第二十五話 三日目終盤戦Ⅰ――遠ざかってなお交わりて:count 5
南側、ゴール地点付近。
高所に陣取った新人類の砦の面々を見上げる形となった天界の箱庭と未知の楽園は一時休戦の体をとり共同戦線を張る事に同意。
新人類の砦の選手達の先制攻撃を皮切りに戦闘へと突入する。
序盤の展開は遠距離から互いを狙い撃つ砲撃戦となった。
新人類の砦はエバン=クシノフやイヴァンナ=ロブィシェヴァ、ゲオルギー=ジトニコフ、トレファー=レギュオンを中心とした遠距離火力で下方の海音寺達をしきりに狙い打ち、天界の箱庭側は海音寺と狩屋崎を起点に防御主体で応戦。
反撃ではなく、砲撃に対する迎撃を中心に自分達が落とされない事に集中し対応する。
こちらの遠距離砲撃に対して新人類の砦の防御の要として最前に立って身体を張っていた全身を鎧で固めた女戦士のセナ=アーカルファルに対して天界の箱庭の『自在関節』沖姫卯月が身体の柔軟性を活かし攻撃を掻い潜り果敢に接近。
変幻自在の絞め技で沖姫がセナを落とすと、それを引き金に、敵方は煙幕を駆使して瞬時に接近戦へと切り替えを図る。
前衛の壁を落とされた事で砲撃戦に不利を感じた新人類の砦が、強引に混戦へと持ち込む事で流れを寸断。チーム単位での戦いから個と個による戦いへと切り替える事で新人類の砦側は個の強さを活かし数的有利の利点を潰しに掛かった。
現状の脱落者は四名。
セナ=アーカルファルが落ちた事で彼女のチームメイトだったクレボリック=シンボルも失格に。
セナ=アーカルファルを落とした際に道連れになった沖姫卯月と、そのチームメイトであった弓酒愛雛も同様に失格となっている。
そうして現在。
戦闘開始から既に三十分が経過。
双方既に二名ずつの脱落者が出ているものの、それ以降膠着状態になりつつあった戦場は、ついにその均衡が崩れようとしていた。
――横森真理真の背後。まるで空気から溶け出るように現れたシルクハットを被った赤い長髪の男が、燕尾服風に改造した軍服の内側からツルツルとした滑らかな手触りの大きな布を取り出して嗤う。
「こちらに取り出したるは、種も仕掛けもある一見何の変哲もない布きれでございます。ええ、ええ……! これを麗しい彼女にこう、被せると……」
それを頭上から横森に被せて、パチンっと指を鳴らす。
「きゃあっ……!」
すると。
横森を包んだ布はそのまますとんと落ちて、まるで初めから人などいなかったかのように風に流され空を漂い始めた。
「真理真!!」
「ご覧の通ーり! 麗しい美女が跡形もなく消えてしまったであーりませんか!! ええ、えぇ! この三流手品師トレファ―=レギュオン! 予定調和のつまらぬ手品でありますけれどもォ、あ、皆さまからの拍手喝采あるならば、いくらでもこの陳腐な奇跡をご覧に入れて差し上げましょーーっとも……ッ!!」
ステッキを手にした両手を横合いに広げ背中を反りかえし、狂気の奇術師が歓喜の叫びをあげた。
チームメイトの消失に激昂する狩屋崎。掌を突き出し、そこから勢いよく吹雪を発生させる。
「貴様、僕の真理魔をどこにやった!」
「答え、知りたいですかなぁー? で・は・タネ明かしの時間でーございまっすっっ!!」
しかし、声は背後から。
狩屋崎の放った一撃はまるでそれが残像であるかのように眼前のトレファ―をすり抜けていき、瞠目する彼には頭から横森同様つるつるした質感の布が被せられた。
ぱちんっと。指の鳴る音。横森同様、被せた布はすとんと落ちて、狩屋崎が跡形もなく消失する。
