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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
最終章 承/壱 人世ノ業、詠イ奏デルハ『厄災遊戯』――『厄災少女』、愛憎劇ノ其ノ果テニ
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第三十四話 《魔力点α》ゼムリャ・ゲオルグ【遊戯難度A+】 淫靡艶麗廃墟都市ラグニアⅩⅩⅦ――愛に包まれて

 『厄災』と『厄災』の殺し愛。

 それはいつしか強大な『厄災』へと立ち向かう『人間』という構図へと変化していった。


 己の矜持を貫かんとする者と、自分を信じたいと願う者達。

 圧倒的かつ絶対的な個と、ちっぽけな個の集合たる群。

 祈らない者と祈る者達。


 その最終決戦は実に原始的で野蛮な力比べ。

 滅びを齎す『厄災』の歩みを、『人間』が止める事が出来るか否かに託された。



「「「「「「「――止まれェええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」」」」」」」





 そうして――








 ――燃え尽きた。

 そう言い表す他に、表現する方法が見つからなかった。

 それはきっと、どちらの陣営も同じだっただろう。


 がりがりと、掘削機めいた地面を引き摺る音が止んでいる。


 その事象が意味する事実は、『厄災』の停止。

 人類が誇るありきたりでつまらない王道をもってして、『七つの厄災』が一つ〝嫉妬より出ずる愛憎〟エディエット=ル・ジャルジーの前進がついに止まった瞬間だった。



 ……一時中断していた厄災遊戯ゲームが、再開される。

 動作完了までのこの一アクションに全てを賭けていたエディエットの敗北は確定的だった。

 今からカウンターを放とうが間にあわない。

 何故ならノーラが『曖昧模糊』を発動したその瞬間には刃は既に心臓に達している。そういう状態で、彼女はエディエットの眼前か背後に現れるだろう。

 仮に間に合った所で、厄災遊戯ゲームが再開してしまっている以上、それではノーラを殺せない。エディエットは自身のビンゴカードの内容を把握出来ていないのだ。

 先の一撃でノーラを殺せなかった時点で、エディエット=ル・ジャルジーの敗北は決定事項となっていた。

 だから――



☆ ☆ ☆ ☆



「――嗚呼、これで本当に、終わりなのね……」


 無意識のうちに思わずそう呟いていたくらいには、ワタシはワタシの力を全て出し切り、この結果に満足していたのだと思う。


 だからだろうか。

 あれだけ負けたくないと思っていたのに、不思議と悔しさは感じなかった。


 これまで奪ってきた全ての命。

 自らの手で奪い壊した大切な人たち。

 己の全てを賭して尚届かなかったこの結末であれば、彼らの価値を損なう事もないだろうという確信があったから。


 だから、届かなかったという嫉妬も憎悪も抱いたまま、狂い壊れた鬼として、世界を滅ぼす『厄災』として、殺される事が出来るなら――



 ――「ねえ、貴女はワタシを()してくれる?」



 尋ねるワタシに。



 ――「うん。さようなら、エディエット=ル・ジャルジー」



 答える貴女。



 その声はとても近くから、抱きしめているような距離から聞こえてきて、それで私はワタシの終わりを理解した。


 希い続けた殺し愛の果てに求め続けていた愛憎劇の真の終焉。

 エディエット=ル・ジャルジーは親愛なるドーラの手によって、その茶番劇に幕を下ろす。


 ソレは、絶対に叶うはずのない願い。

 ソレを叶えるご都合主義を夢に見て、だからせめて幻でも構わないからと狂い壊れて妄執に縋り続けた。


 馬鹿な自分を貴女ドーラの手で全てを終わらせて欲しかったから。


 許して欲しい、だなんて思わない。

 絶対に思ってはいけないし、そもそも許しなんて求めない。

 エディエット=ルナールには、エディエット=ル・ジャルジーという名を名乗り、己が奪い壊した全てを未来永劫その身に背負う責務があり咎がある。


 ただ、叶う事無い夢のような願いとして、ワタシはずっとドーラとお揃いになりたかった。

 絶対に許せない自分自身が、ドーラと同じように大切な人(ドーラ)の手によって胸を貫かれて終わる最期を望んでいた。


 だからこれは望外の幸福。


 例えこの身に最期を与える者が真実ドーラではないのだとしても、エディエット=ル・ジャルジーに齎される終幕としては、出来すぎた結末だった。


 だからどうか、取り上げないで。

 分不相応だなんて分かっている。

 それでも、辿り着いてしまったのだからしょうがない。

 嫉妬に愛憎、己の全てを賭してなお勝利へは届かず、この敗北へ手が届いてしまった。それはエディエット=ル・ジャルジーにはどうしようもできない事なのだから。

 だからどうか、このまま終わる事をどうか、最後に許して欲しい。


 だけど、最後に一つだけ小さな引っ掛かりをワタシは見つけていた。


(……嗚呼、こんな風に、巡るのね)


