行間Ⅰ
その少年の人生は、お世辞にも幸せとは言えない物だった。
不幸。なんて言葉で締めくくろうとは思わないが、それでも、ごく普通の人々から見たら、彼の人生は不幸と呼ばざるを得ない物だった。
特に複雑な事情があった訳では無い。
事の始まり自体は酷く単純で、それこそ世界中どこでも起こりうるような事だった。
至って平凡で至って普通の幸せな家庭に生まれた少年とその妹は、至って普通では無かった。
ただ、それだけ。
それだけの現実が、全てを狂わせた。
少年が七歳の時、三歳年下の妹と共に『神の力』を宿している事が発覚し、施設に入れられた。
路上に捨てたり、虐待をしたりする親に比べれば全然マシな方だったが、それでも自分達を見る両親の目が、まるで化け物でも見るような恐怖を灯していた事を少年は忘れられなかった。
昨日までは優しかった両親の豹変ぶりに泣き続ける妹が、不憫で不憫で堪らなかった。
預け先の施設の職員も、どれも反応は似たような物だった。
口先では優しい言葉を掛けてきて、親身に接してくれているが、彼らの表情から滲み出す恐怖や嫌悪の色は、感情の変化に敏感な子供にとっては読み取りやすい物だったのだ。
まるで腫物を扱うような彼らの態度、恐れられているという事実に、少年は否応なしに自分の異常性を再確認させられるのだ。
正直かなりこたえた。
自分達は化け物なのだろうか。
生まれてはいけなかったのだろうか。
幼いながらにそんな事を考えたりもした。
けれど、少年が世界に絶望する訳にはいかない。
すぐ傍に温もりを感じる。
今も隣で不安げな顔をしている妹。
ちょっとした事で泣いてしまう。泣き虫な妹。
そうだ、僕がこの子を守るんだ。
そう決心した。
少年の生きる目的ができた。
自分を頼るこの小さな妹を、何としてもこの世界から守ってみせる。
上目遣いに潤んだ瞳でこちらを見上げてくる妹の小さな手を取って、少年は強く生きていく事を誓ったのだった。
施設の職員から、『天界の箱庭』への移動を伝えられたのは、そのすぐ後の事だった。




