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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
第六章 Ex 《接続章》 Re:starting reincarnation True hero ?  
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続・終話壱 再臨の贋作英雄Ⅰ――VS.■■■/潰えた希望・絶望と憎悪の連鎖の果てに:count 0

 一人のヒーローの終わり、その結末。読者諸君には彼の歩んだ道のりを、その最後を無事見届けて貰えたことだろうか。


 ……一人? おっと、もしくは二人だったかな(・・・・・・・)? まあ、それは各々の解釈・感じ方に任せるとしよう。


 物語の読み解き方、受け取り方は人それぞれ。作者の意図だの正解がなんだのと無粋極まりないことを論じるのは自称教育者を名乗る大層博識であろう連中に任せておけば充分だからね。


 ……少し話が逸れてしまったな。

 何はともあれ、終わりというのはいいものだ。良くも悪くも、人の心を揺らすだけのものがソレには籠められている。

 否定しよう、などと思わない事だ。私という存在は人の紡いだ文字と物語によって支えられている。だからこの私の趣向を形作っているのもまた、間違いなくアナタ達人間なのだから。


 故に私もアナタも、あらゆる事物の終焉に趣があることを決して否定することはできないだろう。


 少なくとも、ここまで彼の物語を見届けてきたアナタが大きく心を揺り動かしたのは間違いないハズだ。

 彼、もしくは彼らの迎えた結末にアナタは――



 ――絶望に心を砕いただろうか。


 ――悲しみに涙を流しただろうか。


 ――怒りに歯を喰いしばっただろうか。


 ――それとも、呆気ない結末を嘲笑ったのかな?


 ……どちらにせよ大いに結構。人の喜怒哀楽、そのどれもが私にとって好ましい感情で反応だ。


 空飛ぶ浮遊都市、人と神の能力者(ゴッドスキラー)の夢を乗せたオリンピアシスにて繰り広げられた三大都市対抗戦。

 七日に渡る長き戦いを追いかけたこの物語にも、ついにバッドエンドという結末が齎された。


 そう思った人もいるかも知れない。


 


 しかし――それでもなお、これでもなお(・・・・・・)物語は終わらない。



 さあ、ここからだ。


 物語はついに終盤を越え、しかし終わることなく続いていく。


 故にこそこれは接続章、物語と物語を繋ぐ為の物語。


 しかし、新たな物語を始める為には一度ナニカを終わらせる事もまた必要だろう。


 だからこそ、何となくでは終われない。きちんとぴたりとしっかりと、一度始めたからにはこの『三大都市対抗戦』と呼ばれる催しにも明確な終わりを齎そうではないか。

 例えばそう、こんな風に――





 ――三大都市対抗戦は、もう間もなく最悪の結末を迎える。


 それは東条勇麻の『消失』をもって。


 それは天風楓の『神化』をもって


 それは南雲龍也の『再臨』をもって。


 それは『■■の■■■』の『■■』をもって。



 ■による■()■■、■■■■が、幕を開ける。







 ……我が主サマの(救済)を拒んだ浅ましい選択、その末路。受けるべき報いを、アナタは受け取るべきなのだよ。


 彼女に三度目の死が齎された時、真実世界は終わりを告げるだろう。その時にこそ、自身の選択の浅はかさを悔みながら悶え苦しむがいいよ。


 だからこそ、このまま惨めに終わるなど他の誰が許してもこの私が許さない。
















 そうだろう、東条勇麻?



☆ ☆ ☆ ☆



 静寂をも塗り潰す極彩色。


 埋め尽くす糞尿と血河の織りなす濃密な死臭。


 不吉で不気味で悍ましく禍々しい地獄の顕現に誰もが言葉を失う中、唯一響いたその言葉だけがやけに煩く鼓膜を震わせた。




「――テメェは、……誰だ?」

 



 勇麻の姿形をした誰かは、その声で泉の存在に気が付いたのか、拳を振り抜き固まった体勢から自然体へするりと切り替えると声のした入場ゲートの方へと視線をやって、


「お、泉か。元気そうで何よりだ。こうして話をするのも久しぶり――って、あれ? そういえば黒騎士(ナイトメア)の騒動の時にあっちの俺とも全く同じ事を喋ってたか……。ま、俺にとっちゃ久しぶりなんだし、間違っちゃいないか」


 気の置けない旧知の相手との久しぶりの再会を喜ぶような物言いは、明らかに東条勇麻が発すべき言葉ではない。


 しかしそれは紛れもなく東条勇麻の声帯から発せられた、泉のよく知る東条勇麻の声だった。


 その誰かは、さらに周囲に順番に視線を巡らせて行って、


「ん、こうして直接見ると、やっぱり雰囲気変わったな、勇火。勇麻の成長とはまた違った意味で楽しみだったんだぜ? お前の成長はさ。――心配だったって言い換える事も出来るけど、ま、そっちは杞憂に終わったみたいだしな」


 東条勇麻の姿で、声で、東条勇麻ではない人間が喋っている。その違和感に、背筋が粟立つのが分かる。


「楓は……前回はいなかったから、本当に久しぶりだな。俺が知っている中で一番変わったのはお前だよ。勇麻にずっとべったりだったあの泣き虫姫が、まさかこんな立派になるなんてな。近くで見ていながら信じられない想いだったが、こうして直接目にしても……うん。やっぱり信じられないって想いが強い。――本当に頑張ったんだな、楓」


