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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
第六章 急 ???????
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第七十二話 反撃開始Ⅰ――惨めに無様に滑稽に、それでも誰もが生き足掻く:count 1

 ――スタジアム通路内部。


 ホロロ達の救出と石舞台リング上の勇麻たちへの加勢へ向う増援担当のチームA……突破力と速度に自信のある天風駆、鳴羽刹那、東条勇火の三名は、ホロロ達の確保と意識を失っている逃亡者の集い旗(エスケイプ・フラッグ)の面々を治癒できる神の能力者(ゴッドスキラー)との合流の為、通路を覆い尽くす虫の群れを撃破し掻き分けながら医務室へと向かっていた。


 『雷翼』をその背に展開しその身体に雷を纏わせ常に筋肉を刺激している勇火の脳から筋肉への電気信号伝達時間は、今や人の限界である〇.一一秒すら越えている。

 そんな雷となって疾駆する勇火の前を行く背中が二つあった。


(……ホント、一々嫌になるな。例外どもめ……!)


 鳴羽刹那と天風駆。

 時折速度が目に見えて落ちるものの、指を鳴らす度にどこか違和感のある倍速送りのような動きを見せる鳴羽と、最も足の遅い勇火に合せ加減してなおぶっちぎりで先頭を行く幼馴染の少女の兄。

 疑似進化フェイク・デウス・プロモートを使っても手が届くか分からない。そう思わせる程に、勇火の前を走る二人の速度は異常だった。

 

「大丈夫かー、ちゃんとついて来いよー、カミっちー!」

「鳴羽センパイ、俺の事はいいですから前! 前っ!」

「……おっと、あっぶね!」


 さっきまでと比べやや勢いが鈍ったような気もするが、未だに視界を埋めるだけの大群を形成し群れで襲い来るデザインキメラの脅威は健在だ。

 そん中で平然と余所見をする鳴羽の緊張感に欠ける声に一々肝を冷やしながら、東条勇火は必要最低限の電撃で群がる虫を撃破していく。


 ……と、駆け出してからしばらくして、先頭を行く天風駆がその視界に目標地点を捉えた。

 

「もうじき医務室だ。中がどうなっているかは分からないけど、ひとまず負傷者の保護を最優先としよう」

「あいよ!」

「了解です……!」


 ついに医務室が目視できる位置まで来た。

 遠目から見てもはっきりと分かる程、医務室の扉という扉には多量の虫が張り付いている。

 

「俺がやります……!」


 バッと二人の前へ出るように加速する勇火の背で『雷翼』が光り輝く。

 掌へと収束した疑似電気エネルギーの形状を整え、一条の槍としたそれを素早く投擲。文字通りの雷撃の槍が扉へ群がる昆虫群へと突き刺さり――弾けるように炸裂した眩い放電が周囲を飛んでいたデザインキメラをも次々と撃ち落としていく。

 さらに放電が終わると同時、力強く床を蹴りつけ一気に亜音速の領域へと加速した天風駆と、駆を対象としてその一手先を行くように『刹那捕縛キャッチ・ザ・モーメント』を発動している鳴羽刹那が、勇火が落とし損ねたデザインキメラを徒手空拳にて超高速で刈り取っていく。

 張り付いていた虫が一掃された扉に、勇火はそのまま飛び付くように駆け寄って勢いのまま扉を開け放った。


「――無事ですか!?」

「――ひゃあっ!?」 


 鍵は騒動の中で壊れていたらしく、力任せに捻ったドアノブはすんなりと回った。

 ドアノブを捻り、手前に開くタイプの扉を勇火が全力で開け放った途端、悲鳴と共になにか柔らかく温かいものが勇麻の胸に飛び込んできた。

 反射的に受け止めた勇火の腕の中、そこに視線を下ろすと、


「えっと、あの……ビリアン、さん……?」


 黒髪碧眼のふわふわした穏やかそうな少女が勇火の胸に突っ込んでぶつけた額をさすっていた。


「いたた……あれ、東条勇火さん、ですか? もしかして、私達を助けに……?」


 どうやら、デザインキメラの侵入を食い止めようと必死で扉を押さえていたらしいビリアンが、勢いよく扉が開け放たれた事によって勇火側へと投げ出されるように倒れ込んで来たようだ。

 不安と恐怖に揺れていたくりっとした真ん丸い碧色の人懐っこそうな瞳が、すぐさま喜色に切り替わり助けに来てくれた勇火を上目遣いにじっと覗き込んでいる。

 衝突を受け止めた拍子に密着した少女の身体の出っ張った一部が、勇火のお腹あたりに当たってふにょりと幸福な感触を広げていた。 

 

(ヤバいヤバい良く分かんないけどこれは色んな意味でヤバい……!!)


