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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
第二章 涙空ノ咎人
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第二十三話 VS.光の術師《シャイニング・アルス》Ⅱ――光の乱舞

「僕が……楓を、殺そうとした?」


 勇麻の言葉に天風駆は、まるで譫言うわごとのようにそう呟いた。

 細かに揺れる瞳の動向が、駆の動揺を隠せずにいた。

  

(……なんだ、この反応は。これじゃあまるで、自分が楓を殺そうとした事を覚えてないみたいじゃないか)

  

 予想外の駆の反応に眉をひそめる勇麻。

 しかし勇麻がこの場に駆けつけた時、確かに天風駆は実の妹を絞め殺そうとしていた。

 勇麻はその現場を確かにこの目で見ている。それは間違いない事実だ。

 あまつさえ狂笑すら浮かべながら、愉しげに妹の首に手を掛けていたのだから。

 あれで殺そうとしていないだのと弁明されても、信じられる訳が無い。

 ましてや、全く身に覚えがないとでも言いたげな反応をされるとは思っていなかった。

 

 これは一体――


「そんな訳がないだろ。僕がどれだけ楓の事を考えて来たと思っている? 僕がどれだけの間、彼女との再会を待ちわびたと思っている。……は、ははは。笑えてくるよ。ここまでの侮辱を受けたのは本当に久しぶりだ。冗談にしても言っていい事と悪い事があるだろ。なあおい――」


 しかし勇麻がその胸に燻る疑念を口に出す前に、

 

「――ぶっ殺すぞ」


 死神が真横に舞い降りていた。


「――!?」


 目で追うとか、そういう次元では無い事はとっくに理解したつもりでいた。

 だって光速だ。光の速さだ。そんなの目で捉えられる訳がない。

 だが違う。今のは何かが絶対に違う。

 勘で対処とか、そんな事はとてもではないが不可能だ。

 余りにも何も無い。音も、気配も、そこにいるという実感も。


 気が付いた時には目と鼻の先に莫大な殺意の塊が立っていた。

 すうっと、死の影が自分の足元に静かに滑り込んでくるような、そんな感覚。

 確かに少しずつ近づいているハズなのに、自分の元を訪れるまで気が付かず、そして気が付いた時には既に手遅れ。鎌の切っ先は自分の首筋に当てられている。そんな性質の悪い死神。


「遅い」


 悪寒と共に、回避不可能の絶対的な間合いに入った駆は、勢いよく拳を振り抜いていた。


 東条勇麻は防御は取れない。いや、そもそも反応の速度が間に合わないのだ。


 驚愕を口にする暇すら駆は与えなかった。

 勢いよく脇腹にのめり込む拳が勇麻の瞳には映っていた。

 ズキリ、と。セルリアに治癒してもらった、シャルトルから受けた傷口が開く感覚があった。

 重たい一撃に勇麻が血反吐を吐き出す暇も無く、


「僕が楓を殺そうとした? 馬鹿も休み休みに言え」


 天風駆は、くの字に折れた勇麻を叩きつぶすように、組み結んでハンマーのようになった両拳を思い切り無防備なその背中に叩き付けた。


「が……ぁッ!?」


 肺の中の空気を全て吐き出し、呼吸が強制的に止まる。

 苦しい。身体が酸素を欲している。

 息を吸おうと必死に喘ぐのに、まるで水面に顔を出した魚みたいにパクパクと口を開閉するだけで、欲する酸素は入ってこない。

 そして勇麻が苦しんでいる間も追撃の手は止まらない。

 のけ反るようにして空気を求める勇麻の鼻っ柱を叩き折るような勢いで、駆の右ストレートが飛ぶ。

 

 バキゴキッ!!


 思わず目を瞑りたくなるような破壊音。その出所が自分の顔面だと理解すると同時、堪えようのない痛みが爆発した。


「がぁあああああああッ!?」


 顔を押さえたまま、痛みと怒りに身を任せ、狙いもめちゃくちゃに拳を振るう。

 当然、そんな乱雑な攻撃が光の速度で移動する駆に当た訳が無い。

 再び姿を消したかと思うと、今度は勇麻の横の死角から肋骨を叩き折るような勢いで中段蹴りが繰り出された。

 何の準備もしていない方向からの衝撃に勇麻の身体がぐらりと揺らぐ。 

 シャルトルから受けた傷は、そのほとんどが再び開きかけてしまっている。背中が、太腿が、赤くなる。既に服の内側から血が滲みだしているのだ。

 そうして体勢を崩した隙を狙って、天風駆はまた追撃をしかけてくる。


 レインハートのように斬撃を飛ばす訳では無い。

 黒騎士ナイトメアのように、何か特殊な力を扱う訳では無い。

 一撃一撃は単なる徒手空拳であり、一発の威力ならば勇麻の方が断然ん上だろう。

 だがそれでも、天風楓はただ圧倒的に速い。

 それだけの、しかしそれだけでは終わらない脅威。

 天風駆は自分の戦い方という物を理解していて、その上でその力を振るっているような気がした。

 だが、それも当然なのかもしれない。

 世界各地の地獄を見てきたという天風駆は、その身一つで数々の困難を乗り越えてきたのだから。

 要するに、自分の神の力(ゴッドスキル)を使い慣れしているのだ。

 