 それが、その口調や雰囲気が、聞いたことも見た事もないまるきり赤の他人のモノだったら、どれだけ良かっただろう。

 怒りと義憤の炎を燃やし、東条勇麻を内側から乗っ取った正体不明の敵を打倒すべく、この身の炎を燃え上がらせる事ができたら、どれだけ良かっただろうか。


「……海音寺」


 次に、勇麻のようで勇麻ではない少年は瞳を細め己の掌の中に視線を落とした。

 そこには永久の氷に閉じ込められた、とある青年が最後に流した一滴の雫が輝いていた。


 少年は、独り言のように手の中の雫に他者の介入を許さない複雑な万感の思いを込めて語りかけながら、クライム=ロットハートだった血肉の山へ歩み寄りその屍を漁り始める。

 グロテスクな肉塊の中から取り出したそれは、血にまみれた趣味の悪い金属製の髑髏のネックレスだった。


「全くさ、とんだ皮肉だよな。お前と勇麻が背中を合わせて共に戦い、その果てに掴んだ結末が〝俺〟とかよ、冗談にしても趣味が悪い。最悪だ。……ああ、ホント。吐き気がする。最高に最悪の気分だよ」


 少年は髑髏部分を取り外すと、フリーになった鎖の両端を今度は強引に涙の雫にねじ込み始めた。

 『絶氷』と呼ばれ不壊であるはずの氷に鎖の先端が僅かにめり込み、即席の氷の結晶のネックレスが出来上がる。

 それを己の首に掛けると、少年は満足げに、郷愁に浸るような笑みを浮かべて一人納得したように頷いて。


「でもまあ、仕方がないよな。勇麻。これがお前の選択だって言うのなら。俺が信じ希望を託した男の末路が、このザマだと言うのなら……」




 この世の全てに絶望したように。




「……悪が栄え憎悪が蔓延り殺意は芽吹き騒乱に未だ終焉は訪れず、人の希望が死に絶えたと言うのならば――」


 



 この世の全てを憎悪したように。




「――英雄オレが、世界を救うしかねえよな……ッ!」





 謳うようにそう言って、骨と肉が軋む程に右の拳を握り固めた彼がくるりと首を回した視線の先に――














 ――その死灰色の男は、君臨していた。















 世界が、悲鳴をあげた。











「ッ!?」




 見上げるような少年の視線の先、少年と向き合うように対峙する中空に佇む人影があった。

 

 一九〇を越える長身に、足元まで届くほどの死灰色の髪を靡かせる年齢不詳の男だった。

 乾き痛み衰え老いた髪の毛の質感とは裏腹に、どう見ても二〇代前半あたりの溌剌とした覇気を発するような目鼻立ちの整った西洋風の顔。

 若さ故の爛々とした光りと老獪な輝きを同居させるいっそ妖艶な瞳に、口元には聖者のように穏やかでしかし悪魔のように醜悪な笑み。

 ピンと張りのある少女のように若々しい白い肌とは対照的に、その指先の爪は年老いた魔女の鍵爪のような醜さを有している。


 ――総じて評するのならばソレは、どこまでもちぐはぐな騙し絵のような不気味で気味の悪い男だった。



 しかし何よりも異質なのはその男の圧倒的な存在感だ。


 いつそこに出現したかさえも定かではないというのに、一度その存在に気が付いたら絶対に目を離す事ができなくなるような、絶対的な〝神威〟とでも呼ぶべき異様な雰囲気オーラ


 まるで太陽がもう一つ地上に顕現したかのように、今にも世界を呑み込みかねない莫大な重圧の暴威に誰もが思わず呼吸すら忘れその場に立ち尽くしていた。


 冷や汗が止まらない。頭が痛い。胸が破裂しそうな痛みを発している。――無意識のうちに呼吸を止めている事に誰もが気付かず、身体中の細胞が救いを求めて呻きをあげていた。


 何故、と。そう問わずにはいられない。

 何故こんなものが現実世界に存在しているのか。あまつさえ自分達と同じ次元上に存在する事が許されてしまっているのか。世界のバグか不具合の類ではないのかと疑いたくなるような、そんな絶望感ばかりが心を支配する。


 血液が沸騰する。血が疼く。遺伝子に刷り込まれた何かが、ソレに抗う事を拒んでいる。

 この存在が、自分達を脅かす存在である事は容易に理解できる。敵意や殺意、害意の在り処に関係なく、ソレの指先一つでこちらの命が呆気なく吹き飛ぶ未来予想図しか描けない。


 勝てない、絶対に。理由は分からずとも嫌と言う程に分かる。分かってしまう。

 心ではない、肉体が。自分達を構成する細胞の一つ一つが。勝利を諦め戦う事を全力で拒んでいるのが分かるのだ。


 あの反骨心と闘争心の塊のような泉修斗でさえも、気付けばソレに対して拳を握る事をやめてしまっている。

 力無く拳を解いて呆然と口を開け瞳を見開いて、神の能力者(ゴッドスキラー)達はその存在を己が網膜に焼きつけ続ける。

 