 兄には散々文句を言う割にこういった事態に一切免疫のない勇火が、どう対処していいのか分からずに頬を真っ赤に染めあげて硬直していると、想定外の所から助け舟が出た。 


「あのさ、いちゃいちゃしてる所申し訳ないんだけど、ここから連れ出すなら連れ出すでさっさとしてくれないか?」 


 どことなく怠そうな指摘に、勇火の硬直が解けビクンとその肩が跳ねあがる。

 受け止めた拍子に思いっきりビリアンの背中に回していた腕を跳ねあげ、密着していた少女の身体から飛び退くように離れた。


「……わっ、と。ごめんなさい。私、気が動転しちゃってるみたいですね。何だか失礼しました」


 遅まきに状況を理解し少しだけ気恥ずかしげに頭を下げるビリアンの口から漏れ出た声は、どちらかと言えば勇火の動作に驚いてのものだった。向こうは、先の接触に対して特に動揺したり慌てたりする様子も何もない。それが余計に勇火の羞恥を加速させた。

 ……こんな時に、こんな馬鹿げた事をしている場合じゃないだろう俺ッ、兄貴の病気が移ったのかよこの馬鹿ッッ!

 そんな風に歯を喰いしばって心の内で自分を罵倒しなければならないくらいには、心臓が煩い。勇火はまともに目を合わせる事も出来ずに頭を搔いた。


「いや、俺の方こそごめん……っ」

「……頼むぞ救援、しっかりしてくれ。患者もいるんだ、アンタらが虫を消し飛ばしてくれたってのは感謝するが、それで新手に襲われたら本末転倒ってヤツだろう。感謝すべき相手を呪わなきゃならなくなるのはこっちとしても色々と気分が悪い。アンタらにちゃんと感謝をさせてくれ」


 情けない少年に対する盛大な溜め息は部屋の奥、シャラクティ=オリレインが寝かされたベッドの横に立つ少女が音源だった。

 焦げ付いたような痛んだ金髪と、目つきの悪いジト目。タイトスカートに白衣を羽織り、頭にフリルカチューシャを嵌めた保健室の先生のコスプレをした中学生のような少女だった。


 助けて貰ったにしては中々に尊大な態度だが、言っている事は正論だ。

 勇火に対して呆れたような声をあげた金髪少女は自分に視線が集まったのを感じたのか、頭のフリルカチューシャの位置を治すように髪の毛に触れて姿勢を正すと、


「……ああ、自己紹介がまだだったか。アタシは千寿千湯せんじゅちゆ。一応、対抗戦の為にオリンピアシスに配備された医療チームのトップを務めてた者だ。それで? ここに来たって事はこの子らを助ける為……だけって事でもないんだろ?」


 ホロロが押さえていたもう片方の扉から入ってきていた駆と刹那の方も値踏みするように眺めながら、少女――千寿千湯は、気怠げな調子でそう言った。 



☆ ☆ ☆ ☆



 喰われるモノと喰らうモノの衝突、命を滾らせる明日への雄叫びが『AEGスタジアム』を震わせる。

 大勢の観衆の前で日々の努力を発揮し己の強さを表現する場である、闘技場の名残を残すそのスタジアムでは現在悍ましくもありきたりな生と死の饗宴が、ごく当然の生存競争が繰り広げられている。


 しかし、デザインキメラが標的とするのはあくまで命あるもの全てである。

 いかに天空浮遊都市オリンピアシスの大半の人間が試合観戦の為にスタジアムに押しかけていたとはいえ、スタジアムの外にも多くの観光客や店舗を運営する人々が残っている。醜悪な虫たちの矛先の一部が街に向かうのは、ごく当然の事であった。

 古代ギリシアの遺跡群を意識してつくられた美しく幻想的な白亜の街。目の眩むような純白を基調に所々に混じるマリンブルー色、それらが太陽光を反射して美しい輝きを織りなす雪花の如き街並みも、今は血と臓物と油で穢れ、地獄絵図の渦中にある。


 そんな血に汚れた白亜の街で最も高い尖塔のうえに立つ海賊船の船長じみた筋骨隆々の隻眼の男は、耳に嵌めたイヤホンから流れる声に耳を傾けていた。


『――以上が、現在の天空浮遊都市オリンピアシスの状況です』

「……悪いな、黒米。お前さんみたいなベテランに、雑用じみた裏方ばかり任せちまって」


 楓がブラッドフォードに師事する事となった件を報告して以降、黒米には別の任務が言い渡されていた。

 それは『雷雨の狂気』事件以降継続して続けられている重要案件『特異体』パンドラの監視任務。

 対抗戦初日。パンドラがオリンピアシスの外で何者かと交戦し、天空浮遊都市全域に張られた『神性』避けの結界を破って内部に侵入したという事は判明している。だが、その後の足取りが全く掴めていないのだ。