 実際にやっている事はすごく単純で、勇麻の攻撃を光の速度で回避し、死角へと回り込み隙を見て強襲。そして態勢を崩した所を一気に畳み掛けるというスタイル。

 しかしこういう単純な戦法は、ハマれば滅法強いと昔から決まっている。


 一撃一撃が積み重なっていく。

 頭が、足が、腕が、腰が、腹が、胸が、駆の拳で撃たれるたび、その蹴りを喰らうたびに、少しずつダメージを蓄積させていってるのが分かる。

 シャルトルとの戦闘で既にボロボロだった身体は既に限界に近かった。

 セルリアの治癒で誤魔化しながらやっていた物が、少しずつ崩れて行くのが勇麻には分かってしまう。


 そしてなによりの痛手は……


(く……そ、火力も、速度も、上がらないっ、何で、この大事な場面でこうなるんだよ!)


 東条勇麻の『勇気の拳(ブレイヴハンド)』は特殊な神の力(ゴッドスキル)だ。

 勇麻の感情、精神状況に呼応して身体能力を変動させるという、イレギュラーな力。

 怒りや興奮、勇気にやる気。それら強気な感情やポジティブな感情に呼応して身体能力が上昇する一方で、その逆の感情。すなわち、諦めや絶望、恐怖など、ネガティブで弱気な感情が勇麻を支配した場合は、身体能力の弱体化、という牙が容赦なく勇麻本人を襲う。

 それがこの神の力(ゴッドスキル)の特性であり、抱えるリスク。

 

 そしてそのリスクの部分が、今現在勇麻の事を苦しめている。


(どうしてこの場面で弱体化なんてしやがった!?)


 天風駆への強い怒りの炎が消えた訳では無い。

 楓を殺そうとした駆は絶対に許せないし、今でも勇麻の頭は内側から弾け飛ばんばかりに怒りで沸騰している。

 しかし、その莫大な感情エネルギーを内側から呪い殺すかのように、小さな感情の波紋が広がり始めている事に勇麻は気づいていなかった。


(くそッ、速すぎる。瞬間移動とか、そういう類のモンだぞコレ!)


 楓の攻撃は確実に勇麻を敗北へと追い詰めている。

 じりじりと断崖絶壁へと追い詰められるような感覚。今は何とか耐えられているが、勇麻には分かってしまうのだ。もうしばらくすれば、この均衡は崩れてしまうという事が。

 分かっているのに、どうにもできない事が辛い。

 勇麻の攻撃はかすりもせず、じっくりとなぶり殺しにするように、天風駆の攻撃が勇麻の残り少ない体力ゲージを確実に削っていく。

 いつの間にか勇麻の中には焦りが生じていた。

 こちらの攻撃が全く当たらない。このままで本当に勝つ事ができるのか?

 勘に頼るなんて方法はもう使えない。そもそもあの一回が的中したのだって単なる偶然。運が良すぎたのだ。今じゃどれだけ五感を集中させても、光の速さで大地を駆けまわる天風駆を捉えることは不可能なんじゃないだろうか。

 攻撃が当たらない天風楓を倒す方法なんて、本当に存在するのか?