「答えは……こちらッ! なんとシオン女史のお隣に! 仲睦まじいお二人の姿がァー!!!」
トレファ―は競技を中継しているドローンに向けて大袈裟にポーズを決めて、シルクハットの下の病的に痩せこけた頬に笑みを満足げな浮かべた。
今頃実況席では、シオンの隣に突如現れた両選手に会場が湧き立っている頃だろう。観客たちの地を揺るがす大歓声が『AEGスタジアム』からここまで届いてくる程だった。
「なんだよ、あのDQN野郎落とされたのかっ! 威勢の割にっ、使えねえな!」
「お前も対外だとリリは思うけど……!」
「おいリリレット、お兄様に向けてお前はないだろお前は。俺はお前をそんな子に育てた覚えは……いや、お前は元からこんな子だったわな」
「……うざい!」
叫んだのはリリレットにおんぶにだっこ状態の貞波だ。
「……とはいえ、彼が落とされたのは痛いな」
海音寺は自分たちの状況を冷静に分析し、そう評した。
自身を起点として特殊な干渉力を孕んだ横殴りの雪を発生させる狩屋崎礼音の『流麗雪火』。
彼が発生させる『雪』は特殊で、触れた者から体温や体力を奪いそれをエネルギーとして発火する、というユニークな特性を持っている。
敵の体力を一方的に奪い続ける吹雪火は、陣地を作成した長期戦や防衛線においてかなりの有利を生み出す。
その力をもって、今回の競技『クライミング・フラッガー』でも猛威を振るっていた狩屋崎だが、彼は傾斜一二〇度の斜面に対応できず移動に関してはチームメイトの横森真理真の『伸縮鋼髪』に頼り切りだった。
足元を急速に冷して凍りつかせどうにか棒立ちになるのがやっとで、基本的に固定砲台として戦っていたのだが、彼の脚であった横森が落とされた時点で勝負はついていたと言っていい。
だが目下最大の問題は、彼らをこうもあっという間に落としてみせた奇妙な力を使うシルクハットの男。トレファ―=レギュオンへの対処だ。
……時間は十分、そろそろ攻勢に出るべきか。
そうしている間にも、イヴァンナ=ロブィシェヴァの狙撃がリリレットの爪糸を撃ちぬき、支えを失った竹下悟が涙声の絶叫と共に重力に引かれ落ちて行く。これで竹下のチームメイトの貞波嫌忌も失格となってしまった。
状況の変化に対応すべく思考をフル回転させる海音寺に、
「――戦闘中によそ見とは余裕だな」
「……君を無視できるほど余裕がある訳じゃないよ。単なる状況把握、というやつさ」
槍衾のように地面から飛び出してくる氷の杭と波浪とをぶつけあい拮抗させながら、海音寺は爽やかな笑みを崩しもしない。
海音寺は自分を守らせるように周囲に海水を波のようにうねらせ漂わせている。相手の攻撃に対しこれを瞬時にぶつける事で対応していた。イヴァンナの銃撃を防いでみせた時と同じ要領だ。
「お前の操る海域を氷結できればと思っていくらか試行錯誤を繰り返したのだが……存外にガードが堅いな。優男」
こうしている今も、海音寺の海域創造は遥か下方の海面から竜巻のような水柱を造り出して海水を巻き上げ続けている。
そうして巻き上げた海水で作り上げた巨大な水球は、海音寺の神の力の干渉下にある特殊な水だ。
エバン=クシノフはこれを凍結させる事を狙ったようだが、海音寺からすれば片腹痛いの一言に尽きる。
「残念だけど、君程度の氷結に侵食されるようじゃ話にならないからね」
「なに?」
「僕が対峙しなきゃならない相手は遥か彼方にいる。悪いけど、君には僕の練習相手になって貰おうかな。エバン=クシノフ君……!」