 彼女がシーカーの計画においてどのような立ち位置にあるかは定かではないが、シーカー率いる『創世会』と敵対している事は分かっていた。

 とはいえ、こちらに与する様子も見られず、制御は出来そうにない。となると、スネーク達としてもこの大事な時期に『特異体イレギュラー』であるパンドラを野放しにしておくわけにはいかない。

 対抗戦も佳境に差し掛かり、ブラッドフォードという新たな登場人物によって状況が動いたのをきっかけに、黒米には彼女の動向を探って貰っていたのだ。   

 ……尤も、対抗戦最終日に差し掛かった今もパンドラの居場所を探る手掛かりは無い。おそらく、結界を破った際にシーカーの罠に嵌められたとスネークは考えているのだが、それがどのような物なのかまでは流石に想像がつかなかった。


『いえ、これが私の仕事ですから』


 申し訳なさげなスネークに黒米は涼しげに返答した。

 どことなく漂う苦笑の雰囲気が、特別にスネークを慮り気遣っている訳ではなく、気負いない素の受け答えである事を告げていて、付き合いの長い部下の態度にスネークは少しだけ救われた気分になった。


「……助かる」

『ここまでしょげてる団長も珍しいですね。お礼というのなら、素直に受け取っておきましょうか。どういたしまして。そんなに感謝の気持ちを表明したいなら、後でお寿司でも奢ってください』

「寿司か……いいね。久しく行ってねえなぁ、そういや。ま、海老は勘弁な気分だが……」

『回らない方でもいいですよ、団長スネーク

「はは、そいつはいいや。そんじゃ、助かるついでにもう一つ、続けてお前さんに助けて貰うとするかな」

『おっと、開き直りですか? 団長スネーク

「ま、そうかもしれねえな。外は任せろと大口叩いたは良いものの、今の魔術の使えん俺一人じゃ色々と限界があるもんでな。つー訳で――」


 顔をあげ、凄惨たる街の後継を今一度瞳に刻み付ける。

 眼前に広がる人々の絶望。スネークの慢心と怠惰、そして傲慢が招いた敗北。その結果がこれだ。

 罪に罪を塗り重ね、負債はどこから返済すればいいのか見当もつかない。

 それでも、これ以上この光景を許容する訳にはいかない。

 これ以上の血は許さぬと自ら宣言した世界最強ボルテックスは、練り上げ巡らせた濃密な魔力が全身に行き届いたのを確認して、続けて一言。


「――座標の指示は任せた」

『了解。任されました、団長』


 落ち着いた返答の後、数字の羅列が耳元で鳴ったと同時。スネークが膝を撓めたかと思うと、尖塔が木端微塵に吹き飛び男の姿が目視不可能な速度で射出された。

 魔力を通した肉体による全力跳躍。

 軽く音速を凌駕し弾丸となったスネークが都市の端から端までを僅か十秒足らずで駆け抜けた。

 強力な『風力使い』が放ったのかと錯覚するような衝撃波が、男の軌道上をなぞるように遅れて走り抜け、人々の身体を天高くへと舞い上げる。

 デザインキメラに襲われ逃げ惑っていたハズが気付けば空高く巻き上げられている。彼らの驚きようは、当事者にならない限りきっと理解できないハズだ。

 意味不明な状況―ーしかもいつの間にか死地を脱したかと思えばまたもや死地――に人々が悲鳴と共に落下する寸前、来た道を戻るように衝撃波がもう一陣同じ軌道上を駆け抜けていき、落下の衝撃を殺してふわりと人々を着地させる。

 何が起きたのか分からず、途方に暮れる人々。しかも彼らが空へ舞い上げられている間に、彼らに群がっていたハズのデザインキメラが全て身体に風穴を開けられ絶命していた。

 よく分からないけど自分達は助かったのか……?

 ぽかんと困惑した様子で顔を見合わせる人々を量産しながら、正体不明の衝撃波はオリンピアシスを走り抜けていく。


「次!」

『――E44』

「次だ!」

『――C02、D25』


 現在、緊急事態につき黒米に与えられていたパンドラ捜索兼監視の任務をは解除されている。

 代わりにスネークが黒米に任せたのは、スネークの〝目〟だ。


 黒米の『空間爆裂フィールドデネイト』は視界に収まる範囲内の指定座標を爆発させる神の力(ゴッドスキル)だ。

 『射程・精度』を上げれば『威力・範囲』が下がり『威力・範囲』を下げれば『射程・精度』が上昇する、という反比例の特性を持っている。

 黒米はこの特性を応用。

 〝視界に収まる範囲しか爆発させられない〟という自身の力の制約を逆手に取り、〝爆破できるという事は視えているという事〟であると過大解釈。『威力・範囲』をゼロに設定する事で『射程・精度』を最大値まで上昇させ視認不可だが理論上は爆破可能な範囲を広げることで、視界に収まる範囲を逆説的に広げてみせる――千里眼じみた遠方視の獲得という荒業をやってのけたのである。