 そんな問いばかりが勇麻の頭の中をぐるぐると回り、そんな思いを振り払うかのように無茶苦茶に拳を振るった。

 駆を捉えられない焦りが勇麻の攻撃を単調にし、単調になった攻撃が駆に当たる訳もない。 

 焦りの積み重ねが勇麻の動きから精彩さを奪い、そして結果として諦めに近い感情が無意識の内に辺りへ出力される。

 そうして産み落とされた諦観を『勇気の拳(ブレイヴハンド)』が感じ取り、勇麻の身体能力を低下させているのだ。

 その結果がこの中だるみ。


 まさに焦りと諦観の悪循環だ。 


「はぁ、はぁ、はぁ……くそッ!」


 今の勇麻の中では駆に対する怒りの感情と、状況への諦観とかぶつかり合い競合を引き起こしているのだ。

 その結果が身体能力の上昇に停滞を生んでいた。

 感情のせめぎ合いが今は拮抗してるからまだいいが、これが諦めに傾き始めたらいよいよ本格的な弱体化が始まってしまう。

 人の感情はそう単純な物では無く、当の本人にも操作できるような物では無い。

 『勇気の拳(ブレイヴハンド)』などという厄介極まる力を宿している勇麻にとっては、その事がとてつもなくまどろっこしかった。 


 唇を噛み締め、どうにか己の身体を支えている勇麻を天風駆は冷めた表情で見ていた。

 その瞳は、もう終わりか、と言外に語っているようだった。


「……もう一段階速度を上げる。耐えられるものなら、耐えて見せろ」


 肩で息をする勇麻に、駆はさらなる絶望を告げた。


「く……そ、がぁぁああああッ!!」


 勇麻のその叫びからは、闘志以外の何かを感じた。

 一方的に攻撃を受け続けた苛立ちと、反撃すらできない自分の弱さに頭が白熱する。

 右腕が焼き付けを起こしそうなほど過剰反応をし、勇麻の脳裏を暴力的な思いが支配した。

 冷めた瞳で勇麻を一瞥する天風駆に勇麻は勢いよく跳びかかろうとして、 


 そして、  


 光の乱反射が世界を白く染めあげた。


 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガガガガガガッガッガガガ!!!

 

 まるでそれは光の乱舞だった、目も眩む輝きに、天風駆の辿った軌跡すら光にかき消されて見えはしない。まるで、莫大な光量のイルミネーションの中心に投げ込まれたような景色だった。


 凄まじい激しさを伴う音が巻き起こる。一つ一つの個だった音が連続して繋がり、一つの歌を奏で始める。 

 それほどまでに息つく暇も無い連打が勇麻を襲っていた。

 殴って、削って、殴って、蹴って、殴って、削って、殴って、蹴って、単純な作業にも似た、繊細さの欠片も無い大雑把な攻撃。

 しかしその単純な一撃一撃の積み重ねが、確実に東条勇麻を追い詰める。


 殴打による弾幕。

 

 誰よりも速い男の手数は誰よりも多い。考えてみれば当たり前の事だが、これほど脅威になる物も無い。

 ヒット&アウェイを繰り返していればいつかは必ず勝利を手にする事ができる。

 小学生が考えた、“ぼくのかんがえたさいきょう”そのもののような圧倒的速度と物量による暴挙。 

 攻撃を繰り出す暇さえ与えない圧倒的な速度の連打が、徐々に、しかし確実に勇麻の体力を削って行く。


(く……そ、これじゃあ反撃の糸口すら掴めねえ。サンドバックのまま終わっちまう!)


 怒らせてはいけない相手を怒らせてしまったのかもしれない。

 天風駆は、今まで本気など出してはいなかったのだ。

 当然だ。

 相手はあの天風楓ですら敵わなかった、『Sオーバー』なのだから。  


 一撃一撃がそう重い訳では無い。致命傷になるような傷は負ってはいない。だが小さなダメージの積み重ねが、勇麻に膝を折らせていた。

 速度と物量に物を言わせた戦い方。戦略も糞も無いが、実に合理的に相手の体力を削っていく。 


(どうする? 本当にどうすればいい? 攻撃が当たらない相手に勝つ方法なんて、存在するのか?)


 勇麻の顔色が徐々に曇っていく。

 思考を放棄したらお終いだと思った。だから必死で保つ。

 反撃すらできない今この時でも、使えない頭を回して必死に打開策を考える事くらいは出来る。

 だから考える。

 焦る頭で、死ぬ気になって考える。


 問題を一つ一つ羅列し、それらを解きほぐす為に必要な物を逆算していく。


 天風駆の一番の武器。

 光。

 他の追随を許さない圧倒的スピード。こちらの攻撃は掠りもせず、ワンサイドゲームに成り果ててしまう圧倒的手数の殴打による弾幕。

 光速に達する彼を目で捉えるのは『勇気の拳(ブレイヴハンド)』による強化がある勇麻でも不可能。

 なら、目視できない相手をどう捉える。

 ……見えないなら目で追ってやる必要はない。事実、駆にまともに攻撃を当てた二回のウチの一回は勇麻の勘頼りだった。

 だが今の駆の速度にたかが勘が通用するのか?

 一回目だって偶然運が良かっただけ。二回目以降もその偶然に縋ろうなんて、ショッピングモールの福引で二回連続一等の温泉旅行を当てる事を期待するような物だ。


 そもそも目で追う追わない以前に、光と化している天風駆に攻撃を当てる事など可能なのか?

 こうしている今も、眩い輝きは勇麻の視界を染め上げ続けている。

 実態の無い物質に、勇麻の攻撃が当たるとは思えない。

 防御を無効化どころか逆効果にしてしまう『勇気の拳(ブレイヴハンド)』でも、流石に実体のない物にダメージを与えられるとは思わない。

 もし駆の『実体の無い光になる』という行動が防御として認識されるなら可能性はあるが、天風駆はあくまで攻撃の為に光速での移動をしているのだ。あくまで攻撃が効かないのは副産物でしかない。

 それが防御と判断される可能性はかなり低い。

 

 相手の攻撃を躱す事も防ぐことも出来なければ、こちらの攻撃を当てる事もできない。

 完全に八方ふさがりの状態だった。

 

 どうする? どうすればいい。


 活路が見えない。打開策が思い浮かばない。募るのは焦りとダメージばかり。

 このボロボロの身体にもいずれ限界が来る。

 勝ち目なんて、本当にあるのか?

