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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
第二章 涙空ノ咎人
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行間Ⅴ

 俺は何者でもなかった。

 何も与えられず、誰も俺を直視しなかった。

 俺でさえも俺を無視した。見なかった事にした。いなかった事にした。


 どうしてかって?


 そんなのは決まっている。

 簡単な話なんだよ。だってそうだろ、誰だって目を逸らしてしまう物なんだ。

 誰に言われるまでも無く気が付いているハズなのに、それなのに気づかないフリをして、目を逸らして、知らない顔をしているんだから。


 俺という存在は俺が生きるうえで必要だった。

 俺は俺の『弱さ』そのもの。

 しいていうなら受け皿だ。

 

 平和を愛し、理想を信じ、正義を掲げ、大切な人の為になるならばと、その身すら捧げた男の一部。

 大切な人の為と自分に言い聞かせつつも、それでも降りかかる理不尽を認められなかった『弱さ』の集合体。

 俺は生まれてから今まで全てを押し付けられてきた。与えられず、押し付けられてきた。

 それが俺の役目であり、俺の存在理由でもあった。

 だから俺には痛みしかない。痛みと、それを源とする世界への憎しみ。それが俺の全てなのだ。


 俺は生まれてから毎日毎日毎日毎日、身体を好きなように弄りまわされてきた。

 意味の分からない薬品を身体中の血管にぶち込む投薬実験。作用なんて無い癖に副作用だけは強烈で俺は何度も血反吐を吐いた。

 身体にメスの入った回数なんて数えるのが馬鹿馬鹿しい。もっと馬鹿馬鹿しい事に研究者どもは麻酔を打つ事すらしなかった。頑丈な『ゴッド能力者スキラー』に麻酔を使うのはもったいないから、などというふざけた理由を告げられた時は流石の俺も驚いた。

 身体中に電極を繋がれる。

 酷い時は頭蓋骨を切り開いて、脳味噌に直接。

 頭を切る時は流石に麻酔が使われたが、電極を脳に突っ込まれただけで簡単に意識が飛んだ。

 ごみ溜めみたいな汚い独房に、鎖で繋がれる生活。

 何も無い鉄格子の中で、終わりの見えない地獄の終わりを考えるだけの日々。神経が擦り切れ。だんだん自分が自分じゃなくなっていくような感覚に襲われる。

 食事だけは一日三食あった。

 家畜にやる餌みたいなメシを美味いと感じるのにそれほど時間は掛からなかった。

 絶望した。

 世界に、俺以外の全てに。俺自身に。

 地獄で苦しむ人間がいるのも知らずにのうのうと平穏に生きている者全てが憎かった。

 俺を知らずにいる俺が憎かった。

  

 これが俺の全てで、人生そのもの。

 生きる事に意味なんて無く、生きる事は苦痛だ。

 それなのに死ぬ事すら許されず、俺は俺の為に一人で全ての痛みを背負った。誰から認められる訳でもないのに、感謝の言葉を投げかけられる事すら無く、惨めに受け皿としての責務を全うした。

 得られたものなんて、あたりまえのように存在し無かった。

 何も無い。空っぽの器にはゴミのような憎しみと怒りと絶望が山積みだ。

 

 だからこそ、俺は憎む。


 理不尽ばかりをもたらし、俺から生きる意味を奪ったこの世界を。

 俺の事を裏切り続けた、俺以外の全てを。俺自身を。


 俺に崇高な目的など無い。というか、そんな大仰な物は俺には似合わないだろ。


 そういえば今日、初めてクソを殺した。何人も何人も何人も何人も……。俺をこんな風にした奴らは一人残らず肉塊へと変えてやった。

 ……ったくよ、ほんと堪らねえよなぁ。

 これまで家畜同然に見下していたはずのモルモットに殺される瞬間の奴らの顔と言ったら……クックックククク……。

 あぁ、今思い出しても笑いがとまらねぇ。

 けどよぉ、これって俺が悪いのか? 

 違うだろ。そうじゃないだろ。

 悪いのは俺じゃない。俺をこんな化け物にしちまった連中が、この世界が悪いんだ。

 だからこれは当然の報いだ。連中はしかるべき罰を受けたにすぎない。


 そして、これだけで済むと思うな。 


 まだ何も終わっていない。

 始まってすらいない。

 ここからだ。全てをここから始めよう。


 だから、これは細やかな復讐だ。


 ぶち殺したくなるような親愛なる世界へ、俺からの贈り物を捧げよう。

 意味なんて何もない。志も、名誉も、誇りも何も無い血みどろの世界を。

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