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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
最終章 承/弐 人世ノ業、詠イ奏デルハ『厄災遊戯』――醜ク愚カナ『人間』ノ物語ヲ貴方ニ
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第四十話 一月一日 記録Ⅲ――負け犬どもの敗走/遊戯は無慈悲に開演を謳いて

 思考が灼熱して赤熱して白熱する。

 胸に去来する感情は正体不明。ただ、決して捨て置いていいものではないという事だけは本能的に理解出来た。

 故に――傍観、という選択肢を選ぶ事を自分は拒絶しなければならないハズだ。

 それが現状の自分にも把握できる、唯一の行動指針。


 では、それは何故か。


 答えは簡単。このままでは目の前で、誰かが死んでしまうから。



 ――そうだ。人が死ぬ。死ぬんだ。

 『厄災』に殺される。だから誰かが行かなきゃならない。

 なら、誰が? 誰が英雄ソレをやる? 英雄ソレがこの場にいないのなら誰が――



「――、……! …………!」



 答えはとっくに出ている。


 そうだろう。

 そうだったハズだ。

 眺めている事なんて認められない。

 この感情を無視する事は許されない。


 後ろではなく前へ。

 逃走ではなく闘争を。

 踏み出すその一歩に意志と意味を、そして誰よりもその価値を否定してはならないのは誰だったのか。


 ――選択しろ。選択しろ。選択しろ。

 意味ある選択を選択肢より導き出せ。自らの手で選び取れ。


 出来るハズだ。可能なハズだ。己の選択は、今からでも何かを変えられるハズなのだ。だから――



「――っち! ……! ……んのか!」


 

 だって、信じると決めた。決めたのだ。

 この一歩の価値を。

 否定させる訳にはいかないのだ、己を――東条勇火という一個人を。


 影響力も干渉力も世界を大きく変えてしまえるような英雄しゅじんこうには遠く及ばなくとも、彼らのように特別でなくとも例外でなくともその他大勢有象無象の凡夫に過ぎない自分のようなちっぽけな存在でも、それでも確かに世界ものがたりに爪痕を残す事は出来るのだとさあ歯を食いしばって立ち上がれそうして眼前の『厄災』に立ち向かいこの危機的状況を打開する為の一手を東条勇火が――


「――カミっち!」

「…………ハァッ!」


 一際大きな声と、強く肩を揺さぶられる衝撃に、深く沈み込んでいた意識が急浮上した。


 どうやら自分は内側に意識を傾けるあまり息を止めていたらしい。

 短い時間とはいえ酸欠に晒された脳がクラクラと揺れ、上体がふら付く。それでも、大地を踏みしめる足は一歩たりとも動きは(・・・・・・・・・)しなかった(・・・・・)

 その事実が意味する所を噛み砕く前に、聞きなれた男の声が再び耳朶を打ち、勇火の意識のレベルをもう一段階上に、見失いかけていた現実へと引き戻す。


「いいかカミっち、よく聞け。俺たちだって氷のオッチャンを見捨てたくねえ、それは一緒だ。此処にいる全員がきっとそう思ってる!」

 

 やめろ。嫌だ。違う。聞きたくない。

 気持ちは分かるとか。想いは皆一緒だとか。そんな耳障りのいい言葉で誤魔化さないでくれ。居心地の良いぬるま湯で惑わせないでくれ。


「それでも、これは氷のオッチャン自身が決めた事だ。オッチャンが何やらかしちまったかは、話を聞いただけの俺よりカミっちの方が知ってるだろ!? ……俺はオッチャンが悪かったなんて思えねぇ、思えねぇけどオッチャン自身はそうじゃねえってのも分かる……つもりだ」


 並列化して普遍化して陳腐化して、前ならえの右向け右で全部を一緒くたにされたら堪らない。

 理解されたつもりが一番腹が立つんだ。

 東条勇火と鳴羽刹那が同じな訳がない。一緒な訳がないんだ。だって――


「罪滅ぼしとか、しょくざい? とか、難しい事は俺よくわっかんねーけどさ、あれがオッチャンの命を懸けてもやりたい事だって言われたらそんなの止められねぇだろ。オッチャンがあれだけ全力で頑張ってんのに、俺らがオッチャンの頑張りを台無しにするような事だけは絶対やっちゃダメだ!」