 それすらも分からないまま、眩い光の中で道を見失い勝機も失った。

 天風駆は不意打ちのあの一撃で仕留めるべきだったのだ。

 天風駆に向かって、何かカッコよく宣言していた自分がとても遠い過去の物のように感じる。はて、あの時自分は一体何と言ったのだったか?

 朦朧としてきた頭では、それすらも思い出せなかった。

 体力と共に気力も削がれていく。抵抗もできぬまま、まるで集団リンチみたいな手数の暴力の前に膝を付き、屈する。

 ……認めたくないがそんな結末が容易に想像できてしまう。

 

 諦めるわけにはいかない。

 そう自分に言い聞かせる度に、震えるような虚しさが勇麻を襲うのだ。


 できる訳がないと、誰かがそう囁くのだ。

 

 諦めろと、そう頭の中で誰かの声が響く。


 ――こんな戦いに意味なんてあるのか? 勇麻。勝てる訳が無い戦いなんて、辛く苦しいだけだぞ。


 だから、諦めろ。

 その声はそう言っていた。

 幻聴……では無いと思う。

 というか、どこかで聞いた覚えのある声だった。

 あれは確か……そう、思いだした。黒騎士ナイトメアと戦った時、勇麻が全てを否定され、全てを諦めて投げ出そうとしていた時に頭に響いた声と同じ声だ。

 頭の中に直接響くようなその不思議な声は、しかし確かな現実感を持っていた。


(……意味、だと?)


 まるで当たり前のように、心の中で返事をしていた。

 勇麻自身その事に対して何も違和感を覚えないという事実が、一番の違和感。

 そして当然の事であるかのように、頭の中に響く声もまた言葉を返してくる。


 ――だってそうだろ? 勝てると思ってもいないヤツが、自分より強い相手に勝てる訳がないんだから。だから言ったんだ、こんな戦いは無意味だと。意味も無く苦しみ続けるくらいなら、いっそ諦めて全て楽になればいい。違うか?


(……俺は……)


 咄嗟に反論を言おうとした。

 けれども言葉が見つからない。頭に響く声の言葉を、東条勇麻は自信を持って否定する事が出来なかった。

 中途半端に開いた口を誤魔化すように、数秒遅れで無理やり言葉を吐き出す。


(……れが、俺が諦めたら、楓はどうなる。俺はアイツの味方であるって、そう決めたんだ。だから――)


 ――だから諦めなられないって? おいおい、何も学んじゃいないんだな、そんな物で本当に天風駆に勝てる訳ないだろ? 事実今のお前は折れかけてるんだぜ?


(……)


 黙り込む勇麻に声は呆れたように息を吐いて、


 ――ったく、分からないヤツだな。そんな感情じゃ生ぬるいって言ってるんだよ。


(……生ぬるい、だと?)


 ――ああ、そうさ。なあ勇麻、簡単な事なんだぜ、実に単純な話なんだ。最も大きく強力な感情を力の源にすればいいだけなんだ。……天風楓を救いたい? 楓を傷つけた天風駆への怒り? そんなものじゃ生ぬるい。奴への憎しみを、殺意を糧に戦えばいい。お前の『勇気の拳(ブレイヴハンド)』は、きっとお前のその想いに答えてくれるぜ?


(憎しみ、殺意……?)


 ――そうだ、殺意だ。憎悪だ。お前の中にその感情が存在しないとは言わせないぞ。少なくともお前は、天風楓が殺されかけていたあの瞬間、天風駆に対して怒りよりもどす黒い何かを抱いていたハズだ。なに、その方向性を少しいじるだけでいい。それだけでお前の憎悪に、殺意に『勇気の拳(ブレイヴハンド)』は答えてくれるハズだ。


 憎悪。殺意。

 それさえあれば、天風駆に打ち勝つ事ができる?

 それは、酷く甘い誘いのように勇麻には思えた。


(……憎しみを……殺意を糧に戦えば、勝てる、のか? 本当に?)


 ――ああ、そうだ。あの男が憎くない訳が無い。本当はお前も自分の気持ちに気づいてるハズなんだ。天風駆を殺そう。奴が憎いと、奴を殺したいと、そう願え。それで全て終わる。


 出口の見えない真っ暗な迷路の答えを得たような気持ちだった。

 きっと、声の言う通りの道を進んでいけば、東条勇麻はゴールに辿り着けるのだろう。

 でもそれは、


(……違う、そうじゃない。俺は、……俺が欲したのは、そんな安易な解決じゃない。あいつらは運が悪かっただけなんだよ、駆も楓も悪く無い。ただ、運が悪かった。だから、天風駆と天風楓はやり直せるハズなんだ。兄妹仲良く並んで、楽しく話せるような関係にだって成れるハズなんだ)


 きっと東条勇麻の望んだゴールじゃない。

 そんな答えは、一ミリたりとも望んではいない。


 ――倒すべき悪もまとめて仲良しこよし、ね。……甘いな。甘いを通り越して正気じゃない。そんな綺麗事を吐いて何になる? 事実お前は満身創痍の敗北寸前。そんな甘っちょろい考えで、ここから逆転できるとでも思ってるのか? 救うべき者と倒すべき者とを見誤れば、最悪の結果を招く羽目になるかもしれないんだぜ?


