第八話 背神の騎士団《アンチゴッドナイト》Ⅲ――提案
『背神の騎士団』。
天界の箱庭で暮らしている人間なら、誰しも一度は耳にしたことのある単語だ。
それは、この街の裏側で暗躍するとある秘密の組織を指す名であり、子供をしつけるのによく使われる常套句でもあって、たびたび都市伝説の主役を飾る組織の名でもある。
背神の騎士団に関するさまざまな都市伝説。真偽も分からないそれらの黒い噂は、まるで移ろい変わりゆく水の流れのように、次から次へと内容が変わっていく。
曰く、背神の騎士団の事を調べようとしていた『神狩り』の青年が行方不明になったらしいとか。
曰く、背神の騎士団は、外の世界の研究者連中と繋がりを持ち、『神の力』関連の情報や技術力を余所に流している産業スパイだとか。
曰く、背神の騎士団は、その構成員全員が非常に高い干渉レベルを誇る、高位の『神の能力者』の集団……と見せかけて、実はその実態は地球外生命体の体のいい隠れ蓑だとか。
曰く、背神の騎士団は、『天界の箱庭』の崩壊――すなわちクーデター――を企てているとか。
そんな黒い噂や危険な都市伝説の絶えることの無い、得体の知れない組織。
自分たちの存在をぼかす為に、意図的にばら撒かれた都市伝説は、そのほとんどがただのブラフだ。
重要な情報を埋もれさせるような数量勝負の策略。
ネット上に大量にダミーの情報を流して、検索を妨害するような物だ。
ヒットはするが、ヒットする数が多すぎてどれが正しい情報なのか分かった物じゃない。
だから、誰もが知っているけれど、誰も詳しい事は分からない。という図式が組み上がるのだ。
都市伝説。
それは人々が身勝手なままに思い描く日常のスパイスだ。
あるかどうか、その真偽も分からないけれど、もし本当だったら楽しいだろうな、くらいの感覚で語られるフィクション。
背神の騎士団は敢えてその噂の流れを加速させる事で、現実味を薄めてその存在を隠ぺいしている。
勇麻自身、背神の騎士団の存在の真偽について真面目に考えた事などなかった。
だから、もし今のこの状況を数か月前の自分に話したら、信じて貰えずに鼻で笑われていた事だろう。
現在進行形で勇麻達と向かい合うその二人が、そんな謎に包まれた組織の副団長を務めている人物達で、さらにそんな人達から『背神の騎士団』入団を進められる、なんて話。絶対に信じる訳がないのだから。
向かい合う人物の内の一人。男の方の名はテイラー=アルスタイン。
彼らのボスがどこかに出掛けていて不在らしい現段階では、隣に座っている赤髪の女性こと、妻のジルニア=アルスタインと共に、背神の騎士団の全権代理という立場にあるらしい。
……ちなみにジルニアさんは小難しい話や会議は苦手なのかテーブルの上に肘を突き、掌の上に頬を乗せてうたた寝しかけていた。これじゃあ確かに役割分担も必要になるなーと思う勇麻だった。
正直言って今もまだ、そんな人たちと会話を交わしているという事実をまともな現実として捉えきれていないくらいだ。
だから、
そんな男の口にした言葉に、勇麻は己の耳を疑わざるを得なかった。
「冗談……だよな?」
今耳にした言葉をそのまま呑み込むことができない。
だって、余りにも。ごくごく普通の高校生の常識からかけ離れすぎている。
それは普通のタクシーを呼んだハズが、いざ外に出ていたら黒塗りのリムジンが止まっているような物だ。
状況的にあり得ないし、現実味が無さすぎる。
そもそも発生してしまった予想外の事態への対応すら碌に分からない。
