行間Ⅱ
目の前が真っ暗になるほどの絶望を見たことがある。
大切な物全てを失った。それでもなお、自分だけは生き残ってしまった。
言葉では言い表せない感情が渦巻くなか、結局自殺なんてできなかった。
何より、あの笑顔を思い浮かべただけで溢れ出した涙が、自ら死へと向かうその足を止めるのだ。
『生きて』
そう言われている気がした。
これからの道のりはきっと厳しく辛い物になるだろう。
けれど生きなければいけない。
それがあの笑顔の望みならば。
☆ ☆ ☆ ☆
だから、その提案を受けた時は少なくない衝撃を受けた。
その提案に乗れば、きっと過去に決着を着ける事ができる。
多少汚れな役回りだが、断る理由なんて見当たらなかった。
それに信用できる相手の言葉だったし、また相手も自分を信頼している事が理解できた。
何より死にかけの身体に鞭を打って、わざわざこの話を持ちかけてくれたのだ。
相手の口調に余裕は無かった。自分の死期が近づいているのだ。当然だろう。
相手はその提案が承諾された事を、とても喜んでいた。
どこか安心したような顔で、最後に笑いかけてきた事をきっと忘れないだろう。
結局、それがその相手との最後の会話になった。
☆ ☆ ☆ ☆
提案は予想以上に危険な賭になった。
まず始めに襲いかかってきたのは想像を絶する痛みと、己の自我を保つ為の戦いだった。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も崩壊しかけた。
自分を失いそうになる中、それでも自分が折れなかったのは、あの笑顔と過去との決着への執念が支えになったからだ。
☆ ☆ ☆ ☆
いつの間にかこんな所まで来てしまった。
気がつけば一人、周りには誰もいない。何もない。
あるのはいつもの暗闇と、暗く輝く目的だけ。
……そう言えば、あの相手との約束も果たさなければならないな。
そんな風に昔交わした言葉を思い出し、不意に笑いがこみ上げてきた。
良いだろう。
自分の目的を果たす前に、あの恩人の頼みを聞いてやるのも、悪くはない。
時は近い。
きっともうすぐ会える、そんな気がする。