第十七話 《魔力点α》ゼムリャ・ゲオルグ【遊戯難度A+】 淫靡艶麗廃墟都市ラグニアⅩ――厄災から人類へ~贈るは死と絶望、それから両手いっぱいの愛憎を~
その歩みは屍の山を築き上げ、血の河を産み落とす死の行進だ。
「いやぁ……いやぁ!! こっ、来ないでェええ! いやぁああああああ――」
「死にたくないッ、死にたくないから私っ、こんな所で身体を売って――」
「た、たすけて……いや、子供がいるの。あたし、……離れ離れになった子供に、生きて会わなきゃいけないのに……あの子に会うまで死ねないのに、こんな――」
「……あなたは私を殺してくれる。これで、終われるんですね。でも、苦しいのは嫌、だなぁ――」
「……アナタを裏切った罰なのかしらね、あぁ、どうしてこんな事に…………なんで、アナタが死んでしまったから、わたしはこうするしかなかったのに……それで死ねだなんて、そんなの何て酷い――」
「出来心だったんだ。金が、金が欲しかっただけなんだよォ! い、いやだぁ……こんな、こんな見ず知らずのオッサンしか知らないまま惨めに殺されるなんて、そんなのアタシの人生間違って――」
醜い囀りに興味はない。
何を言われようが、どんな事情を抱えていようが、〝愛されている〟――嗚呼、ただそれだけで万死に値する。
しかし彼女とて礼節ある淑女だ。分別もつかぬ殺戮をただ撒き散らす殺人鬼ではない。
この憎悪をぶつける対象は、この嫉妬の炎で焼き尽くす相手は、唯一人と決まっている。
それだけを夢見て、ただその願いの成就の為だけに彼女は此処に立っているのだから。
故にただ一言、彼女は愛されている者達へと問いかける。
「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」
一人。
「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」
「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」
また一人、二人、三人四人……。
「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」
「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」
「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」
彼女の問いを否定しなかった者達の断末魔が連続し重なり合って鎮魂歌を形成する。
鎮めるべき魂は死者ですらない、嫉妬と愛憎に狂いし『厄災』。
しかし美しい女の形をした『厄災』の嫉妬と愛憎は、彼女のその魂は、偽りの■■■■を何人殺した所で収まる物でも、慰めきれる物でもない。
故に殺戮は、虐殺の歩みは、女の嫉妬と愛憎は止まらない。終わらない。死の叫喚は鳴り止まず絶望と怨嗟を奏で続ける。
「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」「――汝、我が愛憎に抱かれ滅びを辿る者也や」――
――ラグニア内部へ侵攻を開始したエディエット=ル・ジャルジーは目につく人間全てに片っ端からそう問いかけ、己の『厄災遊戯』へ巻き込み、殺戮の限りを尽くし続けていた。
彼女の頭上で輝くビンゴカードは既に三十を上回り、増減を繰り返しながら禍々しい輝きを常時放ち続けている。
許しを乞う者を殺し。涙を流す者を殺し。恐怖する者を殺し。絶望する者を殺し。愛される者の悉くを殺して回った。
相手が誰であろうと関係ない。
誰にも愛されなかった自分よりも愛されている時点で、彼女にとっては■■■■であるも同然。故に、問いかけを否定しなかった時点でそいつは殺害対象に他ならない。
己の嫉妬のままに愛憎をぶつけ、その命を奪う事に躊躇などありはしない。
だってエディエット=ル・ジャルジーは■■■■に全てを奪われたのだから。
これは復讐? いいや違う。そんな生易しいものではない。■■■■を嫉妬し憎悪し、■■■■を殺すのは、エディエット=ル・ジャルジーにとって呼吸と同じ。彼女が〝嫉妬に出ずる愛憎〟である限り必要な事だった。
淫靡な都は一瞬で斬殺地獄へと変貌した。
甘美な喘ぎ声が響き渡り、胸焼けするような甘い匂いに満ちていた娼婦街は、今や吐き出しそうな程に濃密な血の匂いと逃げ回る女の悲鳴、そして苦痛の終わりを乞い願う断末魔の叫びとで埋め尽くされている。
元より『厄災遊戯』に関する様々な憶測や噂が流れた影響で、街の至る所で女同士の殺し合いや、人の目も気にせずまぐわう男女の姿が見られ、混沌とした醜悪な地獄絵図を形成していたはずが――それらの混沌は全て『厄災』の生み出す救いのない凄惨な地獄へ飲み込まれてしまっていた。