 ――目を離したくないのではない。

 離せない。瞬きの一つすら許されない。

 何故ならソレから視線を切ったその瞬間に自分の魂や命がこの世から跡形もなく消滅してしまうのではないか、そんな強迫観念に襲われるから。

 

 立ち尽くしたまま微動だにできず、圧に屈してその場に跪くことすら許されない。

 衣擦れの音一つ立てたが最後、ソレの意識がこちらに向かいでもしたら、それで終わる。存在そのものに死刑宣告にも似た不思議な終焉の確信があったから。


 それは、『格』が異なる上位存在に対する絶対的な畏怖。


 彼らが神の能力者(ゴッドスキラー)である以上、その構造的に絶対に逆らえない干渉不可侵の法則存在。


 戦う前から必敗を突きつけられたその無様な敗者たちの有り様は、超常存在を前にした無力な人の末路に他ならない。

 



 ――ただ一人の例外を除いては。




「……よお、こっち(・・・)では初めましてだな。『探求者』」



 その一連の動作を、どれだけの人間が視認できただろう。


 回した首を後追いするように腰の捻りを加え、その場で右の拳を再度振り抜いた姿勢で固まる少年から向けられる睨み殺さんばかりの苛烈な視線に、『探求者』と呼ばれたその男――『特異体』シーカーは、微笑を浮かべた口元(・・・・・・・・・)から血の糸を伝わせ(・・・・・・・・・)ながら(・・・)己に刃向う少年を睥睨していた。



「……ふむ。とてもではないが、初対面とは思えない随分な挨拶ではないか。それとも、これが君達の信望する正義の行い、というものなのか? 『英雄』。いや――」




 ニヤリと。聖者にも悪魔にも見える緩やかなカーブを一気に嗜虐と愉悦に吊り上げながら、男はその名を呼んだのだった。




「――南雲龍也」



☆ ☆ ☆ ☆












 ――The ending of my hero――











 ――Re:starting f■k■ he■o……ジ、ザ……ザザ……




 ……ジザ……、■ザザ……ガガ■■ザザガガガッジガジザザッ、ザジ■ジジジジジザザザザザザ■■■ジジジジジザザザザザザザザザxt■■■ガガgザgザザザガガガガガガガsガッガジジジジジジジジジジgagagagagagッッッ■■■■<*>+{‘>{|~=$&%kp2:3l2、l;k@#$%&(’&(’&―――――――― 














 ――っ。――――――【warning!】最新人格(ソフト)上書き(アップロード)時に異常エラーが発生しました。

 異なる人格(ソフト)データの重複による動作不良バグ発生の可能性が危惧されます。最新人格(ソフト)のアップロードに伴い、肉体ハード内部に残存する不要な旧人格(ソフト)削除デリートを実行しますか?


 YES ◀

 

 NO



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ≪≪YES≫≫ ◀


 


 ……旧人格(ソフト)削除デリートを開始します。削除デリートには一定の時間がかかります。削除中は、不要な人格ソフトデータのロードを控えてください―― 

 


 ――第六章 急 再臨ノ贋作英雄……削除中……□◇□……削除中……◇□◇……



 ……第六章 破 三大都市対抗戦・下……削除中……□◇□……削除中……◇□◇……



 ……第六章 序 三大都市対抗戦・上……削除中……□◇□……削除中……◇□◇……



 ……第五章 引キ篭モリ聖女ト逃亡者ノ集イ旗……削除中……□◇□……削除中……◇□◇……



 ……第四章 悪意ノ伝道師……削除中……□◇□……削除中……◇□◇……



 ……第三章 災厄ノ来訪者ト死ノ狂宴……削除中……□◇□……削除中……◇□◇……



 ……第二章 涙空ノ咎人……削除中……□◇□……削除中……◇□◇……



 ……第一章 英雄ノ帰還ト亡霊……削除中……□◇□……削除中……◇□◇……□◇□……削除中……◇□◇……□◇□◇□◇……□◇□◇□◇□……データ削除率:七十五% 旧人格(ソフト)及び付随する全データ削除完了まで、残り二七五秒―――――――――
























 ――Re:starting reincarnation True hero ?




☆ ☆ ☆ ☆







 続・終話壱 再臨の贋作英雄Ⅰ――VS.■■■/潰えた希望・絶望と憎悪の連鎖の果てに:count 0





 続・終話壱 再臨の贋作英雄Ⅰ――VS.特異体/潰えた希望・絶望と憎悪の連鎖の果てに:count 0 







☆ ☆ ☆ ☆


 

 南雲龍也という男の話をしよう。


 


 それは正義の体現者。笑顔のままに無辜の人々を恐怖の底から救いあげる希望の象徴にして、対峙する悪には限りない恐怖と絶望を与える存在。

 誰よりも正義を愛し、誰よりも正義に愛された男。

 

 英雄、と。


 正しい意味でそう呼称するに相応しい、この物語セカイの主人公足りえる存在の話を。

 


 ……はじめに、その少年の中にあったものは真っ黒な――真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な真っ黒な黒に塗りつぶされた、『悪』への激しい憎悪だった。


