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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
第三章 災厄ノ来訪者ト死ノ狂宴
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第十話 救いのない現実Ⅲ――リアル

 耳に入ってくる音の羅列を、一つの言葉として捉えなおす事が困難だった。

 理解が及ばない。すんなりと受け入れる事などできる分けがなかった。

 目の前に横たわる絶望を乗り越える算段を考える余裕などどこにも無い。

 

「あぁ、安心してね。もう既に天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)及び創世会には正式な声明としてさっき言った事を発表してあるから! 大丈夫、何も心配する事はないよ。君たちの命を助ける為に、きっと偉い人達は賢い選択をしてくれるハズだからね! うん。だから君たちは創世会の本部が爆破されるまで、ここで待ってるだけでいいんだよ」


 声変わりしていない少年の明るい声に、周囲の人々の顔が絶望に歪んでいくのが理解できた。

 あまりにも無理難題すぎる。はっきり言って、呑む事が不可能な要求を突き付けてるようにしか思えない。

 心が、折れる。

 少年の言葉が、人々の希望を奪う。

 このままじゃ駄目だ。このままでは、絶望と死の恐怖で皆の心が壊れてしまう。 


 かと言ってどうすればいい?

 確かに状況は変わった。目の前にはこの馬鹿げたテロの首謀者らしき少年がいる。

 おそらく犯行グループの中でも幹部クラスの人間がその周りに集まっている。

 この四人を、一瞬で制圧する事ができれば、状況は一変するかもしれない。けれど、他の場所に伏兵が潜んでいる可能性は否定できない。 

 一か八か、泉の言うように犠牲覚悟で突っ込むか。それともこの機は見送り、時が来るのを待つのか。


(どうする。……どうすればいい!?)


 こんな時、南雲龍也ならば何の躊躇もなく、目の前の少年を刹那の内に倒し、残り全ての問題も片づけてしまうのだろう。

 だが東条勇麻は南雲龍也ではない。

 偽物は所詮偽物であり、代理品は所詮は代理だ。本物の消えた隙間を空白を完璧に塞ぐことなどできはしない。

 彼のように、英雄ヒーローのように即断即決で動く事などできる訳がない。

 

「さてさて、ここまでの説明は分かって貰えたかな? うん。何か質問とかあるなら全然聞くから発言してね。うん。ほら、やっぱりこういうのはさ、参加者側にも理解してもらわないと後から不平不満の声が上がるでしょ? 運営する側の立場としてさ、やっぱりきちんとした相互理解が大切だと思うんだよね。うん」


 相互理解もへったくれもある物か。

 こんな状況に無理やり縛り付け、不用意な行動一つで命を奪われるかもしれない状況の中で、たとえ許可を与えられたとして素直に質問できる者が何人いるだろうか。

 寄操令示という男がどこまで考えて今の発言をしたのか知らないが、事実として、許可を与えられてなお誰一人として質問の声を上げようとする人間はいなかった。

 問いかけたい事が、疑問が、不安がない訳じゃない。自分が発言する事によって、連中の注目を集めるのがもう恐ろしいのだ。

 お願いだから誰か私の代わりに質問してくれ、という空気が集団の中に充満しているのが簡単に肌で感じられた。


 ならば、 


「おっ、やったね! 今日最初の質問者だ。うん。それで、君は何が聞きたいのかな?」


 不意に立ち上がった勇麻に、寄操はリアクションが返ってきた事が嬉しいのか、満面の笑みだ。

 ただ、相変わらず感情の映らない真っ黒な瞳だけは笑っていない。

 気味が悪かった。思わず吐き気さえ覚えるくらいには。


「……なあアンタ、アンタらは一体何が目的なんだ?」

「目的?」

「アンタらがテロリストを名乗るなら、それなりの思想があるハズだ。だが、アンタらの要求からはメッセージ性が伝わってこない。アンタらは何が目的で創世会を潰したいんだ?」