「これでもない。それでもない。貴女でもない。これも違う、あれも違う、皆皆、全部全部全部貴女なのに■■■■じゃないッ……でもいいわ、いいのよ、いいんじゃない!? それでこそ殺し愛がいがあるんじゃないッッ!?」
文字通りに人間をちぎっては投げちぎっては投げ、エディエットはどれも■■■■ではないと嘆きを漏らす。
ご丁寧に街の端から中心部へ向けて敢行される死の大行進。
その進路に偶然居合わせた者達は、不幸にも彼女の『厄災遊戯』に巻き込まれその命をあまりにもあっさりと散らしていく。
ターンの経過を待つまでもなく、大抵の人間は三、四回殺されたあたりで自ら死を懇願するようになるからだ。
重なる死因は複数のカードに印を刻み、己のビンゴカードが埋まっていく恐怖に耐えられず、またも人間同士での殺し合いが勃発する。
価値観は崩壊した。
倫理観は崩壊した。
常識はとうに廃れ、道徳などまさに無用の長物。
あるのは残酷な生存競争。
己のみが生き残るべく、人は人を殺し、人を憎み、人を恐怖する世界。
『厄災遊戯』参加者は遊戯終了まで死ぬ事も許されず、また人間同士の殺し合いなど泥沼になる事は必至。
体力と気力を多量に消費してようやくヒト一人を殺している間に、エディエット=ル・ジャルジーは多量の屍を築き上げていく。
気づけばエディエットのビンゴがとっくに揃っており、ターンが経過していく恐怖に泣き喚きながら全身から血の泡を吹いて死んでいく参加者の姿もあった。
その苦悶と絶望に満ちた死に様が、心を揺さぶる断末魔の叫びが、ますます他の参加者たちの焦りを加速させ、人間同士の争いを、血で血を洗う殺し合いを助長する。
――エディエットより先に沢山殺せばきっと生き残れる。厄災遊戯に勝てる。だから殺される前に殺さなきゃ。沢山の人間の命を奪い、その死因を集め、厄災遊戯に勝って生き残らなきゃ……!
生き残りたい。怖い。死にたくない。痛いのは嫌だ。
生物としての当たり前の本能が目の前の大虐殺を、蟲毒の壺の如き殺し合いを強制させていく。
『厄災』の君臨したこの世界では、己がただ生き残るために、己以外の全ては殺すべき敵と化した。
阿鼻叫喚の斬殺地獄は膨張し成長し拡張する。
最早単なる斬殺では収まらぬ、狂乱狂気に満ちた殺し愛と血の宴がそこにはあった。
「うふふ……愛刃、愛刃刃刃刃刃刃刃刃!! ――逃げさない、逃がさないわ、逃がす訳がないじゃない!? だからたっぷり逃げ惑えばいいわ、いいのよ、いいのだわッ! そうして最後に、絶望して無様に命乞いするあの女の心臓を引き裂いてアゲルゥからァ!! 楽しみね、楽しみだわ、楽しみなのだわ! あの女もそうなのでしょう!? ■■■■ァアアアアッ!! ……愛刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃ッ!!!!!」
嫉妬に狂い、愛憎に壊れた女の狂笑が木霊する。
目に付く者全てを殺しながら進む夜空色の瞳は、常にただ一人を殺す光景を夢見て徘徊を続ける。
■■■■を求め、『厄災』は気ままにラグニアを蹂躙する。
☆ ☆ ☆ ☆
ある日突然、世界は終了し私達は地球の上から消滅した。
それなのに。
目が覚めた時、私達を待っていたのは日常と何一つ変わらない地獄だった――
――はじめて男の人に買われたのは小学六年生の春だった。
親の離婚と再婚。離婚相手との娘である私は、次第に疎まれ、家の中ではいないものとして扱われるようになっていた。
一日きっかり五百円。それが、私に与えられる愛情の全てだった。
お金に困ったのか、お腹が減ったのか、居場所が欲しかったのか、孤独を埋めてくれる何かを求めていたのか。
細かい理由なんて忘れてしまったけど、そのどれかだったと思う。
与えられないナニカを求め夜の繫華街を当てもなく私は、死んだような瞳をしていたと思う。
そんな私に、声を掛けてくれる人がいたのだ。
きっかけなんてそんなもの。
居場所もなく、愛もお金もなかった私は故に買われた。
抱きしめられて、孤独が埋まったような気になって――
――そうして全てが終わってから、その手に握らされた少しのお金を見て私はようやく実感するのだ。
一日働けば簡単に稼げてしまうような私の価値と、こんな手段でなければ自分を肯定することもできない己の弱さと醜さを。
私は価値のない私を肯定し、そして否定するために、今日も私を買う誰かを探している。
身体を売ることは、生きていく為に必要だった。
私の国は貧しくて、当然うちには学校に行って教育を受けられるようなお金はなくて、幼い弟たちを自分一人で育てていくには稼ぎのいい仕事につくしかなかったから。
――今日はとびきりおめかししてどうしたのって?