 呪いのように、消そうとしても決して消えてはくれない心を塗りつぶす真っ黒な『憎悪』。


 それが、ただその感情だけが、『英雄』の始まり。

 

 かつて、始まる事さえ許されなかった『英雄』の、それが再起の感情だった。



 ――そうして。長き時を経て。今、『英雄』は『再臨』を果たす。


 

 『悪』をこの世から撲滅して全滅して殲滅して壊滅して撃滅して掃滅して廃滅して鎚滅して殲滅して消滅させる為に。


 

 『英雄』は、その血に塗れた手でもってこの世界を救うだろう。 



 世界の求めに、救いを求める人々の声に応じて。



 今宵もまた、絶望と憎悪の連鎖は終わらない。



 愚かな人は繰り返す。

 何度でも何度でも何度でも。そのドス黒い血に塗れた、正義の歴史と言うものを。


 繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す。

 少年の望みは、願いは、愚かな人には届かない。無力な人には叶えられない。端から誰もがそう決めつけて諦めているから。自分の無力を嘆いている方が楽だから。


 世界が英雄を声高々に望む限り、絶望と憎悪の連鎖は終わらない。終わることなく繰り返す。



 ――争いのない世界へ行った勇者はいない。

 


 ――人がいない楽園で悪魔たちは穏やかに平和を謳う。



 ――救われる者(ヒロイン)のいない救う者(ヒーロー)などきっと世界に必要なくて。



 ――裁かれるべき悪がいるから正義の味方は大手を振って街を往く。




 ……ああ、ならば。ならばきっと。




 ――希望が潰え絶望蔓延る世界にこそ、『英雄』は現れるのだ。 




 何故ならば英雄とは――絶望と憎悪の連鎖の果てに生み出される殺戮の化身『神の遣わす処刑人デウス・エクス・マキナ』なのだから。





 今日も世界で希望は潰える。


 今日も世界は絶望に沈む。


 今日も世界は憎悪に溢れる。

 

 だから今日も英雄は、絶望に応え憎悪に応え希望となるべく正義の殺戮を繰り返す。


 終わらない絶望と憎悪の連鎖の、悪循環する環の一部となって。



 未来永劫に、繰り返し、繰り返し、繰り返す。終わらない連鎖のそのまた果てに―― 

















 ――希望を、希って。



☆ ☆ ☆ ☆



 天井と地上に分かたれたその二人の対峙を、人はどう語るべきだろう。


 大人と少年。


 神と人。


 魔王と英雄。


 物語の一幕のような神々しさ漂うその光景の中心で、東条勇麻の姿でありながら南雲龍也と呼ばれた少年と、『探求者』と呼ばれた死灰色の男――シーカーの視線とが激しく交わり火花を散らす。


 誰もが呼吸をする事すら躊躇われるような圧倒的な不可視の圧力の中、しかし南雲龍也と呼ばれた彼だけはその胸に燻る極大の敵愾心と憎悪を隠そうともせずに『創世会』の頂点に立つその男を鋭い瞳で射抜いている。

 対するシーカーは、口元にこびり付いた己の血を楽しそうに親指で拭うと、それを磨り潰すようにしてから地上を穢す肉塊の破片に目をやって、


「……ふむ。君がこうして表に出てきたという事は、クライム=ロットハートは最後の最後で仕事を仕損じたか。アレは優秀で狡猾な男だったのだが……自分の楽しみに走りすぎるのが珠に疵な男でもあった。私が至る答えに、旅路の果てに彼と共に立てないという事が実に残念でならない。――君という存在の真実を測りきれなかったのが、彼の敗因かな」

「遅れて出てきてそれっぽい事言ってる所悪いが全く的外れで不正解だ、外道。あの男が死んだのはひとえにその性根が邪悪だったから。そしてお前も、同じ理由で今から俺に殺される」


 視線を殺意に細めそう断言する少年――南雲龍也に、シーカーは興味のあるモノを観察するような全てを見透かす透徹な視線を向け同時に浅く笑みを形作った。

 それからゆるりとしたゆとりある貫頭衣を仰々しい仕草で大きく横合いに広げると、


「この私を? 殺す? 神の能力者(ゴッドスキラー)である君が? ……面白い事を言うのだな、今代の英雄様は。ああ、実に面白い。是非、私を殺してみて欲しいものだ。――君にそれが出来ると言うのなら」

「いいぜ。お望みとあらば、叶えてやろう。――死に晒せ、『特異体』」


 会話はそれで打ち止めだった。

 元より、何かを親しげに語るような間柄ではない。ひとたび顔を合わせれば殺し合う事を約束された二人だ。

 衝突は必然。そして勝敗もまた必然、最初からどうしようもない程に定まっている――


「――はぁあああああああああああああああああッッ!!」


 ――だというのに、英雄の少年は地を蹴りつけ俊足の鏃となって己を上から目線に見下ろす支配者気取りの『特異体』へと一直線に突貫していく事に躊躇い一つ見せはしなかった。


 溢れ出す殺意と憎悪(・・・・・・・・)()勇気の拳が回転率を(・・・・・・・・・)あげる(・・・)