 勇麻の質問に寄操は考えるように「うーん」と唸り、ギチギチと首をあり得ない角度に曲げながら、


「気に入らないからだよ」

「は?」

「気にいらないんだ。天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)って枠組みそのものがさ。うん。神の能力者(ゴッドスキラー)とタダの人間とが、燃えるゴミと燃えないゴミみたいに分別されて別々に隔離されている現状がさ、気に入らないんだ。うん。差別は醜い、醜い物は気持ち悪い。気持ち悪い物は嫌いだ。……そう、嫌いなんだよね、僕。だから、その枠組みをぶっ壊してみようと思ってさ。うん。天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)が無くなって僕らと彼らとを隔てる壁がなくなれば、人間と神の能力者(ゴッドスキラー)が共存できる世界が来るんじゃないかな?」


 最初はふざけているのかと思った。

 だって、奇操の話はあまりにも筋が通ってなさすぎる。

 差別は醜い、人と神の能力者(ゴッドスキラー)との共存を望む。

 そんな事を語る神の能力者(ゴッドスキラー)が、なぜこんな事をする?

 神の能力者(ゴッドスキラー)が凶悪な犯罪を起こせば、増々人々の評価は下がり差別はさらに強まり広まるだけなのに。


 奇操の顔には、相も変わらず薄ら寒い作り物のような笑顔ばかりが張り付いている。

 読めない。分からない。

 奇操令示の言葉が本心かどうか東条勇麻では測れない。


 口を半開きにしたまま固まる勇麻は、自分が茫然として言葉を失っていた事に遅れて気が付くと、慌てて口を開いた。


「……ちょっと待ってくれ。人と神の能力者(ゴッドスキラー)の共存だと? ……それがアンタの目的だとして、今アンタのやっている事が、それに繋がると本気で思っているのか? いや、そもそもだ。あんな無茶苦茶な要求が通ると、本当に思っているのか?」

「ううん。全然」


 即答だった。


「なっ、……ッ!」


 今度こそ言葉を失う勇麻に、奇操令示は一ミリの迷いすらなくスラスラと己の言葉を紡いでいく。


「だからさ、嫌いなんだよ。うん。天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)も、そこに住みついて偽りの平穏を享受しているヤツらも、自分とは違うからって理由で厄介者を追い出して、そのくせ被害者面ばかりしている外の世界の人間共も、全部が全部気持ち悪い。差別を受け入れそれを良しとしている世界の仕組みが気持ち悪い」


 反論する暇さえ与えない。

 スラスラと、まるで呪詛が流れ出るかのような勢いで、奇操の言葉が空間を侵食していく。

 

「うん。だから決めたんだ。天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)をぶっ壊すって。うん。だからぶっちゃけた話をするとね、別に要求は通っても通らなくても、別にどっちでもいいんだよ。うん。だって、どっちに転んでも、天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)に甚大なダメージを与えられると思わないかい?」


 勇麻の背後で人々が戦慄に息を呑むのが分かった。

 

