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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
第二章 涙空ノ咎人
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第十二話 不穏な雲行きⅣ――鉛色の下の戦争

 天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)の夏空は、いつの間にかドンよりとした曇天に変わっていた。

 あれ程熱烈な太陽光線を地上に送っていた光源は、今や地上からではその姿を拝むことも出来なくなっている。

 場違いに鳴き続ける蝉の声だけが、この場で唯一夏を感じさせる存在だった。


 一人の少年が風に巻き上げられ視界の彼方へ飛ばされていくのを眺めながら、どこか感心したような声をシャルトルは上げた。


「はぁー、めちゃくちゃ飛ばしちゃいましたねぇー。ところで生きてるの、アレ?」

「勇麻くんなら大丈夫。着地の衝撃も風のコーティングが相殺してくれるようにしてあるから、何の問題もない。というか、アナタ達は他人の心配してる場合じゃないと思うよ。……わたしが律儀にアナタ達の落下の事まで考えると思ってるの?」

「な。」


 ムスッとした顔で短くそう発したセピア。

 どうやら楓の言葉に少なからずカチンと来たようだが、もちろん楓には意味は分からない。


「セピアの言う通りだな。このスカーレ様があんな間抜けと同じように風に捕まる訳ねえよ」


 周囲の状況を改めて確認する。敵は四人。隙は見当たらず、相当の使い手だと判断した。

 周囲に伏兵はなし、だが既に楓は四方を敵に囲まれてしまっている。逃げ場など、もうどこにもない。まあ、だからこそ勇麻の事をあんな方法で逃がしたのだが。


「……天風楓。アナタはあれで良かったんですかぁ? あの一般人、アナタのやってる事に気がついてしまったみたいですけど。アナタの知り合いだったんでしょう?」

「……どのみちいつかはバレると思っていたから。それに、勇麻くんは――あの人は、そういうのを許さない性質たちだから、きっといつかは自分一人でも真相に辿りついていたんだよ。それが少し早まっただけ」


 けっ、言葉だけの否定ならいくらでも出来ただろうに、馬鹿な女ですねぇー。とシャルトルはたいして興味も無さげにそう呟いた。 


「わたしのやっている事は間違いなく悪い事。だから、それを否定する事はできないよ。それより、アナタ達は見逃しちゃって良かったの? 目撃者だよ?」

「ああ、それなら問題はないですよ。安心してください。……まあ、こっちにも色々な事情があるってヤツです」

「?」

「まあ、そんなの何だっていいよ。アンタは『背神の騎士団(アンチゴッドナイト)』の敵として認識されてんだ。この意味が分かるよなぁ、おい。優等生さんよぉ」


 爛々と、まるで遊園地を訪れた子どものように目を輝かせるスカーレに、楓は溜め息を吐いた。

 これから戦闘だというのに、この表情。まず間違いなく流血大好き戦闘マニアの類だ。

 この種の人間は往々にして戦う事を一種の快楽としか捉えていないため、躊躇なく死地へ飛び込んでくることが多い。

 こちらの威嚇もたいして効かなければ、状況に応じて撤退などもしてくれない。

 楓としてはあまりヤリ合いたくないタイプの相手だ。

 相手が賢明な判断力を持ち合わせた武人である事を心から願うばかりだ。


「『背神の騎士団(アンチゴッドナイト)』が敵に回ったところでわたしのやる事は変わらない。わたしは、自分が正しいとは思わない。だけど、自分のこの選択にはきっと意味があったんだって信じてる。だから、立ち塞がるのなら、邪魔な障害物は薙ぎ払わせて貰う、よ」