 甘っちょろい綺麗事。確かにその通りかもしれない。

 けれど、そんな勇麻の甘っちょろい綺麗事をかつて信じてくれた人がいたのだ。いつか『それ』が正しかったのだと証明して見せてくれと、そう言ってくれた人がいたのだ。

 そして勇麻は、そう言ってくれたあの人――南雲龍也の言葉を今でも信じている。

  

 分かっている。

 自分という人間が、南雲龍也という人物に依存してしまっているという自覚はある。

 未だに過去の亡霊は勇麻の事を掴んで離さず、勇麻自身、南雲龍也の代理品として誰かを助けなければいけないという強迫観念のような義務感に襲われる事も多々ある。

 今回の件だって、一度は南雲龍也の代理品として天風楓を打倒する事も考えた。

 けれども、


(……俺は、天風楓の涙を止めに来たんだよ。アイツが作り笑いを浮かべて陰で泣いてるのが、許せなかったから。だから、止めに来たんだ)


 南雲龍也の代理品とか、偽者の英雄とか、そんな物は関係ない。

 東条勇麻は天風楓の味方だから。

 

(だから違うんだ。兄貴を殺しちまったら、あいつはきっとまた泣く。俺はそんなの見たくない。そんなつまらない結末の為に、歯を食いしばってる訳じゃない)


 だから、


 ――勝てないかもしれないぞ。綺麗事じゃ、天風駆には勝てないかもしれない。それでもか? それでもお前はそのつまらない意地を通すのか? そのつまらない意地の為に、勝利をみすみす諦め手放すのか?


 その問いに、勇麻は即答する事ができた。

 それは、苦しい戦いの中で見失っていた答えだ。

 最初に自分で言った癖になんてザマだ。こんな体たらくでは、シャルトルに合わせる顔が無い。


(……できるできないの問題じゃないんだよ。認められなかったから、曲げられないから、譲れない物があったから、俺はここに立ってるんだ。勝てるだの勝てないだの、そんな些細な事の為に大事なもん見失ってちゃ、本末転倒だろ!)


 譲れない物を、認めたくなかった結末を、捨て去れない想いを、それらを諦めてまで掴んだ勝利に何の意味がある。

 東条勇麻は天風楓が泣いているのが許せなかったから、だから立ち上がったのだ。

 己の手で楓の顔を再び涙で濡らしたのでは、何の意味もない。それこそ無意味な戦いだ。


 ――……諦めた訳じゃあ、ないんだな?


(……当たり前だ)


 それ以上の言葉は、必要なかった。

 何故だろう、その声は、勇麻の返答に少しだけ嬉しそうに笑ったような気がした。


 ――なら、その綺麗事を現実にしてみせろ、東条勇麻。


(……そんな事、言われなくても――) 


 光り輝く暴風の中、


「――分かってるッ!!」


 少年の叫びが、空間を震わせた。

 知らず知らずのうちに弱気になっていた自分を鼓舞するかのように、天高く吠える。

 もうその顔に迷いの色は見えない。瞳には強い意志が宿り、ぐっと引き結ばれた口元が決意を示している。

 右腕が赤熱する。回転率が上がる。

 身体が熱い。

 勇麻は全身の血液が沸騰しているような感覚を得ていた。

 身体中の筋肉という筋肉に力が宿るのが分かる。

 今ならいける。

 まずはこの弾幕を突破する。


「お、うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!?」


 ふくらはぎがまるで膨張するかのように一度大きく膨らみ、圧縮。さらにもう一度膨む。

 ありったけを込める。力全てを封入する。

  そして、溜めたエネルギー全てを解放するようにふくらはぎの筋肉が炸裂した。

 バゴンッ、という轟音がした。

 踏み切った地面に、放射状のヒビ割れが無数に走る。

 殴打によって形成された光の乱舞。その圧倒的なまでの数の暴力の嵐の中を、勇麻の身体が砲弾のように突っ切っていく。

 凄まじい勢いで脱出した勇麻は、天風駆から十メートル程離れた地点に着地……というより落下した。

 『勇気の拳(ブレイヴハンド)』によって引き出せるスペックギリギリの大跳躍をした結果、身体中の筋肉がイカれたような痛みを発している。

 でもそれだけだ。


 痛みはあるが、立ち上がれない程の事じゃない。

 勇麻は、起き上がり拳を構える事ができた。


 東条勇麻は、まだ戦う事ができる。

 

