第五十一話 引き篭もり聖女Ⅱ――逃亡者の集い旗
瞳を閉じ、繋ぐ左手に意識を集中する。
今は左手に感じるこの温もりだけが唯一の頼りだった。
縋るように手に力を込め、身体に流れ込む力の脈動に、意識を移行させていく。そのまま体外へと流れ出る干渉力に意識を添わせ、自身もろとも力を拡散させていく。
繋いだ左手――ディアベラスを介して供給される干渉力をさらに自分を通じて世界中に広げるような感覚。
――空間を支配しろ。
神経を研ぎ澄まし、毛先一本まで己を行き渡らせるように、未知の楽園の全てに感覚を届かせる。
――次元を支配しろ。
『多重次元空間』の構造を正しく理解する。
未知の楽園という街の全貌を正しく知り、この街に暮らす人々の流れを掴め。この街の全てを完璧に把握する。そうでもしなければ次元の壁を越えての住民の一斉転移など出来るはずもない。
――支配、しろ。
人々の動きを知覚する。
支配するという事象を、己が身で体現する。
それは全知にも似た、全能に迫る行為。
まさに神の真似事。
その模倣技。
より神の域へと近づく必要があると言うのならば、この程度の『神性』では足りない。
より高位の『神性』を……。
その為には……。
今ここで限界を越える為には――
――クリアスティーナ=ベイ=ローラレイは、己の中に眠り息づくその『神性因子』を呼び覚ますべく、世界と己に対して干渉を続けた。
三つの次元を同時並列的に把握。多くがそれぞれの未知の楽園中心区に集まってはいるが、外周区などには逃げ遅れた人もまだまだ大勢いるハズだ。
誰一人として取りこぼしはしない。そんな結末は勝利とは、幸福な結末とは呼べないから。
三つの各空間における人々の位置座標の特定と捕捉、追跡を急ぐ。時間が足りない。あと三分足らずで全てを終えなければ、未知の楽園に暮らす全ての命が潰える。
何もかもが崩れ落ちる瓦礫の下に消えてしまう。
「はぁ、はぁっ、はぁ……っ。もっと、力を……!」
息も絶え絶えに首を横に振る。
出力も供給される力もてんで足りない。
クリアスティーナの最大出力に干渉力の供給が間に合わず、出力はどんどん低下し疲労が溜まり演算の精度も落ちていく。追い打ちを掛けるように『ウロボロスの尾』からの供給量も低下を続け、まさしく負のスパイラルに突入していた。
これじゃあだめだ。
何もかもが足りない。
全てを支配するには、もっと力がいるのに……。
「……くそったれがぁッ、ダメだ。俺っていう不純物を介しちまってる以上、供給効率が落ちちまってらぁ……っ! ……げほッ、ごぼッ、……すまねぇ、アスティ。これ以上は……ッ」
ディアベラスも必死で『ウロボロスの尾』から供給される干渉力をクリアスティーナへと与え続けている。
だがやはり足りない。ディアベラスの言葉の通り、半ば強引な接続と間にディアベラスという不純物を通した事により力の伝達率が低下してしまっている。このままでは一斉転移など夢のまた夢だ。
もっと、飽和量を有に越えるくらいの干渉力の供給が『ウロボロスの尾』からあれば、供給効率など関係なしの莫大な物量で不足を補えるのだが……。
複数次元の同時並列演算によって脳を酷使し過ぎたのか、鼻から血が垂れ重度の眩暈がクリアスティーナを襲う。
共に限界を越えんとするディアベラスとクリアスティーナのコンディションは悪くなる一方。時間は刻一刻と終わりの時を刻み、縦揺れも激しさをどんどん増していく。
目の前の視界が霞む。
意識が薄れ曖昧になっていく。忍び寄る抗いがたい眠気を振り払うため、クリアスティーナは犬歯で唇を噛み切った。
痺れるようなキレのある痛み、流れ出る朱色の鮮血が、クリアスティーナの唇を艶やかに染めた。
(……お願いします、神様。もし本当にいるのなら、一度だけでいい、皆を救う力を私に。今度こそ、いいえ、今度は自らの意志で、私は『救国の聖女』に……!)