 とはいえ、元より出来る事に限りのある神の力(ゴッドスキル)の〝拡張〟はそう容易なものではない。

 感知系にも見劣りしない広範囲索敵能力。黒米はこの力を自らの物にするまでに、およそ数年に及ぶイメージトレーニングと激しい鍛錬。そして干渉レベルBプラスからAマイナスへと到達する時点で一度『神化』も経験していた。


『G23――団長ッ、F07に急行! まずい、逃げ遅れた子供が……!』

「――っ、身体がいくつあっても足んねえな、マジでよッ!」


 悪態を吐きつつも、スネークの足が止まることはない。音を容易く踏破するスネークの鋼の肉体は、弾丸よりも速く悲劇を砕いていく。


 無線より告げられる英数字の符号(コード)は、作戦領域オリンピアシスの座標コードだ。

 これは背神の騎士団(アンチゴッドナイト)独自のコードであり、作戦参加メンバーは当然これを暗記している。 

 緯度や経度を用いないのは作戦内容の漏えいを防ぐ為であり、作戦地域がある程度決まっている場合は出撃前にあらかじめ該当地域を細かく区分しておくのだ。 


 ヘリコプターに搭乗し上空から街を一望する黒米からの座標ポイントの指示にスネークが現場へと急行。

 今まさにデザインキメラによって奪われようとしていた命を間一髪に助け上げ、死の瞬間すら分からないような速度で繰り出される一撃にデザインキメラが一瞬で絶命する。

 後に残るのはやはり衝撃波と、未だに自分が助かった事が信じられない呆け顔の被害者たちだけだ。

 

 二人のやっている事は言ってみれば補助者スポッターと狙撃種《スナイパ―》のようなもの。

 しかしこの場合、黒米の指示で標的を撃ち抜くべく発射される弾丸は鉛玉でも砲弾でもなく、スネークそのものであるという一点が、明らかに常識を逸している。

 馬鹿馬鹿しすぎていっそコミカルですらある現象を力技で成立させてしまうという理不尽。

 流石のデザインキメラも、卓越した〝個〟である『特異体』の理不尽さの前には成す術がない。


 まさに宣言通りだった。 

 黒米のサポートありきとは言えたった一人。

 ただ一人の『特異体』の参戦によって、スタジアム外を跋扈するデザインキメラ達が栓を抜いたお風呂のお湯みたいに、面白いくらいの勢いでその命を冥府へと吸い込まれ数を減らしていく。



☆ ☆ ☆ ☆



 狩屋崎礼音は怒り心頭だった。


 ――そろそろ忘れている者もいるであろうから捕捉説明させて貰うとしよう。

 狩屋崎礼音かりやざきれおんとは、今現在怒り心頭になっているこの青年の事であった。

 年齢は二十二歳。やたらと高級そうな趣味の悪いピンクのド派手なスーツに身を包んだ、目鼻立ちは整った二枚目系の美形の青年で、繰り返しとなるが顔形は大変整っており女性からの人気も高い……のだが、その表情や仕草からは高慢さが滲みだし、美人とあれば誰であろうと言い寄る節操のなさと軽薄さは時折ネットで炎上を引き起こす。

 まさに嫌味な金持ちのイメージを一二〇パーセント濃縮還元したような男なのだった。


 さらに詳しく追記すると、対抗戦出場選手であり天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)Bチームのリーダを務める干渉レベルAマイナスを誇る強大な神の力(ゴッドスキル)流麗雪火カオスブリザード』の使い手であり三大都市対抗戦のスポンサーの一つでもある狩屋崎財閥の御曹司でもある。

 ちなみに、対抗戦への代表選出もスポンサーである狩屋崎財閥のコネを使ったのではないか、と言われているがそこはしっかりと実力で選出されていたりする。

 人格に難はあれど神の力(ゴッドスキル)を含め、能力は優秀なのである能力は――

 


 ――っと、だからそもそもそういう説明を含めて全てにおいておかしいだろッ!


 ……と、狩屋崎は自らの脳内で勝手に自己紹介を始めた謎の存在に向かって心の中で鋭く突っ込みを入れていた。

 頭の中で一人でボケて一人でツッコミを入れるくらいには狩屋崎の精神は摩耗していると思って貰えればそれでいい。

 それくらい、狩屋崎の怒りは頂点に達していたのだ。

 

 ……そもそもだ。この対抗戦はそもそもからしておかしい。

 よくよく考えても見て欲しい。

 聡明な人間ならば一目で分かるハズだ。そう、圧倒的に足りないのだ……!!!

