしたまま制御している。


 神門審判ゴッドゲート


 勇麻は未だに彼女がその力を使っているところを見たことがない。

 黒騎士ナイトメアやレインハートの話を信じるのなら、アリシアは干渉レベルSオーバーの『神の子供達(ゴッドチルドレン)』だということになるのだが、勇麻としては眉唾ものの話だ。

 少なくともアリシアには、自分が神の子供達(ゴッドチルドレン)だという自覚はないようだ。

 

「おふざけはこの辺りにして、そろそろ本題に入ろうか。……じゃあアリシア、あとは頼んだ」


 意図的に声色を切り替えた勇麻の言葉に、アリシアが表情を変えぬまま元気よく頷いた。


「うむ。今度こそ頼まれたのだ」


 そう言って紐で首からぶら下げられた『天智の書』を地面におろし、そのどこか禍々しい分厚い表紙を捲る。

 現れたページはその古びた見た目からは想像できないくらいに真っ白な白紙だ。

 文字の一つどころか、染み一つ見当たらない。

 事前に『天智の書』についての簡単な説明はしておいたものの――シャルトル達、背神の騎士団(アンチゴッドナイト)の連中は、アリシア奪還作戦に関わった関係上全員『天智の書』について知っていたのだが――本の中身が白紙だという衝撃的事実までは説明していない。

 勇麻とアリシア以外の全員が怪訝そうな顔で開かれたページを見ているのを尻目に、アリシアは淡々と準備を進める。

 アリシアはいつかのように瞳をゆっくりと閉じると、口の中で呪を紡いだ。

 アリシアの純白の髪が、風もないのにふわりと浮かびあがって揺れる。


「――汝、天より授かりし『智』を欲するのならば、我にその代価を差し出し覚悟を示せ。さすれば我、天より授かりし『智』すべてを汝に授けん」


 直後、変化は如実に現れた。


「うわっ!? なんだ、これ……」


 いち早くそれに気が付いたスカーレが、女の子らしからぬ悲鳴を上げる。

 染み一つない純白のページ。

 不意に、そこから泉が湧き出すような勢いで黒いインクが滲み出し始めたのだ。

 溢れ出る黒の奔流が白い大地の上でひとりでに踊り、少しずつ意味のある形へと相成あいなっていく。

 まるで生き物のように蠢く黒に、分かっていても鳥肌が立つ。

 やがて何も無かった空白のページに、意味のある文章が形成された。


『おかえりなさい、我が主よ』


 日本語でもなければ、アルファベットでも無い。

 およそこの地球という惑星に現存しないであろう謎の文字で描かれたその文章を、何故かこの場にいる全員が理解し、読み取る事ができた。

 読む、というより、その文字列を見た途端に直接頭の中に情報が叩き込まれるような感覚だ。


 一度体験した事のある勇麻でさえ、この不思議な感覚には慣れない。

 初めて経験した他のメンツにとっては、さぞかし衝撃的な情景だっただろう。

 

「だんちょーから話に聞いてはいたけれど、実際に見ると不思議なモンですねぇー……。これが神器『天智の書』、ですかぁー」

「凄い、綺麗……」

「あらあら、確かにこれは凄いわね~。この文字ってちゃんと実存した言葉なのかしら?子供の落書きのように見えるのだけれど」


 シャルトルや楓、セルリアが好き勝手に感想を呟く。

 泉やセピアの視線もその古書に釘付けになっていて、この場の全員が天智の書に関して強い興味と関心を抱いているのが分かる。

 もしかしたら神器には人を引き付ける強い魅力があるのかもしれない。

 そういえば、勇麻も一番最初に『天智の書』を見たときは、まるで憑りつかれたかのように夢中でページを捲ったものだ。

 

「さて、ここからが本題なのだ。いちいち口頭で説明し直すのも面倒なので、お主ら全員に、天智の書の閲覧を『許可』しておいたぞ」


 天智の書を自由自在に扱い、その内容を読む事ができるのは契約者であるアリシアだけ。

 例えアリシアが読んでいるのを横から覗き見たとしても、読むことはできない仕組みになっている。 せいぜい、誰も見たこともない謎の記号のような文字が並んでいるようにしか見えないだろう。