海音寺はエバン=クシノフ目掛けて、背後の水球から鉄砲水のように水流を打ち放つ。
エバン=クシノフは咄嗟に氷の盾を展開しこれをガードしようとする。
彼の注意が海音寺から逸れた瞬間、海音寺が一気に動いた。
海音寺がこれまで攻勢に出る事無く、防御主体の戦術を取り続けてきたのには理由がある。
この『クライミング・フラッガー』では、脱落者が出た場合そのチームメイトも巻き添えを喰らい失格になるというルールが存在する。
例えば、この場にいないチームメイトの戌亥が落とされれば海音寺もその時点で失格になってしまうし、その逆もまたしかり。
つまり今回の競技で選手を二手に分ける場合、同じチームの選手をバラけさせるのはかなりの危険が伴う采配なのだ。
だが海音寺達はチームに関係なく神の力の特性や得手不得手を基準に選手を二手に分けた。
リスクはあるが、より各々が実力を発揮しやすい役割を与える事でより貪欲に“勝ち”を狙いに行ったのだ。
とは言え、旗を取りに行った仲間達は少数精鋭ではあるが、誰か一人でも欠けてしまえば途端に状況は厳しくなるのもまた事実。
特に旗組の要である十徳十代が落ちてしまった場合の影響は計り知れない。
故に海音寺や北御門は、勇麻達が旗に辿り着くまでは絶対に落ちる訳にはいかなかったのである。
時間はもう充分に稼いだ。
これだけの時間があれば、勇麻たちは旗を奪取し、ゴール付近まで到達している頃合いだろう。
海音寺は、彼らが敗北している可能性など微塵も考えていなかった。
何故なら海音寺も北御門も依然として健在、戌亥も十徳も落とされていない事は明らか。そして東条勇麻たちに関しては、最初から心配などしていない。
海音寺は心の底から彼らのことを信頼している。だからこそここまで防戦一方で耐え忍んできた。
つまりはここが勝負の掛けどころ。
邪魔者を蹴落として、彼らの道を空ける。それが海音寺達の役割なのだから。
「北御門さん!」
声に、今までのらりくらりとゲオルギー=ジトニコフの炎撃を鞘でいなしていた侍男が動く。
戦闘開始直後の斬撃以来ずっと鞘に納められていた一刀を軽やかに抜刀。
カチャ、という金属音と共に手首を返し、平時は瞑っているその糸目をカッと見開いて、
「斬ッ!!」
能動的な溜め状態を特定の対象へ付与する、北御門の『臥薪嘗胆』がおよそ三〇分間分の溜めを経て繰り出され、斬撃の威力を拡張した。
峰打ちが飛び、明らかに斬撃の間合いの外にいたゲオルギーの意識が瞬時に刈り取られる。
落下していくゲオルギーへ、リリレット達複数人を相手取っていたイヴァンナが舌打ちと共にロープを投擲し、何とか絡め取り失格を免れる。ロープの端の杭を壁面に打ち込み、お荷物となったゲオルギーを強引に斜面に繋ぎとめたのだ。
「戦闘中に余所見とは余裕だね」
「……っ!?」
意図的に北御門とゲオルギーの戦闘へ注目を集めた海音寺が、エバン=クシノフの懐に潜り込んでいた。
海音寺はエバン=クシノフの顔を注視、拳を振りかぶり顔面を狙った一撃と見せかけて、意識から除外させた下段蹴りで彼の膝を強襲。ついで下へ意識と視線を誘導した海音寺の拳がノーガードのエバン=クシノフの顔面を捉えた。
「ぐふっ……!?」
「まだだ…!」
拳の威力に完全に体勢を崩したエバン=クシノフへ追撃、周囲に侍らせた海水から水の弾丸を目くらまし代わりに乱射し、エバンはこれに地面からつららのように伸びる氷柱で対応する。そのまま氷結範囲を伸ばし氷の杭を走らせ、海音寺をその先端で貫こうとする。
