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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
第六章 破 三大都市対抗戦・下
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第三十六話 対抗戦武闘大会・予選Ⅰ――夢の底、致命的な:count 2

 深く深い、太陽の光が届かないような海の底。

 世界と世界の隙間が覗く、その一筋の切れ間こそが、勇麻にとっての光りであり導であった。


 この世界を訪れるのは果たしてこれで何度目になるのだろうか。

 一〇〇じゃくだらない回数この場所を訪れたような気がするし、今日が生まれて初めてであるような気もする。

 もしかしたらこの空間は勇麻が訪れる度に形を変え、一回一回まったく別の場所として機能しているのかもしれない。

 もしそうだった場合、先の疑問に意味はなくなる。一度として同じ場所が存在しないなら、何度目かという問いはそのまま水泡に帰すだろう。

 

 ただ、一つだけ確かに言える事があるとすれば、この世界を訪れる為の一種のトリガーは海音寺流唯という男にあるという事。

 彼と会い何気ない会話をする。それこそが記憶を喚起する呼び水となり、この夢の光景を見せるのだ。

 

 勇麻の内側に存在する外的空間。

 そう……これは外だ。 

 東条勇麻の内側に在りながら、東条勇麻のモノではない。少年の外側から与えられる情報であり、外的な干渉である。

 だって、知らない。

 東条勇麻はこんな記憶を持っていない。

 この夢の水底で見せられてきた光景は、その全てが東条勇麻ではない誰かの記憶に他ならないのだから。

 

 だから。


「――、」


 屋根が崩れ建物の体をなしていない空へと吹き抜けになった廃工場跡、そこに血塗れの少年が居た。

 血塗れの少年と、男が居た。

 ……否、それはもう正しくない。かつて男だったナニカ、と言った方が状況を説明する言葉としてはきっと正確であろう。

 だってそれは、もう息をしていない。心臓も顔面も肺も肝臓も腎臓も肉も骨も皮も血管も、ハンバーグを作る挽肉をぐちゃぐちゃにしてテーブルにぶちまけたような惨状になっている肉片を、人は人とは呼んではいけないのだから。


「嘘、だろ……」


 台風が接近しているとの予報通りに降り注ぐ豪雨。その大粒の雨粒でも拭い去る事のできないようなべっとりとした血の赤だった。

 前衛的なアート作品の一部になっている半身血塗れの赤い少年――南雲龍也の背後で、海音寺流唯は打ち放しのコンクリートに膝を突き呆然と雨に打たれていた。


 目の前の挽肉はかつて『子供殺し』と呼ばれる連続殺人犯シリアルキラーだった。




 強力な神の力(ゴッドスキル)を持ち、独自に築き上げた情報網を駆使して神狩り(ゴッドハンター)の目を掻い潜り時には返り討ちにして逃走を続けた凶悪犯罪者『子供殺し』を追い詰めたのは高校生の二人組だった。

 全くの未知。情報もなければ警戒もしようがない奇襲にはさしもの『子供殺し』とて驚愕するほかなかった。

 『子供殺し』は血と腐臭のこびり付いたアトリエ――という呼び名の解体現場――の奥まで追い詰められ、二人の少年とついに正面から対峙することとなる。

 しかし、それでも『子供殺し』と呼ばれた男は強い。悪魔のようなその男は、確かに悪魔のような強さを持ち合わせていた。でなければ精鋭揃いの『神狩り(ゴッドハンター)』がそう何人も返り討ちになるハズもない。

 『子供殺し』はその異名に相応しい狂気と殺意と強さで逆に子供二人を追い詰めていく。

 そこに子供向けの特撮作品のような正義は絶対勝つ(おやくそく)は無く、無慈悲で残酷な現実をヒーロー気取りの愚かな子供二人にその命を代償に刻み付ける――そうなるハズだった。