血の涙を流す。
だが神への祈りは届かない。
己の中の『神性因子』は何の反応も示さず、自身の『神性』に変動はない。自分がより高位のステージに立った感覚は永遠にやってはこない。
一斉転移の構築は一向に進まず、同時並列的に把握しようとするとしては頭に割れるような痛みが走り、各空間に点在する人々の位置座標を捕捉しては見失う。
特に人の存在座標に関しては転移の際に肉体の一部を転移しそこねる事がないように、細かな誤差をミリ単位で常時修正し続けなければならず、クリアスティーナ一人の演算力、干渉力ではとても間に合う気がしない。
だがそれでも諦める事だけはしたくない。
例えクリアスティーナが最悪の結末を変える為に必死に戦った結果として、最終的に未知の楽園に暮らす人々が瓦礫の底に埋まる事になろうとも。
クリアスティーナの覚悟にも決意にも何の価値も無かったとしても。
悲劇を覚悟してでも、クリアスティーナはただ一つの幸福な結末がどうしても欲しかった。
家族みんなで再び笑いあう事を、少女は夢見ていたのだ。
その壮絶で孤独な戦いを、城門前に集まった全ての人々が眺めていた。
混乱の最中、『虎の尻尾』の団員達に今更になって状況を説明された彼らは、『多重次元空間』などという訳のわからない物を作り上げた『操世会』や、その言いなりになっていたクリアスティーナを責める声を多くあげた。
自分達が死ぬかもしれないという不安や焦燥。理不尽への怒り、それら行き場のない感情の捌け口として、多くの人が目の前の少女を悪者にしようとする。
なぜならクリアスティーナ=ベイ=ローラレイは『救国の聖女』であり『白衣の悪魔の遺産』だから。
絶望も希望もその全てに彼女の存在があり、責任も功績も、憎悪も羨望も殺意も感謝も、その全てがクリアスティーナ=ベイ=ローラレイが背負うべきモノだと誰もが無意識のうちに考えているから。
それはいつかの光景の焼き直しのようで、未知の楽園の人々は三年前のあの日から少しも進歩してなどいなかったという事の証拠に他ならない。
もう助からない。ここで終わる。無理だ。諦めよう。
必死に戦う少女を見ながら、誰かが見捨てたように諦観を口にする。
いい気味だ。最後に散々苦しんで死ぬがいい。ざまあみろ。それがお前のしてきた事に対する報いだ。
血の涙を流し吠える少女を見ながら、誰かが昏い笑みを浮かべる。憎悪に嘲笑を織り交ぜて自暴自棄に愉悦する。
でも、それでも。
少女を口汚く罵るのが大多数の民衆の中にも、彼女を心の底から応援する人がいた。
負けないで。諦めるな。何とかなる。自分を信じて。皆を助けて。頑張って。
口々に飛び交う身勝手な応援の言葉。全くもって何とも勝手な話だ。呆れてしまって声も出ない。
『白衣の悪魔の遺産』と恐れ、遠ざけてきた少女に。
『救国の聖女』としてただ崇め奉ってきただけの遠い存在へ。
人々は自分の命が危機に瀕したこんな時に限って、都合よく助けを乞う。
醜く、哀れで怠惰な卑しい豚のような命乞い。
それでも少女は、そんな言葉が嬉しかったのだろう。
聞こえる声に応えるように、不安を押し殺そうとしている人々を安心させるように、柔らかく微笑んで――突如。
頭上から降り注いできた巨大な瓦礫に、微笑む少女が押しつぶされた。
――絶句。
諦めたように顔を伏せていた人も、罵倒を浴びせかけていた人も、一抹の希望を胸に声援を送っていた人も、その全てが言葉を失い、目を見開いた。
終わった。
もう無理だ。
最後の希望が、悪魔的な幸運を前に潰えた。
頭が真っ白になるような絶望の中、迫りくる終末の時を前に誰もが全てを諦めかけたその時――
――未知の楽園中にその声は響き渡った。
『――よぉ、』
それはある女の声だった。
