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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
最終章 承/弐 人世ノ業、詠イ奏デルハ『厄災遊戯』――醜ク愚カナ『人間』ノ物語ヲ貴方ニ
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第四十五話 一月三日 記録Ⅱ――女王以前/出会いは物語の幕開けを告げて

 わたしは『灰かぶり』。


 ガラスの靴も魔法の馬車も欲しくない。


 魔法のお姫様(シンデレラ)になんてなりたくなかった、臆病者の『灰かぶり』。













☆ ☆ ☆ ☆



 ――壊れ狂っているが故にもう随分と当たり前の恐怖を感じていなかった事に今更気付いた。

 


 だから、自分の上に男が馬乗りになって、害意も露わに襲われそうになっているという本来有り得ないこの状況が、『特異体』と対峙した時や『七つの厄災』に敗北した際のソレとも異なる、もっと普通の人間の少女らしい原始的な恐怖を思い出させたのかもしれない。 


 襲われる寸前、無意識のうちに抱きしめていたくまのぬいぐるみ。

 

 ……確か、ずっと前に人から貰って、ずっと前に失くしてしまった事すら忘れていた、その程度の物。

 だけどゲオルギー=ジトニコフから逃げる途中、道端に落ちていたソレを見て、気付けば拾い腕に抱きかかえていたくたびれたぬいぐるみ。彼女が収集すべき五つのアイテムの一つ。


 エリザベス=オルブライトが無意識のうちに心の底から欲した物の一つに数えられるソレが何であったか、もう随分と見ていなかった自らから流れる血の赤が、過去の記憶を喚起して――



☆ ☆ ☆ ☆



 ――退屈な日々に突如として異物が紛れ込んだのは、夏の暑い日の事だった。


「ねえ、あなたでしょう? つかまった『しんにゅうしゃ』って」


 とは言っても、彼女が日々を過ごす施設の中は一年中空調によって最適な温度に保たれている。

 外の様子を眺める事が出来る窓もなければ、外出する機会だってない。配膳される食事も一年中代わり映えがなく、季節ごとの旬の食材が出てくるわけもない。

 従ってこの施設における季節など羅列された数字が示す暦以上の価値はなく、季節感などあってないようなものだった。


 それでも今日の日付のような日を夏の暑い日であると認識できるのは、彼女が此処に連れてこられる前の記憶を参照しているからに過ぎない。


 ともかく。そんな暑い夏の日に混じった異物が、少女の意識を引いたのであって。何となく退屈で憂鬱だったこともあり、気づけば先のような質問を眼前の牢の中の異物にぶつけていた。

 

「さあ、どうでしょうね」


 返ってきたのは少女をからかうような声色。

 その異物は女の人だった。

 一目見ておかしな人だと思うくらいには変わっていて、きれいな金色の髪の毛をアイスクリームみたいにくるくるとまいて作った房が二つ、びよよんとバネみたいに肩を流れて垂れ下がっている奇抜な髪型をしている。

 どこに居たって悪目立ちする髪型に見劣りしない程に派手な真っ赤な服と動きやすそうな黒い短パンというアグレッシブな衣装は、やはりお世辞にも髪型とマッチしているとは言い難い。

 そのハチャメチャな印象を一言で表すとしたら……お転婆お嬢様、だろうか。


「もしかしたら、新しく雇われた家政婦のお姉さん……という可能性もあるもしれないとは思わないかしら?」

「ううん、思わないわ」

「あら。では、お嬢さんはどうしてそう思ったの?」

「だって、お姉さん見かけない顔だし、三日も前からずっと監禁房おしおき部屋にいれられてるわ。掃除もお料理もロボットのお仕事だし、ここにいる大人はみんな研究の人だから、監禁房に入れられてるお姉さんはここの大人じゃないんでしょ?」


 ……それに、家政婦さんは両手を縛られた状態でボールペンを口に咥え字を書きながら器用に喋ったりしないと思う。そんな感想を少女はもごもごと口の中で呟いた。

 

「まあ、凄いですわね。一発でわたくしの正体を見抜くなんて……」

「ううん。わたし、あなたの正体は知らないわ」

「いえ、いいえ。皆まで言わずとも結構ですわ。お嬢さん、アナタはいい目を持っているわ。この未久島みくしまミクが保証いたします。――アナタもわたくしと同じ、真実を追い求めるジャーナリストの瞳を持つ者であると……! つまりは志を同じくすると書いて同志! という訳で……その。あのぉ、牢の鍵、持って来て頂けたりしないかしら……?」 