ふふん、内緒よ。内緒。
今日はね、お姉ちゃん、とびきり稼いでくるから。明日、誕生日でしょ? お夕飯はお腹いっぱいのご馳走作ってあげるから、大人しく待っててね。
寝ぼけまなこで尋ねてくる弟に優しく言い聞かせて、私は軽い足取りで家を飛び出した。
今日は海外からきた上客のおじさんの予約が入っているのだ。
会うのは二回目で、一回目の時も沢山お金を貰った。弟たちの事を話したら、次はもっと沢山の大金を用意すると約束してくださったおじさん。
……おじさんの相手をするのは大変だけど、でも、お金の為、弟たちの為なら頑張れる。
私は約束の場所へ、ご馳走を前にして喜ぶ弟たちの顔を想像しながら駆けて向かった。
……もう二度と、故郷の土を踏む事叶わず、弟たちの声も聞けなくなるなんて、この時は思いもしていなかったんだ。
男の人に身体を売るような私は、人に売られる事になっても仕方がなかったのだろうか?
きっかけは、ちょっとした好奇心と日々への鬱憤だった。
両親が医者と看護師だった私の家は、まあ比較的に裕福だったのだと思う。
少なくともお金に困った事はなかったし、忙しい親もたまの休みには一緒に出掛けてくれたり、なるべく一緒に食事を取ろうとしてくれたり、ちゃんと私を愛してくれているのは分かっていた。
けれど親と接する時間はやはり他の人とは少なくて、それを少しだけ寂しいと思ったこともあったのだと思う。
でも、それだけならきっと私は大丈夫だった。こんな風になったりはしなかった。
私を苦しめたのは孤独や寂しさなんかじゃなくて、両親の重い愛と期待そのものだった。
両親は私を心の底から愛していて、けれど私と長い時間を過ごしてこなかったあの人たちは、娘へ抱いた幻想をいつまでも捨てられなかったのだ。
――は凄い。将来はきっと私のような名医になるに違いない。そんな言葉を何の疑いもなく十六の娘に掛けてくる親というものは、正直に言って毒でしかないと思う。
そして私も、両親の幻想という名の期待を否定できなかった。
彼らの悲しむ顔、失望の眼差しを想像するといつも怖くて、完璧じゃないお前なんて要らないと言われそうで、足が竦んでしまったから。
イイ子ちゃんを演じる事も、親の重すぎる期待にも疲れてしまった私は――その時、お財布事情が厳しい中で欲しい洋服があったこともあり――軽い気持ちで裏で流行っていた出会い系サイトを使ってしまった。
最初は軽い気持ちで、非日常への好奇心から。
次第にそれは、日々の鬱憤を吹き飛ばすような背筋の痺れる昏い背徳感と肯定される事で得られる充足感を求めて。
お小遣いを貰えるだけじゃない。
そこには確かに私が求めていた何かがあった。
抑圧された自分を曝け出してもいい場所。イイ子ちゃんの私でなくてもいい場所。悪い子になった私を認めて、求めて、必要としてくれる誰かがいた。
その開放感と昏い背徳感は、金銭感覚と共に私の頭をおかしくしたのだ。
――辞めようと思えばいつでも辞められる。そう思っていたのに、まさか学校と親にバレるのが先だなんて思いもしなかった。
……人はきっと、私のような人間を蔑み侮蔑するのだろう。本当に生きていく為に身体を売る女の人が沢山いる中で、親が金持ちで幸せな癖に贅沢な悩みだと言う人だっているいかも知れない。
金に目がくらんだとか、遊びたかっただけとか、ビッチとか売女とか、SNSで好き放題書かれていた事も知っている。
けれど確かに、あの時の私はどうしようもなく追い詰められていたのだ。
そして微かな救いを、どうしようもなく求めていた。
私を買ってくれる誰かが、刹那の救いをくれる虚偽の愛がー―あの時確かに必要だったのだ。
売春は、娼婦は悪だと正義気取りの誰かが言った。
身体を売るなんて信じられないと育ちのよさそうな誰かが言った。
快楽を貪って遊ぶ金も手に入るなんてイイご身分だなと訳知り顔の誰かが言った。
世界の理解なんて得られない。
だって、それがあれば私たちはこうはなっていない。
本当に私たちを理解して、手を差し伸べて助けてくれる誰かがいたのなら、こんな惨めで無様な人生になってはいない。
