行間Ⅱ
真っ暗な闇の中、頭に酷い鈍痛を覚えて少年は目を覚ました。
目を開けているというのに何も見えない。日の光はおろか、僅かな光源さえどこにも見当たらなかった。
ここはどこだろう……。
突然暗闇の中に迷い込んだ事に対する恐怖もあったが、すぐにそんな疑問が浮かぶ。
頬に感じる冷たい感触から、ここがどこかの室内であるという事が分かる。
とりあえず立ち上がろうとして、自分の両手両足が不自然な体勢から少しも動かせない事に気が付いた。
縄か何かで縛られているようだ。
ここまでくると少年にも状況がだいぶ見えてきた。
縛られ、拘束されて身動き一つ取れない身体。
辺り一面の暗闇。
おそらくは密室に閉じ込められているのだろう。
つまりこれは……監禁、というヤツなのだろうか。
でも、一体どうして?
監禁されている事に対する絶望より、そんな疑問が浮かぶ。
そもそもどうしてこうなった。
そんな疑問の答えは、案外簡単に提示された。
頭の痛みが引くにつれて、何が起きたのかを少年の頭が少しずつ思い出していった。
……そう確か、少年はついさっきまで妹と一緒に公園でボールを使って遊んでいて──
妹の投げたボールが植え込みの向こうの道路に消えてしまい──
それを取りに道路に出た少年の前にナンバープレートの付いていないワゴン車が停まり──
そこから伸びた腕が腕が腕が──
必死に抵抗するも大人の腕力には適わなくて妹の声にならない悲鳴逃げろと視線だけで少年は告げて首を横に振る妹はだがしかしそれでも兄の言いつけに従い走り出してそれを見送り意識が暗転し──
思いだした……。
そう呟いた少年に、恐怖や悲しみ、怒りや絶望の感情はなかった。
ただ安堵した。
妹は――あの子だけは逃がすことができた。
その事実だけで少年の頬は緩み、緊張が僅かに解けた。
だがそれでも堪えきれなかったように、吐息が漏れる。
ああ、出来ることなら妹と一緒に。あの子と一緒に『天界の箱庭』で暮らしたかったなー。