「……へぇ、イイ覚悟だね。これはかなり楽しめそうだ」

「スカーレちゃん。仲良くお話しているところ悪いんだけど、そろそろ始めましょうか~」


 楓の背後、セルリアは場違いにも笑みを浮かべたまま続けた。


「一つの事件に、幕を下ろす為に。誰にも見咎められること無く、自分に都合の良い正義を語って、悪の限りを尽してきた愚か者に引導を渡すように」


 多対一。


 数の有利を最大限に利用した、戦術という名の数の暴力が一人の少女を襲う。



☆ ☆ ☆ ☆



 端的に言って、『背神の騎士団(アンチゴッドナイト)』に所属する彼女達の実力は凄まじい物だった。


 シャルトルの放った風の刀は、アスファルトさえも紙切れのように軽々と切り裂いた。

 スカーレの炎弾と、男勝りな徒手空拳のコンボは相対する敵に反撃を許さない。

 セルリアは水流を自由自在に操り、味方の傷さえも癒してしまう。

 セピアが大地を操り、彼女の力で無限に生成される石のつぶてが、まるで散弾銃の如く楓目掛けて息つく間もなく飛来する。


 互いが互いをサポートし合い、四人で一つの強大な戦力として見事に成り立っていた。

 数々の戦闘、修羅場を経て醸成されたであろうそのコンビネーションは、誰が見ても見事と賞賛するしかない物があり、まるで戦場で一際輝く一種の芸術品のようだ。


 シャルトルが戦場を駆けまわり、味方とすれ違うたびに掌でその身体に触れる。ただそれだけの行為で、触れられた全員のスピードが上昇する。

 スカーレの放った炎弾。その流れ弾を敢えてその身に受けた瞬間、彼女らから繰り出される攻撃の威力が上昇する。

 セピアに触れる事で彼女達の身体の強度が上昇し、セルリアは自らの操る水流を使って、楓の強烈な一撃を効果的にガードしている。


 一人一人が干渉レベル『Aマイナス』程度の力量を持ちながら、個々としてでは無く、一つのまとまった集団として天風楓に襲い掛かる。

 足し算では無く掛け算。

 一人一人でさえ十分な脅威なのに、その脅威が何倍にも膨れ上がる恐怖。

 いくら天風楓が強いとは言え、彼女たった一人でこの四人を相手に何ができるというのだろうか。

 

 この絶望的な強敵を前にして、天風楓は――


 ――戦場に一人、君臨していた。


 君臨。


 まさにその言葉に相応しい光景だった。


「く……そ。こんな、こんなの……ふざけてやがる! まともじゃねえよ、コイツ!」


 全力だった。

 その全力の、四人がかりの攻撃を全て軽くいなされていた。

 

(そもそも攻撃が当たらない! 全部軌道を先読みされて、効果的な攻撃を仕掛けられない。だからどんどんジリ貧になってしまうってトコですかねぇ。……まあ、私も一応同種の力を扱う者としてタネ自体は分かってはいます。おそらくは、自分から外方向に向う風を発生させ、障害物だとか空気の流れの異変だのを察知する風のレーダー。多分、コウモリとかの放つ超音波みたいに、風の通り方から障害物を逆算する方式。それで三六〇度全域をカバーしているって訳ですかぁ。最初にスカーレの蜃気楼が破られ私たちの居場所がバレたのも、おそらくはそれのせい!)


 だが、タネが分かったところでどうにもできない。

 攪乱の為にダミーの攻撃を設置したところで、彼女の強みはその風のレーダーだけでは無い。背中に接続された竜巻の翼、掠めただけで大穴穿つ風の弾丸、その身に纏っている風の衣。直接的な脅威となるのはこちらの方だ。