 しかし、いつまで経っても戦闘は始まらない。

 相手を待ち構えていた『子供殺し』は違和感を覚え、そこである事に気づきその口角をゆるりと持ち上げる。

 自分を追ってきた高校生二人の様子が何やらおかしくなっていた。

 黒髪を撫でつけた爽やかな優男は顔面を蒼白にして身体を震わせ、口元に手を当て吐き気を堪えているようだった。

 おそらくは、このアトリエの光景に当てられてしまったのだろう。この廃工場跡には、彼が世間に公表しなかった肉片アートがそこらに転がっていたりする。

 あの様子ではまともに戦うこともできまい。

 そしてもう一人、美形ではあるも少しきつめな顔立ちをした少年は『子供殺し』を見てもいなかった。

 自分という脅威を前に視線を外す愚挙。『子供殺し』を舐めているとしか思えないその態度に激昂しかける『子供殺し』は、少年の怒りに震えるその瞳が見つめる先に、既に命の灯を失って久しい腐敗した少女の生首が転がっている事さえも忘れていた。



 ――目蓋を閉じ、静かに眠る事さえ許されなかった腐敗したのか蛆虫の餌となったのか、瞳を失った少女のがらんどうの眼窩が、龍也を見つめている。

 驚いたように半開きに固まった口元が、どうして? なんで? ワタシはお家に帰りたいだけなのに。どうしてワタシは死んでしまったの? そんな決して解けない疑問ばかりを投げかけているようで。

 龍也は、南雲龍也はそんな少女の姿を見開いた瞳の中に呪いのように焼きつけて――



 そして、そんなことも分からないからこそ。


『……えは――』


 少年の苛烈な正義に、その身を焼かれる羽目となったのだろう。


『――お前は俺が(、、、、、)憎むべき悪だ(、、、、、、)


 向かい合ってただ一言。己が身に刻み付けるようなその言葉が男の耳に届いた瞬間には、もう全てが終わっていた。


 憎悪の言葉と共に十数メートル先で振るわれた少年の拳が空を切ったその瞬間、『子供殺し』を名乗る犯罪者の身体が内側から爆発四散したなどと、一体誰が信じる事が出来るだろうか。

 『子供殺し』は自分の身に何が起こったのか、おそらくは最後まで分からなかったに違いない。

 その光景を見ていた海音寺でさえ、何が起こったのかの理解を頭が拒んでいた。


 しばらくの間、南雲は腕を振りぬいた姿勢で硬直していたが、不意に雨音を打ち破るような明るい声を上げた。

 めでたしめでたし。

 何もかもがうまくいった。

 正しい結末を迎えることが出来た。

 そう主張するかのように。


「……これで終わったぜ、全部」


 出会い頭の一撃死。


「な、言っただろ海音寺? 大丈夫だって。俺達だけでもちゃんと何とかなったじゃないか! ほら、喜べよ! これでまた俺達は世界を一歩前進させたんだぜ。正しさを貫ける世界に、正義と平和を愛する愛べき馬鹿どもが幸せになれる世界に……!」


 南雲は笑顔で平和を祝福する。自分たちの行いが、世界を平和へと一歩進ませたのだと。


 『子供殺し』は何をする間もなく、その信念や妄執を或いは自身を変えた悲劇や絶望を一切語ることなく、理解不能の凶悪殺人犯というモンスターのままその命を滅ぼされた。

 悪は悪のままその汚名と共に散るが良い、何も語る事は許さないと。言外にそう告げるかのように。

 人ではなく怪物として、ただその命を害あるものとして刈り取られた。


 海音寺には、そんな事実がどうしようもなく恐ろしい。


「なーにへたり込んでんだよ、海音寺。情けないヤツだな。ほら、立てるか? みっともない委員長サマには手を貸してやる必要があるのかね?」


 それは酷く冒涜的で、例え罪人であろうとも人の人としての尊厳を踏みにじるようなその暴力(やり方)に言いようのない義憤を覚えて、差し出された手を愕然と見て口を開く。


「なんだよ、これ……」


 真っ赤な血のシャワーを全身に浴びてなおそんな子供のような懐っこい笑みを浮かべて喜びを共有しようとする南雲龍也が気持ち悪くて。理解できなくて。許せなくて。認めたくなくて。


「こんなの……何も正しくなんてないだろう!!」


 差し伸べられた血塗れの右手を、力任せに振り払った。

 感情任せにそう怒鳴り拒絶していた。


 そんな海音寺の怒りを、南雲は本気で理解できないというようにその目を瞬かせ、


「……は? おいおい、いきなりどうしたんだよ海音寺。お前何を言ってるんだよ?」

「何を言っているんだは君の方だ! 世界を一歩前進させた? 正義と平和を愛する人々が皆幸せで、正しさを貫ける世界に近づけたって本気でそう思っているのかッ!? この光景のどこに平和がある愛がある幸せがあるッ!?」 