「知らない人の言う事は聞いちゃダメって大人が言ってたから。それに、勝手な事して怒られたくないし」

「そ、そうですわよね……流石に無理よねぇ。……はぁ」


 その人は監禁房に閉じ込められているというのに、やけに元気だった。無駄に明るいと言ってもいい。

 荷物は没収されているだろうにどこに隠し持っていたのか、冷たい床の上で開いた手帳に必死でボールペンを走らせる姿は――口でボールペンをくわえるのはやはりどうかと思うが――何だかとっても活き活きとしていて良いなと思った訳で。彼女のそういう部分に、少女は目を引かれていた。

 なのでいつもの神の力(ゴッドスキル)訓練の後、自室に戻るまでの自分の周囲に大人がいない瞬間を見計らって声を掛けてみたのだが……。


「それで、お姉さんはその……じゃー、なりすと? なんだ」

「ええ、その通りですわ」

「変わった人のことを、そう呼ぶの?」

「ぐはっ!? あながち本質を見抜いている気がしなくもなくて否定できませんわ!?」


 ……まさか、ここまで変な人だとは思わなかった。


 それがエリザベス=オルブライトと未久島未来みくしまみくとの出会いだった。 




 その日も神の力(ゴッドスキル)の制御訓練の帰りに、エリザベスは監禁房へと向かった。

 結局昨日は『じゃーなりすと』とやらが変わった人を指す言葉だという事しか分からなかった。しかも、あまり長居すると大人に見つかる危険があった為、話の途中でばいばいをしてその場を切り上げたので、お姉さんが何者なのかはよく分からずじまいだったのだ。

 なので今日こそはお姉さんの正体と目的を聞き出してやろうという魂胆だった。


 そんな好奇心と期待に突き動かされ、人気のない廊下をしばらく歩いて目的の場所へ辿り着く。

 寿命が来ているのか明滅する頼りない明かりをともす蛍光灯が唯一の光源であるその場所は、昼か夜か曖昧なうす暗さでエリザベスを出迎えた。

 子供も大人も寄り付かないお仕置き部屋。

 前面を鋼鉄の柵で閉ざされた監禁房の中では、今日も赤い服の女の人が口に咥えたボールペンを器用に手帳へ走らせている姿が見える。


「ねえお姉さん」

「あら、ミクお姉様と呼んでもいいのよ?」


 話しかけてみると気持ちのいい笑顔でそんな事を言われたので、エリザベスは少し考えるように宙の一点を見つめてから、


「ねえミク」

「あ、あら。意外と手ごわい……」

「ねえ、じゃーなりすとって何する人なの? 何でミクは捕まっちゃったの?」

「あら、お嬢さんはお姉さんに興味が出てしまったの? そうよね、そうに決まってますわよね!?」


 ひきつったような強張った笑顔から一転、自分に興味が向けられていると分かるや否やミクは上機嫌な様子でまくし立てる。

 昨日の時点で何となくわかっていたがお喋りが好きな性分らしい。


 ……それにしても口にボールペンを咥えたまま普通に喋れるというのは一体どういう仕組みなのだろうか。それが『じゃーなりすと』の特技であると言われたら一発で納得してしまいそうだった。


「……ふふっ、まったく、どうしても知りたいだなんて仕方がないですわね。そこまで言うなら仕方がないから教えて差し上げ――」

「あ、わたしの事はエリーかエリザって呼んでね。わたしはエリザベス=オルブライトって名前だけど、ファミリーネームはあまり好きじゃないから、ミクもそっちで呼んじゃダメだからね」

「……わ、わたくしの提案した呼び方は全力で無視しておいてこの注文の多さ……なんて図々しいの子なのかしら。ますます気に入ったわ」

 

 放っておくて面倒臭そうだったので、途中で適度に割り込みをかけてみた。

 すると何かに納得したように一人うんうんと頷くミク。よく分からないけど、どうやらミクに気に入られたみたいだ。

 

 それはそれでまあいいとして、しかしのんびりと会話を楽しんでいる余裕はエリザベスにはない。早くしなければ大人の見回りが来てしまう。

 こっちだって暇ではないのだから、あまりミクの遊びに付き合ってあげる余裕はないのだ。

 なので、触れたら脱線しそうな話題に関しては今後はだんまりを貫き通す事にする。


 すると、目は口ほどに物を言うというべきか、自分を見つめる視線から言いたい事を察したらしいミクは口に咥えたボールペンを上着の胸ポケットに慎重に落とすと咳払いを一つして、


「……えほん。いいかしら、エリザ。ジャーナリストというのはね、真実を伝える者なの」

「真実を伝える……?」

「そう、事件や事故。人々の目から隠そうとされている真実を追及し、正確な情報を皆に届ける。それがわたくしたちジャーナリストの仕事。そしてわたくしはジャーナリストとして、神の能力者(ゴッドスキラー)に関する取材を進めているのです……!」