 そのうえ相手はまだ反撃らしい反撃すらしていない。

 こちらからの攻撃を躱しつつ、完璧に弾くだけ弾いて、それ以上の攻撃はしようとしない。

 シャルトルは焦る気持ちを押さえて、自分を鼓舞するように叫ぶ。


「スカーレ、口動かしてる余裕があるならまだ大丈夫です! それより、早く破壊の象徴たる『火』の力を私達に! 先ほどまでの強化の効果が切れかかってる!」

「ああ、クソ! テメェの『風』もさっさと寄越しやがれ!」


 スカーレとシャルトルは言い合いながら戦場を走り続ける。

 そうしていなければ、忍び寄る巨大な何かに追いつかれてしまいそうだったから。

 心臓を、握る潰されるような、そんな背筋を震わせるような悪寒。


 彼女達自身、『背神の騎士団(アンチゴッドナイト)』内でも上位の神の能力者(ゴッドスキラー)として、様々な強敵と戦ってきた。

 いくつもの戦場を駆け抜け、共に死線を掻い潜ってきた。

 四人ならば、自分たちより格上の相手だろうと負けない自信もあった。


 なのに、


 まるで歯が立たない。

 自分たちの攻撃が全くもって通用しない。大人が子供をあしらうように、こちらの全力の一手が天風楓の牽制のような一手で封じられてしまう。

 知らない。こんなのは知らない。

 背中に翼まで生やした目の前の敵は、圧倒的なまでの強さを誇っていて、シャルトルにとっては未知の領域のモンスターだった。


 強い。

 はっきり言って、今までの相手とは格が違いすぎる。


「くっ、セピア! セルリア姉ちゃん! 手段はもう問いません! 勢い余って殺しても構いません。とにかく奴の動きを止めてください! アタックは私とスカーレで!」

「……分かったわシャルトルちゃん!」

「な!」


 セルリアとセピアが言葉に応じ、セルリアの操る水の塊が天風楓目掛けて発射される。

 セルリアの力によって水龍の姿をかたどった水流弾ならぬ水龍弾は、うねり、楓の放つ牽制の風の弾丸を躱しながら楓に迫る。

 その圧倒的な物量と勢いで、全てを強引に押し流す水の暴力。

 可憐な少女がまともにその身に受ければ、骨折程度では済まないだろう。


 水龍はその美しくも巨大なあぎとを大きく広げて咆哮。水しぶきを辺り一面に撒き散らしながら、少女の華奢な身体を呑み込もうとする。

 

 が、


 少女の身体に纏うように展開した風のフィールド。

 それに水龍が衝突した途端。

 巨大な質量を持つ水塊が、巨人の手で引きちぎられるように粉微塵に爆裂四散した。

 四散した水は楓を避けるように飛び散り、地面を濡らす。

 天風楓を中心とした半径一メートル程度の円内は、まるで聖域であるかのように、水滴一つ飛んでいない。 

 楓は、指の一本すら動かさなかった。


 全力の攻撃を、あっさりと防がれたセルリア。

 だが、彼女の顔に張り付いた表情は相変わらず笑顔だった。


「セピアちゃん、今よ」

「……、ンなッ!」


 短く答えると共に、セピアは勢いよくその小さな掌を地面に押し当てる。

 変化があったのは、楓の足元。


「これは……」


 水に濡れた地面が独りでに盛り上がり、意志を持つ蛇のようにうねり、地面を這う。

 気が付くと、それは楓の足に絡みついていた。

 

「……泥? ――ッ!?」


 楓がそう疑問を発すると同時、がくん、と。凄まじい脱力感が楓の全身を襲った。

 まるで大きな穴が空いてしまったかのように、身体の力が一息に抜け出てしまう。

 疑問を感じるより前に、楓の全身を守っていた風のフィールドが力を失う。消滅する。

 彼女を特別たらしめていた力が、その原動力から止められている。

 力の流れを、『神の力(ゴッドスキル)』を発動する為の源を、強引に堰き止められたような感覚。


「キタッ!!」


 スカーレが目を輝かせ、シャルトルが楓の横に回り込む。

 シャルトルはその手に全てを切り裂く風の刃を、スカーレは両手に巨大な炎の投げ槍を、それぞれ構える。


「……『流れ』の象徴である『水』と、『静止』の象徴である『土』。その二つが合わさり『堰き止める』性質を得た泥がアナタの足に絡みついた。……さてさて、それには一体どんな意味があるか分かるかしら~?」


 独り言のように呟くセルリアの声は楓にはおろか、誰にも届いていない。

 だが、誰にも届かないその問いかけの答えは、目の前の少女の様子を見れば一発で分かるだろう。

 