「わざわざこの場で冗談を言う訳がないだろう? こちらの意志は言葉のまま、君たち三人を背神の騎士団のメンバーに迎えたいという事だけだ。何もコレは俺の独断って訳では無いんだ。君たちの『黒騎士』戦での実績、その他さまざまな要素を踏まえたうえで我らのボスの、そして背神の騎士団全体としての決定だね」
決定だ、なんて言われたところで、はいそうですか。と二つ返事を返す訳にもいかない。
かといってこの場でなんと答えるべきか、勇麻にはベストの回答が分からない。
相手はこの街の裏側で暗躍する巨大な組織だ。前回の黒騎士戦の影響もあって今は比較的友好的な関係を築いているが、もしその関係にヒビが入るような事になれば後々厄介なのは間違いない。
なんと言っても、勇麻たちはすでに『創世会』直属の部隊である、『汚れた禿鷲』の戦闘員を三人も撃退しているのだ。
『創世会』と『背神の騎士団』の板挟みなどになったら、それこそこの街で生きて行くことは不可能だ。
勇麻は困ったような顔で泉の方に目をやった。
しかし泉は固く口を引き結んだままだ。勇麻と目が合っても何も言おうとしない。
どうやら泉はこの件に関する判断を全て勇麻に任せる気のようだ。
信頼されている、という事なのだろうか? 泉の場合、単に面倒くさがってる可能性も否定できないのだが。
そんな風に、明らかに困惑している勇麻にテイラーの側から助け舟が出された。
「とは言え、別にこれは強制している訳じゃないんだ。いきなりこんな事を言われたら困惑するのは当然だしね。だから悩んで悩んでじっくり考えて欲しい。返事は別に後日でも構わないのだしね。……なに、そう遠くない将来、嫌でも迅速な決断を迫られる時がきっと来る。悩みたくても悩めないってのは案外辛い物だぞ。だからこそ、悩める時にはしっかりと悩んでみる物なんだよ、若人よ」
ただ、とテイラーは付け加えるように言って。
「これは君たちにとっても悪くない提案だ、という事だけは俺の口から言わせてもらうけどね」
「悪く無い提案……っていうのは、具体的にはどういう意味だ? それは南雲龍也の情報の事を指して言ってるのか?」
「まあ、……そうだね」
南雲龍也。
勇麻にとって、そして泉や勇火にとってもそれなりに重要な意味を持つ単語。
前回の件もあり、勇麻も南雲龍也との過去を見つめなおす必要があるとは思っていた。
黒騎士の正体についても、まだ完全に疑いが晴れた訳ではない。
それに、南雲龍也の死についても勇麻は知る必要があるだろう。
それは、あの時、あの場所にいた人間として当然の義務なのかもしれない。
過去と決別し、東条勇麻が本当の意味で前に進む為にも、南雲龍也という人物に向き合うのは避けては通れない道なのだ。
(でも、本当にそれだけなんだろうか。確かに俺は龍也にぃの事を、もっとよく知りたいとは思ってる。でも、俺のコレは多分それだけじゃない)
過去の亡霊との決別、それ以外の何かを求めている自分がどこかにいる事を勇麻は感じていた。
きっとこれはもっと単純な何かだ。
勇麻は彼の事をよく知っているようで、その実殆ど何も知らないという事にようやく気がついたのかも知れない。
今まではただただ憧れるだけだった存在を、近いようで遠かったその背中を、東条勇麻はきっと知りたいのだ。
彼がどんな理由があって拳を握っていたのかを、そこにどんな想いがあったのかを。
(そんな個人的な事情で、イエスなんて返事をする訳にはいかない。てか、本当に俺でいいのか? そもそも、黒騎士との戦いだって、俺は足を引っ張っていただけだ。俺にこんな大事な決断をする資格なんて……あーっもう! 泉のヤツは何でこんな大事な事を俺に任せやがったんだよ!)