 顔色を変え、血と臓物と肉で溢れ返った地獄を指差し吠える海音寺に、南雲龍也は何も言わない。


「捕まえるって、そう言ってただろう! 神狩り(ゴッドハンター)背神の騎士団(アンチゴッドナイト)もあの男を捕まえる事ができない。だから僕達が代わりにそれをやる。そういう話じゃなかったのか!?」 


 感情の読めない南雲の瞳が、ただ海音寺を睨み付けるでも凝視するでもなく見つめている。

 何を思っているのか、何を考えているのか、海音寺には分からない。

 南雲龍也は友達なのに。

 一番の親友なのに。

 その考えが、気持ちが、行動が、何一つ理解できない。それがもどかしくて許せなくて気持ち悪くて、煮えたぎる胸の内のまま激昂し叫ぶ。


「……こんなのはただの虐殺だ。君はただの人殺しだよ。正しさなんてどこにも欠片もない。確かに『子供殺し』は最低最悪の人殺し野郎だ。でもだからって、それでこの男を殺していい理由にはならないッ! この男を裁くのは『法』であるべきだった。彼には償いの場が与えられるべきだった……! 龍也、君のやった事は正しくもなければ正義でも何でもない。ただの、犯罪だ。君は、『子供殺し』と同じ許され難い事をしたんだぞッ!?」


 それでも必死で言葉を紡いだ。

 海音寺にとって南雲龍也は友達だ。付き合いはまだそう長くはないけれど、少なくとも自分は彼を親友だと思っている。

 だからこそ、彼の間違いを正してやらねばと思った。親友が間違った道へ踏み込んだら、それを殴って止めてやるのが自分の務めだと信じていた。

 気持ちも言葉もきっと届くと思って、だから声を枯らして南雲龍也の行いを間違いだと糾弾した。

 悲しくて悔しくて辛くて怒っていたのは、その全てが南雲を想っての事だ。

 間違った修羅の道へ進もうとしている友を、殴り飛ばすように叱りつける事こそが今の自分に出来る事だ。

 だから。どうしてこんな馬鹿な真似をしたんだ! と。海音寺は南雲へ叫ぶ。命は失えば戻らない、取り返しのつかないことをしたのだという事を、子供でも知っているようで本当は誰も実感を伴わない綺麗ごとを、しかし現実のものとしてしまった南雲龍也は正しく理解しなければならないのだから。

 己の犯した行為の罪深さを、もっとちゃんと――


「――それで? 言いたい事はそれだけか?」


 けれど、海音寺は勘違いをしていたのだ。


「……海音寺、お前は一つ勘違いをしてる。真の悪は滅ぼさなきゃならない。捕まえるとか、償わせるとか、そんな悠長な事やってる時間はないんだ。悪は裁かれるべきだから悪だ。悪に生きる価値なんてない、事情酌量の余地も、分かり合えるだなんて幻想も、何もかも無意味だ。奴らは世界の癌細胞。存在するだけで世界を腐らせ、破壊し、人々を不幸にする。なら俺達は一刻も早くその癌細胞を切除すべきだ。世界中に広がり侵食し何の罪もない人々を蝕むその前に。違うかよ?」


 南雲龍也という男の悪への憎悪を、彼の正義への狂気を、図り損ねていた。  

 

 南雲の言葉に海音寺はふるふると首を横に振る。

 今、自分の顔に浮かんだ表情が諦観に塗りつぶされている事の意味を、考えたくない。


「それは……違う。違うよ龍也。正しさを貫くことが難しいのは、人が間違える生き物だからだ。丁度今の君のように。間違えた者にはチャンスが与えられるべきだ、間違いを正すチャンスを。だから――」

「だから悪を裁くのは〝法〟であるべきだって言うのか? で、その〝法〟とやらに任せた結果はどうだ? 『子供殺し』は捕まらず、沢山の無辜の子供たちが犠牲になった。それを止めようとした神狩り(ゴッドハンター)も何人も殺されたぜ?」


 海音寺の言葉を子供の戯言であるとでも言うかのように南雲は失笑し、切って捨てた。

 海音寺を真っ直ぐ見つめ返すその瞳には、妄執じみた狂気の光りが灯っている。

 それが正義と呼ばれる類のモノであることを、海音寺は信じたくなかった。

 