だって、この世界にいたのは私たちの境遇を理解して、そこに漬け込む悪い大人たちだった。
私たちを助けてくれる人なんてどこにもいない。助けられる人なんてどこにもいない。
保護施設に入ったって家族を養えないと保護を断る者だっていた。
上から目線で説教してくる侮蔑の目が苦しくて嫌だった。
幸福そうな全ての顔を呪いながら生きていた。
売春でしか生きていけないのに、『女性の性を守る』と自らの正義に浸って生きる術を奪っていく傲慢な識者がいた。
この世は地獄だ。
それでも、生きる事を望むのは、欲なのだろうか。
生きる為に身体を売る私たちと、それを買う男達。
何が正義で何が悪で、何が正しくて何が間違っているのか、そんなの誰にも分からないし、分かられたくなんてない。
綺麗ごとを詰めこんだ正義で私たちを殴る人たちは、きっと自分の正しさと正義に今日も酔いしれている。
それが弱者を蹂躙する強者の傲慢である事も、きっと彼らは理解しない。
だから彼らが救った気になった私達は、今日もどこかで堕ちていく。
欲が欲を産み、欲を呼び寄せ、さらなる欲を加速させる負の連鎖がここにはある。
きっと人が人である限り、〝私たち〟はなくいなくなったりしない。
それでも。
この地獄のような世界で、それでも私たちは確かに生きていたのだ――
――ねえ、訳知り顔で正義を語ったいつかの誰か。
誰でもいいから教えてよ。
私達がしていた事は、『厄災』なんて怪物に無残に殺されなければならないような、人として全うな死に方すら許されない罪悪だったの?
☆ ☆ ☆ ☆
「……悪い、少し情報を整理する時間が欲しい」
結局、目頭を押さえながらの貞波の言葉に反対する者もおらず、ディアベラス達はしばしの間休息を取る運びとなった。
休憩になった途端、リズがやたら高いテンションで、
「じゃあ、せっかくこれだけ集まったことだし、ここらで盛大にぱーっとヤっちゃいましょっか☆」
などと言って床に敷いた布の上に果実や干し肉を広げ始めた。
リズが男どもからぼったくってやったと豪語する食料は十分な量があって、ディアベラス達は口々にリズに感謝の言葉を伝えながら久しぶりの食事にありついた。
独特な匂いのする干し肉は少し硬かったが、噛めば噛む程味が舌の上に染み出してきて中々美味しかった。正直、何の肉かはあまり想像したくない味ではあったのだが……ミロ達も細かい事を気にせず夢中になって肉を頬張っていたので、その辺りは気にしたら負けなのだろう。
果実はオレンジなどの柑橘系がメインで、その瑞々しい果肉は喉を潤し、干し肉の独特な風味が残留していた口内をすっかり爽やかにしてくれた。
食事が終わるとレギンはさっそくミロ達に構い始め――子供達も次第にレギンに心を許しはじめているのか――楽しそうに遊んでいる。
リズは壁に寄りかかって仮眠を取ろうとしているらしい、目を瞑ってじっとしていた。栄養を補給し思案を再開した貞波はブツブツと独り言を呟いて頭の中を整理しながら、何かヒントがないか既存の情報を再度洗っていた。
ディアベラスも性格の悪い弟にならい、目を閉じ身体を休めながら共有されたばかりの情報について再度思考を巡らせていく――
・ラグニア内での能力制限。
ラグニア内部では全ての女性のあらゆる能力が標準的な女性の値にまで強制的に低下する。神の能力者の場合は身体能力だけではなく干渉レベルまで低下するので、実質的に神の力を喪失する(男性に関しての影響は一切確認されていない)。
・格付け制度の存在。
より多くの愛を受ける――性行為(接吻や愛撫などの前戯も含まれる)を行えば行う程に順位が高くなる。順位が上昇することでラグニア内における自身の価値も上昇する。
また、失われていた能力もランキングに応じて回復、上昇していく。さらに高位者になれば身体能力や干渉レベルに+の補正が付く事もある(実証・確認済み)。
一般女性の場合、身体能力やラグニア内での発言力、権力などが上昇するとの噂を確認。ただし。これらも元より本人が持っていた能力であるとの事(現在調査中)。