 復讐鬼と化したサマルド=ドレサーを〝己と同じ〟であると評したエディエット=ル・ジャルジー。

 大切な宝物の価値を否定させないが為に失われた彼らと同じ散り際を求めた哀れな少女と、彼女はやはりどこか似ていて、けれど同じではなかったのだろう。


 だって、ノーラがサマルド=ドレサーの刃を握っているのを見て、私は何か酷い裏切りを見たように少し苦笑してしまったのだから。

 




 心臓を刃に貫かれる感触は、思ったよりも冷たかった。





「ああ、良かった。これで私……ドーラ。貴女と、……同じ………………」





 ――【Congratulations! winner:〝貧困に生ずる色欲〟】



 厄災遊戯ゲームの終了を告げるアナウンスが脳内に鳴り響く。

 『七つの厄災』が一つ、〝嫉妬より出ずる愛憎〟エディエット=ル・ジャルジーは厄災遊戯ゲームの敗者として強制力ルールに則り死亡、消滅する。

 勝利報酬である『事象の書き換え(万能性)』は、厄災遊戯ゲームの勝者である〝貧困に生ずる色欲〟ノーラへと譲渡された。



 『厄災遊戯ゲーム』:『殺し愛(ラブ&ロール)』は決着した。



☆ ☆ ☆ ☆



 ――世界が、光に包まれていく。


 ノーラの頭上で輝くビンゴカードの輝きが一際激しくその眩さを増したかと思うと、クリアスティーナとディアベラスの二人は、光に包まれた空間にポツンと取り残されていた。


 取り残されていた、というのはあれだけ沢山の人々がいたハズなのに周囲に誰の姿も認識できなかったから。

 白とも黄色とも黄金であるとも言い難い、不思議な温もりを感じさせる光の海原はどこまでも広がっているようにも、自分達の身体からほんの数ミリたらずの距離で終わってしまっているようにも思えるのは、絶えず流動するような流れをその光に感じるからだろうか?


 そして、


 肌が触れるような近くから/次元の彼方の遠方から。 



「私の名前はノーラ。〝貧困に生ずる色欲〟ノーラ」



 少女の唄うような声が流れ出す。



「愛を知らぬ者、そして愛を探す者。


 人類に災禍を齎す厄災の贈り物(パンドラ)より零れ落ちし『七つの厄災』が一つ」



 名乗りは高らかに、そしてどこか哀愁に掠れていて雨の日の子猫のように寂しげで、聞き届ける二人の胸がそれだけできゅっと締め付けられる。


 それでも、感傷に浸っている暇などない。

 今、自分達に求められている事が分かるから、少女の名乗りに応じるように、『厄災』と対峙する『人間』として粛々とそうであるべく名乗りを返す。


「……『悪魔の一撃フォルティナ・ディアブロ』、ディアベラス=ウルタード」


「……『支配する者ディメンション・オブ・ルーラ』、クリアスティーナ=ベイ=ローラレイ」

 

 事務的というよりも、儀礼的な言葉の応酬。

 約束事をなぞり、決まり通りの言動を行う事で、明確にスイッチを切り替えるような時間は、ディアベラスとクリアスティーナだけではなく、きっと、彼女にとっても必要だったのだ。

 


「――万物が霊長を名乗る人の子よ。



 汝に問おう、我が貧困は罪であるか。



 汝に問おう、我が色欲は悪であるか」



 それは人類の背負うべき業、向き合うべき罪。


 決して目を逸らしてはならない、人類がこの世界へ産み落とした罪業の顕現。



「汝、我が背負いし宿業を前になお己が正義を誇ると言うのならば――




 ――貧困と色欲が齎すわたし(厄災)を乗り越え証とし此度の『裁定』の解とせよ」


  

 そこに在るだけで不幸を齎し、文明を滅ぼさんとする災い。


 その象徴としての座を与えられた少女が、今。目も眩むような光の輪の中からゆっくりと歩み出て、クリアスティーナとディアベラスの前にその姿を現にした。



「――愛したいと願ったのはわたし。届かなかった過去の願いを胸に抱いて、されど胸の裡に秘した願いは母の温もり。


 わたしはノーラ。わたしたちは〝ノーラ〟と呼ばれる可能性。貧しさ故に色に溺れ、愛知らぬまま朽ちた幼き命の成れ果て、その残骸。


 誰もが目を逸らし、否定し、拒絶し、受け入れようとはしない人の業が産み落とした悲運の寵児たち。


 貧困と色欲渦巻く廃墟の街。そこでわたしはさがしてる。わたしはずっとまっている」


 