 ――東条勇火は、氷道真を見捨てる事を恐れ、その結末を拒絶している訳ではないのだから。


「……そもそも、今の俺たちには我儘を言う資格がねぇ。カミッちなら嫌って程に分かるだろ」


 足手纏いだと。自らをそう言い切った鳴羽の顔には、計り知れない悔しさが滲んでいた。

 『特異体』のように実力差すら想像できない程の桁違いではないが、皆で掛かれば確かに希望の見えた『三本腕』を明らかに凌駕する絶対的な個の力。

 『厄災』を前に膝を折り、己の力不足を痛感し嘆いているのはお前だけではないのだと、鳴羽刹那は勇火に理解と共感を示してくる。


 立場と想いを同じにして、それでも今は、今だけは引いて欲しいというその懇願は、しかし今の勇火には辛いだけだった。


「……違う、違うんです。鳴羽センパイ。俺は……っ」


 自覚症状など嫌という程にあった。

 だから、耳を塞いで心の裡のドロドロとした感情を全て吐き出せてしまえたらどれだけ気持ちよかっただろう。

 東条勇火が恐怖したのは氷道真が死ぬ事でも『厄災』でもない。


 『厄災』を恐れて一歩を踏み出せない自分自身。

 存在と選択の全てを否定され、己の無力を突きつけられて世界に絶望していたあの頃に戻ってしまう事が、眼前の『厄災』そのものよりも、自分達を守ろうとしてくれる人の死よりも、尚恐ろしかったのだ。


 だから、必死になってポーズを取って。

 自分は『厄災』と戦おうとしているのだと、この一歩の価値を信じる事が出来ているのだと懸命に証明しようとして。

 挙句の果てにこうして鳴羽刹那に引き留められて心の底から安堵している浅ましい自分がいる。


 『厄災アレ』に立ち向かわなければならないと強く思っているのに、『厄災アレ』に立ち向かわないで済む為の理由を必死に探している臆病者。


 『厄災』に立ち向かう蛮勇を示しておきながら、誰かに止められる事を渇望する自己矛盾。

 激しい眩暈にふら付いた時ですらその場を一歩も動かなかったのは、接着剤でもぶちまけたかのように足裏がぺたりと地面にくっついて離れなかったからだ。


 一歩を踏み出す勇気も、その価値を信じる心も何もかも。東条勇火のそれは既に折れて潰えていたのだから――


「――っりました。今は……先を、急ぎましょうッ」


 奥歯を噛み潰すような苦渋の滲む返答に、雷翼の飛翔音が続く。

 あれだけ地面を離れようとしなかった足裏は、これまでの頑迷さが嘘のように容易に後ろを振り向く逃げの一歩を踏み出した。

 再度ビリアンを抱え飛翔する勇火の一歩先を行くように鳴羽が駆け、霊の力を借りるホロロが目にも止まらぬ速さで先を案内する。


 ――背後から鳴り響く氷の破砕音が止まらない。

 連続する破滅の音に肩を震わせる。響く破砕音がまるで逃げ往く勇火を責めているように思えてしまって、同時に音が遠くなっていく現実に安堵を覚える己のどうしようもなさに東条勇火は愕然とする他ない。


「……、」

 