『聞こえるかいね、未知の楽園で泥の安寧を貪る愛すべき大馬鹿野郎諸君! 諸君も知っての通り、もう間もなく未知の楽園は崩壊する。――今までこの街は、アタシらの住むこの世界は、たった一人の『救国の聖女』サマによって守られてきた。安泰だった。平穏だった。誰も彼もが弱肉強食の自由を謳歌してきた。だがそれも今日までだ。この街は終わる。……ああ、そうさ。見ての通り失敗したんだ、『救国の聖女』は。そのたった一人の失敗の道連れで、アタシらは成すすべなく瓦礫に埋もれて死ぬだろう。気分はどうだい大馬鹿野郎ども? 悲しいのかい? 恨めしいのかい? それとも憎らしいのかい? そりゃそうだ。たった一人の失敗でアタシらまとめて仲良くお陀仏なんだからね。恨み言の一つも湧いて出てくるだろうね』
未知の楽園に暮らす全ての人々の胸へ、その声は届いていた。女の語る内容に、ざわめきは加速する。救国の聖女に対する不満をあからさまに口に出す人。死の恐怖に絶叫をあげる人。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
そんな有り様を心の底から嘲弄するように、女は盛大に鼻を鳴らす。
『はンッ、お前ら全員ばっかじゃねえの? アタシから言わせりゃあこんなに良いザマもないさね。抵抗する事も、戦おうとする意志も、失敗や敗北を認める事も。その全てを放棄し逃げ出したアタシらに相応しい末路さ。そうは思わないかい? アタシらは此処で死んで当然だってなぁ!?』
女の声に、人々のざわめきの矛先が瞬時に変わった。
いわれのない罵倒、誹謗中傷。侮辱に怒りを露わにする人もいた。だが女はやめない。声は、糾弾の色を伴って絶えず世界に響き渡る。
この声人々の心に届けよと、精いっぱいに響き渡る。
『これだけ言ってもまだ分かんねえかなぁ? 一人っきりのガキにおんぶにだっこになってる時点で気付けって言ってんだよ、アタシは。何で未知の楽園の命運を一人のガキんちょに任せてん満足してんだい。普段は忘れてる癖に都合のいい時だけ『救国の聖女』『救国の聖女』って馬鹿の一つ覚えみてぇにピーチクパーチク持て囃しやがって。それでそのガキが失敗すりゃどいつもこいつも鬼の首を取ったように騒ぎやがる。お前らちっとは恥ずかしくないのかいね? アタシは自分が死ぬほど恥ずかしいさね』
人々の怒りの声がその勢いを落とす。ざわめきが薄れ、人々は互いに責任を押し付けるように互いを責めるような視線を群集の中で交錯させ彷徨わせた。
そんな馬鹿達を嘲笑って、女の声はなおも響き続ける。
『今、独りの少女が逃げる事を止め、現実を直視し、己の功罪と向き合おうとしている。痛みの伴う道だろう。その道のりは決して楽な物ではない、辛く険しい茨の道さね。それでも彼女は選択した。逃げずに自らと戦う事を、誰に強制されることなく自らの意志で選んだ。……だってのに、アタシらはまた同じ事を繰り返そうって言うのかい?』
痛みを伴う現実から逃げ続けてきた少女は逃げるのをやめた。己が変えたモノを受け入れ、受け止める事を選択した。
だというのに未知の楽園の人々は変わらない。
未だ一人に悲劇の責任を押し付け、素知らぬ顔で自分は悪くないとそんな戯言を宣い続けている。
本当にそれでいいのか? 女は声高々に問いかける。
『確かに、『白衣の悪魔』達は彼女達『遺産』の子供らを使ってアタシらから多くの物を奪った。それは変えようのない事実さね。『遺産』の子供達に悪意も殺意も無かったのだとしても、肉親や大切な人を奪われた者達の痛みは消えない。憎悪はなくならない。アタシらだって人間さね、『白衣の悪魔の遺産』という存在に対して受け入れがたい感情を持ってしまうことは仕方のない事なのかもしれない。けどね、そもそもおめおめ生き残ったアタシらに、被害者であるあの子達を恨む権利があるのかい?』
長男を失った母が、生き残った妹を力強く抱きしめる。
妻を失った男はその笑顔を思いだして涙を流した。
恩人を失った男は、彼の最後の言葉を思いだし、自分の無責任な怒りに羞恥した。
人は人を愛すると同時、どうしようもなく憎む生き物でもある。けれど女の問いに胸を張って真っ正面から答えられる者がどれだけいるだろうか。
そう。誰もが本当は気が付いていたのだ。