 神々しい光を背に、二人の神の子供達(ゴッドチルドレン)を祝福するように優しく、けれどどこか寂しげに目を細め、全てを受け入れるように両手を横合いに広げるノーラ。

 身に纏うゆったりとした襤褸切れが一陣の向かい風によってはためき、身体のラインを隠すようだった襤褸切れが少女の身体にぺたりと張り付いて、少女の歪な身体のラインをくっきりと映し出す。


「……やっぱりそういう、事かぁ」

「ノーラ、貴女は……」


 透けて見えるようなあばらに対して明らかに膨れ上がっているお腹を愛おしそうに見つめるノーラの姿にディアベラスが嚙み締めるように声を落とし、クリアスティーナは複雑そうに顔を歪め肩を震わせる。


 見間違いようがなかった。ノーラは妊娠している(・・・・・・)

 そうとしか表現できない状態で、彼女という『厄災』はこの世界に存在していた。


「おねーさん、おにーさん、改めて自己紹介をするね。私はノーラ、七つの厄災が一つ、〝貧困に生ずる色欲〟ノーラ。『魔力点』ゼムリャ・ゲオルグの中身、ラグニアの創造主にして厄災遊戯ゲーム:『■宝探し(トレジャーハント)』の主催者ゲームマスター……」

  

 そう言ってディアベラスとクリアスティーナの目を順番に見つめてから、ノーラは広げていた両手を胸の前で祈るように組み合わせると儚げな微笑みを浮かべて、


「……厄災遊戯(ゲーム)クリアおめでとう、二人とも。人類は己が正義を示し、わたし(厄災)に見事打ち勝った。その知恵と勇気を湛えて、約束通り勝利報酬を渡すね。どうか、受け取って欲しいな」


 

 聞き間違いなど出来ないくらいハッキリと、そんな言葉を告げた。











 ――厄災遊戯ゲーム:『■宝探し(トレジャーハント)

 【指名手配書】この〝せかい〟で最も価値ある唯一無二の宝を暴き出し、迫る災いの魔の手より抱き守れ。

 主催者:〝貧困に生ずる色欲〟、〝嫉妬より出ずる愛憎〟。

 参加者:『魔力点』内部で存命の人類全てに参加資格あり。

 制限時間:子宮内部の腫瘍ばくだんが破裂するまで。

 参加者勝利条件:制限時間内に上記条件を達成。

 参加者敗北条件:死亡。

 ※主催者と参加者の立場はあくまでルールの上に平等で公平であり、遊戯ゲームの進行に著しい影響を及ぼす『神性』の影響を遊戯ゲーム中に限り無効にするものとする。




 ――【Congratulations! winner:人類《代表者:クリアスティーナ=ベイ=ローラレイ&ディアベラス=ウルタード》】



☆ ☆ ☆ ☆



 唐突に告げられた厄災遊戯ゲーム終了宣言に、しかしディアベラスとクリアスティーナに動揺の色はあまり見られない。

 どちらかと言うとつまらない答え合わせに辟易とする子供のような、小さな意地と抵抗の意志を感じさせる表情をディアベラスはしていた。

 だがそれも一瞬のこと。運命の悪魔は告げられた自らの勝利を誇るでもなく、表情をサングラスの奥に隠したままムスッと黙り込んでしまう。

 隣のクリアスティーナもまた同じ。言いたい事があるはずなのに口にするべき言葉が定まらず、迷い立ち尽くしたまま固く閉口している。


 そんな二人の様子が不思議だったのか、ノーラは首を傾げて、


「おねーさんもおにーさんも全然喜ばないなんて、変だよ? もしかして納得がいかない? 私が答え合わせした方がいい?」

「いや……」


 ディアベラスは曖昧な表情のまま首を横に振る。

 答え合わせなど必要ない。

 大体の予想はついている……というか、厄災遊戯ゲーム■宝探し(トレジャーハント)』がディアベラス達の勝利に終わった事を告げられた途端、頭の中にあった断片的な要素が一つに繋がり全てが腑に落ちたと言った方が的確か。


 だから、これは単なる反芻に過ぎない。

 頭の中にある答えを一度言葉にする事で、受け入れたくない事実をきちんと受け止める為の予備動作。宙にこの身を投げ出す為の助走のような行為なのだから。


「要するに、だぁ。この手配書が示していた唯一無二の宝ってのはぁお前の事だったぁ。……そういう事なんだろぉがぁ」


 ディアベラスの答えにノーラは無言でにこりと笑みを深める。

 それが、答えるまでもないノーラの答えだった。



 厄災遊戯ゲーム■宝探し(トレジャーハント)