 突貫そのまま、天を撃ち抜くようにかちあげた右のアッパーカットが顎を揺らす直前に、男の左腕が反応。繰り出される南雲の拳をその掌で優しく受け止める。

 拳が引き連れた風圧に、遅れて世界が痺れる。受け止められた右拳ごと相手の左腕を振り払うように強引に横に薙ぎ、その反動を利用して反時計に回転。がら空きとなった男の胴体目掛けて左後ろ回し蹴りを叩きこむ。

 その肉体を上下に裁断すべく振り抜かれた左足の一閃を、シーカーは右肘で受け止める。

 その防御姿勢に勇気の拳(ブレイヴハンド)が反応。赤黒いオーラを明滅させ、シーカーに接触した瞬間に蹴りの威力が爆発的に膨れ上がる。

 鈍い音が炸裂し、悪魔的な破壊の鉄槌と化した一撃がシーカーの右肘を呆気なく砕いていた。


 さらに南雲は、振り抜いた左足を空中で上滑りさせると、当たり前のように空中で踏ん張りを利かせ、大きく開いた左足と連動するように引き絞っていた右の拳を、腰の捻りを十全に加えながら空気を引き裂き撃ちだした。


「らァああああッ!」


 裂帛の気合と共に繰り出された一撃に、シーカーはその頬を浅い笑みに引き裂いたまま、砕けた右肘を再生させると右の掌底を構え真っ向から南雲の拳を迎え撃って――

 



 ――両者の丁度中間地点で激しくぶつかり合う拳と掌に、可視化したエネルギーが光となって瞬いた。


 衝撃波が放射状に拡散し、それが世界を揺らす間もなく南雲が左の手刀を、左の蹴撃を、右膝での一撃を、次から次へと攻め手を変えてその打撃を叩きこんで行く。


 しかしその全てにシーカーは体術のみで渡り合い対応し、繰り出す打撃の全てが迎撃され、南雲の一撃はまともなダメージを与えるに至らない。

 僅か数十秒のうちに何十合と続いた打ち合い、その果てに両者が互いの打撃に押され弾かれるように中空で距離を取る。


 ……ここまで、空中での戦闘である事を除けば、両者は何の変哲もない近接戦に徹している。風圧と衝撃波を伴う拳はその威力・速度ともに申し分なく、二人の戦いが人外同士の戦闘であることは疑いようもない。

 だが、神の子供達(ゴッドチルドレン)同士のド派手な殺し合いに比べれば、これと言って特筆すべき点もないように思える単純な肉体によるぶつかり合いである事も事実だ。


 ――しかし、そもそも『特異体』であるシーカーを相手に戦闘が戦闘という形として成り立つ時点で異常なのだという事を理解できる人間が、この場にどれだけいただろうか。

 

 そして。一向にダメージを受けないシーカーに南雲龍也が苛立たしげに眉間に皺を寄せた、その直後。さらなる異常事態が発生する。



死ね(・・)お前は俺が憎むべき(・・・・・・・・・)悪だ(・・)



 憎悪に血走った目で、怨念の籠った呟きが少年の口から呪いのように漏れ出ると同時、掠りもしないであろう距離で南雲龍也が横薙ぎに振り抜いた右の拳の一撃に。



「――がはッ」



 これまでダメージはおろか痛みも何も感じている素振り一つなかったシーカーが盛大に吐血。冗談のような量の赤黒い血を噴き出しながら、直後見えない力に叩き付けられたかのようにその姿が霞み、刹那激しい地震が地上を襲ったかと思うと小さなクレーターを足元に造り上げていた。

 ……弾丸と化して地面に叩き付けられた男の姿が、その軌道がまるで見えなかった。

 これだけの一撃を受ければ、人体など原形も残らずにひしゃげて爆散するだろう。そう断言できるだけの、凄まじいエネルギーが介在する一撃だった。

 血煙と土煙が盛大に舞い踊る中、遅れて地上に降り立った英雄の少年。

 絶対的な悪を拳の一振りで地へと叩き落としてみせた張本人は、しかしどこか納得のいっていないような冴えない顔で自分が生み出したクレーターを睨み付けて、






「――それで? これで満足はいっただろうか? 『英雄』、南雲龍也」






 ……死灰の長髪が、風に踊って揺れる。

 あっさりと。

 まるで何事もなかったかのように砂埃のカーテンを切り裂いてクレータの中心から歩み出てきた年齢不詳のその男は、口元から赤い血を垂れ流しながらいっそ柔和な笑みを深めて南雲を見つめ返していた。

 

 その視線には確かな親愛が、一方的な好意にも似た珍しい存在への好奇心が色付いている。

 不躾に価値を値踏みされるようなその視線に、南雲の表情がさらに不快げに歪んでいくのを気にもせず、シーカーは心の底から楽しそうに口を開く。


「つまらないハッタリでも、実力差故の壁でもない。これはもっと根本的な問題だ。――君に私は殺せない。それは、この世界の法則故に決して超えることのできない純然たる事実。君達には抗いようのない決定事項だ。分かるだろう? 他でもない君ならば」