 拳を強く、強く握り締めた。

 今の自分には、それくらいしか出来る事がなかったから。

 少年がぐっと呑み込んだ怒りの矛先がどこへ向かっているのか。それを理解しているのは彼自身以外にはいなかっただろう。


 ただ、勇火に抱きかかえられて空を飛ぶビリアンの手が、固く握り締められた勇火の手を優しく癒すように包み込んでいた。


 逃げて、逃げて、ひたすらに逃げた

 負け犬たちは脇目も振らずに敗走し、そして――

















 ――厄災遊戯ゲームはまだ始まってすらいなかったのだと、思い知る事になる。



☆ ☆ ☆ ☆





 ――初めから、勝負にならない事は分かっていた。




 一時間に及ぶ死闘の結果、血袋のようになった男の膝がついに地を突いた。


「なんや、もうしまいか?」


 凍てつく時の零(セロ・シェンブレエ)が通用しない以上、氷道真に打つ手などなかった。

 故に、その戦いは予定調和。

 戦闘の体すら保てぬ、『厄災』による嬲り殺しショーに他ならなかったのである。


 実際、言葉とは裏腹に、マクシミリアンの声には落胆の気配すらない。

 所詮は厄災遊戯ほんばん前の前哨戦かたならし

 彼にとって氷道真とは倒すべき敵ですらなく、ストレス発散用の玩具でしかない。

 元から期待もしていない物に落胆するなど土台不可能。そして、マクシミリアン=ウォルステンホルムという男が己以外の他者に期待を抱くような殊勝な男ではない事も分かりやすすぎる程に明らかだった。

 

 気ままに振り下ろされる暴力。

 気分で振るわれる暴力。

 気紛れの暴力。暴力。暴力。暴力。

 正体不明の行動阻害に、通じない氷結。果ては反射か模倣の如く自らの身体が凍てついて、動きを止めればすかさず技もなにもない粗雑な拳が叩き込まれる。


 それは殺す為の拳ではない。相手を痛めつけ、苦しめ、絶望に心を折る為の拳。

 すべてを踏みにじって嗤う、悪魔のような人間の暴力だった。


 そんな暴力に一方的に晒され続けた氷道真が、今まで膝を屈する事無く限界ギリギリの所で耐え忍ぶ事が出来ていたのは、その背に守るべき子供達の姿があったからだ。


 子供達キボウが逃げる時間を稼ぐ。

 氷道真にとっての勝利条件は端からただそれだけ。真っ当な勝機などない馬鹿げた戦いではあるが、それでもただの犬死で終わらせるつもりだけは毛頭なかった。


 屈さぬ理由が過去形なのは、彼の背後には既に守るべき子供たちの姿がなかったから。氷道真が戦っている間に、子供達は『厄災』の目の届かない場所まで退避を完了していた。


 ……これが贖罪になるとは思っていない。

 こんな自己犠牲は単なる自己満足であると理解している。

 この身を悪魔に捧げた所で、己が『絶氷』が凍てつかせた命は戻らない。この手で殺した愛おしい子供らは戻らない。己の指で喪失の引き金を引いた男の腕の中には、最早何も残っていない。


 それでも空回りばかりだった半端者の命が、神の子供達(ゴッドチルドレン)などと大層な名前で呼ばれながら何を成す事も出来なかった愚か者の最後の足掻きが、未来の可能性を守れた事は素直に嬉しい事だったから。


 ……それでも唯一心残りがあるとすれば、神の子供達(ゴッドチルドレン)をして時間稼ぎが精一杯であるという最悪の状況を彼らに押し付けてしまう事だったが――どの道、自分以外の誰かがやらねばならぬ事だったのだろうとも思うのだ。


 『厄災』を踏破すべきは、頂点に手を掛けておきながら何も成すことが出来ず、これ以上成長の余地もない氷道真などではない。

 無責任で押しつけがましい酷い怠慢である事は承知の上で、それでも――未知の可能性を秘めた次代を担う子供達こそが、それを成すべきだと思うから。


「……小生は、小生の正しさ(オーダー)を、完遂した。殺したければ……殺すがよい」


 最低限の役目は終えた。

 いっそ清々しい気分で血塊と共にそう零すと、対峙する『厄災』は気味の悪い虫でも見るような目になって笑い声をあげ始めた。


「わっははは、なんやソレ! 気持ち悪い。みっともない死に様晒すくらいなら潔く死ぬってか? 理解できへんわ、侍スピリッツっちゅうんやっけ? そういうの」


 質問に答えてやる義理などない。

 しかし、『正しさ』を追い求めた寡黙な仕事人は自嘲するような笑みを零すと、これが最後と理解しているからか、自らの胸にわだかまる自責の念を振り絞るようにして、今の思いを口にしていた。