頭を掻き毟りたい衝動に駆られながら、勇麻は恨めしげな視線を泉に向けた。
だが泉は知らん顔だ。指遊びをしている訳ではないので、興味がないという訳ではないのだろうが、勇麻からしてみれば五十歩百歩だ。
意見すら言わないのでは何の役にも立ちはしない。
そこらに置いてある狸の信楽焼と同じだ。
「でも、それだけじゃない」
思考が脇道に逸れかけていた勇麻を現実に引き戻したのはテイラーの声だった。
「東条勇麻君。君は、……いや君達は、自分達が今とてつもなく危うい立場にいるという事をきちんと理解できているのかい?」
「危険な立場、ですか。それは要するに背神の騎士団の存在を知ってしまったとかそういう事ですか?」
勇火のその回答にテイラーは唸りながら、
「……まあそれもなくは無いけど、実際の驚異度としてはそこまで高くはないね。おじさん達は君達に感謝こそすれ敵対心は抱いてないからね。まぁ、君達が我々の敵に回るなら話は別なんだが……。そういうつもりも無いように見えるしね」
「……チッ、『創世会』、か」
「御名答。その通りだ、泉君」
ボソリと呟くというより、独り言みたいな感じで泉の口から零れ出たその言葉をテイラーが耳ざとく拾った。
「君たちは『創世会』に――それもかなり上層部にケンカを売ったんだ。つまりこの街を――天界の箱庭をそっくりそのまま敵に回したって事だ。ここまで大丈夫かい?」
テイラーは一同が頷くのをしっかりと確かめてから話を続ける。
「『創世会』の連中からしたら君たちは、重要な計画の邪魔をした目の上のたんこぶなんだよ。規模に差こそあれ、背神の騎士団と同等の括りとして見られているハズだ。そして『創世会』側からしたら都合がいい事に、君達はどこかの組織や集団に所属している訳じゃない。後ろ盾も巨大な組織としての力も、繋がりもネットワークも何も持ち合わせていないのだからね、これほど消しやすい相手もなかなかいない」
「つまり、『創世会』側からしたら俺達はかっこうの標的って訳か」
「そういう事だ。実際、『創世会』は既にいくつかの『小さな組織』に君たちを消すよう依頼を出してるらしいしね」
「それって、もうヤバいじゃないですか!?」
ガタッと椅子を揺らしながら、慌てたように勇火は身を前に乗り出した。
とは言え勇火のそのリアクションも当然と言えば当然だ。
自分たちが暮らしている街自体から命を狙われたのだ。それはつまり、この街のどこにも勇麻達が安心して生活できる場所が無くなったことを意味しているのだから。
自分たちの家にいようが学校にいようが、危険度はさして変わらない。勇麻達は今後、安心して眠る事すらできないのだ。
だってそれは戦場でうたた寝するような行為と同じなのだから。
「まあまあ落ち着いてくれ。今はまだそう慌てる事でもないさ」
「あ? なんでだよ。もうその手の依頼が出されてんなら、慌てるのが遅いくらいなんじゃねぇのか?」
そう尋ねたのは泉だ。発言とは裏腹に特に慌てている様子は見受けられず、若干苛立ったような顔からは、『創世会』からの刺客が差し向けられる可能性を特に考慮していなかった自分に対する怒りのような物が感じられた。
「まあ、ね。本来ならば『遅い』を通り越して既に『手遅れ』と評するべきだしね」
「……本来なら? それはつまり何か連中にとって都合の悪い事が起きたって事か? もしそれがなければ、俺達は今頃そろってこの街に始末されていたと?」
「ああ、そうだ。『創世会』の連中も、まさか自分たちの出した『依頼』を、件のいくつかの『小さな組織』全てに蹴られるとは思っていなかったんだろうね」
「蹴られた……拒否したんですか? でも、俺達は強力な後ろ盾となるような組織に所属してる訳じゃないんだ。言ってみれば防御力ゼロの丸裸みたいな物なんですよね? こんなにも丸腰の標的が突っ立ってるのに『創世会』からの依頼を受けない理由が分からないんですけど」
「確かに勇火君の言うとおり、君たちほど消しやすい相手に対して『小さな組織』が踏み込むのを躊躇する理由なんて何も無い。いくら小さいとは言っても、この街の裏側で今も暗躍を続けるプロの集団だ。君たち三人くらい、その気になれば一日で片づけられるだろう」
そうしない理由は単純だ、とテイラーは言う。
「君たちの背後に、我々『背神の騎士団』の影がチラつくからだよ」
おそらくだが、依頼を受けた『小さな組織』の連中は標的である勇麻たちの事を調べる過程で、勇麻達が『背神の騎士団』と何らかの関わりを持っている可能性がある事に辿り着いたのだろう。
『創世会』からの依頼が来るような相手だ。ある程度素性を調べるのは当然だろうし、彼ら自身も、特に目立った実績や犯罪歴も何も無い正真正銘の『ただの一般人』を消してくれ、というその不自然な依頼に何らかの違和感や疑問を感じたのだろう。
そして調べていく上で浮上したのが『黒騎士』戦の事だったとしたら?
『背神の騎士団』と共に、『創世会』直属の部隊である『汚れた禿鷲』の戦闘員を撃退しているという情報を入手していたとしたら?