「……」


 異常だった。

 まるでそれが当たり前であるかのように、その身その所作からは戦闘によるダメージの気配が一切感じられない。


 南雲の一撃によって、その身体の内側が爆ぜ臓腑が粉微塵に砕け噴水のように吐血し超音速で地面に叩き付けられたにも関わらず、『特異体』シーカーは平然と五体満足でそこに佇んでいる。

 

 ……絶対的な速度でもって攻撃を回避している訳ではない。圧倒的な防御力を誇る防壁で全てを防いでいる訳でもない。

 攻撃は当たる。直撃している。骨は砕け、内臓は爆散し、肉体はひしゃげ、血反吐を吐く。

 それなのに、一秒後にはまるで何事もなかったかのようにその肉体は巻き戻しでもしたかのように復活している。再生とか回復とか、そういう次元の話とは思えない。

 こちらの全身全霊の攻撃の全てが最終的に徒労に収束してしまうという反則。存在自体が不具合チートの塊でしかない。

 此処までくると最早不死身だとしか思えないデタラメ具合だった。

 その身に赤い血が通っていたことがむしろ驚きだ。そう思えてしまう程に、その男は人間から――生命体から大きく外れてしまっている。


 そしてそんな事実を自ら肯定するかのように、シーカーはなおも饒舌に言葉を重ねていく。


「それだけの力を有していて、本当に憎くて憎くて仕方のない相手だけは殺せないというのも皮肉な話だが――さて。私も君との遊びにいつまでも付き合ってやれるほど暇ではないのでね。それで打ち止めだというのなら、終わりにしてしまっても構わないかな?」

「……」


 ……ああ、そうだ。勝敗は必然だった。

 南雲龍也がどれだけ死力を尽した所で、シーカーを倒す事は不可能。故に南雲に勝利はなくシーカーに敗北はない。

 それは実力差や言葉遊びのハッタリなどでは断じてなく、世界に横たわる純然たる事実――つまりは絶対的な法則ルールが存在するが故にである。


 地球が太陽の周りを公転するように。


 テロメアが細胞分裂の回数を有限と定めたように。


 人が酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すように。 



 『神の能力者(ゴッドスキラー)』と呼ばれる存在に、『特異体』は殺せない。



 何故ならば――




未だよちよち歩きの(・・・・・・・・・)子が親に勝てる道理(・・・・・・・・・)()どこにあるのかね(・・・・・・・・)?」




 ――シーカーがその掌を優しく翳した途端、南雲龍也の肉体が枯葉か何かのように呆気なく吹き飛んだ。

 


 先ほどまでの拮抗が嘘のような瞬殺だった。

 目にも止まらぬ速度でスタジアムの壁面に叩き付けられた少年は、そのまま崩壊した壁面の瓦礫に埋もれてしまって、その生死すら定かではない。

 ……しかし、南雲龍也がまともな人間だというのなら無事では済まないだろう。なにせコンクリートの壁を撃ち抜くだけの速度で叩き付けられたのだ。人体がひしゃげるには十分すぎる威力だった。



 仇敵を全力で殺そうとしていた英雄(南雲龍也)に対して、応じる魔王シーカーにとってその攻防は児戯の範疇を出ていなかった。



 知りたくもない、けれど容易に想像できてしまうそんな事実を、二度と希望的楽観が許されない形で無慈悲に突きつけられた瞬間だった。

 眼前で繰り広げられた絶望的な処刑に、神の能力者(ゴッドスキラー)達は呆然と立ち尽くしたまま言葉一つ上げられずにいる。


 どうにか気力を振り絞って一度は解けた拳を血が零れる程に握りしめる泉もまた、唐突に訪れた少年の呆気ない終焉に言葉を失っている。勇火や他の面々も同様の状態であった。


 絶望と同等の熱量を誇る怒りがある。許せないと、この絶望に抗おうという炎が胸の内で確かに燃え盛っている。

 なのに身体が動かない。眼前の敵を前に、一歩を踏み出せない。そんな自分の弱さが最も泉修斗を、その場に立ちすくむ神の能力者(ゴッドスキラー)達を絶望させていた。


 露払いを終えたシーカーは、立ち尽くしたまま動けないでいる者達には見向きもせずに、



「ふむ、終わりか。つまらない。……さて、些か味気なくはあったが、これで私の旅路を阻む邪魔者は――……ほう、流石は神の子供達(ゴッドチルドレン)と言った所か。私と対峙し、それでもなお立ち向かう気概があるとは」



 心の底から関心したようなシーカーの呟きを、空より降り注ぐ少女の絶叫が掻き消した。




「――シーカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!!!」



 ――常は己の肢体に巻きつけてあるウェーブブロンドの長髪が、風に揺れて踊り狂う。 

 『設定使い』が造り出した異空間せっていを『支配する者ディメンション・オブ・ルーラ』の干渉力でもって強引に切り裂き脱出した神の子供達(ゴッドチルドレン)の少女、クリアスティーナ=ベイ=ローラレイ。