「……生憎、小生は侍でも武士でもないのでな。そのような特殊な精神性を有しているとは、思わないが……どうなのだろう、な。潔く死ねと言うならば、長い微睡から目を覚まし……全てを思い出した時点で、腹を切るべき、……だったのだろう。最早、小生の生きざまこそが無様でみっともない、見るに耐えない代物であったのだから」

「なるほどなぁ、それで己を犠牲に子供ら守っとった訳や。……いやぁ、感動的やなぁ! 尊い自己犠牲の精神ッ! いくら死にたい思うとったってなかなか出来るモンやないで普通。『どうせ死ぬなら、あの子達だけでも助けたい。例え、この命を賭しても』ってかぁ!? ははっ、わははははははははははははははははははははははははははははッッ!!!」

「……、」


 氷道の言葉に苦しげに腹を抱え身を捩り、瞳に涙すら貯めながら下品な哄笑をあげるマクシミリアン。

 不快で不吉で不穏なその音色に、氷道真の表情が次第に歪んでいく。


「あー腹ァ痛いわホンマ勘弁して……くくっ、そのやり遂げたっちゅう顔やめや、ほんと笑わせんといて。はぁー、苦し……なあ、ジブン、侍なんかよりも芸人の素質あると思うで?」

「……待て。貴殿は、まさか……」


 絞り出した声が、震えていた。

 考えたくもない、想像したくもない最悪の妄想が、敗北の中に僅かな希望を見出していた男のその小さな拠り所を完膚なきまでに叩き潰そうとして――


「バァ――――カ。相手の狙いが分かってて見逃すようなボケおる訳ないやろ、ホンマおめでたいやっちゃなあジブン。ちゅうよりちとズレとるんか? まあなんにせよ、逃げられる訳がないねん。この『魔力点』の中にいる限り、ワイの厄災遊戯ゲームからは何者も逃れられへん。絶対にな」


 分かっていたはずだった。

 この『魔力点』にいる限り、安全な場所などどこにもないと。

 それでも、それでも最後に。己の命に意味があると信じようとした事が瞳を曇らせ、その事実から目を逸らさせていたのだとしたら――


「よ、せ。……子供達は、関係、ない。……小生が……私が、貴殿と戦う。まだ、私は戦えるッ、だから――」


 その刹那、闇夜に浮かぶ三日月のような笑みが花開いていた。


「ああ、すまん。ワイ、仲間はずれって嫌やねん。だからその願いは聞けへんわ」


 男の惨めな懇願は、願いは、祈りは、嘘か本当かも分からないそんな軽々しい言葉によってあっさりと遮られる。


「……ちゅうわけで、茶番はそろそろしまいにして、皆で仲良く遊ぼうや」

「ふざ、けるな。私が……ッ」

「落ち着いてえな。ママに教わらんかったか? 順番や、順番。まずワイがあの子らと遊ぶとこ見せてやるさかい、そこで大人しゅう待っとってな。なあに、心配する事ないで、所詮は遊戯ゲームや。タマ取られるような事にはならんから安心せえって。なにせ神の子供達(ゴッドチルドレン)は儀式の為の大事な大事な商品やし、他の有象無象もどんな塵屑塵芥だろうとワイの『魔力点』にあるモンは全てワイのもんやさかい。……ああ、楽しくなってきたで、心躍りよるわ! 他者ゴミどもの価値を踏みにじるこの瞬間が最ッ高に堪らん癖になる……ッッッ!」

 


 今更絶望など抱かない。


 奇跡も希望も担えない。


 全てを喪い、何も残ってなどいない。


 だから〝これ以下があるのか〟と、どうしようもない鉛のような失望感こそが氷道真を襲った最後の感情だった。



「ま、て……――」





 ――氷道真という男の人生は、最後の瞬間まで空回りを繰り返すだけの虚無でしかなかったのだ、と。





「――我が宝箱(パンドーラ・ボックス)解崩アニグマーデ





 声は、逃げる子供達を決して逃がさない。


 逃走を願う者に逃走を許さず、死を願う者に死を許さない。

 