「確かな確信なんて必要じゃない。『背神の騎士団』と関わりがあるかもしれないと言う可能性があれば、それだけで彼らは手を出せなくなってしまう。逆に言えば、特に関わりがないと分かれば容赦はしないだろうけどね」
『背神の騎士団』に手を出せば根元から根絶させられる。
その認識が、裏社会を生きる力の弱い『小さな組織』には根付いているのだ。
「『背神の騎士団』には手を出せない。これは裏社会を生きる無数の『小さな組織』にとっては暗黙の了解だからね。いかに『創世会』からの依頼だろうと彼らは引き受けないだろう」
まあ中には無謀にもケンカを吹っかけてくる連中もいるんだけどね、とテイラーは苦笑混じりに語る。
その表情だけで、無謀にもケンカを売ってしまった組織の末路が目に浮かぶようだった。
勇麻はテイラーの言葉を少し吟味するように間を開けてから、
「アンタが俺らにとって悪く無い提案だって言っていた意味はだいたい分かった。要するに、『背神の騎士団』に加わる事で、常日頃から背中を刺されないようビクビクしてる必要がなくなるって話だろ?」
勇麻の言葉に泉は馬鹿にしたように鼻を鳴らして、
「……ハッ、まるで虎の威を借る狐だな」
「泉センパイ、茶々を入れないでください」
勇火の注意にも泉は肩を竦めるだけだ。
テイラーは泉の軽口を聞き流すと、
「まあそういう事だ。君たちの安全を考えれば悪い提案ではないだろう?」
「でもそれだけなら、勘違いとはいえ今も『背神の騎士団』のネームバリューは効いているみたいだけど?」
「それは今だけだよ。いずれ近いうちにバレる程度の物でしかない。君たちが我々と何の関係も持たない事がバレてしまえば、無数にある『小さな組織』だって遠慮はしないさ」
「関係がないって言うけど、アリシアは? アイツが俺たちの監視任務に就いている以上、『背神の騎士団』と無関係とは言えなくないか?」
「……彼女はその存在自体が機密事項みたいな物だ。『小さな組織』程度じゃその事実まで辿り着けないよ。それにもし仮に今『創世会』が直接動くような事があれば、それこそ終わりだ。『可能性がある』程度じゃ奴らは仕掛けてくる。そもそもだ、今はまだ互いに全面戦争を避けているから均衡を保っているように見えるが、連中がその気になりさえすれば、『背神の騎士団』所属だろうが何だろうが関係なしに自らの障害となる者を駆逐しにかかるだろうしね」
テイラーのその言葉に、泉は馬鹿にしたような口調で割って入る。
「おいおい、テイラーさんよぉ。それってつまり『創世会』がその気になったら『背神の騎士団』に入っていようがいまいが関係無いって事じゃねえかよ。それならこの提案、俺ら側のメリットがほとんど無意味な物になるんじゃねえの?」
「いや、そんな事はないさ」
しかしテイラーは表情を崩す事なく、まるであらかじめその問いかけが来るのを分かっていたかのような態度で泉に答えを返す。
この辺りの彼の冷静な態度を見ていると、テイラー=アルタリアが『背神の騎士団』の副団長を任されているという事実を実感させられる。
端的に言うと場馴れしているのだ。
「君たちが正式に我々の仲間になってくれれば、誰に文句を言われる事も無く、堂々と君たちを助けに入る事ができる。それにさっきも言ったが、今は互いに全面戦争は避けて様子見をしている段階だ。どちらかが覚悟を決めるまでの安全度はかなり違うと思うよ。……勿論。入らなくてもアリシアちゃんがお世話になっている関係上、有事の際には救援を向かわせるけど、『背神の騎士団』」内部から、『メンバーでもない人間をそう特別扱いするのはおかしい』みたいな意見が出かねないからね。それに、もし君たちが襲撃に遭った際『仲間を襲った事への報復』という、『創世会』へ攻撃を仕掛ける大義名分もできるという訳だ」
勇麻はテイラーの説明を聞いて、唸りを上げるようにしてその内容に感嘆した。
なるほど、確かにこれは素晴らしい案かもしれない。
今現在『創世会』と敵対してしまっている勇麻達にとってこの提案は、まさに渡りに船と言えるだろう。
毎日怯えるように過ごす必要も無ければ、堂々と街を歩くこともできる。
それこそ都合のいい提案で、うますぎる話だ。
「……なるほど。確かにアンタの言う通りだ。この話は俺らにとって悪い提案じゃない。むしろ都合が良すぎて怖いくらいだ。だからちょっと聞いてもいいか? ……この提案でアンタ達が得られるメリットは一体何なんだ?」
そう。この提案にはおかしな点が一つある。
客観的に見て勇麻達の得られるメリットに対して『背神の騎士団』側が得られるメリットが少なすぎるのだ。
もし仮に勇麻達を純粋に戦力として期待しているならそれは大きな間違いだ。
まず東条勇麻は問題外。
泉修斗はまだ可能性があるかもしれない。弟の勇火もここから先の成長によっては戦力になるかも知れない。
でも逆に言えば勇麻達の実力などその程度でしかないのだ。
『黒騎士』を退ける事ができたのは偶然に偶然が重なったからであって、あの勝利自体が奇跡のような物だったし、その辺りはレインハート辺りから報告を受けているハズだ。
足手まといを組織に引き入れるような物なのに、どうしてここまでの高待遇が待っている?