「……神の能力者(ゴッドスキラー)について。じゃあ、ミクはやっぱり神の能力者(ゴッドスキラー)じゃないんだ」


 納得と安堵が入り混じるような声音で呟いてホッと息を吐くエリザベスの反応に、ミクは一瞬きょとんとしてから、相手を安心させるような柔らかい微笑を浮かべて、


「ええ、わたくしは何の力も持っていない外部の人間ですわよ。手から炎でも出せればこんな拘束も引き千切れるのだけど……ほら、この通り」

「……ふぅん。だから安心するのかな、ミクの近くは」

「エリザ?」


 ぽつりと口の中で転がすように小さく、本当に何気なくそう呟いてから、怪訝そうに尋ね返すミクにエリザベスは首を振った。


「ううん、なんでもないわ。それより、ミクはどうして捕まっちゃったの? 真実を伝えるお仕事をしてるんでしょ? もしかして、嘘ついちゃったとか?」


 つまらない話はしてても楽しくないし、聞いている方だって退屈に決まっている。

 だから、今はミクの話を聞いていたかったのだ。

 



 未久島未来はエリザベスからの問いに問いを返すような真似はしなかった。


 口の中で転がすように囁かれた言葉の意味が気にならなかったと言えば嘘になる。

 だが、これでも自分はれっきとした大人で、ジャーナリストの端くれだ。

 真実を追求し伝えるのが仕事とはいえ、幼い少女が胸の内に隠そうとしているモノを強引に掘り返して悦に浸る程外道でも無粋でもない。


 それに、こういうのは向こうからこちらに自ら話してくれるような関係性を築いてこそだと未来は思うのだ。例えその甘ったれた考え方がジャーナリストとして失格だとしても、未来は自分の正義に従って生きていたかった。

 だから、尋ねられた事柄について正直に答える事にする。

 

「どうして捕まったのか、ですか。ええ、嘘……も確かにつきましたわね。けれど、どちらかと言うと許可を取らずに勝手に施設に忍び込んだのが見つかってこの様ですから、不法侵入が一番大きな原因だと思いますわ」

「ふほうしんにゅう。あ、わたしそれ知ってる。泥棒がやるヤツだよね。…………ハッ、もしかしてミクって泥棒……?」


 バッと俊敏な動作で監禁房から距離を取り身構えるエリザベス。

 警戒の視線を向けてくる少女に、未来は思わず吹き出して、


「違いますわ、ジャーナリストだと言ったでしょう? わたくしは取材がしたかっただけで、物を盗る気なんて微塵もないですわ。……まあ、隠された真相は欲しいですけど」

「隠されたしんそう? ……それって、ひみつってこと?」

「ええ、まあ。そういう事になりますわね」

「ふぅん。ここのひみつを知りたくてミクはふほうしんにゅうしちゃったんだ。でも、いくらじゃーなりすとでもルールを破っちゃダメだよ。捕まるのもジゴウジトクね」

「うっ、ド正論すぎて返す言葉もありませんわね……」


 一回り近く年の離れた少女に痛い所を突かれ、未来が言葉に詰まる。

 それを好機と見たのか、期待を隠しきれずあからさまに前のめりになったエリザベスが、今日一番のテンションで畳み掛けるように尋ねてくる。


「じゃあ悪いことしたミクはずっと捕まったまま? ずっとここにいる!?」

「そ、そこで期待に目を輝かせられても困るのですけれど。まあ、色々と交渉は進めていますので、早ければ一週間、遅くとも一か月以内には解放されると思いますわ」

「……ふぅん、そうなんだ」


 苦笑と共にやんわりその期待を否定すると、明らかにエリザベスの顔色が曇った。

 彼女自身意識しているかは定かではないが、ぷくっと頬が膨らみ唇もその不満を表すようにぶすっと尖っている。

 どうやら、あまり早くに未来が解放されてはつまらないらしい。


 まだ出会って二日だというのに随分と懐かれたものだ――などと思い上がるつもりもないが、自分が彼女にとっていい話し相手である事まで疑うつもりもなかった。

 まだ年端のいかない少女の表裏のない反応は、それ自体が端的な事実を表している。おそらく、彼女には自分以外にまともに会話が出来る相手がいないのだろう。

 その事実自体は忌むべきものだが、自分との会話が彼女の心に少しでもいい影響を与える事が出来ているのなら、それは素直に嬉しかった。


 ……だからという訳でもなかったが、未来はこほんと咳払いを一つしてわざとらしく肩を竦めると、


「……とは言え、施設の方々も何やら忙しそうで、交渉も一向に進まないのですわよね。この調子では時間たっぷり一か月掛りそうで辟易していますわ」

「ふぅん、そうなんだ」


 興味がないのを装った素っ気ない口調に滲む嬉々とした感情に、未来は思わず微笑を浮かべる。

 その姿は相手に対してなかなか素直になれない愛らしい少女のソレにしか見えなかった。


 人々が畏れをもって囁いている〝超常を自儘に操る人外の怪物〟という想像上の神の能力者(ゴッドスキラー)とは、一体どんな根拠を持って形作られた噂なのだろうと未来は真剣に悩んでしまう。