しかし海音寺は機敏な動きで氷の杭の先端に軽々飛び乗ると、成長するように伸びあがる杭の勢いを利用してさらに跳躍。
エバン=クシノフを守っている巨大な氷柱を飛び越え、車輪のように縦回転を加えて。
その脳天目掛けて、勢いよく踵を落とした。
ガラスの砕けるような、盛大な破砕音が響く。
エバン=クシノフは咄嗟に氷の鎧でコーティングした腕をクロスし頭を守ったが、海音寺の踵は氷の鎧を粉微塵に粉砕。交差させた腕は威力に負けて弾かれ、居場所を失う。
その威力と衝撃にエバン=クシノフは歯噛みし、自身のガードが完全に崩された事を悟る。
がら空きになっている胴体へと海音寺が海流を纏った拳を叩きこもうとして、
突如として虚空から生じ剣のように伸びた氷柱が、海音寺の意表を突いた。
何もない場所から唐突に氷が生じた訳ではない、空気中にダイヤモンドダストのように漂っていた無数の氷の欠片。
先の攻防で海音寺の踵が砕いた氷の鎧の破片をエバン=クシノフは再利用し、その欠片を繋ぎ合わせるように凍らせ氷剣を生みだし海音寺の意表を突く一手としたのだ。
真っ直ぐ、勢いよく伸びた氷の切っ先は何の抵抗もなく海音寺の身体を貫いて――
――ばしゃり、と。
バケツをひっくり返したような水音と共に海音寺の身体が水となって形を失くした。
「言っただろ、余所見をするなんて余裕なんだね、って」
「――ッ!?」
あり得ない事にその声は背後から聞えた。
恐怖を感じる間もなく、海音寺の操る水流がエバン=クシノフを背後から呑み込み、そのまま青年を斜面から叩き落とした。
終わってみればあまりに呆気ない決着。
エバン=クシノフ。そして別行動中の彼のチームメイト、ロジャー=ロイもこれで失格となる。
「ふう、これで残るは二人か」
ゲオルギーが撃破された一瞬、エバン=クシノフが海音寺から意識を逸らしたその瞬間を海音寺は利用し、水塊で分身を残して自身を周囲を漂う水塊の中へと溶かしていたのだ。
分身の海音寺が目くらまし代わりに打ち出した水弾が実は海音寺自身を溶解させた水溶液――つまり海音寺流唯本体だったのだ。
エバン=クシノフの氷柱によって弾かれた水弾は、彼の背後でひとりでに動いて集まり元の水塊となって、タイミングを見計らって海音寺へと戻り奇襲。
まさに完璧な手管で海音寺はエバン=クシノフを圧倒していた。
そんな海音寺の戦いぶりをステッキに乗せた手のうえに顎を乗せながらゆるりと観察していたトレファ―=レギュオンが、けたたましい笑い声をあげた。
「おやおや、クシノフ氏までやられてしまわれましたか。これはこれは……観客も減って、些か寂しくなってしまいましたなぁ。そろそろエンドロールですかな?」
「……。安心してくれていい、次はもれなく君の番さ」
冷たい視線で手品師を射抜き、吐き捨てるように断ずる。
海音寺が次の相手をトレファ―=レギュオンに定めたその時だった。
ピー、という単調な電子音と共に、海音寺の着るパラシュートがひとりでに開いた。
「……紗、よく頑張ったね」
海音寺は自身の失格を理解し、その場で脱力し弛緩した笑みを浮かべた。
それは、戌亥紗が脱落した事を告げる電子音だった。
☆ ☆ ☆ ☆
ユーリャ=シャモフは干渉レベルAプラスになって以来、初めて土の味を舐めていた。
(ぐ……っ、この子、強いっっ、これで本当に私の格下なの……?)