『「操世会」に楯突けば殺される。あの時代、理不尽と不条理に逆らった勇敢な戦士たちは次々に粛清対象として殺された。それを見てきたアタシらは……だから何もしなかった。矛先が己に向かう事を恐れ、抗う事を辞め、戦う事を諦め、傍観者に徹し、行動も起こさずに悲劇を享受して、豚のように慈悲を媚び、ただ悪を憎悪し嘆き悲しんだ。まるで自分達が最高に可哀想な被害者であるかのようにね。――生き残ったアタシらは“そういう逃亡者の集まりさね”。そんなアタシらに、世界を変えたあの子を罵る権利が一体何処にある?』
そう。
この街の住民は誰も彼もが逃亡者だった。
戦わずに逃げた。抗わずに逃げた。諦観に逃げて。責任から逃げて。憎悪する事に逃げた。傍観者で逃亡者。どいつもこいつもくだらない、どうしようもない腰抜けばかりだ。
それは弱肉強食なんて理念を言い訳に掲げ、どこまでも自分以外の他者と関わらないように臆病に生きるこの街の住人の根っこに染みついたどうしようもない弱さだった。
『「救国の聖女」は世界を変えた。彼女は未知の楽園を地獄の底に陥れた悪魔であると同時に、この街を救った英雄でもある。……けどさ、そもそもその少女は何処の誰だ。誰が本当のソイツを知っているってんだい? 少女は「悪魔」か? それとも「救国の聖女様」か? 答えはどちらも否だ。彼女の名はクリアスティーナ=ベイ=ローラレイ。アタシらと何も変わりゃしねえ、ムカつくくらいに綺麗な顔したタダの神の能力者の女の子さね』
避難の最中に突如として空間の亀裂が閉じ、別次元の未知の楽園の一つに取り残されたレインハート達もその声を聞いていた。
中心区に集められたは良いものの、突然避難先を失った怒りと不安で半ば暴徒と化していた未知の楽園の人々や、それをどうにかして鎮圧しようとしていたシャルトル達も同じように、彼女の声に静まり、耳を澄ませていた。
「クリアスティーナおねーちゃん、かわいそう……」
しょんぼりと項垂れるスピカの頭を慰めるように撫でつけながら、レインハートは遠くを見つめてこう零した。
「この街の人々は誰一人としてクリアスティーナ=ベイ=ローラレイという少女を見ていなかったのでしょう。彼らにとってはそんな事は知る必要さえなかった。むしろ余分で不要な情報でしかなかった。人々の心は怒りと憎悪の捌け口という生贄を求めていた。分かりやすいレッテルを貼りつけて、先入観と外面の記号だけを求め、寄ってたかって攻撃する。きっと彼らはそうしなければ心が壊れてしまう程に追い詰められていたのでしょうね」
感情の定かではない瞳に、それでも憐みに似た色が宿る。
彼女が逃げ出したくなる理由も、分かる気がした。
結局少女は、誰からも自分を見て貰えなかったのだ。張り付けられたレッテルの分だけ身の丈に合わない重荷を背負わされ、全てを押し付けられた。
「みんな、今度はちゃんと、わかってくれるかな?」
「……大丈夫ですよ、きっと。人とは失敗し間違いを犯し、けれど、それでも前に進もうとする生き物ですから。同じ過ちを繰り返す程、彼らは愚かではないでしょう」
スピカもレインハートも、信じていた。
人の持つ可能性を、希望という宝物を。
『アタシらはそんな事実から目を背け、全ての責任と功罪を、憎悪も羨望も殺意も感謝も何もかもをちっぽけな少女一人の背中に押し付けちまった。行場のない怒りとやるせない憎悪をぶつける為の分かりやすいスケープゴートとして、アタシらは一人の少女を悪だと決めつけ憎悪した。『救国の聖女』だなんて持て囃して世界を変えた責任を一人の少女に押し付け続けてきた。何て事はない話さ。抗いも戦いもせず、怠惰な豚のように諦観して理不尽を受け入れてきたアタシらは、背負うべきモノから逃げ続けていたのさね。この街に暮らす誰もが被害者で加害者さ。だってのにアタシらは加害者であることから逃げて、憎悪に逃げて、被害者面ばかりしてきた』
真の被害者なんてこの世界には誰一人としていないのかも知れない。傍観することでさえ誰かを傷つけるのならば、きっと誰もが罪を背負って生きていくべきなのだ。
多くの人はそれに気づかず、気づかないふりをして生きていく。己の心を守るために。防衛反応に従って、己の罪を誰かに押し付ける。