 ……そうだ。この愛らしい少女たちの真実を多くの人に伝える事が出来たなら――



 ――未久島未来は『人権派』として活動をしているフリーのジャーナリストだ。


 幼い頃、好きだった幼馴染の少年が神の力(ゴッドスキル)を発現し、まるで悪事を働いたかの如く周囲から苛烈に責め立てられた挙句、逃げるようにして天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)に引っ越してしまい離れ離れになってしまった経験から、ずっと神の能力者(ゴッドスキラー)に対する差別を疑問に思ってきた。

 差別問題そのものを何とかしたいと強く思うようになったのは大学生になってからだが、きっかけが過去の体験にある事は間違いないだろうと思う。

 幼い少女にとって、親しい人間が周囲から忽然と居なくなってしまう事はあまりに大きな事件だったのだ。


 人間と同じ人を愛する心を持っている彼ら彼女らが『化け物』とされ差別されている現状を変える為には、やはり彼女たちが自分達と同じ人間であるという事実を伝え広めなければならない。未来は、実験都市を訪れる度にそんな自身の初心を何度も再確認している。

 三大都市対抗戦などの影響もあり、特異な神の力(のうりょく)ばかりが取り沙汰され、神の能力者(ゴッドスキラー)の人間性や内面に関しては都合よく目を逸らそうとし取り上げようとしないメディアの態勢を変える事は難しい。そんな現実も、分かっているつもりだ。


 だからこそ、未来のような組織に属さない人間が外側から変えていくしかないのだから。


 ……とは言え、弱冠二十五歳でフリーを名乗っている事から分かるように、未来は新聞社や報道機関に属した事はない。

 何か特別な実績がある訳でもなく、半ば以上は自称の勢いだけが取り柄の世間知らずの小娘。それが未久島未来なのだ。

 なにせ大学在学中は四年生になっても碌に就活もせずに神の能力者(ゴッドスキラー)の人権問題に関して学び、卒業と同時にお小遣いと称して親のお金を勝手に持ちだし実家を飛び出した親不孝者のじゃじゃ馬――というのが未来の自己評価でもある。


 それでも行動力だけは確かなもので既に三大都市と呼ばれる三つの実験都市を何度か訪問し、二、三度ほどネットニュースに載せた記事が大きな話題になった事もある。……と言っても、記事を載せてくれたサイトは炎上商法まがいの際どい記事ばかり載せる事で有名な中堅どころだったので、あまり胸を張れる訳でもないのだが。


 自身の書いた記事で世界を変える――なんて事は、流石に難しいのかも知れないけれど、それでもコツコツと地道に活動を続け、真実を訴える記事を書き続ければ分かってくれる人も少しずつ増えるはず……というのが未来の持論であり信念だった。


 今回の訪問の目的は神の能力者(ゴッドスキラー)が危険な存在ではない事を世間に伝える記事を書く事。そして、実験都市における一部施設に関する黒い噂の審議を確かめる事。

 ブラッドフォード=アルバーンの統治により干渉レベルを基準とするのではなく、個としての武力に応じて階級や給与、そして責任が与えられる現新人類の砦アドバンスフォートレスの厳格かつ潔癖な体制の裏側に生じた闇。

 より強力な武力に特化した人材の育成という名の非人道的な人体実験の有無を調べるべく潜入した施設というのが、身寄りのない子供達を引き取る養護施設を兼ねたこの研究施設だったのだ。


 流石にセキリュティが高く、侵入と同時に勘付かれ捕まってしまった為、調査はあまり進んでいるとは言い難いが既にクロの香りがプンプンする。

 まず養護施設にこんな物騒な牢屋がある事がおかしい。それに、耳を澄ますと聞こえる会話にも時折不穏な単語が混ざっているのが分かる。

 そして、この施設で育てられているエリザベスとの会話からも、いくつかの情報が読み取れる。


 まず一つ確実なのは、彼女は明らかに大きなストレスや不安を抱えている状態にあるという事。

 その原因までは定かではないが、少なくともこの養護施設は子供達にとって心安らぐ場所ではないという事が分かっただけでも一つ大きな収穫だった。 


 身動きの取れないこの状況下でのエリザベス=オルブライトとの出会いは未来にとっては地獄で仏に会ったような幸運だったと言えるだろう。

 施設に入所している子供というこれ以上ない貴重な情報源、これを逃す手はない。それになによりこの施設で話し相手すらいない彼女を未来は放っておけなかった。


 そんな未来の心境などつゆも知らず、エリザベスは難航する未来の釈放交渉について新たな情報を教えてくれた。


「ミクにはかわいそうだけど、大人達はしばらく忙しいと思うから、出るのは本当に遅くなっちゃうかも知れないわ。……あ、別に、わたしはどっちでもいいんだけど」

「? ……しばらく、と言うと何かここ最近特別な事でもあったのかしら?」


 何か彼女の言葉に引っかかりを覚えてそう尋ねる未来。そして、直後にエリザベスが放った言葉に、未来は自分の勘が間違いではなかった事を確信する事となる。


「うん。最近、よその施設から男の子が来たの。なんか、神の子供達(ゴッドチルドレン)……? って言うのなんだって。わたしもよく分からないけど、とっても大事なんだって。でも、わたしは苦手だな……あの男の子」