 ノーラがラグニアにて展開したその遊戯は、彼女の無自覚の願いを大きく反映して構築された厄災遊戯ゲームだった。

 厄災遊戯ゲームの内容や勝利条件に関しては、貞波嫌忌の考察でほぼ間違いはない。


 『■宝探し(トレジャーハント)』とは宝を破壊しようとする主催者側と宝の正体を暴き出し主催者側から守り抜く参加者側、個々人ではなく二つの陣営による争奪戦だ。 

 参加者同士の協力を推奨する難度でありながら、仲間割れを誘発させるべく意図して仕様や細かいルールを省いて不安や恐怖、不信を煽り宝の奪い合いへと誘導する。そんな悪意を乗り越えて、個ではなく群である『人間』としての勇気や強さを示す事を求めた厄災遊戯。

 しかし、この厄災遊戯ゲーム最大のポイントはこれが個人戦ではなくチーム戦である事に気付けるかどうかではない。


 そこまで読み取ってようやく厄災遊戯ゲームのスタートラインに立っただけだと吐き捨てた貞波の主張は正しく、肝心かなめの謎解き部分を進めなければ、この厄災遊戯に勝利する事はまず不可能だ。


 解き明かすべきは、厄災遊戯ゲーム■宝探し(トレジャーハント)において指名手配の形式で描かれた問題文。


『――【指名手配書】この〝せかい〟で最も価値ある唯一無二の宝を暴き出し、迫る災いの魔の手より抱き守れ』


 貞波の予想通り、文中で区切られた〝せかい〟は外界と完全に遮断された異界である『魔力点』ゼムリャ・ゲオルグ……つまりはラグニアと呼ばれる廃墟都市の事を指し示していた。

 そして指名手配の形式を取っていたのは、探すべき『宝』が人物――それもこの〝ラグニア〟において罪を犯した犯罪者である事を示している。

 そして同時に、その犯罪者とは〝ラグニア〟において〝唯一無二の宝〟でなければならないのだ。


 貞波嫌忌や生生もここまでは辿り着いている。

 貞波は『首輪なし』として大勢の男に狙われていたレギン=アンジェリカを選択肢の一つとして挙げ、貞波の考察を聞いたディアベラスは『魔力点』内部にありながら厄災遊戯ゲームやラグニアのルールの影響を受けないあからさまな例外として存在するミロ達三姉妹が『宝』なのではないかと考えていた。


 生生はもう一歩深く踏み込み、罪人である事と唯一無二の宝である事の矛盾を『視点の違い』であると考察し、『〝ラグニア〟という娼婦の街』と『自然界』それぞれ二つの視点から、子宮を持たないという特異性を持つクリアスティーナ=ベイ=ローラレイにアタリを付けていた。

 子宮を切除され子を産めないクリアスティーナは、娼婦の街である『ラグニア』から見ればいくら男の相手をしても子を孕みようがない使い勝手のいい『しょうひん』であり、子孫を残す事を是とする『自然界』においては子を成す事も出来ない罪人できそこないと見る事も出来る。

 この生生の考察が、三人の中では最も正解に近かったと言っていいだろう。


 重要なのは二つの視点。

 区切られた〝せかい〟である『ラグニア』という場所における罪人と。

 そんな区切りを無視した『世界』における人類にとっての本質的な宝。

 そしてそれら条件を満たしながら『魔力点』にて唯一無二である存在こそが、ディアベラス達参加者が見つけ出し、その腕に抱き守るべき人物だった。


 『首輪なし』として扱われたレギン=アンジェリカは確かに高値で売れる価値ある『宝』であり、同時に主人の元から逃亡した『罪人』として捉える事も出来なくはないが、唯一無二の条件を満たせない。


 ミロ達を三姉妹で一括りとすると唯一無二の『宝』として条件は満たせるかもしれないが、罪人と呼ぶには無理がある。


 そしてクリアスティーナ=ベイ=ローラレイは全ての条件を満たしているように思えるが、そもそも彼女が子宮を失ったのは厄災遊戯ゲーム開幕より後の出来事だ。

 彼女が厄災遊戯ゲームの問題文に記載された『宝』であった場合、そもそも開始時点で厄災遊戯(ゲーム)に矛盾が生じ成り立たなくなってしまう為、その可能性は有り得ない。


 故に、各条件を満たせる特別な存在は、ラグニアに彼女ただ一人。

 

 〝貧困に生ずる色欲〟ノーラ。

 

 彼女はその身に子供を身籠っている。すなわち、子供であると同時に母親――妊婦なのだ。

 唯一無二の宝物。

 この魔力点において、子供や母親はいてもお腹に子の命を宿した妊婦は他にいない。街を回り、人々に話を聞けばわかるだろう。


 一人と数えられる存在でありながら、その身に二つの命を宿す、まさに唯一にして無二の存在。

 人間だけでない、全ての生命にとって、次世代を担う子を産む母とお腹の子供は守るべき至宝である財産だ。

 そして同時に、『ラグニア』という娼婦の街において、娼婦オンナが子を孕むことは罪であり悪でもあった。


 そう、この厄災遊戯ゲームの正式名称は『子宝探し(トレジャーハント)』。

 故にノーラこそが、厄災遊戯ゲーム参加者たちが探し出し、その腕に抱き守らねばならない『宝』そのもの。

 遊戯難度A+を誇る厄災遊戯ゲームの勝利条件とは、人類の敵『七つの厄災』の一つである〝貧困に生ずる色欲〟ノーラを、〝嫉妬より出ずる愛憎〟エディエット=ル・ジャルジーの魔手から抱き守る事だったのだ。