「甘い、話しにならないな。だいたい〝法〟が正義だなんて誰が決めた? アレが守るのは人じゃない、世界だけだ。〝法〟は弱者を凶弾から守ってくれない。傷ついたヤツを助けてくれない。助けを求める声を聞き届けやしない。いいか、海音寺。俺は『正義の味方』だ。悪を滅ぼせるのは〝法〟じゃない。正義の味方だけなんだよ」

「だからって、君に人を裁く権利なんてないはずだ! 殺人は悪い事で人を殺したら人殺しとなり罰を受ける。それは誰もが平等に背負うべきルールだ。共通のルールを皆が正しく守るからこそ、世界は正しくあれるんだ。その基準から逸脱すれば、君は人の道から外れた異物でしかなくなるんだぞ!」


 ルールから逸脱して他者を脅かし『子供殺し』という怪物に成り果てたあの男のように。

 人であることを放棄するのかと問う海音寺に、しかし南雲は笑みさえ浮かべる。


「なら、正義が基準ルールに成り変わればいい。基準ルールは守られる為にあるが、基準ルールは人を守らない。だったら話は簡単だ、人を守る正義モノ基準ルールになればいい。……俺は正義の味方であれば人でなくてもかまわない。人でなしは人ではないが悪とは違うからな」


 酷い屁理屈だった。

 ルールからはみ出る事が罪であるなら、ルールを変えてしまえばいいだなんて、それこそ悪人の理屈ではないか。

 正しさを造り替えるなどという思考には正しさが欠片もない。あまりにも傲岸不遜で独善的、到底許される行いではない。


 あれだけ正義の味方を信望しているのに、平和な世界を求めている癖に、どうしてそんな簡単な事に気付かない……!


「……なんで分からないんだっ! 自分一人の裁量で、そうやって裁くべき悪を勝手に判断して殺す。それがどれだけ傲慢な事か、君は理解して言っているのか!? それは正義でも平和でもない、君の意思一つ裁量一つで人の善悪と生き死にが決まる独裁国家じゃないか!! ……龍也、頭を冷やせ。今日の君は明らかにおかしいぞ!」

「ははは、ははははっ。俺がおかしいって? よしてくれよ委員長。いつもに増してつまらない冗談だ。――おかしいのはこの世界の方だろう。それこそ世界の法だろうが」


 海音寺の必死の訴えも南雲には届かない。

 笑い、嘲笑って自身の正義を否定することを許さない。


「悪に生きる事を許すほうが間違っているんだよ。あいつ等は世界に痛みと悲しみしか齎さない、滅ぼされるべき害悪だ。必要なんだよ、悪を悉く打ち砕く絶対正義が。悪を滅する因果応報が。それがこの世界にないなら、俺がそれになるしかないじゃないか。正義が居留守を決め込むようなこんな世界じゃ、正義の味方が正義を成すしかないんだから……!」 