『背神の騎士団』が、噂に聞くような極悪非道の悪党集団では無いという事は知っている。
たった一人の女の子を絶望的な暗闇から救う為に動くことのできる連中がいる組織だという事も知っている。
けれど、完全に信用できるかと問われて、迷わず首を縦に振れるという訳でも無い。
得体の知れない組織である事は間違いないし、『創世会』と敵対している事は分かっていても、彼らの真の目的が一体何なのか、勇麻は知らないし推測する事もできない。
だからこの提案に隠されているであろう裏の意図を知りたい。
『背神の騎士団』という組織を信用してもいいのかどうか、その判断材料が欲しい。
勇麻の言葉にテイラーは少し困ったような顔をした。
やはり何か都合が悪い事でもあるのだろうか、テイラーは固く口を閉ざしたまま、顎に蓄えた無精ひげを指先で弄りながら勇麻の目を真っ直ぐに見据える。
ジッと見つめられ、変な汗が背中を伝うのを感じながらも勇麻は視線だけは逸らさない。
やがてテイラーは息を吐くと、
「……本当に申し訳ないんだけど詳細を伝える事はできない。立場上、俺から説明できる事では無いんだ。俺から言えるのはただ一つ。『背神の騎士団』が君たちを欲しているという事実だけだよ」
「それは戦力の事を言ってるのか? 一応言っておくけど、俺達三人合わせてもきっとカルヴァート姉弟の方が強いぞ?」
あ? あんな奴ら俺一人で倒せるだろ。とかいう声が聞えた気がしたが、きっと空耳なのでスルー。
「カルヴァート姉弟といい勝負をしている時点で、実力は十分だと思うけど?」
とぼけたようにテイラーはそう言った。
その仕草だけで、まともに答える気がないのがハッキリと分かってしまった。
その場で頭を切り替えて、質問を変える。
「……分かった。ならアンタ達は『創世会』に楯突いてまで一体何をしようとしている? アンタらの目的は何なんだ?」
「詳細を教える訳にはいかないな。けどまあ、君が想像している物とそう大差は無いと思うけどね。簡単に言うと我々は『創世会』の暴走を止める正義の味方だと思ってくれればそれでいいよ。具体的に何をやるのかが知りたいなら正式に『背神の騎士団』に入ってから、という所かな」
「……なら南雲龍也に関する情報っていうのは? その話だけでも今詳しく聞かせて貰えたりしないか?」
「それならいいよ……と言いたい所なんだけど、残念ながら南雲龍也の情報を持っているのは団長だけでね。俺からは教えようが無いってのが現状かな」
つまりは、何も教えられないという事だった。
得られる情報が何も無い以上、信頼していいのかどうかを決める判断材料を得る事ができない。
テイラーは壁に掛けられたら時計をチラリと横目で確認して、
「さて、そろそろ時間も押してきたな。東条勇麻君、今すぐに結論を出す必要はないが……どうする?」
勇麻は自分に周囲の視線が集まっているのを感じていた。
泉も勇火も、そしてテイラーも。ついさっきまで眠りこけてたジルニアでさえもその視線を勇麻に向けている。
どうするのが正解なのか何も分からないまま、それでも何か答えなければ――
「――俺は……」