「卑怯だとは言わないでね、天風楓さん。手段を選んでいる余裕もなかった、そのくらいアナタは強かったのだから。……これで終わりにしてしまいましょう」


 直後、爆発。


 衝撃波がセルリア達の身体を叩き、耳の痛くなるような轟音が爆発の規模を表していた。



「やりましたか?……って言うより、やりすぎましたかって感じですかねぇー?」


 つい先ほどまで天風楓という少女がいた場所からは、思わず咳き込みたくなるような禍々しい黒煙が立ち昇っている。

 ぱちぱちと火の粉が小さくはぜる音。大地が燃える音が聞えるだけで、辺りからはセミの鳴き声すら聞こえなくなっていた。

 

「おい、これってもしかして標的(やっ)ちまったんじゃねえのか?」

「スカーレってば加減を知らなさすぎなんですぅー。わたしはちゃんと加減して胴体じゃなくて腕を狙ったのに」

「腕切られたら切られたらで痛みと出血でショック死するだろうがァ! アホかお前は!」

「爆死とショック死ってどっちがまともな死因だと思いますぅ?」

「命題をすり替えるな!」

「ちなみにわたしはどっちも嫌です。あ、スカーレには爆死がお似合いだと思いますよぉー?」

「やかましいわ! だいたいシャルトル、お前はいっつも人のせいにして自分だけ何食わぬ顔で飄々と――」


 既に勝利を確信しているのか口ゲンカを始める二人。

 少し遠くの方では二人の様子にセピアがジト目で溜め息を吐いているのが分かった。ちなみにセルリアはこんな時なのにニコニコ笑顔を崩す事はない。

 優しく二人を見守る母親のような姉は、一度ケンカを始めた妹たちから目を放すと何の気なしに黒煙の方を一瞥した。

 その途端、セルリアの表情から笑顔が消失した。


「スカーレちゃん! シャルトルちゃん! まだ、終わって――」


 姉がそんな顔をして叫んでいる事の意味が、二人には分からなかった。

 ケンカを中断して、思わず顔を見合わせる二人。そんな二人の横顔を、不意に発生した突風が勢いよく撫ぜたのはその時だった。

 

 最初、風が吹いたという事実に、彼女達は特にこれといった感慨のような物は抱かなかった。

 別に風なんてものいつでも吹くものだし、めずらしくも何ともない。

 そこに何らかの特別性を求めようともしなかった。


 セルリアの表情を不審に思い、姉の視線の先を確かめてみようと振り返るまでは。

 

 勝利を確信していたスカーレとシャルトルの表情が死んだ。


 驚愕に目を見開き、震える瞳孔が彼女達の動揺の大きさを暗に示している。

 汗腺がおかしい事になっている。いくら夏とはいえ、尋常じゃない量のあぶら汗が彼女らの背中や頬を伝っていった。

 

「なんで……」


 立ち昇る黒煙の向こう側。

 不意に発生した突風によって薙ぎ払われたベールの向こう。

 

 そこに、傷一つない姿で天風楓は立っていた。

 背中に竜巻の羽を生やし、堂々と君臨するその様はまるで天使の具現化だ。

 人々が語り継ぎ、夢にまで見て想像した高尚な存在と、目の前の可憐な少女が重なった気がした。

 そう、今のシャルトル達には、目の前の少女が少女の形をした別の何かに見えていた。


「なんで……、こんなのおかしい! 躱す事はおろか迎撃する為の『神の力(ゴッドスキル)』だって使えなかったハズです! それがどうして、私達の攻撃の直撃を受けたアナタが、傷一つない状態でそこに立っている!?」