「……ッ!」


 南雲龍也は、その拳を解かない。

 解かず、巌の如く握りしめて、正義の前に立ち塞がる男へとその拳を突きつける。


 ――そして、致命的な決裂があった。


「海音寺、本当に正しいのは正義()だ」


 この世界には数えきれない悪があり、しかして悪を裁くべき因果応報は機能しない。

 そんなことはあってはならない。

 この世全ての悪は報いを受けるべきなのだ。

 無辜の人々の為、正義とは絶対であらねばならない。敗北は許されず、勝利ですらもまだ甘い。そこにあるのは圧倒的で絶対的な殲滅でなくてはならない。

 ――世界を正義で染めあげろ。 

 それは血染めの鮮血。

 どす赤い黒。どく黒い赤。

 白を穢す黒をもさらに塗りつぶし薙ぐは紅色の正義也。

 純粋なる憎悪と共に血を浴びよう。

 罪人共の血と臓物と魂そして苦痛を持って、世界に平和と幸福を、正義を成そう。

 太陽の如き真っ赤な正義でこの世を照らせ、邪悪を滅ぼし殺し尽す。


 それこそが正義である。


「……龍也、君の正義は致命的に正しさを違え、間違えた……!」


 揺るぎない正しさを求めた少年の目に映るは、道を踏み違えた咎人一人。

 正しさは揺るがぬからこそ正しさであり、絶対不変の基準であるからこそ皆を不安から救いだし人々を守る事ができるのだ。

 当たり前が当たり前であることこそが人々の寄る辺であり、正しさだ。

 その当たり前の正しさを貫き通した背中をずっと見てきた。

 だから知っている。

 例外は認めてはならない。

 特別扱いなどしてはいけない。

 感情に流されてはいけない。

 正しくない行いは、正しくないというその時点で断じられなければならない。

 例え情状酌量の余地あろうとも、その間違いは正されねばならないのだから。 

 氷のような冷たさと、大木のような揺るがなさ。

 それこそが絶対的な正しさである。


 そう信じるからこそ、友の言葉はどうしようもなく度し難かった。



 だからこそ、どちらも退く事だけはできなくて。



「正義は俺だ。海音寺流唯、正しさの奴隷は引っ込んでろ。――俺が悪を滅ぼし尽すまで……!」

「いいや、南雲龍也。君は単なる人殺しの罪人だ。君は――間違っている……!」


 正しさと正義はきっと違う。

 そんな簡単な事に、二人のうちどちらかがもっと早く気付けていたのなら、

 きっとこの衝突はもっと別の結末を迎えていたのだろう。



 譲れない二つの信念がぶつかり合うと同時、夢の世界はゆっくりとその扉を閉ざしていく。


 眠れぬ子らへ本を読み聞かせる母親が、また明日ねとその続きを託すように。

 目覚める子らには終わった夢ではなく明日へ続くうつつこそが必要なのだから。

 


☆ ☆ ☆ ☆



 【三大都市対抗戦 六日目 第五種目『三大都市対抗武闘大会・予選』】


 参加人数

 ・全選手。


 勝利条件

 ・相手を気絶・もしくは降参させる。場外に押しやる。ダウンからのテンカウント、テクニカルノックアウトで勝利とする。 


 基本ルール

 一、予選大会は出場選手をくじ引きによって十六の組に降り分けて行う。

 一、組み分けの際、同チームの選手同士が同じ組になることはないが、同じ都市のものが同じ組に分けられることはある。

 一、同じ組に分けられた三から四人でバトルロワイヤルを行い、勝ち残った一名が本選の決勝トーナメントに進むこととする。

 一、一辺五十メートルの正方形の石舞台リング上で戦う。

 一、神の力(ゴッドスキル)の使用推奨。

 一、審判の判断に従わない場合は失格。

 一、事前に許可を受けた物以外の武器の使用を禁止。破った場合失格。

 一、他選手に対する殺害行為を禁じる。死亡者を出してしまった時点で失格。

 一、他、これ以上競技の続行が不可能な状態にあると判断された場合失格。※今回はテクニカルノックアウトとし敗北扱いとする。


 勝利時獲得点数


 ・本競技は予選と本選、二日間に分けて行われる競技であり、本選に勝ち残った時点で得点を得る事が確定する。一勝する度に得点が上昇する形となっている為、順位ではなくベスト○○の形で得点をつける。

 

 ・優勝:一〇〇点

 ・準優勝:八〇点

 ・ベスト4:六〇点

 ・ベスト8:四〇点

 ・ベスト16:三〇点



 くじ引きによる組み分け結果


 ・Ⅰ組

 『天』海音寺流唯VS『天』音無亜夢斗VS『未』リリレット=パペッター


 ・Ⅱ組

 『天』天風楓VS『未』チェンバーノ=ノーブリッジVS『未』ナギリ=クラヤ

 

 ・Ⅲ組

 『天』泉修斗VS『未』貞波嫌忌VS『新』シャロット=リーリー


 ・Ⅳ組

 『天』東条勇火VS『未』リヒリー=リーVS『新』クレボリック=シンボル


 ・Ⅴ組

 『天』和家梨仁志VS『未』狩屋崎礼音VS『新』シーライル=マーキュラル


 ・Ⅵ組

 『天』十徳十代VS『未』生生VS『新』トレファ―=レギュオン


 ・Ⅶ組

 『天』鳴羽刹那VS『未』リズ=ドレインナックルVS『新』ピア=ナルバエス


 ・Ⅷ組

 『天』北御門時宗VS『新』エバン=クシノフVS『新』ブラッドフォード=アルバーン


 ・Ⅸ組

 『天』薬淵圭VS『未』リコリスVS『未』ビリアン=クズキVS『新』ゲオルギー=ジトニコフ

 