 神の子供達(ゴッドチルドレン)



 実験都市の内部でさえまことしやかに囁かれている都市伝説。三大都市が抱える巨大な闇の一端が、すぐそこで大口を開けていた。

 


☆ ☆ ☆ ☆



「ねえ、エリザベスちゃんはさ、どんな虫が好きなんだい? うん」


 まん丸く見開かれた中世的な愛らしさに満ち溢れたつぶらな瞳。

 無遠慮に全てを吸い込んでしまいそうなその一対の黒瞳が無性に恐ろしくて、どうにも苦手な相手だった。


「え、僕? 僕はねー、うん。そうだなー、何が好きかって言われるとその実虫なんてこれっぽっちも好きじゃないから困っちゃうんだよね。うん。だって基本、アイツらってうねうねうじゃうじゃと気持ち悪いからね! うん。でもそうだなー、あえて言うならゴキブリかな! やっぱ。うん。ほら、あいつらって凄い勢いで増えるからさ、全部一斉にまとめて爆散させたりするのが楽しいんだよね。生命力が高いのもポイントかな。最後の瞬間の魂の輝きが強くなるからね。とは言っても人間程じゃあないんだけどね。なんだろ、片手間に食べるおやつにはうってつけ! みたいな? ……あ、でもちょっとオーソドックスすぎてつまらなかったかな、うん。ごめんごめん、当たり障りのない受け答えをしているだけじゃ女の子を退屈させるだけ、もっと刺激に満ちたヤリ取りをしないとダメだって昨日見たアダルトビデオのエッチなお姉さんに教わったばかりだったのに、僕ってばまたやっちゃったなー失敗失敗。勿論、王道にはそれが王道たる理由があるものだけれど、それを今ここで長々と語って聞かせても大人げがないしね! うん。やっぱりここは自分の至らなかった点を認めて、素直に反省するのがイイ男ってヤツだと僕は思うんだよね、うん」


 何を言っているのかほとんど理解できなかった。


 相手がこちらに合わせてくれている以上、同じ言語を使っているはずなのに、発音も文法だって完璧なのに、彼の口からとめどなく溢れ出る流暢な言葉の羅列から全くもって意味を読み取れない。理解不能なのに気持ち悪くて、分からないのに吐き気がする。


 そもそも初対面の女の子に対して虫の話題を降ってくる時点でどうなのだろうかとか、一方的にベラベラ喋り続けている時点で会話のキャッチボールは成立していないとか、これはそれ以前の問題だった。


 目の前の相手からは他者に自分を理解して貰おうという思いが一切感じられないのだ。勿論、その逆もしかり。


 まるで虚無。

 底のない沼と対面しているような、その瞳をじっと見ているとどこまでもどこまでも深い場所まで堕ちてしまいそうになる恐怖に苛まれて、声を上げる事すら儘ならなくなる。


「あ、そういえばカゲロウとか結構いいかなって思ったんだけど、どうかな。うん。エリザベスちゃんもきっと気に入ると思うんだ!」


 そう言って何かを握った手を差し出してくる少年。

 彼が拳を開くと、その掌の上には幻想的な硝子細工じみた一匹の細長い昆虫が揺らぐように羽ばたいた。

 その美しさに、少年へ対する嫌悪感と恐怖を一瞬忘れたエリザベスが反射的に手を伸ばそうとするがーー硝子細工の小さな命は自壊するように中空で粉々になってしまう。


「――っ」

「あはははは、ほら見たかい? うん。カゲロウって成虫になると口が退化してご飯を食べる事が出来なくなるんだよ。うん。だから交尾をしたら何をしなくても勝手に死んじゃうんだ。面白いだろ? 性欲の権化みたいなヤツだよね! うん。清楚で純粋無垢な僕とは大違いだよ」