 そう、そもそもの前提が間違っていた。

 今まで東条勇麻が対峙してきた強敵達は、皆が皆何かしらの信念のような物を抱え、その信じる物を貫く為に戦っていた人物ばかりだ。

 イルミナルミは互いを思いやり、互いの為だけに戦っていた。そこには強すぎる程の姉妹愛を感じた。

 カルヴァート姉弟もそうだ。シスコン気味だが弟のレアードも、そして姉のレインハートも、どちらも正義感に溢れる人物だった。

 黒騎士の太刀筋からは強い野望のような執念を感じたし、彼も彼なりの理由があって戦場に身を投じているのだと今となっては思う。

 シャルトルは戦いに挑む事、自分達の仕事に矜持を持っていた。そんな彼女と拳で語り合えたことは、勇麻にとってもかけがえのない大切な経験だ。

 天風駆だってそうだ。遠く手の届かない理想に必死で手を伸ばし、掴もうと足掻いていた。彼のやり方は間違っていたけれど、それでもその意志は強かった。


 だがコイツは違う。

 奇操令示に目的は無い。

 そもそも行動を起こす為の動機が酷く希薄だ。言葉に重みが伴わないのは当然だろう。

 だって、目の前の男の言動をまとめると、『気持ち悪い物は嫌いだから全部ぶっ壊す』などと言う、酷く感情的で稚拙な破壊衝動しか見えてこないのだから。


「それに、どんなに気持ちが悪い物でも壊れる瞬間だけは綺麗な輝きを見せてくれるんだぜ? うん。見てみたいとは思わないかい? 数千、数万もの命が、刹那的な輝きと共に散る瞬間を。魂の最後の輝きを。あぁ、きっと綺麗なんだろうなぁ……」


 どこか恍惚したような表情で大量虐殺の計画を語る奇操に、勇麻は言葉が出ない。

 破壊衝動の赴くまま、感じるままに気持ち悪い物を壊し、その快感に浸る。

 そんな男。それが奇操令示。

 そのあまりにも幼稚で未発達な精神に、こちらの話が通じる訳がなかった。


「……」

「あれ? もう質問は終わりなのかな?」


 だけど、それではあんまりではないか。

 今までに起きた爆発は既に五度。

 その五回の爆発に巻き込まれて命を落としていった人達は、どうしてこんなふざけた理由でその生涯に幕を下ろさなければならなかったのか。

 今日という一日をネバーワールドで楽しむ為にやってきただけなのに、こんなにも理不尽で身勝手で、何の意味も無い理由のせいで死んでいった人達がいるのだ。

 確かにいたのだ。


 幻かもしれない。

 勇麻の思い込みだったのかもしれない。

 けれど確かに、聞いたのだ。


 助けを求める声を。


 確かに見たのだ。

 懸命に生き足掻こうとするその姿を。


 ふつふつと、何かが湧き上がってくる。

 それは怒りだ。


 今の今まで、どこか現実に頭が追い付いていなかったのかもしれない。

 目の前で起きた出来事も、確かに見たはずの幻も、心のどこかがそれを認めてしまうのを拒絶していたのかもしれない。

 けれど違う。

 

 これは紛れもない現実だ。

 目の前の男が実際に起こしている悲劇は本物であり、コイツを放置しておけばこの後もさらに犠牲者が増える。


 勇麻が見た物は全て、目を逸らしてはいけない事実だった。

 現実の話として、何人もの人が、実際の犠牲として死んでいるのだ。

 ニュースのような、画面の向こうの問題ではない。今間違いなく、この惨劇は勇麻たちの目の前で起こっている出来事だ。


 何かが、頭の中に流れ込んでくる。

 それは悲しみか無念か絶望か。言葉に表すのが馬鹿馬鹿しくなるような量の、圧倒的感情。

 処理しきれない情報量に頭が思考を中断した。行場のないエネルギーの奔流が勇麻の身体中を駆け巡る。

 右腕が、白熱する。


「……るな……ッ」

「ん? 何? 何か言った?」


 もう押さえつけるなんて不可能だった。

 聞き返す寄操令示に、東条勇麻はありったけの感情全てをぶつけるように怒りを吐き出した。


「ふざけるなって言ってるんだよッ! アンタのそのくだらない理由で一体何人の人が死んだんだ! 命だぞ? テレビゲームに出てくるような量産可能な敵キャラじゃない。二度と生き返る事もない、本物の命が、そこにあったのに! なのにテメェは……ッ!!」