 ・Ⅹ組

 『天』上久保七春VS『天』沖姫卯月VS『未』シャラクティ=オリレイン


 ・ⅩⅠ組 

 『天』戌亥紗VS『未』サマルド=ドレサーVS『新』ユーリャ=シャモフ


 ・ⅩⅡ組

 『天』弓酒愛雛VS『天』香江浅火VS『新』ドラグレーナ=バーサルカル

 

 ・ⅩⅢ組

 『未』竹下悟VS『未』ドルマルド=レジスチーナムVS『新』セナ==アーカルファル


 ・ⅩⅣ組

 『天』横森真理真VS『未』アブリル=ソルスVS『新』イヴァンナ=ロブィシェヴァ


 ・ⅩⅤ組

 『天』浦荻太一VS『未』レギン=アンジェリカVS『新』ロジャー=ロイ

 

 ・ⅩⅥ組

 『天』東条勇麻VS『未』ホロロVS『新』メリー=コクランVS『新』ルフィナ=アクロヴァ



 最終日、決勝トーナメント組み合わせ予定



 一回戦


 ・第一試合

 Ⅰ組勝者 VS Ⅱ組勝者


 ・第二試合

 Ⅲ組勝者 VS Ⅳ組勝者


 ・第三試合

 Ⅴ組勝者 VS Ⅵ組勝者


 ・第四試合

 Ⅶ組勝者 VS Ⅷ組勝者


 ・第五試合

 Ⅸ組勝者 VS Ⅹ組勝者


 ・第六試合

 ⅩⅠ組勝者 VS ⅩⅡ組勝者

 

 ・第七試合

 ⅩⅢ組勝者 VS ⅩⅣ組勝者

 

 ・第八試合

 ⅩⅤ組勝者 VS ⅩⅥ組勝者

 


 二回戦


 ・第一試合

 第一勝者VS第二勝者


 ・第二試合

 第三勝者VS第四勝者


 ・第三試合

 第五勝者VS第六勝者

 

 ・第四試合

 第七勝者VS第八勝者



 準決勝


 ・第一試合

 第一勝者VS第二勝者


 ・第二試合

 第三勝者VS第四勝者


 

 決勝戦 

 


 


 補足


 ・失格選手は失格直前の順位を問わず脱落となる為、例外なく付与される得点の対象外となる。

 ・競技終了後にルール違反が発覚した場合も失格となる。その場合、本競技で得た得点は没収とする。



☆ ☆ ☆ ☆


 

 『三大都市対抗戦』における〝花形〟が『人魚姫たちの滝登りマーメイドウォーターフォール』だとするならば、『三大都市対抗武闘大会』は〝王道〟だ。

 観客達の多くがこれを見る為に『天空都市オリンピアシス』を訪れているし、何ならここまでの競技の全てはこのトーナメントの為の前哨戦に他ならない。

 競技の形式自体は単純。一日目や二日目のような工夫は何もない、正真正銘のシンプルなトーナメント形式のバトル。

 ありきたりと言えばありきたり。けれどだからこそ、飾らない戦士たちのありのままをぶつけ合うその熱量は、観客達の心を激しく揺さぶり熱狂させる。

 王道であるが故に王道。などという滅茶苦茶な理論がまかり通ってしまうのは、トーナメント形式の大会の持つ特殊な魔力である。

 

「泉修斗、緊張してんですかぁー? 顔おっかないですよ?」

「あ? 馬鹿言え。俺はもとからそういうイケてる顔してんだよ。そういうテメェこそ、勝ったらトーナメントで当たんの海音寺の野郎だろ? ビビってんじゃねえのか? 泣き虫みてえな顔になってんぜ」

「泉修斗アナタ馬鹿なんじゃないですかぁー、これはそもそも〝この子〟の顔が泣き虫っぽいシケた顔してんですぅ……!」


 軽口を叩き合うシャルトルと泉。

 トーナメントの魔力に当てられ盛り上がっているそんな二人を止めに入ったのは、いつもながらの東条勇火だった。


「はいはい、二人ともそれくらいにしてください。ここは皆の控室なんですから、集中したいって人に迷惑でしょ。それに恥ずかしいから静かにしてください」

「それを言うならそもそもだな、後で戦うかもしんねえヤツと一緒の控室ってのはどうなんだ? これからぶん殴られるヤツと同じ部屋ってのは気まずくなるんじゃねえか? 俺は全部勝つから別にいいけどよ」