 満身創痍の身体を補って余りある程の闘志が、今の勇麻を支えていた。 

  

「へぇ、今の攻撃から逃れるか。君のタフさというか、しぶとさは賞賛に値する物があるね」

「……そいつはどうも。アンタの攻撃も、まあ中々だったぜ」

「だが勘違いするなよ。僕は誰もが幸せな世界の王となる。だから僕は誰もの味方だ、平等に皆を救う。けれど僕は僕を邪魔する者に容赦はしない。僕の邪魔をするという事は、すなわち僕の造る世界と人々の幸福を否定するという事だ。僕はそれを許さない。それに……冗談と許される発言と、そうでない発言があるということを、君は知った方がいい」


 天風駆はその顔に怒りを滲ませながら、突き放すようにそう言った。

 その睨み殺さんとする視線を一身に受けながら、しかし勇麻の頭の中は別の事で一杯になった。


 ――気が付いたからだ。


(? 何だこれ。……切り傷、か?)


 無視できない違和感があった。

 勇麻が見たのは、自分の身体に残る大小様々な無数の切り傷だった。

 光の乱舞の中に居た時は、状況をどうにかしようと夢中で全く気が付かなかった。

 殴打でできるような物ではないし、爪で引っ掻いてできた可能性もゼロではないが、明らかに刃物のような物で切り裂かれたであろう傷もある。

 明らかに殴打でできた傷ではない。

 これは……。


(……髪の毛を光の短剣に変える攻撃。そうだ間違いない、あの攻撃だ)


 駆の攻撃は、光速移動しながらの『殴る蹴る(インファイト)』だけではなかった? 


(光速攻撃の中に、打撃以外の物が混じっていた? 殴る蹴るだけで弾幕を張っていたんじゃなかったのか?)

 

 ……ん?


(……ちょっと待て、俺は今何に引っ掛かった?)

 

 頭が、勇麻の脳みそが何かを訴えている。

 今東条勇麻はどのポイントで何に反応を示した? 

 いや、光の短剣による傷に違和感を感じたのは確かだが、それじゃない。そんな分かり切った物では無く、それ以外の何か。

 今まで見落としていた何かを、一瞬垣間見たような、そんな感覚。

 そこに天風駆の弱点――突破口が、ある気がする。


(そもそも俺はどうして殴る蹴る以外の攻撃が混じっている事に違和感を覚えたんだ?)


 天風駆の圧倒的強みである、相手の反撃を許さない連続攻撃。

 殴打のみによる圧倒的弾幕。

 その前提が崩れ、仮に弾幕の構成に打撃意外の攻撃、髪の毛を用いる光の短剣が使用されていると仮定した場合。

 ある一つの可能性が提示される。

 

(殴る蹴るだけじゃ、あの攻撃の厚みは……あのレベルの弾幕は、張れなかった?)


 天風駆の軌道すら真っ白に染めあげた眩い光。もしあれが、勇麻の目を誤魔化す為の目くらましなのだとしたら。 

 光速移動による『殴る蹴る(インファイト)』だけではあの攻撃の厚さは実現出来ず、それを補強する為に放たれる光の短剣。あの攻撃なら地雷のように空中に設置して、任意のタイミングで攻撃を発動させる事もできるだろう。それならば極端な話、天風駆は何もしなくとも光の剣のみで光の弾幕は完成してしまう。

  

 光の速度で動ける癖に、天風駆の光速移動には何らかの制限があり、とてもでは無いが殴打だけで弾幕を張れるほどの連続力、持続力は無くて、その事実をあの強力な光の輝きと、光の短剣で隠ぺいして――


 ――と、そこで不意に勇麻の脳裏に電流が走った。

 そしてそれこそが、引っ掛かりの正体だった。


(いや違う……おいおい、ちょっと待てよ。光速移動での『殴る蹴る(インファイト)』ってのがそもそもおかしいだろ。そんなもん受けて何で俺は生きてるんだ? 光の速さなんかで突っ込まれたら、連撃とか関係なく普通に一撃で死ぬだろ)


 東条勇麻が生きている事。それ自体が普通に考えて異常だった。

 運動エネルギーというヤツは、基本的には物体の持つ質量と速さで決まる。

 細かい事を言い出したらキリが無いので省略するが、光の速さで人間に突撃されたら痛いなんて物じゃ済まないだろう。攻撃を受けたほうも、というか突っ込んだ方諸共(もろとも)、木端微塵になるハズだ。


(けど俺は死んでない。……って事はだ、奴の攻撃力に速度は加算されていないって事になる。駆の移動スピード自体は馬鹿みたいに速い。それは事実だ。なら攻撃を受けても俺が生きているというこの結果が表すものは……)