 唯一の特例として、アリシアが許可を出した人物のみが、天智の書を閲覧する事ができるのだ。

  

「では行くぞ」


 アリシアが短くそう告げる。皆が皆、顔と顔がくっ付きそうなほどに密着して、齧りつくように天智の書に注目する。

 精神を集中させるようにアリシアが瞑目し、得たいの知れない緊張が辺りに漂う。

 次の瞬間だった。

 天智の書に浮かび上がっていた文字が――爆発的なまでに増殖しはじめたのだ。


「――ッ!?」


 パラパラパラパラと、風も吹いていないのにひとりでに本のページがめくれ上がり、捲れ上がる新しいページに次から次へと膨大な量の文章が生成されていく。 

 次第に膨れ上がる文字の勢いは強まり、目で追えないほどの速度になる。

 勢いよく躍動するページに、物理法則を超越して風が巻き起こり、天智の書を眺める楓たちの髪を揺らした。

 それはまるで情報の洪水だ。

 次々と溢れ出す黒の奔流に、誰もが圧倒されていた。 

 ブワッ! と、最後の文字を浮かび上がらせたページが完全に開かれると同時、天智の書を中心に円形の風の波紋が広がり、地面の埃が舞った。

 

 驚きと興奮に固まる勇麻達に、アリシアはあくまで淡々と、告げる。

 特に驚かれるような事は何もしていないと、そう思っているからこそ取れる態度だった。


「ふむ。まずは私達が戦わねばならない敵について知る事にしよう」


 そう言いながらアリシアが指差した一ページ目。

 おそらくは、別の書類から抜粋されたであろう文章。

 文体からして、研究の報告書か何かだろうか。

 そこにはこう書かれていた。


『寄操令示に関する報告書。

 寄操令示。

 新人類の砦アドバンスフォートレス所属の神の能力者(ゴッドスキラー)

 神の力(ゴッドスキル)名、『冒涜の創造主プラスハディア・クレアトール』。

 現段階にて当人物の干渉レベルが規定値を大きく越えた為、正確な測定は不可能と判断する。その為、本日をもって当人物を特一級秘密保護対象(トップシークレット)とし、徹底的な情報の管理、制御を研究所ならびに研究関係者一同に強制するものとする。

 なお、測定不能な干渉レベルの値は、規定にのっとり仮に『Sオーバー』とする。

 事実上、寄操令示は『神の子供達(ゴッドチルドレン)』として『新人類の砦アドバンスフォートレス』首脳部『操世会』の管理下に置き、徹底的に管理研究する物とする。』


 

☆ ☆ ☆ ☆



 寄操令示は干渉レベルSオーバーの神の子供達(ゴッドチルドレン)である。


 『神の子供達(ゴッドチルドレン)

 

 その単語を聞いて勇麻が真っ先に連想するのは、天風駆という名の男との死闘だ。

 自らを神の子供と騙ったあの男は、光の速度での挙動を可能とし、その圧倒的な速度を持って勇麻を苦しめた。

 結局の所、天風駆は神の子供達(ゴッドチルドレン)ではなかった。

 だがそれでも、勇麻をギリギリのところまで追い詰め、終始圧倒的な速度であの場を支配していた彼の強さは本物だった。天風楓の助力がなければ、東条勇麻はごくごく当然のように負けていただろう。

 寄操令示という男はこれまで勇麻が戦ってきた敵の中で単純な干渉レベルだけならば、まず間違いなくトップクラスの強敵だった。

  