ランキングに影響する経験人数や行為の回数などはラグニア内のみではなく現実世界での回数もカウントされる為、最初からランキング上位に食い込む場合もある(実例確認済み)。
・経済
貨幣制度が存在せず、物品の購入には店主に身体を売る必要がある(男性客が物品を購入する場合は、自分の所有する女を相手にレンタルする事で取引が可能となる。また、男性には無償で食事などのリソースが与えられているとの噂を確認。現在調査中)。
・男性の殺害を禁止。
娼婦が男を殺した場合、理由を問わずその娼婦を極刑に処す。負傷を負わせた場合、その度合いに応じた刑罰が下される。男性が娼婦を殺害した場合、娼婦のランキング順位に応じた罰が科せられる。
・首輪
ラグニアで暮らす女性はほぼ全員が首輪をつけている。首輪は娼婦や遊女の証であり、所有物である証明でもある。首輪を破壊する叉は首輪付きの女を攫う行為は強盗行為とみなされ、性別に関係なく極刑となる。
・不明な点
ラグニア内部でディアベラスの悪魔の一撃を応用した念話が通じない場合がある。念話が出来ない場合は相手を捕捉する事自体が出来ていない為、おそらくはラグニアやディアベラスに問題があるのではなく、念話相手に何らかの問題がある可能性が高い。
――新たに得た情報を整理し、これまで自分の目で見てきた光景と照らし合わせて精査する。
矛盾やおかしな点はやはり見当たらない。
(厄災遊戯とラグニアのルール、かぁ。また厄介なモンを考えやがる。貞波の言う通り、性格が捻じ曲がってやがるとしか思えねぇ)
しかし、これだけ街のルールと厄災遊戯について明らかになった事で、ディアベラスの中には決して無視できない一つのとある疑念が膨らんでいた。
(……あれだけの狂乱状態にあった街の連中の様子を見るに、あの場の全員が厄災遊戯の参加者であり、子宮に爆弾を仕掛けられてる当事者であった事は間違いねぇ。ラグニア内部にいる限り、女には能力制限が掛かるってのもレギンっていう証人がいる。だとしたら――)
――おそらく厄災遊戯の参加者でもなく、神の力に制限も受けていないミロ達は一体何なのだ……?
出会ってからここまでの間、ミロ達との会話の中でディアベラスはどうやら彼女たちが■宝探しと呼ばれるこの厄災遊戯の参加者ではない可能性が高い事に気付いていた。
もし彼女たちが参加者であった場合、真面目で頑張り屋なお姉さんのミロはともかく人見知りだが甘えん坊のロトや構ってちゃんのミトはお腹に感じる痛みや、脳裏に浮かぶ恐ろしい厄災遊戯のルール文書への不安を隠すことなどできないに決まっている。
なにより、ラグニアで当たり前のように神の力を使ってディアベラスを運んだと言っている以上、彼女たちが他の住人とは異なる立ち位置にある事はまず間違いない。
――厄災遊戯:『■宝探し』
・【指名手配書】この〝せかい〟で最も価値ある唯一無二の宝を暴き出し、迫る災いの魔の手より抱き守れ。
主催者:〝貧困に生ずる色欲〟、〝嫉妬より出ずる愛憎〟。
参加者:『魔力点』内部で存命の人類全てに参加資格あり。
制限時間:子宮内部の腫瘍が破裂するまで。
参加者勝利条件:制限時間内に上記条件を達成。
参加者敗北条件:死亡。
※主催者と参加者の立場はあくまでルールの上に平等で公平であり、遊戯の進行に著しい影響を及ぼす『神性』の影響を遊戯ゲーム中に限り無効にするものとする。
意識を脳裏に集中させるだけで鮮明に浮かび上がる厄災遊戯の条文。指名手配の体裁を取っているソレには、確かに〝『魔力点』内部で存命の人類全て〟との記述がある。
(……まず考えられる可能性は三つ。一つ、ミロたちが主催者側である可能性。二つ、ミロたちが参加者に当てはまらない存在である可能性。三つ、そもそも提示されたルールに嘘や抜け道がある可能性)
ミロたちが参加者でないという事は、ミロたちがディアベラスに嘘をついている主催者側の存在であるか……もしくは存命ではない人間以外の存在であるという事になってしまう。
特に一つ目はディアベラスにとっては最も考えたくない可能性だ。だが、ミロたちが嘘をついている敵側の存在である可能性は最も低いとディアベラスは考えている。勿論、感情論ではなく理屈の上で。