 この勝利条件を考えるとエディエットがこの『魔力点』にあったのは偶然やイレギュラーではなかったのかもしれない。

 『子宝探し(トレジャーハント)』は、二つの『厄災』の対立ありきで構成された厄災遊戯ゲームだったのだ。主査者の欄にノーラとエディエット二人の名が刻まれていたのも当然と言えるだろう。

 ――尤も、エディエットがゼムリャ・ゲオルグの『魔力点』に入り込んだからこそ、この厄災遊戯ゲームが選択された可能性も否定は出来ないが。


「……だが、俺もアスティも自力で答えに辿り着いた訳じゃねぇ。謂わばこいつぁ結果論だぁ。当てずっぽうよりもひでぇ単なる偶然に過ぎねぇ」


 そう、ディアベラスもクリアスティーナも、この厄災遊戯ゲームを攻略した訳ではないのだ。

 ただ、ノーラを助けようとした行動の結果として、気付いたら厄災遊戯ゲームの勝者となってしまっただけ。

 とてもじゃないが、勝利を誇る気にも喜ぶ気にもなれはしない。

 そう言って苦い顔をする二人に、しかしノーラは首を振る。


「それでも、勝ちは勝ちだよ。それに、おにーさんもおねーさんもやっぱりもっと誇るべきだよ。謎を解かずに答えに辿り着いた事は、私という『厄災』を本当の意味で乗り越えたって事なんだから」


 『厄災』とは人外であり超常であり怪物である。

 歩く災禍、意志を有する災害、ただそこに在るだけで人類に仇成す人類の天敵、それこそが『七つの厄災』と呼ばれるモノであり、ノーラとはその中でも貧困と色欲を司る『厄災』が齎した悲劇という結果の一つとして生じた目に見えぬ『厄災』の存在証明であり象徴である。


 真っ当で善良な一般的な人間であればある程、人はノーラから目を逸らさずにはいられない。


 ノーラは今日も明日も明後日も、世界中に存在するありふれた『厄災』が齎す数多の結果の一つでしかない。にも関わらず、それがどこにでもいるような人間達の欲望から生み出された悲劇なのだと認める事が出来ない人々は、目の前に在る悲劇に特別な理由をつけようとする。

 特別なモノにする事で、自分ではどうする事も出来ないのだと逃げ道とスケープゴートを用意して、傷つく事から逃れようとするのだ。


 何故ならばノーラという人の業が成した結末は、これ以上ない程に嫌悪し忌避すべき人の悪性を物語る。悍ましき悪意、尽きず広がり続ける貧困。それを利用し浅ましき色欲に付け込む人の小賢しく際限のない汚濁に満ちた欲を、彼女という存在はまざまざと人に見せつける。


 そんな人類自らの業から生まれた〝貧困に生ずる色欲〟を、人類の罪であり業であると受け入れる事。


 自らの醜さから決して目を逸らさず、人類が持つ悍ましき悪意を拒絶も否定もせずに認める事。


 ノーラという『厄災』をその腕に抱き守るとはそういう事なのだと彼女は言う。


 端から理解不能と切り捨て、ただ恐ろしく悍ましい力を持った怪物だからと滅ぼす為に戦うのでは絶対に辿り付けない答え。

 提示された謎を解き明かし、答えに辿り着いて尚、その答えを実行し達成する事には大いなる困難が伴うだろう。


 自分と大きく異なる存在を受け入れ、許容する。

 単純な闘争による勝利より、それはもっと難しい事だ。

 一度抜いた矛を収め、悍ましき『厄災』を腕に抱きしめるなど、正気の沙汰ではないときっと誰もが思うハズなのだから。


 でもそれは、自らを抱擁する事そのものでもある。

 人間が人間から無意識のうちに切り離そうとしてしまう醜悪さを、認知する。

 自分達が聖人君子などではなく、時に間違え、過ちを犯し、何度も道を踏み外して、どうしようもなく他者を傷つけてしまう。

 そんな清濁併せ吞む存在である事を人は自覚しなければならない。


 己の弱さや醜さを認め立ち向かうには、大いなる勇気が必要だ。

 けれどそれが出来なければ、人間はきっと永遠に『厄災』を打ち滅ぼす事なんて出来ないのだから。

 