 あれ以上の絶望が襲い掛かってくる。


 そう考えただけで、得体の知れない悪寒が走った気がした。

 別に、寄操への怒りが消えた訳でも無ければ、格上の相手に全てを投げ出し諦めた訳でもない。

 むしろ寄操への怒りは闘志となって今も激しく胸の内を焦がしているし、勝ち目のあるなしを語って絶望するような馬鹿な真似を今更しようとも思わない。

 その程度で諦めていたら、今頃勇麻の隣にアリシアと楓がいる事もなかっただろう。


 恐怖の理由は違う所にある。 

 泉や楓、そしてアリシアに四姉妹達。

 彼ら彼女らの協力は素直に嬉しいし非常に心強い。

 勇麻だけではきっと、この窮地を乗り越える事はできないだろうという事も分かっている。


 それでも怖いのだ。

 彼らが『神の子供達(ゴッドチルドレン)』という化け物の君臨する戦場に立つという事自体が、勇麻は何にも増して恐ろしい。

 できる事ならば、寄操令示と拳をまみえるのは自分一人であって欲しいと、そう願わずにはいられなかった。

 独りよがりの気持ちの悪いエゴだという事は分かっている。

 それでも、どうしても思ってしまうのだ。


「『神の子供達(ゴッドチルドレン)』か、いいじゃねえかよ。おもしれえ。相手にとって不足なしだ」


 威勢よく泉が獰猛に笑う。その笑みが強がりでも見栄や虚勢でもない事が、勇麻にとってはとても頼もしく思えると同時、少しばかりの不安をよぎらせる。

 スカーレもその整った顔に嗜虐的な笑みを浮かべ、


「お、めずらしく同意見だな。こっちが全力出す前に倒れられるほど興ざめな事はないからな。このスカーレ様の実力、遺憾無く発揮してやるぜ!」

「あらあら、やっぱり仲がいいのね~。ケンカするほど何とやら、かしら~?」


 その様子を見てセルリアがくすくすと笑い、セピアは肩を竦めるようにして息を吐いた。

 セルリアの余計なひと言で、またもギャーギャーと騒ぎ始める似た物同士の馬鹿二人。そのあまりの緊張感のなさに、勇麻は若干頭を抱えたくなってくる。

 ついでにトドメを指すようにシャルトルがボソリと一言。


「うーん。この人、スカーレと同じ馬鹿の匂いを感じます。これはからかいがいがありそうな予感です」


 本当にこんな調子で大丈夫なのだろうか。

 そう思っていると。 


「大丈夫だよ勇麻くん」


 気が付くと楓が勇麻の事をじっと見つめていた。

 天智の書を覗き込むように身を乗り出すようにしている為か、距離が近い。優しげなそのくりっとした瞳を見ているだけで、さざ波だった心が落ち着いていくような気さえした。


「今度はわたしが勇麻くんを守るから、だから大丈夫だよ。神の子供達(ゴッドチルドレン)なんて、きっとへのかっぱだよ」

「屁の河童っておまえ……、今時誰も言わねえよ。おばあちゃんか」

「え、あ……あははは、ま、まあ、そんな事はどうでもよくって。そうじゃなくてわたしが言いたいのは……」


 どこか外れた発言に脱力したように笑う勇麻。

 今更のように自分の発言に羞恥を覚えたのか、楓は誤魔化すように笑った。

 しかし直後、その表情を真剣な物に変えて、


「その……勇麻くん一人で戦ってる訳じゃないから、だから――そんなに思いつめた顔をしないで。ね?」


 楓の手が勇麻の頬に優しく触れた。


「え……?」

「凄い怖い顔、してたよ」


 その柔らかく暖かな感触が、鬼気迫る勇麻の表情を溶かしていく。

 言われるまで全く気が付かなかった事に、勇麻は内心驚く。

 まさかそんなに顔に出ていたなんて。


「俺、そんなに凄い顔してたか?」


 楓は困ったように苦笑して、


「うん。何でも一人で抱え込もうとするのは、勇麻くんの悪い癖だよ。寄操令示って人だって、別に勇麻くんが一人で倒さなきゃいけない訳じゃないんだから」

「……」


 そんな楓の言葉を聞きながら、しかし勇麻は思うのだ。

 

 それでも、寄操令示とはこの手で決着を着けなければならないのだ、と。

 ……勇麻を心配し、こんな優しい言葉を掛けてくれる子を、危険な目に遭わせたくはない。


 なにより、東条勇麻の根源的な何かが、あの男の存在を許してはおけないと、そう叫んでいるのだ。


 それは勇麻の本心か、それとも過去の亡霊に縛られ続けた結果の脊髄反射のような物なのか。

 そんな自分の事すら、勇麻にはもう分からなかった。

 


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閲覧の際は注意事項を確認のうえ、細心の注意を払って頂きますよう、お願い致します※※※
『天智の書:人ノ章(ベータ版)』
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