 セピアとセルリアの特性をうまく重ね合わせたあの攻撃は完璧だったハズだ。

 一切の行動を封じられた天風楓に、逆転の目はおろか、敗北を回避する術も無かった。

 それなのに、何故――


「――風よ」

「は?」


 楓はまるでシャルトルの思考を読んだかのようなタイミングで、そう口を開いた。

 天風楓は勝ち誇る事も無く、ただ淡々とタネを明かし始める。

 マジシャンがつまらない手品のタネをお客に向けて説明しはじめるように。


「風――ううん、わたしの周囲の大気を固めて、壁みたいにして使ったの。暴風も衝撃も炎熱も完璧に防いでくれたから」


 大気を固めて即席の盾を造った、と天風楓は語る。

 ただ、そんな事はありえないハズだ。

 本当にそんな芸当ができるかどうかはこの際大した問題ではない。

 問題なのは天風楓が『神の力(ゴッドスキル)を使ったという事の方だ。

 だって、セピアの『土』とセルリアの『水』の持つ『特性』を利用した一撃によって、天風楓はあらゆる行動を縛られていたのだから。


「ちょっと待て、さっきもシャルトルのヤツが言っているが、それじゃあ話が成り立たねえ。お前はセピアとセルリア姉の攻撃を受けて、一時的に行動不能な状態にまで追い込められていたハズだ。事実あの瞬間アンタが纏っていた風は消滅している。力を失っていた事は確実だ。そんな状態のアンタが『神の力(ゴッドスキル)』を使える訳がねえ」

「あー。言葉が足りなかった……かな。ええっと、わたしがやった事なんて大した事じゃないよ。アナタ達の放った攻撃の『特性』――ええっと、多分『四大元素』としての『水』とか『土』とかだと思うんだけど……――まあとにかく、それを逆手に取ってみただけだもの」  


(特性を……『四大元素』をベースとした物だと見抜かれていた? あの、短時間で?)


 たったあれだけの短時間の戦闘の中で、自分たちの『神の力(ゴッドスキル)』を分析されていたという事実に戦慄を覚えながら、しかしそれを逆手に取ると言っても、方法が思いつかない。

 例え法律の抜け穴のような穴があったとしても、それを逆手に取る為の一切の行動を楓は封じ込められていたのだ。


「……わかりません。……だって、仮に私たちの攻撃を利用する事ができるとしても、そんな時間はアナタにはなかったハズだ」

「わたし、これでも一応『風』とか『空気』とか『大気』なんかを操る『神の能力者(ゴッドスキラー)』だからさ、わたし自身とその周りの空気を“一つの括り”として対応させるぐらいの事は、そう難しい事じゃないんだよね。元々わたしは、『大気』っていう全体の大きな流れの一部に自分自身を組み込む方式を使ってるから、例え力を扱う為のスイッチが切れる寸前の二、三秒の間でも、できない事じゃないの」


 シャルトルの疑問に、あくまで淡々と天風楓は答えた。

 まるで大した事はやっていないと、そう言うかのように。


「まさか……天風楓自身を『風』に対応させ、セピア達の攻撃の効果が及ぶ範囲を自分の周囲の空間にまで広げた!? 周囲の空気に『堰き止める』という効果を強引に付与したって言うんですか!?」


 

 その結果起きた現象は明白だ。

 天風楓に対して『流れ』を『静止』させるという効果が発揮される以上、楓と一括りにされている楓周辺の空気も石のように固まり、強固な盾となってあの爆発と風の刃から楓の身を守ったのだ。


「うん。おかげでしばらく身動き一つどころか呼吸もできなかったけどね。でも、それでも生き残った」


 楓自身、この策は瞬時の思いつきでしかなかったのだろう。

 戦況から相手の力を分析する戦術眼と、とっさに機転を働かせることのできる頭の回転。そして純粋な実力。この全てが揃っている楓だからこそ成功したのだ。

 賭けには勝った。

 ならば次はこちらの番だと言わんばかりに、天風楓は一歩を踏み出す。


「今のがアナタ達の奥の手なら、もうやめた方がいいよ。あれじゃあわたしには勝てない。……わたしだってできれば手荒な真似はしたくないの。だから、できることなら降参してね」


 『最強の優等生』と謳われる少女が、牙を剥く。

 これまで、自分たちより格上と言われていた数多くの敵を屠ってきた彼女達に、正真正銘の怪物が襲い掛かる。


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