 どうして彼らの笑顔が、そんなくだらない理由で奪われなければならなかったのか。


 どうしてアリシアの笑顔が、そんなくだらない理由で曇らされなければならないのか。


 どうして楓の幸せが、そんなくだらない理由で邪魔されなければならないのか。


 どうして何の罪もない人々が、そんなくだらない理由で恐怖に怯えなければならないのか。


 食いしばった歯から血が滲む。拳を握り絞め激情する勇麻に対し、しかし寄操はじぃっと勇麻を見つめ続けると、


「……へぇ、君。面白いね。うん。面白い魂してるよ」

「……は?」


 口から漏れたのは、何の中身も伴わない空気だった。

 会話が通じると思っていた訳ではない。

 だけれども、一ミリも。僅か一ミリたりとも響いていなかった。


「おい、落ち着け勇麻」


 近くのいるハズの泉の声がやけにくぐもって聞こえる。まるで何かのフィルター越しに声を掛けられているようだった。内容はよく聞き取れなかったが、正直どうでもいい。


 寄操令示は勇麻の言葉を鼻で笑う事すらしなかった。

 言い返すという行為さえ取らなかった。

 それどころか、勇麻の言った事とはまったく関連性のない言葉が適当に彼の口から吐き出されただけ。

 眼中にないというのは、きっとこういう事を言うのだろう。一瞬空白になった頭が場違いにもそんな事を考えた。

 そして、


「……お、まえはッ! ふざけるのも、大概にしやがれぇええええ!」


 もうこれ以上は不可能だった。

 偉そうに泉に向かって吐いていた言葉になんて何の価値もなかった。最初からこうしていれば良かったのだ。泉に話を持ちかけられた時に、素直にこのゴミクズをぶん殴りに行けばよかったと、後悔さえしていた。

 東条勇麻はなんて馬鹿だったんだろうか。これではタイミングも、相手の隙をつくもクソもない。冷静なふりをして、頭のいいふりをしていただけだ。とめどなく湧き上がる感情を押さえられない。

 感情が、怒りが、衝動が、爆発して炸裂する。

 右腕が、熱い。

 熱い──ッ!


「――がぁああああああああああああああああああああッ!!」


 泉が叫ぶように制止を呼びかけていたが、構わず無視した。

 凄まじい勢いで勇麻の身体が射出され、僅か数秒のうちに寄操の懐深くにまで踏み込む。

 勇麻の軌道をなぞるように舞い上がった風に、寄操の中性的な長さの髪の毛が揺れる。

 反応はない。

 寄操はどこかポカーンとした顔で、勇麻の右の拳が自分の顔面目掛けて振るわれるのを見ているだけだ。

 溢れ返るばかりの熱が込められた拳が全力をもってして振るわれ、


 そして次の瞬間、鈍い音と共に重い一撃が炸裂した。


「……かッ、はぁ……ッ!?」


 衝撃。

 血反吐と共に、空気が漏れるような苦痛混じりの声があがった。


 しかしその苦しげな声は寄操令示のものではない。

 東条勇麻から漏れた呻き声だった。


(一体、なに……が……ッ!?)


 目を見開き、何が起きたのか理解できない勇麻の視界の先で、寄操の顔が笑みに歪む。

 勇麻へダメージを与えたのは寄操ではない。

 目の前の少年は何もしていない。

 ならば何が起こったのか。

 その答えを告げたのは他の誰でもない、寄操令示の言葉だった。


「ありがとう“タカミン”、助かったよ。うん」


 寄操の口に出したその単語が、何故か勇麻の胸を嫌にざわつかせて……


「お礼なんているかよ。俺っち達は仲間なんだから、これくらい当然っしょ? キソちん」

「それもそうだね。うん。何て言っても僕たちは仲間なんだものね!」


 それは、聞き覚えのある声だった。


 答えなど、新たな襲撃者の顔を見る為に振り返るまでもなかった。見るまでもなく、今背後に立っている者が何者なのかを、勇麻は理解できてしまった。

 心臓が鷲掴みされているような感覚が勇麻を襲っていた。

 嘘だ。そう言って欲しい。

 何かの間違いだ。だって、こんなのはおかしい。

 

 今その声が聞こえてはいけないハズだ。

 それは違う。

 そんなふざけた選択肢は勇麻の中に存在しない。

 