 天風駆の移動速度は光の速さに達している可能性が高い。 

 しかし、その一方で攻撃に速度は加算されておらず、なおかつ殴打のみによって弾幕を張る超光速連撃は、光の短剣とめくらましを使って誤魔化しながら行われていた。

 そこから見えてくる天風駆の『神の力(ゴッドスキル)』の性能。

  

 全てが勇麻の頭の中で結び付き、


「……なんだ。そういう事かよ」


 笑みと共に顔を上げた勇麻に、駆が不審げに目を細める。

 駆は勇麻のその態度が気に入らないのか、不機嫌げに眉を吊り上げて敵意むき出しの言葉を投げつけてくる。


「……一人得心を得たような顔をして。一体何が『そういう事』なんだ? こちらとしては君にそんな顔をされるのはすごく不愉快なんだ。諦めないのは君の勝手だが、これだけの力量差に届く事ができると、本当に思っているのか?」

「力量差? ……はっ、笑わせる事言ってくれるじゃねえかよ。このハッタリ野郎」

「……口の利き方には注意しろと忠告したハズだが。もう忘れたのか? やはり理解度の低いヤツは頭の出来が違うらしいな」 


 怒りに顔を真っ赤にする駆を無視して、東条勇麻は気持ちのいいくらい勝気な笑みと共に告げる。

 逆転開始の合図を打ち鳴らすように高々と。 


「アンタには悪いが見えたぜ、天風駆。アンタの『神の力(ゴッドスキル)』の致命的な欠陥が」

「……ふん、言葉で言うのは簡単だ。僕の動揺を誘おうとしているのか知らないが、その程度の言葉じゃ揺さぶりにもならないよ」

「なら来いよ。ごたくがお嫌いだって言うなら、結果で証明してやる」


 立たせた二本の指をちょいちょいと揺らし、かかって来いと小学生のような挑発を行う勇麻に、駆はほとほと呆れたと言うように大きく息を吐いた。

 怒りを通り越して呆れ果てたのか、くだらない物を見るような瞳で勇麻を一瞥して、


「……分かった、もういいよ。こっちとしても、これ以上君と話す事は何も無い。君が新しい世界を拒絶するのならば、無理強いはしないとも言ったしね。……本当は少し痛い目を見せて許してやるつもりだったけれど、気が変わった。君の安い挑発に乗って、今すぐ調子に乗ったその息の根を止めてやる。世界の為に死ね、名も知らない男よ」

「そうかよ。なら俺は、アンタが二度と王様ごっこが出来ないように、その金ピカのメッキを引き剥がしてやる」

 

 しばしの間、両者の間に肌をビリビリと震わせるような静寂が漂う。

 激突の瞬間はすぐに訪れた。

 最初に動いたのは勇麻だった。

 身体を沈み込ませるように姿勢を低くすると、ふくらはぎの筋肉が膨らみ、炸裂。

 『勇気の拳(ブレイヴハンド)』で強化された瞬発力に、身体中のエネルギーを上乗せする。

 結果として敢行されたチーターも顔負けの爆発的なスプリントは、勇麻の残像すらその場に残して見せた。

 


 東条勇麻の決死の突撃を、天風駆は呆れたような瞳で見ていた。


「僕に速さで勝負を挑むなんてね、愚かを通り越して逆に尊敬するよ」


 相対する東条勇麻がほんの数秒で距離を詰め、自分目掛けて拳が振るわれるのを間近で見てもなお、駆の余裕は崩れなかった。

 そもそもこの世界に駆よりも速い者など存在しないのだ。

 速度に関しては絶対的な優位が天風駆にはある。

 それなのにわざわざ自分から仕掛けてくるなど意味不明だ。

 先手など取れる訳が無いのに。

 駆に敵対するこの男は愚かではあるが馬鹿では無いと思っていたのだが、駆の思い違いだったのだろうか。


「でも、これで本当に勝てると思っているなら、君みたいな馬鹿は一度死んだ方が身のためだ」


 吐き捨てるように言い放ち、既に誰もいない空間に拳を振るった東条勇麻の背中を見ながら、天風駆は右足で蹴りを放つ。 

 狙いは右の脇腹。

 がら空きの側面に痛烈な一撃を浴びせ、態勢が崩れた所を追撃する。

 今すぐ息の根を止めると豪語した駆だったが、この男を簡単に殺すつもりはなかった。


(自分の言った事を後悔させてやる)


 天風駆が妹の楓を殺そうとするなど、ある訳が無い。

 そんなふざけた言い掛かりをつけられて穏やかで居られるほど、駆は優しい人間ではなかった。


 駆の放った右足の蹴りが、風を切って死角から勇麻の脇腹を打つ。

 当然、東条勇麻に躱す事などできる訳も無い。

 死角からの痛烈な一撃が直撃し、勇麻は態勢を大きく崩す──はずだった。


「なに!?」


 別に攻撃が当たらなかった訳じゃない。

 その逆だ。

 駆の狙い通り、攻撃直後でがら空きの右脇腹に右の中段蹴りは綺麗に決まっている。

 だが目の前の男は、死角からの攻撃をまるで分かっていたかのように態勢を崩す事無く耐えきると、空振りさせたはずの腕を素早く引き戻し、腕と自分の身体とで、脇に駆の右足を挟み込んだのだ。