 それは彼にとっては当然のこと。

 頂きに立つのは己であり、己以外の有象無象、人ならざる下等生物どもに決定権などありはしない。故に、願う事など許さない。そのような不遜な祈りはすべて叩き伏せて嘲笑う。


 一切の願望は決して聞き届けられることなく、悪意ある嘲笑が人の意志を嘲笑うように逆張りの事象を叩きつけ、己以外の世界総てを踏み躙る。



 この地を這う全ては塵芥一つまで逃さず己が掌の上であると、傲慢な執着が全てを絡め取って離さない。



 価値なき者よ。



 己の価値を傲慢にも肯定するのであれば、その真価をこの人類やくさいに見せてみるがいい――と、『七つの厄災』が一つ、〝生死支配す傲慢〟が厄災遊戯の開幕を告げた。

 










「――【傲我不遜/遊戯買死ゲームスタート】」












 ――厄災遊戯ゲーム:『達磨さんが転んだ(アクト・スラント)

 汝、己を嘘偽ることなかれ。

 【ルール】

 ・参加者は開始前に主催者からの質問に答えなければならない。

 ・主催者を鬼とする(以下、鬼)。参加者は鬼に触れることが出来たら勝利。ただし、参加者は鬼以外に触れてはならない。

 ・参加者は鬼が目を瞑り、掛け声を掛けている間のみ動くことが出来る。それ以外の時は動きを停止しなければならない。

 ・鬼は掛け声を掛けている間は後ろを向いて顔を伏せ目を瞑り、参加者の行動を見てはならない。

 ・掛け声が終わった後に参加者が動いているのを発見した場合、鬼はそれを指摘する事が出来る。指摘された参加者が実際に動いていた場合、その参加者は鬼に捕まる。

 ・参加者が全員鬼に捕まった時点で主催者の勝利。参加者が鬼に触れることが出来れば参加者側の勝利となる。

 ・鬼に捕まっている間、その参加者は遊戯ゲームの参加資格を封じられている。許可なき言動は禁止。

 ・これら上記のルールを破った場合、失格となり敗北扱いとなる。

 ・敗者の処遇は勝者に一任され、敗者にこれを拒む権利はない。


 主催者:〝生死支配す傲慢〟。

 参加者:『魔力点』内部で存命の人類全てに参加資格あり。

 制限時間:なし。

 参加者勝利条件:上記勝利条件の達成。

 参加者敗北条件:勝利条件の未達成、または禁則に触れて失格となった場合。

 特記事項:遊戯終了後、敗者復活戦が開催される場合があります。参加を認められた敗者の皆様は奮ってご参加ください。

 ※主催者と参加者の立場はあくまでルールの上に平等で公平であり、遊戯ゲームの進行に著しい影響を及ぼす『神性』の影響を遊戯ゲーム中に限り無効にするものとする。







☆ ☆ ☆ ☆
















 ――厄災と神の子供達(ゴッドチルドレン)の衝突。その結果、エルズミーア島の『魔力点』を維持する〝核〟が誕生する事となる。

















☆ ☆ ☆ ☆



 現実世界時刻:二〇XX年 一月一日 午前十一時二十九分。

 

 座標:《魔力点β》プエルト・ナタレス【遊戯難度B】理想郷エピスィミア・リスィア。

 密林エリア



☆ ☆ ☆ ☆



 ……女王艦隊クイーン・フリートはもうダメだろう。



 将来が不安な柔らかい質の髪を短く切り揃えたロシア青年エバン=クシノフは眉のない強面を歪め、身を隠すように木の幹に寄り掛かったまま自らの帰属先の末路を悟って諦めたように溜め息を吐いた。


 絶対的な神の力(ゴッドスキル)、『平和の支配者(ルールオブピース)』によって全てを統べていた女王が支配ちからを失った結果、力技で抑え込まれていた不満や怨嗟が堰を切ったように噴出し女王艦隊クイーン・フリートは内部から崩壊した。