知らず人を傷つけ、傷つけた事を忘れてしまう。その癖誰かに傷つけられた事は忘れない。
人とは、とても弱くとても醜い、酷く自分勝手な生き物なのかもしれない。
「誰にだってあるのよね、きっと。自分の弱さを認められない事が。だからその言い訳を、他の誰かに求めて押し付ける。『救国の聖女』なんてものは、きっと彼らにとって都合のいい的だったのでしょうね~」
「む、予想外に真面目な台詞が飛んできて驚きなんですが。……というか、セルリア姉ちゃんにもあるんですかぁー? そういう弱さ的なモノ」
「ええそうよ~。それは誰にでもある物なのよ。シャルトル、勿論アナタにもね。だから私達はそんな弱さと戦い続けなければならないの、生きている限りずっとね」
弱さを認めるが別段肯定はしない。セルリアは人とは生きている限りそれと戦い続けるべきなのだと、そう言い切った。
その戦う姿勢こそが、きっと尊いものなのだろう。
それは誰かの為の献身であったり、思いやりの心であったり、感謝や謝罪の言葉でもあるのかもしれない。
人は弱さと戦い続けなければならない宿命を背負っている。でも、だからこそ、きっと人はこんな残酷な世界でも優しい心を忘れずに、他者への思いやりを抱いて生きていけるのだ。
いつもおだやかでマイペースな笑顔を浮かべているセルリアは、こんな時でも笑みを絶やさなかった。
弱さを包み込むような微笑みで、少女は事の成り行きを静かに見守っていた。
そんな中、スカーレは落ち着きなくそわそわキョロキョロと辺りを見回しながらこう零す。
「つーかセルリア姉もシャルトルも豪胆だよなー。アタシら完全に次元の向こう側に取り残されてる状態なんだぜ? 生きて地上に帰れるかどうかも分かんねえってのに、よく平然としてられるぜ。全くよ」
「んナ」
こんな状況で男の無事を心配するお前程じゃねーよ、と。あきれ顔のセピアがジト目で一人ツッコんでいた。
どんな状況であろうとも彼女達は絶望などすることなく、己の内に巣くうその弱さに抗い続けていた。
『だって、憎悪する事は容易で楽だ。本来己が背負うべきモノを、全てソイツ一人のせいにして押し付ける事ができるんだからね。自分が立ちあがらなかった結果を全て人のせいにして、悲劇の主人公を気取るのは実に気分がいいだろうさね。だが、無責任に憎悪を押し付けられる側はどうすればいい? ……そんなのどうしようもないさ。多数決は数の暴力だ。アタシらが逃げるのを止めない限り、押し付けるのを止めない限り、彼女は永遠に背負わなくていいモノまで背負い続ける。お前らはそれを見てざまぁ見ろと笑うかいね? ……アタシはそんな腐った真似はごめんさ。アタシはね、その重荷を背負ってやれるカッコいい大人でありたいんだよ』
その言葉を逃亡者の集い旗の面々も聞いていた。
ある者は黙って。ある者は懐かしさに目を細め。ある者は涙を流して。思い浮かべるのは一人の家族の名前。
今日この瞬間に立ち会えなかった彼の事を、逃亡者の集い旗の誰もが思い浮かべていた。
『今一度問おう! 未知の楽園に暮らす愛すべき逃亡者諸君! 未知の楽園はもうまもなく崩壊する。理不尽な終わりを、お前らはまた一人の少女に責任の全てを押し付け、逆恨みしながら楽しい終わりを迎えるか? それとも今度こそ、自分の意志で戦う為に立ち上がるか?』
ざわめきは再び最高潮へ達する。多くの視線が交わされ、戸惑い、困惑する人々の群れ。だがその中に、揺るぎない瞳で前を見据える子供がいた。
愛すべき子の為に自分の意志で抗う事を選択した母親がいた。
数日前に見知らぬ少年に助けられた中年の男は、誰かの為に戦うという覚悟に恐怖に震える拳を握りしめていた。
今まで誰かを傷つける事しかしてこなかった不良グループの少年達は、互に顔を見合わせて、喝を入れるように互いの頬に拳を突き入れた。
そう。
誰もが本当は分かっている。
今こそが立ち上がる最後のチャンスなのだと。ここを逃せば次なんてない。一生臆病な逃亡者のまま、誰かを傷つけて生きていく事しか出来ない逃亡者のままなのだと。
――誰もが本当はその手で掴みたいのだ、幸福な結末を。