しばらく自分と同格以上の相手と戦う機会が無かったとはいえ、まさか自分がここまで何も出来ずに抑え込まれる事になるなど、誰が想像できただろう。
おそらく隣で殺意を撒き散らしながら呻くしかないドラグレーナも同様だ。
突如として二人を襲った予想外の事態に、二人だけでなく中継の流れている会場からもどよめきの声が上がっているだろうことも、わざわざ確かめるまでもない事だった。
天界の箱庭所属の干渉レベルAマイナスの少年、十徳十代。
彼の『念動力』による干渉により戦闘開始からこの瞬間まで、ユーリャもドラグレーナも一度としてまともな攻撃はおろか、身じろぎ一つする事さえ許されていないのだから。
不可視の力で頭上から強引に抑え込むような、技術も戦術も戦略も何も無い圧倒的な干渉力によるごり押し。
どれくらい強力かと言われると十徳の念動力発動時、すぐ近くにいただけのシーライル=マーキュラルとドルマルド=レジスチーナム、そしてアブリル=ソルスの三人が十徳の念動力の余波を受けただけでその場から一歩として動く事ができなくなってしまった程だ。
たった一人の神の能力者によって、五人の神の能力者が足止めを受けているという前代未聞の状況にユーリャ=シャモフは疑問を覚えざるを得ない。
……この少年、本当にたかが干渉レベルAマイナスで収まるような器なのか、と。
以前として十徳の念動力による圧迫は続く。
まるで重力が一〇倍にも一〇〇倍にも膨れ上がったような錯覚さえ覚える。地面に押し付けられた顔を上げる事も、身体を起こす事もできない。
意味のある言葉を発する事も、呼吸さえも苦痛だった。
過去、仰向けに寝転んだ人の腹部にゆっくりと重しを乗せていくという拷問が存在したそうだ。
人の身体は案外単純な重さには耐えらえるらしく、三〇〇から四〇〇キロもの重量を乗せてもまだ生きていたという記録が残されているらしい。
十徳の念動力による圧迫感は、まさにそう言った拷問にも似ていた。
決して相手を殺してしまうことはない。ただ長くて辛い、終わりのない苦痛が身体全身を蝕み、ユーリャの心をへし折ろうと伸し掛かってくる。
いったいこの苦痛はいつまで続くのか。
そんな事を考えては萎えそうになる戦意をどうにかして奮い立たせる。
顔色を一切変える事無く淡々と神の力を使い続けている少年を空恐ろしく思いながら、ユーリャは脱出の機会を待った。
そうしてどれだけの時間が経っただろうか。一時間にも十時間以上にも思えてきた頃、不意に十徳がその口を開いた。
「……あぁ。そう言えば、そろそろ一〇分だったね」
まだ一〇分。
その言葉にユーリャは意識を失いそうになる。
いや、いっそ失ってしまった方が、どれほど楽だったろうか。
しかしユーリャを襲った絶望は、唐突に終わりを覗かせる。
「……ああ、それじゃあ、年寄りの出しゃばりは此処までにしよう。後は若い人たちに任せるとしようか――頼んだよ東条勇麻くん」
顔を上げる事さえ儘ならないユーリャ達は、自分達の横を一人の少年が凄まじい勢いで通り過ぎて行った事に気が付かない。
十徳は、すれ違い遠ざかる少年の背が見えなくなるのを待って、それから肩の荷物を降ろすように大きく息を吐くと、二人に対する念動力での干渉を唐突にやめた。
突然軽くなった身体に喜ぶ前に困惑を覚えるユーリャ。
そんな彼女達へ、十徳はもう用はないとばかりに手を振って、
「……あぁ、約束通りこれで終わりさ。君達も、呼びとめてしまって悪かったね」
「……」
むくりと。誰よりも早くその場で立ち上がったのは鮮やかなオレンジ色の長髪に、鮮血のような真紅のメッシュを入れた少女だった。
ユーリャはとてつもなく嫌な予感がしたが、彼女を咎める資格もないなと首を振る。
なにせユーリャ自身も、このままこの少年にやられっぱなしで終わる事を許せそうになかったから。
「オマエ……このまま気分良くお家に帰れるとでも本気で思ってンのカ?」
「……珍しく同感です、ドラグレーナ」
「……ああ、まあそうなるか。やれやれ……北御門さん。僕はやっぱりアナタを恨むとするよ。これは代償は弾んで貰わないと、割に合わないな」
干渉レベルAクラスの化け物三人。その第二ラウンドが幕を開ける。