 固くロックされ、押しても引いても動かない。

 激しく舌打ちする駆の方を振り向いて、少年の顔は不敵に笑っていた。


「ようやく捕まえたぜ、天風駆」


 ニヤリと、笑っていたのだ。


 

 東条勇麻は何の考えも無しに猛スピードで天風駆に突っ込んだ訳では無い。

 馬鹿正直に一直線に突っ込めば、天風駆は確実に死角に回り込んでくる。そう考えたが故の突撃だった。

 光の速度で突然目の前に現れでもしたら、勇麻にはその攻撃に対応しきる自信が無い。

 そしてまた態勢を崩されてしまえば、先ほど同様に光の乱舞が勇麻を襲っただろう。

 アレが偽装の上に成り立つ攻撃だとしても強力である事に変わりは無い。

 

 光速での移動が可能な駆が動くより先に、勇麻が動く必要があったのだ。

 そうする事で駆からの攻撃の方向を死角からのみに絞りこみ、右の拳を空振りさせる事でいい具合に隙を作り出して攻撃の位置をさらに誘導した。

 駆が乗ってくれるかどうかは正直賭けだったが、見事に勇麻の策にハマってくれた。 

 

 ちなみに右の一撃はボクシングのジャブみたいに、繰り出す時よりも引き戻す時に力を入れる牽制用の攻撃だった。

 だから素早く引き戻し、駆を捉える事ができたのだ。

 

 勇麻は脇の下にがっちりと駆を挟みながら、


「アンタ、光の速度で移動してる最中には攻撃できないんだろ? ……いや、それどころか光の粒子から実体に戻る時に一度スピードを完全なゼロに殺してるよな。そうじゃなきゃ俺がアンタの攻撃を受けてピンピンしてられる道理がないんだから」


 勇麻の予想は正しかった。


 天風駆は自身を光の粒子に変換する事により、光の速度で移動する事ができる。

 身体を光の粒子に変換しての光速移動中は質量がゼロになり実体を失うので、攻撃が当たらない代わりに駆自身も攻撃をする事ができない。

 故に天風駆は攻撃をする際いちいち光の粒子化を解いて、スピードを完全にゼロまで殺さなければならないのだ。

 だから攻撃に光のスピードという莫大なエネルギーが加算される事はなかった。

 駆が光の乱舞に光の短剣を混ぜたのは、いちいち止まる事によって生じるインターバルを埋め、あたかも光の速度を保ったまま連続攻撃をしている風に思わせる為だ。

 光の短剣が混じっているのをバレないようにする為に、莫大な光量で視界を潰す小細工もしていた。


 序盤の攻防で、光速移動の後にいちいち攻撃の手を休めて止まっていたのも、手を抜いて余裕を見せていた訳では無く、一度止まらなければ攻撃が出来なかったから。それを看過されないよう、駆自身も余裕の振る舞いをしているようなフリをしていたのだ。

 

 それがバレた。

 ほぼ完璧に言い当てられた。

 だが天風駆は慌てなかった。その顔に勇麻を馬鹿にしたような嘲笑すら浮かべる始末だ。


「……ふん、君が言っていた致命的な欠陥とはその事か? だったらお笑い草も良いところだな。その程度の弱点が露見した所で、変わる優位では無いんだよ。『Sオーバー』とは『神の子供達(ゴッドチルドレン)』とは、そういう物だ」


 口元に浮かべた笑みを若干引き攣らせつつ、どうにか勇麻の拘束から抜け出そうとする駆。

 しかし『勇気の拳(ブレイヴハンド)』によって身体能力が強化されているうえ、普段から全てにおいて徒手空拳頼りの勇麻に、体力では適わない。

 勇麻も負けじと駆の言葉を鼻で笑うように、


「『神の子供達(ゴッドチルドレン)』、ね!」


 勇麻は腕と自らの身体で挟んでいた駆の足を改めて両手で掴み直すと、右足を軸にして回転、モーニングスターのように駆を振り回し、手近にあったコンクリ壁目掛けて放り投げる。

 天風駆の身体が一直線に固いコンクリ壁に衝突。凄まじい音を響かせながら壁を破壊し、受け身も取れずに地面を転がって行く。

 

「一つ、アンタに聞きたい事があったんだ」


 苦しげに顔を歪め、血の混じった唾を地面に吐く駆。

 開戦から数えて計三回も東条勇麻如きの攻撃を受けてきた“自称”Sオーバーの少年に、勇麻はその質問を投げかけた。


「アンタ、そもそも本当に『神の子供達(ゴッドチルドレン)』なのか?」

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