 故に、これは『裁定戦争』と呼ばれる人間の戦いだったのだろう。


 そんな答えに、提示された謎を解き明かすのではなく自らの心に従う中で辿り着いたディアベラス=ウルタードとクリアスティーナ=ベイ=ローラレイ。

 彼らが手にした勝利は、どんな勝利よりも尊く、輝かしい希望なのだとノーラは笑うのだ。


「……主催者である私が太鼓判を押すんだもの、間違いないよ。勝ったのはおねーさん達。約束通り『魔力点』は崩壊して、囚われた人々も解放される。今はその準備中で、全てが終わり次第この空間も消滅するようになってるの。だからおねーさんもおにーさんも、安心していいよ。もう、全部終わったの。このラグニアにおける厄災遊戯は、全部終わったんだから」


 おめでとう、と。

 本当の意味で『厄災』を倒してくれてありがとう、と。

 ノーラは心からの祝福をクリアスティーナとディアベラスに送ってくれる。


 だけど。


「……だけど、それじゃあ……結局貴女は救われないままじゃないですか……ッ!」 


 叫ぶクリアスティーナの声は、涙に掠れていた。


 厄災遊戯ゲームという形で具現化されたノーラの願い。

 生まれてから一度も母に抱きしめられた事がなかった。愛された事がなかった。母親に愛されることもなく死んでしまった。

 悲劇である以上に醜悪な人の業が産み落とした結末として、畏れられた象徴の子は、温かい母の腕でぎゅっと抱きしめて貰いたかった。

 柔らかい母の胸に全てを委ねて溶けてしまいたかった。


 ノーラが密かに希い続けてきた願いは、確かにここに叶えられた。

 厄災遊戯ゲームを進行する上での必要事項としてではない。本当の家族として、逃亡者の集い旗(エスケイプ・フラッグ)の二人はノーラを守り、その胸に抱きしめた。

 まるで父と母のように、不条理と理不尽に怯え、知らずにいた親の愛情を求めるノーラを全力で抱擁した。

 

 結界、ノーラは厄災遊戯ゲームに敗北し、敗者として勝者に万能を与え消滅する。


 ディアベラスが守ってしまったが故に。

 クリアスティーナが抱きしめたが故に。 

 ノーラの願いが叶ってしまったが故に。

 ノーラを確かに愛したが故に。


 故にこれは、たった一度きりの打ち止めの救い。

 


 『厄災』として、ノーラがどれだけ長い年月を孤独に過ごしてきたかは分からない。 

 だが、百年や二百年では済まない長い時間だったであろう事くらいは容易に想像がつく。

 ずっとずっとずっとずっと、母の愛情を求め続けて、何年も何年も何年もそれこそ記憶が擦り切れ摩耗する程にその瞬間を待ち続けて――ノーラに許された救いは、たった一度きりの抱擁。

 消滅を前提とした、死の抱擁だけだった。


「……ねえ、ノーラ。貴女は本当にこれでいいの?」


 間違っていると思った。

 そんな打ち止めの救いで、ずっとずっと欲しかったモノを、それこそ『厄災』なんて存在に変わり果てて尚願い続けた祈りをようやく手に入れたのに、その瞬間に消えてしまうなんてそんなの絶対に間違っている。

 

「……認めない、私は、認めたくないんです……っ。だって、貴女は……もう、私達の――」












「――ううん。あのね、おねーさん。私は、ちゃんと救われたよ?」





 クリアスティーナの言葉を遮るようにそう言って、ノーラは天使のように笑っていた。


 ……ノーラはもう家族だ、家族にするのだと決めたのだ。

 だから失うなんて有り得ない。そんなの微塵も幸福な結末なんかじゃない。クリアスティーナ達が求めていた完全勝利などでは断じてない。

 なのに。


「……なん、でっ。なんでぇ、そんなにっ……ぐず、そんな風に……貴女は、ひっ、ぐ。わ、笑えるんですかぁあああぁぁっっ」


 分かる。

 目に見えなくても痛い程に分かってしまうのだ。

 そんな風に、そんなもう何もかも満足したみたいに笑わないでよ……。

 何も、言えなくなってしまう。

 何も、叫べなくなってしまう。

 泣くことも、悲しむ事だって許されなくなってしまう。

 これが欺瞞なのだとしても。こんな幸せそうに微笑む女の子に、一体どうしてその結末が不幸であると突きつける事が出来るんだ。

 一体どうしてその人生が悲劇なのだとクリアスティーナの価値観を押し付ける事が出来るんだ。

 一体どうして……決して叶わない希望の存在を知らしめることが、そんな残酷な事が出来るんだ。

 

 悔しい。

 悲しいよりも悔しかった。

 クリアスティーナ=ベイ=ローラレイは、これ以上彼女を救えない。

 目の前の少女は満たされてしまっているから。もう救うことが出来ないから。もっと素敵な結末だってあったハズだという残酷な希望を告げる事なんて出来やしない。


 だからこの結末を否定する事も出来なかった。

 ノーラがこの終わりを心の底から得難い幸福な結末だと思っている限り、それを否定してしまう事は許されない。

 そんな事、クリアスティーナには絶対に出来ない。

 

 だから眼前の少女は幸せそうに笑っていて、その儚げな姿が。今にも光の中に溶け出してしまいそうな笑みが、どうしようもなくクリアスティーナの心をズタズタに引き裂いていくから。


 ――ああ、これじゃあ……これじゃあまるで、クリアスティーナ=ベイ=ローラレイとディアベラス=ウルタードは、ノーラという女の子を救ったみたいじゃないかッッ!