 




 

 この、一〇年に一度の天才神の能力者(ゴッドスキラー)、『流麗雪火カオスブリザード』狩屋崎礼音の出番が!!







 圧 倒 的 に ! 足 り な い の だ ! ! !  







 三大都市対抗戦の運営は、放送局は一体何を考えているのか。

 どこを切り取ってみても狩屋崎の出番が少ない! 少なすぎる。

 

 一日目は癪に障る田舎者の東条勇麻とかいう男の弟ばかりがピックアップされていたし! 

 (※ちなみに狩屋崎のチームは狩屋崎にまわる前に失格)

 二日目は癪に障る田舎者の東条勇麻とかいう男のチームメイトのガラ悪いヤツと十徳十代とかいうランドセルと短パンがお似合いのクソガキばかり持て囃されていたし!

 (※ちなみに狩屋崎は二日目総合五位で天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)のなかでは第二位)

 三日目以降など全然映っていない! 癪に障る田舎者の(以下略――

 (※ちなみに狩屋崎はそこそこ活躍していたにも関わらずトレファー=レギュオンの手品ゴッドスキルによって実況席に飛ばされ、貞波嫌忌に威勢の割に使えないDQNとディスられている)


 満を持して出場した武闘大会では予選でまさかの敗北。しかもその様子はダイジェストで放映され、狩屋崎の活躍していたシーンは一切映っていないという始末! こちらの隙をついて勝っただけのシーライル=マーキュラルとかいう卑怯なモブばかりをカッコよく映しやがったあの局とはスポンサー契約を切るように御父上に言いつけてやると狩屋崎はオンエア直後速攻で決意したものだ。

 しかもさらに腹が立つのは、狩屋崎礼音まさかの敗戦を大きく報道する新聞や局がどこにもない事だ。記事やニュースの大半をあの癪に障る田舎者の(以下中略――


 ――だいたいあの田舎者は狩屋崎礼音を何だと思っているのか。折角少しだけ、ほんの少しだけ認めてやらないでもないと思って何度か声を掛けてやったというのに反応があまりに薄い! 薄すぎる!! こちらが折角憎まれ口を叩いてやってものほほんとしたまま適当な言葉を返すばかりでてんで反応がない。全く気にしていないどころか、時々可哀想なものを見るような目で見られるのが納得いかない!!

 ……こう、漫画やラノベだったらあまりの薄さにそのシーンが確実にカットされ削られているであろう興味の無さが伝わってくるあの生返事はおかしいだろう!!! 

 御曹司だぞ? 大企業の会社の一人息子だぞ? 言っては何だがこの世に数十といない大金持ちだぞ?

 もっとこう……仲良くなってみたいとかお近づきになってみたいとか媚を売っておきたいとか色々あるだろうが普通ッ!!

 なんだって安っいコーラ瓶でシャンパンファイトなのだ。

 僕の家に来れば時価数億のシャンパンだろうがワインだろうが浴びるように呑み、自家用プールを貴様らの家より高い酒で満たしてそこに飛び込む事だって出来るというのに何なのだ東条勇麻とその周りの馬鹿どもは……ッッ!!!

 

 ……と、まあ心の裡でこの対抗戦に対する不満を全てぶちまけた狩屋崎礼音。彼の独白をここまで読んで貰えれば、その怒りの凄まじさが分かるだろうこと請け合いだ。

 

 そんな訳で、狩屋崎礼音は怒り心頭だったのだ。そう――



 ――つい、さっきまでは……。



「こっ、こんなの僕は聞いてないぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 涙目になりながらスタジアム内の通路を爆走する狩屋崎礼音は頭を沸騰させていた怒りを投げ捨て恐怖に感情のメーターを振り切っていた。

 背後から追いかけてくる一〇〇は越える無数の羽音から逃げ惑い、全力疾走する狩屋崎。整った顔立ちは涙と鼻水とでぐしゃぐしゃに。お金持ち様の気品も威厳もへったくれもなく、恥も外聞も投げ捨てて我先にと出口目掛けて駆け抜けるその様は、滑稽を通り越していっそ清々しいものさえ感じさせた。

 どうしてこんな事になったのか。事の始まりを辿ればスマホに入った十徳十代からのメッセージが原因だった。

 『――、に今すぐ集まってほしい。皆さんの力が必要だ』

 予選で早々に敗北してしまった狩屋崎礼音はぶっちゃけ暇をしていた。

 香江浅火や上久保七春と一緒にオリンピアシスを回ったところで面白くもない。ホテルの部屋にこもって一応武闘大会の中継をテレビで何となしに眺めながらスマホを弄り時間を潰していた。

