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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
最終章 承/壱 人世ノ業、詠イ奏デルハ『厄災遊戯』――『厄災少女』、愛憎劇ノ其ノ果テニ
351/415

行間α/考証

 ――【警告】

 本文章は現存する複数の文章の断片を繋ぎ合わせ、一つの文書として成立するように修復・復元された断章より得られた信頼性の極めて低い情報を元にした仮定、根拠のない推測を大いに含んでいます。

 本文は考証と題打ちながらもあくまで予想の域を出ない代物であり、本文章の内容には致命的な誤りが含まれている可能性があります。これより先に進む場合、本文章によって被るあらゆる不利益に関する責任を本書は負いかねますので予めご了承ください。



☆ ☆ ☆ ☆



 ――むかしむかしのそのまたおおむかし。とある国の枯れた貧民街に、ノーラという名前の褐色の少女がいた。

 遠き未来にて〝貧困に生ずる色欲〟の名で呼ばれる事になる少女の生は、当時であればこそ特別珍しいものではなかったが、現代の価値観からすると極めて悲惨な物だったと言う他ないだろう。


 強姦によって生まれ落ちた誰も望まぬ命。それがノーラで、彼女の誕生をきっかけに娼婦に落ちたノーラの母は実の娘を蛇蝎の如く忌み嫌い、憎み恨み続けた。

 ノーラに八つ当たりをする事だけが、唯一の逃げ道でありある種の救いの時間だったのだろう。

 殴る蹴るの暴行は当たり前。食事を貰えなかったり、首を絞められたりと、彼女のストレスの捌け口としてノーラは実の母親から酷い暴行を受け続け、母の言いなりに身体を売って金を稼いでくるのが彼女の死と隣り合わせの日常だった。


 実の母から愛されなかったノーラ。そんな彼女がおろされる事なくこの世に生を受ける事が出来たのはある意味奇跡であったと言えるだろう。

 ……その件に関しては、赤子がお腹にいる間だけはノーラの母にも母親としての情があったのだろうとノーラ自身が後になって結論づけている。


 さて。それが幸か不幸であったかはさておき、誰からも望まれぬ少女はそうしてこの世界に生まれ落ちた。


 そうして世界に生まれ落ちた後の彼女は間違いなく不幸だった。

 ――生きる事は辛く苦しいけれど、死ぬ事はもっと怖くて苦しい。

 それが、実の母親に何度も殺されかけたノーラが齢八歳にして辿り着いた結論だった。


 だから彼女は死なない為に生き続けた。死なない為にお金を稼ぐしかなかった。そうしなければ死の苦しみに呑まれてしまう。

 別段生きたいとも思わなかった彼女はそれだけを怖れ、生きる為ではなくただ死なない為だけに苦しき生にぶら下がっていた。

 多くの大人に耳元で愛を囁かれながら、しかし彼女は一度も彼等の言う愛を理解出来ず、救いを求め、本当の愛を求め、それらを探し求め続けた。


 死なない為、お金を稼ぐ為、幼くして娼婦になった彼女は、虚無の愛で小さな腹を満たしながら、やはり幼くして新たな命をその小さな身体に身籠った。


 ――それが彼女の幸せの絶頂にして限界。

 僅か十一歳での妊娠は、愛を知らぬ少女に本当の愛と幸福を与える同時に、無情にも少女の命を奪っていったのだ。


 妊娠によって体力が低下する中で感染症に侵され、衰弱しきった彼女は、それでもお腹の子を護ろうと必死に生きた。

 死なない為ではなく、生まれて初めて生きる為に生きた。苦しくても生きたかった。生きたいから死にたくなかった。

 初めて得た生の実感、他者を愛おしいと思える愛情は、しかし同時にノーラに死を齎した。


『……おおきく、なったね。がんばったんだね……』

『――もっと、生きて、いたかったなぁ……』

『…………ごめん、ね――』


 あばらが浮き出る程に痩せこけた身体に膨らんだお腹。歪な姿でお腹の命を撫でながら呟いたそれらが彼女の最後の言葉だった。

 彼女の今際の際の言葉が誰に向けられた物であるかは明白で、彼女が仮に『七つの厄災』として現代に蘇り望みを持ったとするならば、それが何であるかを予想する事はそう難しい事ではないだろう。

 

 ――しかし、そもそも何故彼女は『七つの厄災』の一つ、〝貧困に生ずる色欲〟などという存在に成り果ててしまったのだろうか。


 生前の彼女は、何の力も持たない人間だった。

 神の力(ゴッドスキル)や魔術のような超常・異能力の類は元より、特異体のように身体的に特別な特徴があった訳でもない。

 彼女は何の力も持たなかったからこそ、貧困とそれに生ずる色欲の大波に呑み込まれその運命を狂わせていったのだから、そのような特殊性はノーラという少女には一切なかったはずだ。

 

 ノーラと呼ばれる少女は、どこにでもいる平凡な少女だった。それは間違いない。

 しかし、彼女の周りに何一つとしておかしな点がなかったのかと言われると実はそうではない。


 断章Ⅱにて引用されたとある手記。

 ■が自身の母について記したその手記は、しかし断片の一つとして異質だった。

 ――『死して朽ち果てた母の腹を裂いて取り上げられた赤子だった』。

 『七つの厄災』が一つ〝貧困に生ずる色欲〟に関する資料として集められたにも関わらず、手記の筆者が自らについて記したその記述はノーラの出生とは明らかに異なっている。

 つまり、手記を記した■はノーラ本人ではあり得ない。

 では、■とは一体何者なのか。■とノーラの関係性は。


 ……いや、もっと根本的な疑問を提示しよう。そもそも彼女がその小さなお腹に宿した命は、本当に彼女の子供だったのか?


 当時の彼女は十一歳。身籠った時点の年齢で言えば、まだ十歳の頃だっただろう。勿論、年齢的に妊娠の可能性がないとは決して言い切れない。言い切れはしないが……満足な食事にありつけぬ劣悪な環境にあったが故に、普通の子供より明らかに発育が遅かった彼女にその時点で初潮が訪れていただろうか?

 

 寄せ集めの断章に突如として現れた謎の手記と謎の人物。

 そして、ノーラの身に起きた懐妊という異変。

 それらの正体を掴む事が出来たならあるいは――『七つの厄災』とは一体何なのかという根本的な謎についても明らかになるのかもしれない。



☆ ☆ ☆ ☆










  ……さて、ここまで二回に渡って〝貧困に生ずる色欲〟ノーラについての記述をかき集めてきたが、ひとまず彼女に関してはここまでだろう。

 彼女が生きた時代のせいかそもそも資料の絶対数が少なく、私の力をもってしてもこれが限界だったよ。

 なので一応、考証もどきを載せる事でお茶を濁しておく事にしたのだが……お気に召してもらえただろうか? 

 許しておくれよ、我が主サマ。

 これでも私はアナタの依頼に健気に懸命に全力で取り組んだのだから。

 ……尤も、今更アナタがこんな事を知ったところで、意味なんてないのではという私の意見は一ミリも変わっていないのだけどね。

 ――純白を失いし憐れな我が主サマ。


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