 驚愕にびくりと肩を震わせ、伸ばしかけた手をひっこめる少女の反応など一切目に入っていないのか、少年は愉快そうに笑って形だけの同意を求めてくる。

 命が失われる瞬間を見せつけられたエリザベスは瞳に涙を溜めながら、


「……ぜんぜん、…………ないわ」

「え? なになに。なんて言ったのか聞こえないよ? せっかく可愛い声なんだからもっと大きな声でお喋りしようぜ、エリザベスちゃん」

「ぜんぜんっ、面白くないって言ったの……!」


 なけなしの勇気を振り絞って放った一声に、男の子はこてりと笑顔を張り付けたまま首を傾げて、


「やっぱり君もそう思う!? 確かにそうなんだよねー。うん。確かに最初は勝手に死んでいくのが楽しかったんだけどさ、やっぱり自分でやらないと楽しさも半減しちゃうって事に最近気が付いたんだよ! うん。やっぱりエリザベスちゃんとは気が合うなー、うん。君を見初めた僕の目に狂いはなかったって事だね! うん」


 それが怒りや嘲笑の類であればどれだけ良かっただろう。

 ケラケラ楽しそうに笑う少年に悪意はない。本当に、本気で心の底からエリザベスは気の合う相手なのだと思っている。 

 エリザベスの言葉の意味を欠片も理解しないまま、まるで全てを分かったように納得し見当違いの共感を示してくるのだから性質が悪い。

 

 気持ち悪い。

 理解できない。

 何を考えているのか全くもって想像すらできない。

 

「ねえ、エリザベスちゃん。僕は君の顔がとってもキレイで可愛いから君の事が大好きなんだけどさ、うん。改めてお願いするよ、僕とお友達になってくれないかな? うん」


 差し伸べられる手。

 友好の証。

 親愛の表現。

 

 だけれどその手を取る事がどうしてもエリザベスには出来なくて、


「……あらら、照れ屋さんなのかな?」


 後ずさり、勢いよく後ろを向いて走り出したエリザベスの背中に届いたそんな声は、エリザベスに拒絶されたなどとは欠片も思っていないような場違いに明るい声色だった。



☆ ☆ ☆ ☆



 〇月×日(火曜日)

 監禁五日目。二日ぶりにエリザが監禁房を訪れた。ここ二日間は訓練後に例の神の子供達(ゴッドチルドレン)の男の子との交流会のようなものが開催されていたらしく、私の元を訪れる時間がなかったようだ。終始例の男の子に関する愚痴を話していた。どうやら本当にその子の事が心底苦手らしい。

 エリザの話を聞いている限り、その男の子はかなり特異な思想や精神性を有しているように思える。だが、神の子供達(ゴッドチルドレン)だって同じ人間である以上私たちとそう変わりはしないはずだ。

 そもそも人には人の好き嫌いがあるのが当然だとも思うので、エリザがその子を苦手だと言うのは仕方がない事だと思うが、実際に対話をしていない私がその男の子について何かを判断するのは早急だと結論付けた。



 〇月□日(水曜日)

 監禁六日目。今日もエリザは監禁房を訪れた。今日は訓練後の男の子との交流会はなかったらしい。そのせいか昨日より機嫌がいいようだった。好物の話になると、エリザは苺のショートケーキが大好きだという話をしてくれた。

 施設に入る前に一度だけクリスマスに食べた事があるとの事で、その時のことを手振り身振りを交えて語ってくれた。

 エリザの話を聞いている限り、どうやら彼女は両親と良い関係を築けていなかったように思える。

 その為、この研究施設がまがりなりにも養護施設として機能しているというのは事実なようだ。しかし、施設に入ってからもクリスマスケーキ一つ出てこないというのは、やはり子供を育てる環境としては不適切だと思えてならない。クリスマス以外にも、誕生日やバレンタインなど、その手のイベントはこの施設ではないものとして扱われているらしい。さらなる調査が必要だ。

 また、交渉も順調に進んでおり、没収されていた荷物の一部が戻って来た。

 両手の拘束も解かれたのも大きな進展だ。戻って来た荷物の中から飴玉とくまのぬいぐるみをエリザにプレゼントした。エリザは飴玉にもぬいぐるみにも大喜びで、今までで一番子供らしくはしゃぐ姿を見せてくれた。

 無事交渉が終わって外に出る事が出来たら、どうにかして彼女にショートケーキを食べさせてあげたいものだ。


 

 〇月△日(水曜日)

 監禁十三日目。五日連続でエリザが監禁房を訪れた。連続記録更新だ。ちなみに、プレゼントしたくまのぬいぐるみは気に入って貰えたようで、こちらも五日連続で胸に抱えての訪問だ。