「うーん、どうしてって……だって、私。今とっても嬉しいよ? 嬉しくて、幸せで、楽しくて、ドキドキして……そういう時ってね、おねーさん。人は笑うんだよ? こうやってニコって! だから、ね。おねーさんも泣いてちゃあ、やだな?」


 膝を抱え、唇をぎゅっと噛んで俯くクリアスティーナの頭をノーラの掌が優しく撫でる。

 なでりなでりと、全てを包み込むような柔らかい包容力は、さながら彼女が憧れていた母親そのもので――幼き子供でありながら子を守る母親でもあった少女の歪な強さ見せつける。 


 ポツリと、その光景に奥歯を噛み締めるような呟きが漏れた。


「……ふざけんじゃねぇ……」


 ノーラの強さは母の強さだった。

 幼くして子を宿した彼女が最後まで願ったもう一つの望み、愛してあげる事のできなかった我が子をもう一度愛したい、今度はちゃんと守りたい。

 慈しみ包み込むような強さは、そんな彼女の願いから生まれたものだ。

 だがそれは、本当なら彼女にとってはまだ必要ないはずの強さなのだ。


 そんな得る必要のなかった強さなど、今だけは……例えそれがどれだけ傲慢で自分本位の自己満足なのだとしても――今だけはディアベラス=ウルタードは認めたくなかったから。


「――え……?」


 次の瞬間、驚きの声をあげたのはノーラだった。


「……なあ、ノーラ。言ったろぉ、俺達はもう家族だって。だからよぉ、おにーさんとかおねーさんとか、そういう他人行儀なのはもう無しだぁ」


 ディアベラスはその大きな腕で二人をまとめてぎゅっと抱きしめると、ノーラが一度遮ったその言葉を口にした。

 明確に自分達は家族なのだと、否定など許さないと断言する。

 終わりを恐れるのではなく。

 離別を嘆くのではない。

 今を、彼女に残された僅かな最後の時間を、彼女に最高に幸せで居て貰う為に。


「……でも、じゃあ……なんて呼べばいいの?」

「そうだなぁ……なあ、ノーラ。お前さえ嫌じゃあなければなんだがぁ……お前、俺達の娘になるつもりはねぇかぁ?」

「ムスメ? ムスメって……おにーさんとおねーさんの子供ってこと?」

「ディアくん、それは……」

「なんだぁ、アスティ。お前は反対かぁ? 俺もいつか子供が欲しいと思っててなぁ。キャベツ畑に摘みに行くのも悪かねぇがぁ……こんな可愛い良い子がフリーだってんならぁ、俺達が貰っちまうしかねぇだろぉ?」


 今を否定し、彼女が不幸であることを、その悲劇性を突きつけるのではない。

 今を肯定し、彼女を力の限り抱きしめて、彼女が幸せであることを全力で伝えるべきなのだ。


 彼女が世界から消滅してしまう、その瞬間まで……


 ……分かっている。

 自己満足であることなど大前提だ。

 だからこそ、全てが終わった後に毒を煽るのは自分だけでいい。


 今、目の前で消えようとしている女の子に、与えられるだけの幸せを与えることが出来るならそれで……

 

「……そう、ですね。ええ、その通りです!」


 全てを察してくれたのだろう。ディアベラスの言葉に涙を拭い、気丈に微笑みを浮かべるクリアスティーナ。

 今の彼女の状態を思えば、ディアベラスの発言はあまりに無神経であるとも言えるだろう。

 けれど、だからこそ。

 