 そこへ十徳十代からのメールだ。

 あまり関わりのない相手だが、君が必要だ、などと言われて悪い気はしない。

 まあ仕方がない、そこまで言うのならこの僕がわざわざ行ってあげない事もないかなー、と内心の喜びをひた隠しにしつつしっかりと髪型をセットし、部屋着のジャージから衣装へ着替え、主役感を醸し出す為にわざと十分くらい遅れて集合地点に顔を出した――それが運の尽きだった。


「なっ、なんでこんひゃ……っ! こんなドッキリは聞いてないぞォ! む、虫は苦手なんだよ僕はだからこういうのは事前に話を通しておいてくれって言ってるだろういつもいつもッ! なあおいどこにいるんだよ仕掛け人! 十徳十代!! ……頼むから誰か出てきてくれぇえええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!」


 十徳から狩屋崎に送られてきたメール、実はあれは天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)の面々に一斉送信されたものであり、狩屋崎が遅れて集合地点に到着した時点で時既に遅し。他のメンツはその十分前にとっくに集まっていて、集合時間になっても来なかった狩屋崎は来ないものとして既に集合場所を離れてしまっていたのだ。

 端的に言うと、堂々遅刻したアホは置いて行かれたのである。


 結果、意気揚々と誰もいない集合場所に顔を出した狩屋崎を出迎えたのは一〇〇を優に超えるデザインキメラの群れだった。

 キシキシ……ギロリ。壊れた錆びかけのロボットのような動作で振り向いた連中と目があった瞬間、狩屋崎礼音は誇りも矜持も何もかもを投げ捨てて大絶叫しながら全力疾走を開始した。

 虫全般が大の苦手な狩屋崎は、全力疾走しつつ背中側に向けた掌から見もしないでデザインキメラ目掛け猛吹雪を的確に射出する、という中々に器用な真似をちゃっかりこなしながら逃げていた。


 ちなみに、彼の流麗雪火カオスブリザードによって発生した雪の結晶は特殊な干渉力を孕んでおり、付着した相手から熱量を奪い自ら発火するという属性不一致の二重攻撃の特性を持っている。

 その為、横殴りの猛吹雪が直撃しているデザインキメラの大群の先頭集団は、冷気によって飛行速度が鈍り、ついで雪がその身に積もり始めておよそ十から十五秒で発火し、火達磨となって墜落していく。

 泣き喚き逃げ惑いながらも着実にデザインキメラの群れを削り続ける狩屋崎礼音。やはり神の能力者(ゴッドスキラー)としての実力は本物なのであった。

 しかし当の本人は完全にパニック状態で、自分の攻撃がグロテスクな昆虫型の化け物どもへ有効打を与えている事に気付かない。


 何だかんだ群れの半数以上を減らし、ついにスタジアムから脱出を果たした狩屋崎礼音。

 しかし、スタジアム外もまたデザインキメラの群れが闊歩する虫地獄であった。


「はは……あはははははははは!! なんだこれは! きっもちわるいなァ!!! もう終わりだこんなのっ! ああちくしょう! もうどうにでもなれよどうせ虫塗れなんだろこの世界はじゃあ全て終わりじゃないか札束とクレジットカードで虫が殺せるかよバーカバーカ! ははは! さあ、煮るなり焼くなり好きにしろ!!」

 

 どこを見渡しても大嫌いな虫! 虫! 虫! この世に顕現した最悪の地獄に、狩屋崎は壊れて泣き笑い始めた。

 壊れた狩屋崎は自棄になって、干渉力を暴走寸前にまで練り上げ掌に収束させたそ極大の冷気を、癇癪を起した子供のように喚き散らしながら狙いも付けず適当に前方目掛けて射出した。 


 ……しかし、狩屋崎は気付いていなかった。

 前方から泣き喚きながら真っ直ぐこちらへやってくる人影とその人影を追いかけるデザインキメラの大群の存在に。



☆ ☆ ☆ ☆



 ドラグレーナ=バーサルカルは非常に優秀な神の能力者(ゴッドスキラー)である。

 ――『大地の咆哮ラーヴァ・アウトクライ』。干渉レベルAマイナスを誇るその神の力(ゴッドスキル)は、地中のマグマを活性化させ自由自在に噴出させ操るという凶悪な性能を誇る。

 まさに、気性の荒いドラグレーナ=バーサルカルという少女にぴったりの神の力(ゴッドスキル)だ。

 そんな彼女の悪名は、他都市の一部の愛好家の間にも響いていて、新人類の砦アドバンスフォートレスのドラグレーナ=バーサルカルと言えば嗜虐趣味のサディストである事で有名である。