 厄災遊戯ゲーム開始直後、真っ先に僚艦を殺害したヤツの暴走は瞬く間に周囲に伝播し、結果として同じ地点に飛ばされた女王艦隊クイーン・フリートの面々は自らが厄災遊戯ゲーム勝者となる為に己の欲する五つのアイテムを求め殺し合いを演じる羽目になってしまった。


 厄災遊戯ゲームの内容的にいずれこうなる可能性は確かに否定出来ないが、それにしても序盤くらいは協力しあう事が出来たはずだ。

 女王の支配という歪な絆で繋がれただけの仲とは言え、ヤツの暴走は限りなく早計だった。

 とはいえ、かくいうエバン=クシノフ自身も内部崩壊を積極的に止めるでもなく、むしろその一助をしたようなものなので人の事は言えないかもしれないが……。

 だが、他者を蹴落とさなければ生き残る事が出来ない以上、あのタイミングで自らの利の為に立ち回れない人間はこの厄災遊戯ゲームを勝ち残れないに違いない。

 

「……とはいえ、それで結局ヤツに逃げられたのでは意味もない話か」


 ヤツの矛先が他へ向かった瞬間にその首を落としに掛かり、そのまま戦闘へ持ち込んだのだが……相性の悪さもあり倒す事が出来なかった。

 エバン=クシノフ達が戦っている間に他の面々はその場から逃げたようだが……さて、彼女はヤツから逃げる事が出来るだろうか。


「……それこそ、意味のない心配か」

 

 これでも一応、可能な範囲で雇い主への義理は果たしたつもりだ。

 少々強引さがあったとはいえ、女王艦隊クイーン・フリートの高待遇には感謝しているのだ。おかげで故郷に残した親兄弟に楽をさせてやる事が出来た。 


 だが、家族の安否が定かではない今、自分が生き残る事を後回しにしてまで助けるような事は出来ない。

 エバンが倒れれば身体の弱い両親やまだ幼い弟や妹たちを助ける事が出来る者がいなくなってしまう。長男として、一家を支える大黒柱として、絶対に死ぬ訳にはいかないのだ。


 故に、自らの利を優先しヤツを倒しに掛かる事により間接的に時間を稼ぐ。

 それが今のエバン=クシノフに許される最大限の譲歩だった。

 

「……そろそろ時間か。俺も動くとしよう」


 三十分に一度の間隔で訪れる更新時間だった。

 表示の更新に備え、初期装備として与えられた地図を広げる。

 広大なフィードの一部。今、自分がいるエリアが拡大表示され、右上のカウントダウンがゼロになると共に半径一キロメートル圏内にいる参加者が一気に表示されていく。

 地図上に浮かんだ七つのアイコンのうち一つ、黒と黄色の警戒色のアイコンが四百メートル付近まで近づいていた。

 

「――、まずいな……」


 まさかこんなにも早い時期に警戒色アイコンにかち合うことになるとは。

 開始直後の表示では地図上にいなかった相手だ。相手も今の更新でこちらの存在に気付いたばかりなはず。

 露骨に反応すれば怪しまれる。

 しかしあまり近づかれては都合が悪い。

 ……さて、ここはどう対応するべきか。


 厄災遊戯開始から三十分。

 既に参加者の半数が厄災遊戯ゲーム開始直後にアイテムを奪われゲームオーバーとなったとのアナウンスが入っており、大幅に人数を減らした厄災遊戯ゲームは、他者との遭遇エンカウント率が大きく低下し、大きく状況が動かない一種の停滞期が訪れていた。

 それだけに地図上に表示されたアイコン達は、いち早い厄災遊戯ゲーム攻略を目指すエバン=クシノフにとっては貴重な標的だった。

 例え、多少のリスクを背負うことになろうとも積極的に仕掛けるべきだと結論づけた青年は、地図と共に初期装備として配布された『大切なモノ:黄金のネックレス』を握りしめ、臨戦態勢へと入っていく。

 

 厄災遊戯ゲーム欲物狂争プリンシプル・ウォーはまだ始まったばかり。

 それでも、最序盤を経て生き残った参加者達はその誰もが気の抜けない強敵である事に違いはなく、同時に勝利の可能性もまた、この場に残った誰もが有しているのであった。

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