「アナタってホントに馬鹿ですよねぇー、この場にいる全員を一瞬で敵に回したってこと分かってますぅー? ……全く、スカーレもこんなヤツのどこがいいんですかねぇー」

「あ? あの馬鹿女がなんだよ?」


 大きめの控室には天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)の選手達が集まっていた。

 試合を大画面のモニターで観戦しようという者、チームのメンバーとコミュニケーションを取りリラックスしようとしている者、単純に試合までの待ち時間を潰している者、控室を訪れず別室で精神統一に努める者など様々だ。

 ちなみに天風楓率いる天界の箱庭(ヘヴンズガーデン)Aチームの面々はくだらない会話で緊張感を和らげるのが目的か、それとも単に雑談に興じているだけか、いまいちよく分からない。

 心臓に毛でも生えているのか、東条勇火はともかく泉修斗と天風楓(中身シャルトル)には全く緊張の様子が見られなかった。

 二人とも、自室にいるかのようにリラックスしきっている。


「ほらお前ら、いつまでもじゃれてんなよ。シャル……楓はそろそろ準備入った方がいいんじゃねえのか? 海音寺先輩の試合もう始まるぞ」


 一つのテーブルを占領している泉たちの元に来て、勇麻がモニターを指差す。

 ちなみに勇麻は試合までの待ち時間を潰す為に此処に来ている。何せ予選最終試合のⅩⅥ組。ぶっちゃけ暇だった。


「……ま、身体の方はもう仕上がってるんで心配しないでください。今はアイドリング状態ってヤツです。気持ちの方も……まあ、あの人の試合を見れば嫌でも仕上がるでしょう」

 

 シャルトルの視線の先、大画面のモニターの中では『三大都市対抗戦武闘大会・予選』の第一試合が今まさに始まろうとしている所だった。

 キラキラとしたマイナスイオンっぽい何かを振りまく黒髪を撫でつけた優男がドアップで画面に映る中、勇麻に向かって弟の勇火が遠慮がちに口を開く。


「兄貴さ、こんな時に言うのもアレだとは思うんだけど……楓センパイのトコにいかないでいいの?」

「……話し合った通りだ、色々あったとはいえ俺達は今は『対抗戦』に集中する。それで異存はない、そう決めたはずだろ。……だいたい気を付けるのは俺らも一緒だぞ、女王艦隊クイーン・フリートの連中が予選で何をしてくるか分からないんだからな」


 楓には『設定使い』がついてくれている。

 勇麻たちがするべきは替え玉であり釣り餌でもあるシャルトルに『創世会』が喰らい付いた場合の対処だ。

 それまでは替え玉にリアリティを出す為、競技に参加し続ける。スネークと一対一で話し合った後、改めて背神の騎士団(アンチゴッドナイト)や勇火たちとも話し合い決めた事だ。

 今楓の周りをうろつくのは、逆に『創世会』の気を引きかねない。ただでさえ女王艦隊クイーン・フリートには替え玉の件がバレているのだ。

 奴らの目的もまだ分からないが、連中の場合は例え後ろに控えている神の子供達(ゴッドチルドレン)が出てこようとも『設定使い』一人で対処が可能だ。ここで『創世会』にまで芝居を見抜くヒントを与えてやる必要はない。


 ……そんな言葉とは裏腹にいつもよりどこか表情が硬いことに勇麻自身は気づいていないようで、勇火の顔にはやれやれと言った表情が浮かんでいる。

 

「……ほら、向こうはスネークたちが見ててくれる。俺達は俺達に出来る事をしよう。例えば、これから始まる海音寺先輩の応援とかな」


 勇麻の視線を追う形で一同が画面に目を向ける。すると丁度のタイミングで古風なドラの鈍い音が鳴りひびき、試合開始の合図を告げている。



 ――モニターの中で動き回る選手達を見ながら、泉修斗は一人眉間に皺を寄せ、何かが釈然としないと言うような険しい表情を浮かべ首を傾げていた。


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