 強者には逆らわず、戦場では弱者をいたぶり罵倒し愉しむ。格下を見下し――当然のように自らの部下も見下し――自分より下だと思った相手に対しては徹底して舐めて掛かるという悪癖を持つ艦隊きっての問題児。

 そんな彼女も、しかし元より戦場に身を置いていた訳ではない。


 新人類の砦アドバンスフォートレス内でも有数の資産家の家で三姉妹の末っ子として生まれた彼女は、幼い頃から甘やかされて育てられてきた。

 才能に満ち溢れた彼女は幼い頃から同世代の中で突出した優秀さを誇り、勉学や運動そして神の力(ゴッドスキル)でも二人の姉を優に凌ぐ才能と実力をもっていた。

 ドラグレーナの常軌を逸した才能に惚れこんだ両親は姉二人よりドラグレーナを溺愛するようになる。そのうえ次第に不出来な姉二人をぞんざいに扱うようになっていった。

 結果、元より我の強い性格も相まってドラグレーナは姉妹の中で孤立。姉二人の僻みや妬み陰湿な嫌がらせも起こるようになるが、それら全てをその〝力〟でもってねじ伏せた彼女は、姉妹と仲たがいしたまま力のみで家庭内のヒエラルキーのトップに君臨し、親の異常なまでの愛と肯定を受け続けその自我や自尊心を極限まで膨れ上がらせる歪な成長を果たした。


 力無い姉への両親の扱いを見ていた彼女は、自分より弱い他者を見下すようになる。その逆に、親にとって一番でなければ姉のようにどうでもいいものと捨てられてしまうという恐怖心から、自分よりも強くて優秀な人間を憎悪し恐怖しどんな手を使ってでも蹴落とそうとするようになっていた。

 強い者を恐れ弱い者を痛めつけ卑下するという、ある意味では平凡で誰もが抱くような――けれどその〝程度〟が些か異常な――気性が荒く凶暴で捻じ曲がった人格が形成されたのだ。

 

 彼女がクーデターを起こしたエリザベス=オルブライトに喧嘩を吹っかけたのも、幼少期に形成されたこの歪な人格が大きく関係している。

 結局、ドラグレーナ=バーサルカルは許せなかったのだ。

 弱いくせに他者を支配し意のままに操り世界の頂点に立つ彼女という存在が、自分の信じる当たり前の価値観を壊してしまうのではないか、と。そんな事を無意識のうちに恐れていたのだろう。

 当然、エリザベス=オルブライトに敵意を持ったその時点で勝負はついている。

 僅か十五歳で女王に単身戦いを挑みまともに戦う事すら出来ずに膝を屈し敗北した彼女は、その才能と度胸を買われそのまま女王に支配スカウトされる。

 支配される事は彼女にとって屈辱でしかなかったが、一度の敗北が彼女に刻み込んだ衝撃と傷は大きく、彼女はそれ以降女王へ明確な反抗をすることなく反逆の機を窺うようになる。

 『怒り狂う(フューリアス)』の艦名を与えられた彼女は、その僅か一年後には女王艦隊クイーン・フリート第三艦隊旗艦を任されるまでに成長。

 我儘で嗜虐的な性格と、その自尊心や強すぎる自信を肥大化させながら、組織を率いる立場へとなっていく。


 ドラグレーナ=バーサルカルは、彼女は強い。

  

 だが、彼女の根底を支えるその肥大化した自尊心や自信が打ち砕かれてしまったら?


 まともな成長を遂げずに中途半端に十七歳おとなになってしまったドラグレーナ=バーサルカルという歪な少女は、呆気なく崩壊するだろう。

 ――丁度、こんな風に。


「うぅ……ぐぞォっ! ぐぞぉったれがァ……!!」


 足を引き摺る惨めな敗走に、ドラグレーナは悔しさと絶望に唇を噛み締め、血涙を流すような唸り声がその口から漏れ出る。

 トカゲの尻尾のように揺れる真紅のメッシュが入った鮮やかな夕日のようなオレンジ髪。

 常はギラついた犬歯剥き出しの強気な笑顔を浮かべる顔は屈辱と恐怖に曇り、爬虫類のように冷たくも美しいやや縦長の瞳孔をもつ黄色の瞳にはうっすらと涙が溜まっている。

 黒騎士ナイトメアに手も足も出ず敗北した彼女の心と体に刻まれた深い傷が、今もズキズキと不快な痛みを発していた。

 ――あの不気味な騎士の影の黒剣で心臓を貫かれてから、神の力(ゴッドスキル)がうまく使えない。

 傷はない。出血も。何なら斬られた事そのものが夢か幻だったのではないかと疑ってしまうくらいに、外傷は何一つとして残っていないのだ。

 ただ恐怖が――敗北の、死の恐怖が――心臓を射抜くその鮮やかな一閃の光景と共にドラグレーナの心に深く刻まれ残っている。

 大地の咆哮ラーヴァ・アウトクライを発動しようと干渉力を練り上げる度に身体に怖気が走り、強力故に繊細な神の力(ゴッドスキル)の制御が乱されてしまう。結果、神の力(ゴッドスキル)は不発。