 その事について指摘するとエリザは顔を真っ赤にしてそっぽを向いて、しばらくの間不機嫌になるので、二日目からは自粛している。何にしても大変に愛らしい子だ。

 最近は彼と会っていないらしく、穏やかな様子でたわいない会話が続く。


 さて、およそ二週間近くの交流でいくつかエリザについて分かった事があるので記しておこうと思う。

 エリザは女の子らしく可愛いものが好きで、少しおしゃまでわがままで強がりな女の子だ。

 まず彼女は、この施設において孤立している状態にあるらしい。

 これは彼女が嫌われているとか苛められているといった事ではなく、彼女自身が望んで他の子供達と距離を取っているようだ。

 普段過ごしている部屋も他の子供達と違って彼女専用の個室が与えられているらしい。

 おもちゃらしいおもちゃや家具もない殺風景でつまらない部屋との事だが、「一人の部屋がいい」と言う女のリクエストが通っている所を見るに、この施設の大人達にとってエリザベスはかなり重要な存在である可能性がある。

 彼女が神の力(ゴッドスキル)の制御訓練や力測定スキルスキャンの後にある程度の自由時間を与えられている事も、その事実を裏付けているように思える。

 また、エリザは施設を退屈でつまらない嫌な場所だと言っているが、施設から出たいとは思っていないらしい。

 どうやら彼女は自分以外の神の能力者(ゴッドスキラー)や大人を怖がっているような様子が見受けられる。施設で孤立している原因もおそらくは此処にあるのだろう。彼女が施設の外に出たくない理由も、他人との接触が怖い為だと思われる。

 その中で、何故か私にだけは恐怖を覚えないらしい。これも理由が気になる所だが、彼女が言いたくなさそうだったので聞いてはいない。心の距離が縮まって、向こうから話してくれるのを待とうと思う。

 幸いと言うべきかあれ以来交渉に手応えがなく解放までまだまだ時間が掛りそうだ。エリザと過ごす時間も、まだまだ残されていると見るべきだろう。



☆ ☆ ☆ ☆



「……もうっ、測定の開始時間が遅くなるなんて最悪。どうして今日に限ってこんな時間なの……」


 ――たったった。

 うす暗い廊下を女の子の足音が迷いなく駆けていく。


「まだミク起きてるかな? 起きてるわよね? ふふっ、今日はどんなお話をしようかな――あ、」


 大嫌いな神の力(ゴッドスキル)の測定がようやく終わったその直後、監禁房へと向かうエリザベスを待っていたのは望まぬ再会だった。


「やあ、久しぶりだね。エリザベスちゃん」

「……こんばんは」


 大嫌いな空洞が二つ、そこにはあった。


 自分より少しだけ背の高い中世的な可愛らしい顔立ちをした男の子。

 おそらく、二、三歳ほど年長なのだろう。声変わりの始まっていない中世的な声色と柔らかで丁寧な口調とは裏腹に、耳元で虫の関節が軋む音を聞かされているような不快感がこみ上げてくる。


 気付けばエリザベスは、腕に抱えていたくまのぬいぐるみをぎゅっと力強く抱き寄せて、まるで外敵から守るように半歩右足を後ろに引いていた。

 一連の動作は無意識で、彼女が目の前の男の子に対して本能的に行った事に過ぎない。

 そんな少女の不安と警戒の現れを何と見て取ったのか、男の子はニコニコと友好的な笑みを浮かべたまま、

 

力測定スキルスキャンをしていたのかな? うん。僕アレって嫌いだなー、あんまりやりすぎると大人たちに怒られるから加減をしなくちゃならないじゃない? それが退屈で仕方がなくてさ。うん。エリザベスちゃんはどうなんだい? 何だか、大人たちから叱られてたみたいだけど、うん。僕みたいにやりすぎちゃった? それとも、あまり結果が良くなかったのかな? うん。それとも――」


 うねり。

 男の子はまるで多脚虫ムカデのような動きで瞬時にエリザベスの懐に入り込むと、耳元に唇をそっと寄せて、

 

「――出せるはずの結果を(・・・・・・・・・)出さないから(・・・・・・)怒られちゃったのかな?」


 囁かれた言葉に肌が泡立った。

 次いで脳内にて甲高く鳴り響く警戒音。

 勢いよくその場から飛び退くのは、一刻も早く男の子から少しでも離れた場所に行きたかったからだ。


 怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。


 デパートに立ち並ぶマネキン人形のように中身のないうすら寒い笑みを浮かべる目の前の存在が怖くてたまらない。

 けれど、本当は。

 生まれたての小鹿のように震えているエリザベスが、何よりも恐れているのは――


「――ねえ、エリザベスちゃん。うん。美しいモノとか綺麗なモノって君は好きかな? きっと好きだよね、うん。だって君は綺麗で美しくそして可憐な女の子だもの!」


 それは、否定を許さない言葉の圧力だった。

 入り込む余地のない会話という矛盾に、付け入る隙のない独りよがりの問いかけに、ただただエリザベスは圧倒され、蛇に睨まれた蛙のように固まったまま黙する他に選択肢がない。


(なんなの……嫌だ、この子。敵意も悪意も害意だってこれっぽっちもないのに……なにか、……)