「もしノーラが嫌じゃなければ私達の子供に……私を、お母さんと呼んでくれますか?」


 子供になって欲しいと願う彼女の言葉は真実足り得る。


 ……もしもだ。

 もしも仮に、本当にそんな未来があったとしたら、きっとそれは、毎日嬉しくて泣いてしまうくらいに幸せな世界だと心の底から思うから。


 ノーラは、そんなクリアスティーナの言葉にしばらくの間ぽかんと呆けたように固まって、


「…………………………………………いいの?」


 これ以上幸せになってもいいのかと。


 二つも願いを叶えた上に、そんな幸福な事まで本当に許されるのかと。


 黒目がちな瞳を驚嘆にまん丸と見開いて、言葉にした途端に全ての幸福が幻と消えてしまうのではないかと恐々尋ねるノーラを、クリアスティーナは抱きしめていた。 


 強く、強く、強く。

 その小さな身体に目一杯の愛情を伝える為に。


「……当たり前じゃないですか。言ったでしょう? 貴女は愛されてもいいんだって」

「じゃ、じゃあ! おにーさんは……お父さんになってくれるの?」

「ああ、パパって呼んでくれてもいいぜぇ、ノーラ。俺達の愛おしい愛娘」

「な、なら! あの子たちも……! あの子たちも、一緒に家族になってもいい?」

「ミロ達か? ……あぁ、そういやぁあの子達の母ちゃん名乗ってたっけかぁ? あはは、喜べよアスティ。俺達、娘だけじゃなく孫娘まで出来ちまったらしいぜぇ? 一気におじいちゃんとおばあちゃんだなぁ、こりゃ」

「ふふ。ええ、そうですね。ディアくん。本当に、また賑やかになりそうです……」  


 三人一緒。

 境界線が溶けあうように強く強く抱きしめる。抱き締めあう。


「ねえ、お母さん。お父さん」

「なあに、ノーラ」

「どうしたぁ、ノーラ」

「……私ね、知らなかったな。家族って、とってもあったかいんだね」

「あぁ、そうだなぁ」

「ええ、そうね」


 零れ落ちてしまわないように。


「ねえ、お母さん。お父さん」

「なあに、ノーラ」

「どうしたぁ、ノーラ」

「ううん、なんでもないの。なんだか、嬉しくて。言ってみたくなっただけ」

「そうかぁ」

「そっか」

「うん、そうなの」


 大切なモノを失わずに済むように。


「ねえ、お母さん。お父さん。いる?」

「いるわよ、ノーラ」

「ああ、パパ達ならちゃんと此処にいるぜぇ」

「……良かった。全部、幻なのかな……って、思ったけど。そうじゃないんだね。私は……ノーラは、ちゃんとお母さんとお父さんに……」


 もう離さないからと、離れ消え往く彼女の心を安心させるように。


「ねえ、お母さん。お父さん」

「なあに」

「どうしたぁ」

「……家族になってくれて、ありがとう。愛を教えてくれて、ありが
















 


 消えた。

 


「……ノーラ?」



 温もりが。

 腕の中にあった少女は、もう。


「……ねえ、ノーラ。だめじゃ、ないですか……ありがとうの途中で、いなくなるなんてっ」


 どこにもいない。

 

「アスティ」

「ちゃんと、……そういうことは最後まで言わなきゃ、お行儀が、悪いんですから。だから…………っっ」

「……ノーラは、最後まで感謝して逝ったぁ。あの子は、俺達の娘は……最後の瞬間まで、幸せだったろうぜぇ。きっとなぁ」

「うぅッ、うえええええええぇぇええええええぇ……ぁ、ああああああああああああああああああああっ、うあぁあああああああああああぁぁああぁぁ……っっ」


 光に包まれて、愛を知った少女は温もりの中で消えていった。


 そうして、『魔力点』の主の喪失と共に、ゼムリャ・ゲオルグに発生した『魔力点』も消滅していく。







 逃亡者の尻尾(ラストカウンター)号に乗り込んだ人類最後の逃亡者たちは二つの『厄災』を踏破し、『魔力点』の破壊に成功した。

 内部に囚われていた同胞たちは解放され、白紙化された世界はほんの少しだけ元の姿を取り戻す。


 今宵、人類は『裁定戦争』における白星を一つ、確かに勝ち取ったのだ。


 勝利を告げる凱旋の唄。

 胸を劈く少女の慟哭もまた、光の中へと消えていく。



☆ ☆ ☆ ☆


















 《魔力点α》ゼムリャ・ゲオルグ【遊戯難度A+】 淫靡艶麗廃墟都市ラグニア――







 ――遊戯攻略、厄災踏破。


























☆ ☆ ☆ ☆



 子宝探し(トレジャーハント)の勝利報酬として、ノーラは『魔力点』を解体し、人々を解放した。

 しかし、ゼムリャ・ゲオルグの《魔力点α》で攻略された厄災遊戯ゲームは二つ。

 そのうちの一つである殺し愛(ラブ&ロール)を攻略したノーラは、エディエット=ル・ジャルジーから譲渡された『事象の書き換え(万能性)』を有している。

 それに加え、身籠ったお腹の子……可能性という名の魔力を消費すれば――失った命を取り戻すなど出来ない事はあるにしても――大抵の事は叶うだろう。

 

 ならば、ノーラは何を願うか。



(……お母さん、お父さん。いつかきっと、私、会いにいくからね――) 



 少なくとも、『厄災』と呼ばれた彼女が自身の生存を願う事はなかったのだろう。

 生存の術をその手にしながら、少女は消滅する『魔力点』と運命を共にしたのだ。

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