 空白が頭を埋め、思考は停滞する。

 つい先ほどまで感じていた感情の高ぶりが嘘のように心が凍りついている。

 勇麻の背後、泉たちが息を呑む音が聞える。


 そうだ、またさっきみたいに幻聴を聞いているんだ。

 あるハズのない物を、勝手に勇麻の頭が造り上げているだけだ。

 だって、そうじゃなければおかしいのだ。


 そんなに気になるのなら確かめればいい。

 そう、心が囁く。

 思わず首を横に振っていた。

 

 振り返りたくない。振り返りたくない。振り返りたくない。振り返りたくない。振り返りたくない!


 予感などという生易しい物ではない。後ろを振り向いたら、視界の中に収めてしまったら、決定的な何かが確定してしまう。そんな確信に囚われる。

 心の声を全力で否定した時点で、既に勇麻は答えを知ってしまっていると言うのに。

 まるで聞き分けの悪い子供のように、勇麻の弱い部分がそれを認める事を拒絶している。


「さてと、いつまでそこでそーしてんの? ユーマ?」


 勇麻の返事など待たれる事はなかった。

 声の直後、

 まるで鞭のようにしなったのは、襲撃者の脚だった。

 背後から、勇麻の正面に回り込むようにして振るわれる一蹴。それは勇麻の顔面をあまりにも容易に捉えると、そのままその身体を呆気なく吹き飛ばした。

 跳ね石のように地面を転がったその身体を、人混みから飛び出した泉がどうにか受け止めた。


 襲撃者は特に何の感慨もなく懐から黒光りする一丁の拳銃を取り出すと、唖然とした表情のまま固まっている勇麻の眉間目掛けて真っ直ぐに銃口を突きつけ、照準。

 間髪入れずに引き金を引き絞った。

 パン! パン! パンッ! と乾いた発砲音が連続する。

 一切の迷いなく放たれた鉛玉は音の速さで空気を切り裂き一直線に突き進んで──


 が、誰もが予期した惨劇は訪れない。


 襲撃者が拳銃を取り出した瞬間、咄嗟に勇麻の前に飛び出していた泉修斗が、三発の弾丸全てをその身体で受け止めていた。

 その身に炎を纏いながら。


 火炎纏う衣(フレイムドレス)

 その身を炎へと変換する、泉の持つ攻防一帯の神の力(ゴッドスキル)だ。


 放たれた銃弾の狙いは割と乱雑で、泉が受け止めていなければ後ろにいた人達もどうなっていたか分からない。


「……」


 額が切れたのか血が視界に流れ込むが、そんな事すら今の勇麻には気にならない。

 ただ眼前の光景に、目の前に立つ人物に、勇麻はメデューサに見初められたかのように硬直してしまう。

 冗談にしても性質が悪いし、これがたとえ幻だとしても余りにも悪趣味だ。

 信じ難い現実が、嘘で幻のような真実が、銃口と共に東条勇麻に突き付けられていた。


 掠れた声が、すぐ傍の泉から漏れた。


「……お、前……な、んで……」


 泉の瞳は見開かれ、開ききった瞳孔が驚愕の度合いを示してた。

  

「高見……」


 茫然と泉修斗は呟いた。

 目の前の現実を受け入れられないのか、その口調はまるで幽霊でも見てしまったかのように確信が抜け落ちている。 

 

 悪い夢なら醒めてくれ。ひたすらにそう願う勇麻の想いを、だが襲撃者は踏みにじる。


「どうしたのシュウちゃん、そんな情けない顔して。そんなに俺っちがいなくて寂しかった? いや急に抜け出して悪かったって。ホント――ごめんな」


 最後の言葉がやけに寒々しく辺りに響いた。

 ニヤニヤと、細められた瞳に怪しげな光を宿し、酷薄な笑みを口元に浮かべて、高見秀人はそこに立っていたのだ。

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