 ドラグレーナがどれだけ体裁を取り繕って吠え猛った所で、足元の大地はひんやりとしたまままるで反応を返さない。


 ドラグレーナの心臓を穿った影の一閃は、実体の刀か否かという意味では確かに偽物だろう。

 しかしその影幻の一撃は、ドラグレーナ=バーサルカルの身体ではなく心を穿ち殺していたのだ。


 元より、彼女は対抗戦で幾重もの想定外の敗北を積み重ねている。

 彼女にあった絶対の確信。対抗戦でも自分ならば勝ち抜けるという自負。力に対する自信、その自尊心は一日目で格下と侮った有象無象の一人である東条勇火に出し抜かれた瞬間から砕かれ続けている。

 その後も彼女は格下と侮った相手に逆転劇の当て馬として手痛い敗北を刻まれ続けた。

 クライム=ロットハートには好き勝手に精神を弄ばれ、対抗戦でも舐めきって痛めつけ遊んでいた小娘相手に逆転劇をかまされて、挙げ句の果てに『予選で敗北して暇な人達(笑)』というふざけた屈辱的過ぎる括りで一時的に憎きクライム=ロットハートの手足となる事まで余儀なくされたのだ。

 そして致命的だったのが、多対一の圧倒的優位な状況下でそれでも手も足も出ずに黒騎士ナイトメアに敗北するという致命的な恥辱。これで完全に自分の力に対する自信が打ち砕かれる。

 そうして黒騎士ナイトメアにより齎されたトドメの一撃によって彼女の心の堤防は完全に決壊してしまったのだ。


 ……力が使えない。ダメだ、だってまた負ける。負けるのは嫌だだって負けたら捨てられる負けたら価値がなくなってしまういらない子にはなりたくないアタイは最強なんだ最強じゃなきゃいけないんだ父様も母様もそれを望んでいるのにアタイから力を奪ったらなにも残らない何もない子はいらない子だってアタイはそれを知っているからだからそれは嫌だ怖い怖い怖い強いやつが怖い自分より強いヤツなんて大嫌いだッ……!!


 仲間を襲うデザインキメラの群れから命からがら逃げ出したドラグレーナは、しかし逃げた先で別のデザインキメラの群れと遭遇し、屈辱と恐怖に涙を流しながらスタジアム内を逃げ回り彷徨い続ける。

 そして――自分が何処をどう走ったのかも分からないままスタジアムを飛び出した先、無我夢中で背後の追手から逃げ続けていた彼女はふいに前方から巨大な干渉力の塊――否、莫大な冷気を秘めた雪の結晶の集合体がこちら目掛けて飛来するのを視界に収めた。

 ほぼほぼ反射だった。

 意識していれば、心に刻まれた恐怖が怯えが邪魔をして神の力(ゴッドスキル)の制御に失敗していたに違いない。

 ドラグレーナは反射的に雪の結晶を躱しながら、身体に染みついた動作でもってアッパーをかますように右腕を振り上げる。

 『大地の咆哮ラーヴァ・アウトクライ』が発動。ドラグレーナの挙動に呼応して、大地を突き破り吹き上がった灼熱のマグマが巨大な雪の結晶を放った男へ――その背後の黒々とした塊目掛けて直進する。



 そして、直後。



 ドラグレーナ=バーサルカルの背後で何かが凍り付くような異音、さらに連続して極大の業火があがり。


 ドラグレーナ=バーサルカルの前方――正しくは狩屋崎礼音の背後で灼熱のマグマに焼かれた虫の大群による巨大火柱があがった。



 ――狩屋崎礼音とドラグレーナ=バーサルカル。共に涙目の二人が顔を見合わせること数秒後、後に『天空浮遊都市オリンピアシス』に伝説を残す(かもしれない)まさかの運命の出会いが此処に幕を開ける事となる……!?


 その出会いを祝福するかのように、つむじ風が二人の髪を揺らして駆け抜けて行った。



☆ ☆ ☆ ☆



「――H17……っと、ここは大丈夫そうだな」


 少年と少女の一撃によって多量のデザインキメラが吹き飛んだ光景を見たスネークは、そう結論付けて彼の助けを必要とする別の座標へと立ち止まらずに駆けて行く。

 つむじ風の如く吹き荒れる衝撃波が、未だ見つめ合って唖然と黙り込む若者二人の髪の毛を揺らしていく。


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