 男の子の問いかけに対して「嫌いだ」と否定すれば、その瞬間に頭から食べられてしまうような、そんな恐怖が心に張り付いて拭えない。

 目の前の男の子からは、それだけの不吉が漂っている。


「僕も綺麗なモノや美しいモノが好きだ。うん。でもそれってさ、うん。決して姿形だけに限らないと僕は思うんだよね。うん。

 例えば――自己犠牲の献身。くだらない者がくだらないモノの為に命を捨てる瞬間って呆れる程くだらないと思うんだけど、でも確かにそんな終わりを迎える瞬間の魂の輝きは決まって美しいんだよね。うん。

 例えば――悲恋の物語。大きなしがらみに囚われて愛する者と殺し合わなければならない運命に苦悩する男女。国やら世界の為だとか信念が忠義が何だとか言って大切な人を手に掛ける。うん。傍から見てると失笑モノの茶番劇でしかないと思うんだけど、これも中々馬鹿に出来ないんだよね。うん。愛する者に殺される瞬間の魂の輝きってそれこそ千差万別でさ、その美しさも十人十色って訳なんだよね。うん

 今あげたのはほんの一例だけど、うん。僕の言いたい事は何となく分かって貰えたかなって思うよ。うん」


 今までとは違って何となく言いたい事は分かる。

 容姿や姿形に限らず美しい心や美しい行いそのものに美しさを感じるという人間の機能こころの機微について男の子は喋っているのだと理解は出来る。

 しかし、それを目の前の存在が語る事にどうしようもない不吉を覚えてしまう。


 例えるならそれは、ソレ単体では愛らしい女の子の人形が、静寂と退廃が溢れかえった不吉な夜の廃病院にぽつんと佇むと途端に恐ろしく思えてしまうような心理。

 言葉そのものが美しくてもそれを発する存在がどうしようもなく悍ましいが故に、その発言そのものが不吉と不穏に汚染されてしまっている。

 皮肉にも男の子が語った内容とはまるで真逆の現象が起きていた。


「じゃあ逆にさ、エリザベスちゃん。姿形に限らず醜いモノってなんだろうね? 何かな。何だと思う? 僕、醜いモノとか気持ち悪いモノって嫌いでさ、どうしようもなくぶっ壊したくなっちゃうんだけど、どういうモノがそうだと思う?」


 分からない。

 エリザベスは施設に入れられる前は真っ当に世間との繋がりはあった。両親との関係は一般的な家庭から多少ズレていたかもしれないが、擬態の術なら知っている。

 支配的で、傲慢で、口答えも逆らう事も一切許さない父と母。

 自分の娘に自らの理想を押しつけて、少しでもそれを裏切ると怒り狂い過剰な躾を行う彼らは、エリザベス=オルブライトという個人ではなく出来の良い愛娘という肩書(アイコン)を愛していたのだけけれど。それでも適切な衣食住を与えられていた自分はちゃんと幸せ者だったのだと思う。


 神の力(ゴッドスキル)が発現し、それが家族に発覚するまでの間。エリザベスは常に『幸せな家庭の優秀な子供』という外面の擬態を強いられてきた。真っ当な子供として振る舞う事は聡明な彼女にとっては容易な事だった。


 だから、世間一般的な模範解答であれば今すぐにでも答える事は出来たと思う。

 けれどその普通の答えが目の前の怪人に通用するとは思えなくて、安易に口を開く事が出来ない。


 そんなエリザベスの無言の間を、男の子は怯えと取ったらしく、


「おっと、怖がらせちゃったかな。じゃあ少し質問を変えるね。うん。例えば此処に、平和のボタンがあったとしよう」


 瞬間、エリザベスの心臓がどくんと一際強烈に飛び跳ねた。

 

 見開いた赤い瞳孔が、きゅっとその場で固定される。エリザベスの驚嘆を無視して動き続ける男の子の口から、エリザベスは目を離す事が出来ない。

 だって。

 だって。

 その、例えは……


「ボタン一つ押したらあら不思議、世界が平和になる魔法のボタンだ! うん。素敵だね、凄いね、素晴らしいよね、うん。平和ってとっても尊くて美しいモノだもの、誰だって魔法のボタンを押したがるに違いないよね! うん。……でもね、このボタンを押す事が出来るのは世界でただ一人だけなんだってさ、うん。面白いよね」


 怖い。エリザベスは生まれて初めて■■以上に、目の前の男の子の事が――



「ねえ、エリザベスちゃん。正義と平和を成す力を持つ者がそれを振るわない怠慢はさ、善だと思う? 悪だと思う? 美しいと思う? 醜いと思う? ねえ、君はどっちだと思うんだい。答えてよエリザベス=オルブライト」



 ――何よりも恐ろしいと、そう思った。


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