もし彼女たちが敵側の存在で、その言動がこちらを欺く為の嘘であり演技であるならば、自分たちに疑いのかかるような真似をするとは考えにくい。
ディアベラスを騙すつもりなら、厄災遊戯の参加者である演技をしなければ疑いを掛けられるのは明白だ。
逆説的に、彼女たちが厄災遊戯について何も触れてこない時点で、本当に何も知らない可能性が高いのだ。
となると考えるべきは残り二つ。
ミロたちが主催者側を除いて参加者の条件に当てはまらない存在であるパターンか、そもそも脳内に提示されたルールの方に間違いや何らかの嘘、抜け道があるパターン。
(主催者側でもなく、参加者にも当てはまらないパターンとなると、そもそも〝存命の人類〟じゃない、とかかぁ? ……ふざけんなよ、ミロ達が既に死者だとでも言いてぇのかぁ)
彼女たちは生きている。母親を失った悲しみも、頼る者もなく妹の為に叫び続けた彼女たちの不安も恐怖も本物だ。その温もりを、ディアベラスは知っている。
ミロ達が既に死者であるという可能性、その最悪をディアベラスは感情で拒絶していた。理屈など糞くらえと投げ捨てる。自分でも笑ってしまうようなダブルスタンダード。
それでも、そんな最悪を認める訳にはいかなかった。
ついで三つ目、指名手配書に記載されたルールの方に、何らかの抜け道や嘘があるパターンだが……
(……お手上げだぁ。そもそも書いてある事が何もかも嘘だとしたら、これまでの大前提が崩壊する)
厄災遊戯である以上、謎や暗号、引っ掛けなどの要素はあるとしても、ここに書かれている事全てが最初から最後まで何の意味もない嘘だった、という事になってしまえば厄災遊戯そのものが破綻してしまう事になる。
(俺やアスティなんざ力で圧倒出来る連中がわざわざゲームなんて面倒なものを仕掛けてくる以上、それはゲームでなけりゃならない意味があるハズだぁ。なら、この手配書に書かれた内容は正しい問題文であると信じるべきだろぉがぁ……)
となると、やはり最も可能性が高いのは二つ目という事になってしまう。
彼女たちが主催者側ではなく、なおかつ参加者側の条件に当てはまらない存在である、というパターン。
しかし、彼女たちが既に生命活動を終了した死者である、という可能性はディアベラスが拒絶した。
何の根拠もなく否定した。
……だが、少し考えてみよう。主催者側でも参加者の条件にも当てはまらない存在……それは本当に彼女たちが死者である事とイコールで繋がるのだろうか?
子宮にセットされたはずの爆弾がなく、自由に神の力を扱い、ランキングによる能力補正の影響外にある存在。
このラグニアにおいて、ラグニアの法則も厄災遊戯の影響も受けていない唯一の姉妹。
高熱に倒れたミトを助けたという謎の存在。
ミロ、ロト、ミトというどこにでもいるような仲の良い三姉妹が、このラグニアにおける何らかの特例である事は最早疑いようがない。
そして、だからこそ一つの可能性が浮かんでくる。
飛躍しすぎていると言われれば、そうだと認めるしかない。
だが、もしかすると、彼女たちこそがディアベラス達の探し求める――
「――ィア君。ディアベラス=ウルタード! おい、聞いてるかよお兄様さァ!」
「――っ! ……あぁ、悪い聞いてねぇ。何だぁ、どうかしたのかぁ?」
と、何やら自分の名前が大声で呼ばれている事に気付いて、ディアベラスの意識が現実へと戻ってきた。
何が起きたかまるで分かっていないディアベラスに、必死に声をかけていた貞波は呆れたような心配するような複雑な視線を向けて、
「……どうかしたのか、じゃねえよ。アンタ今の音マジで聞いてなかったのか!?」
「音……?」
「ああ、かなり大きかったぜ。って、ホントに聞こえてないのか……」
「ああ、ちと集中しててなぁ。つか、そんな事より何かあったならさっさと教えろぉ、時間もねぇんだぁ」
「アンタが言うかよ。……っまあいいや、雷みたいな凄い音がしたんだ。どうも、何かこの近くに落ちたっぽいんだよ。……どうする、果てしなく嫌な予感がするけど、これって確認に行くべきだよな?」