 彼女は、かつて自分達の紛い物の幸福を踏みにじった久遠の仇敵を前にして激情を露わに咆哮した。


 しかしそれは、管理された幸福(ディストピア)を破壊された事への怒りや怨みからのものではない。

 ――確かにクリアスティーナは、自分達に残酷な真実を突きつけ、家族が崩壊する一因となった少年シロ……シーカーを憎悪し強い殺意を抱いていた事もあった。

 しかし今の彼女は己の齎した変化を受け入れ、停滞から抜け出し大好きな家族たちと共に前向きに未来へと歩みを進めている。

 今となっては自分達の目を覚まさせてくれた事を感謝してもいいと思っているくらいだ。……最も、それとシーカーに対する個人的な好悪の感情とはまた別問題ではあり、この男とは決して友好的な関係を結べないだろうという確信は小揺るぎもしない。


 なにせたった今、大切な友を傷つけられる瞬間を目にした彼女の胸中は、シーカーに対する灼熱の嚇怒に燃え上がっているのだから。


 そして、シーカーに対して激しく怒りを燃やす者はなにも彼女だけではなかった。




「――うァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」




 絶叫に暴風が暴威となって吹き荒れ、立ち尽くす神の能力者(ゴッドスキラー)達の間を一陣の突風が駆け抜けた。


 尾を引くように荒れ狂う暴風に崩れた石舞台リングの残骸が巻き上げられ、身動き一つ取れずにいた神の能力者(ゴッドスキラー)達が突風の煽りを受けひとたまりもなくその場に倒れ込む。

 風を纏い疾風そのものと成りて残像霞む速度で飛び出したその人影の正体を、しかし誰もが一瞬で理解していた。

 


 天風楓。


 

 心優しき神の子供達(ゴッドチルドレン)の少女が、大切な人を傷つけられた怒りに完全起動した。


 触れるモノ悉くを引き裂き切り裂く鋭利な風をその身に纏いて疾駆する神の子供達(ゴッドチルドレン)の少女の背から、三対六枚の黒々とした竜巻の翼が勢いよく飛び出す。荒々しく猛り狂う龍の如き翼は、少女の感情に呼応するかのように戦意に昂ぶっている。

 血走り、見開いた瞳に大粒の涙を溜める少女が掌を正面に翳す。そして少女の慟哭に応えるように、鎌首を擡げた二対四枚の翼が、その先端を少女の掌へ重ねるように寄せていく。


 ――結局、彼の少女を突き動かす根源は、絶望と喪失なのだ。悲劇と遭遇する中でしか強さを手に入れられない哀れな少女を、シーカーはかつてそう評した。

 そして今宵もまた、そんなシーカーの言葉を裏付けるかのように、哀れな少女は望まぬ悲劇によって身体の硬直を解かれていた。


 度重なる想定外の不測の事態に極度の混乱に陥っていた彼女の思考を吹き飛ばすには、シーカーの行いは充分過ぎたのだ。……そしてその身に湧き上がった怒りを衝動のままに解き放つ理由としても。


 耳を聾する超高音の嘶きは、瞬時に最高潮へと到達して、






 少女達が解き放ったのは極大の破壊だった。






「――『臨界突破リミットブレイク嵐撃終焉コントリッチオ・テンペスト』ッッ!!」 






「――『空間圧搾フランジット・トラクトス連続多重展開オーバーポイント』ッッ!」





 

 世界が破壊にめくれあがった。


 風を己が意思のままに繰る少女が放つは彼女が持つ中でも最大最凶の一撃。文字通り、戦いに終焉を齎す終幕の破壊。

 本来であれば周囲の風を掌の先へ収束し圧縮する為の溜めの過程(チャージ)を必要とする大技なのだが、神の子供達(ゴッドチルドレン)として完全に覚醒した楓は、自身の裡に渦巻く莫大な干渉力を一気に消費する事で溜め(チャージ)時間を短縮することに成功。

 瞬時に臨界に達した嵐の一撃は、掌と竜巻の翼の先端の空間が超圧縮される事でプラズマが生じ楓の干渉力の影響を強く受けた結果、黒色を帯びた知恵の輪のような暴威の輪の連なりとなって少女の掌より解き放たれた。

 台風やハリケーンを優に超える風速一五〇m/sオーバー。局地的な文明破壊を齎すだけの絶対暴力と、触れた端から物体を消し飛ばす超高密度のエネルギーの融合は、例え同じ神の子供達(ゴッドチルドレン)であろうとも防げる者は限られてくるであろう悪夢じみた超高火力の一撃と化して『特異体』へと牙を剥く。

 

 対してその超高火力を唯一完璧な形で防ぎ切るであろう次元と空間を司る少女が繰り出したのは、自身の持つ莫大な干渉力で空間を捩じ切る至ってシンプルな一撃。

 しかし、シンプル故にその威力は絶大である。空間ごと相手を捩じ切る為、いかなる手段を用いても防御は不可能。それはまさに必殺と呼ぶにふさわしい一閃だった。

 しかも今回はそれだけに終わらない。


 かつて東条勇麻と対峙した際は殺気や視線などから狙いを読み取られ回避される事も多かったその歪な斬閃を、クリアスティーナは干渉力の暴力で連続展開。

 逃げ場を潰すように空間一帯を歪な斬閃で塗り潰してみせたのだ。

 それは、一歩足を踏み入れれば確実に五体が捩じ切れ散華する死の地雷原。


 単なる地雷であったならば設置された場所を避ければ助かるものの、彼女のソレは後出しで空間を覆い尽くしてしまう反則技である。

 故にそれは、クリアスティーナの逆鱗に触れた時点でどうあっても回避不可能となる聖女による死の宣告と大差なかった。



 眼前に迫る破壊と死に、――しかしシーカーは思考を加速させてその破壊力の程を吟味するほどの余裕があった。

 


 ……なるほど。流石は神の子供達(ゴッドチルドレン)。愛しき我が子らの中でも、特段の寵愛を受けし奇跡の申し子たちの力だ。

 この一撃だけで、国を滅ぼし、小さな戦争一つを終結させるに十分な破壊と死を齎す事が可能だろう。

 一騎当千、いやそれ以上の存在として、彼女達はこの世界に存在している。


 人類が彼女達を恐れ隔離しようとするのも納得というものだ。これ(・・)が人格と意思を持って自由に世界を闊歩し感情一つでそれ(・・)を振りかざすと言うのだから、数だけは多い無力な彼らからすれば堪った物ではないだろう。


 『特異体』といえど、『知的生命体』である事に違いはない。これだけの破壊を無防備に受けるとなると、まともに五体が残る者など『肉体』に特化した『狡猾の蛇』くらいのものだろう。


 ――とはいえ、形ある破壊などシーカーの前にはそもそも意味をなさない。

 三柱の『特異体』の中でも『叡智』を司る『探求者』は、『神性ディヴィニータ』を半ば失った半端者の『狡猾の蛇』と異なりあらゆる意味で万能で完全な存在だ。


 故にこそ、南雲龍也との戦闘がそうであったように、どれだけ圧倒的な破壊に晒されようとも、その身に有する様々な力の複合・組み合わせ・併用によってその全てを無意味に帰してしまう。

 再生・修復・事象の回帰・無効化・巻き戻しetc……外部からのダメージに対する手段だけで、膨大な選択肢がシーカーの前には転がっているのだ。

 


 

 だが、シーカーを襲う『破壊』と『死』はそれだけではなかった。




「いい加減にうんざりだっつってんだよぉ。上から目線の支配者気取りがぁ」


 声は、空から。 

 特徴的な巻き舌の主は、眼下に君臨せし絶対存在へとサングラス越しに鋭い視線を投射していた。

 そして。



 直撃の寸前。『特異体』だけはその異変に気が付いた。

 いつの間にか、シーカーの周囲には妖しく光り輝く血霧が漂い始めていて――


「テメェが最強無敵の化け物だっつうんなら……あぁ、それもいいだろう」


 今回の戦いにおいてディアベラスはデザインキメラを一掃する為に『悪魔の一撃フォルティナ・ディアブロ』を連発し、さらには『ウロボロスの尾』を接続した『設定使い』から干渉力の供給を受け超大規模広範囲精密破壊砲撃『死の運命支配する(ルール・オブ・ディア)悪魔の涙雨(・ディアブロ)』をクリアスティーナと共に盛大に撃ち放った。

 これらの猛攻によってAEGスタジアム内はディアベラスの干渉力で満たされている。


 全ての準備は此処に整っている。


 干渉力とはすなわち、影響力。世界に強く干渉して不変の法則すらをも捻じ曲げる力そのもの。


 神の力(ゴッドスキル)とはすなわち神の模倣技。その干渉力でもって世界を書き換える、本来ならば神々にのみ許される反則(奇跡)、その一端を振るう力である。


 であるなばら、ディアベラス=ウルタードの干渉力で満たされた世界とは、ディアベラス=ウルタードの法則が支配するディアベラス=ウルタードの世界と同義である。



「――散り際なんざ誇らせねぇ。取るに足らない偶然に足を引っ張られて無様に呆気なく死に晒せやぁ……ッ!」



 ――『運命の悪魔は(ソルス・ディアブロ)宣告する(・プロフェシオ)



 運命の悪魔が告げる死の宣告は、全ての命に対して平等に偶然に不運にも襲いかかる。


 例え相手が無敵で不死身で攻略法などどこにも見当たらないような絶対的な最強であろうとも、〝明確に命があるというのならば〟、様々な偶然不運不幸の連鎖と積み重ねによってその命に終わりは訪れる。


 どう足掻こうとも無意味。


 何故ならば、生存の為に足掻くというその行為そのものが不運にも死へと繋がってしまうから。


 回復も、回帰も、再生も、時間の跳躍も、無効化も、その全てが無価値。なぜならば死を回避しようと何か行動を起こせばその全てが裏目に出て、何も行動しなければそれゆえに死は迫るのだから。


 何をするにも八方塞がりの死の袋小路。抗おうとも抗わずとも、無慈悲に無価値に平等に、死は全てに訪れる。


 故にそれは、この地球に生きる生命体の全てがこの世に生を受けた時点で当たり前に陥っている袋小路(死の終わり)で、だからこそ命ある存在であるのなら、発動した時点でソレから逃れる術などありはしない。


 シーカーの周囲に展開されたこれは、そういう法則で満たされた概念世界だった。




「……ふむ、これはしてやられ




 直後。偶然の死に満ちた世界に囚われたシーカーに、死と破滅が降り注いだ。

 

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