掴みたいと、そう願いたいのだ。誰に恥じる事無く、心の底から。
だから。
『……いい加減、逃げるのはもう止めにしようさね。これまで背負って貰っていた分、アタシらが担ぐ時が来たんだよ。アタシらの未来を、たった一人の餓鬼に背負わしてたんじゃあ笑い話にもなりゃしない! さあ、準備はいいかい!? 楽園に暮らす逃亡者ども! 今こそその旗を掲げる時さ! 彼女の元へ集え、その手を天に掲げろ、孤独な戦いを続ける少女へ、テメェら逃亡者どもの力を有難く献上しな!!』
頷き合い、拳を握る。
やるべき事は明白だった。
諦めてやる理由なんてどこにもなかった。
憎しみの感情はそう簡単には無くなる物ではない。けれど、逃げるように全てを押し付ける憎悪だけはもうしない。するべきではなかったのだと、人々は己の弱さを認めた。
人とは往々にして正義を愛し悪を憎む者である。
だからこそ、ここで逃げる臆病な悪役には誰もがなりたくなかった。
たった一人で戦う女の子の力になれるのなら、最後の瞬間としてこれ以上に良いものはないと破顔するような馬鹿者もいた。
心は一つに。
人々はそのボルテージを上げ、士気は最高潮へと高まっていく。
頭上に掲げる手が一つ、二つ、三つと増え、そこからは火がついたように爆発的、連鎖的に増加する。
花が咲き乱れるように、掌が咲き乱れ、人々の決意に熱気が生まれる。
それは別次元の未知の楽園でも同じ、その想いは変わらなかった。
誰に説明されなくともやるべき事は理解できた。
頭上に掲げた掌から各々があらん限りの力を放出する。吹き荒れる神の力の奔流が、大気を満たし世界に異法則がぶつかり合い干渉力が満ちていく。
逃げ続ける時間はもう終わりだ。
此処から先は逆襲の時。
誰もが心を一つに立ち上がったその幻想的な光景が眼前に広がっている。まるで嘘のような現実。
「……見てるかよ、災友クン。アンタやっぱすげえよ」
逃亡者の集い旗の誰もが、その幻のような光景と彼女の演説に言葉を失くし目を真っ赤に泣き腫らす中。建物に背を預けながら、貞波嫌忌は震え声で何かを確かめるように呟いた。
まるで奇怪な呪文のようで、けれど彼らの心に深く刻まれた誓いの言葉。
「――我々は運命の逃亡者。成すべき事から逃げて、己の責務から逃げて、背負うべき罪業から逃げた。真実を直視しようとせず、疑問から逃避し、与えられる幸福を何の違和感も抱くことなく享受してきた」
離れていても心は一つ。別々の次元にありながら、彼らは誰とも無しに、その言葉を口ずさむ。
「我々は弱かったのだ。見せかけの力はあっても、それは真の強さではない」
ナギリ=クラヤが独り言のように零す。上を向いた彼の表情は依然として見えず、彼の足元に残った数滴の染みさえも、誰に見られる前に消えていく。
「故に甘えた」
夜戦病院のようなベッドのうえで、意識のないライアンス=アームズが譫言のように言う。
「故に投げ出した」
「故に押し付けた」
生生と竹下悟は、遠き過去に思いを馳せるように上を向いて瞳を閉じていた。今瞳を見開けば、きっと、零れ落ちてしまうモノがあったから。
「故に逃げ出した」
レギン=アンジェリカは瓦礫の下のクリアスティーナとディアベラスを信じるようにきつく目を瞑り、神に祈るように手を組んでいた。
「そんな恥ずべき逃亡者である我らの代わりに、一人の少女は全てを背負い、全てを抱えた。だからこれは決して消えぬ永久の罪。恥ずべき逃亡者たちは集い、かの聖女を旗に掲げよう」
リズ=ドレインナックルは血の気の無い顔を懺悔するように歪め、リリレット=パペッターはこれから歩むべき彼女と自分達の未来に思いを馳せ、貞波嫌忌は歯を食いしばりながら災友が残した言葉の続きを口にする。
「悪魔と罵られる少女こそが救世主であり英雄だと声高々に謳い続けよう」
『救国の聖女』などではない。
『白衣の悪魔の遺産』でもない。
「聖女と尊ばれる少女こそがごくごく平凡な女の子であると伝え続けよう」
クリアスティーナ=ベイ=ローラレイという一人の少女を見てくれる人が現れるその時まで、逃げ続けた我々がその名を天に轟かせるのだ。彼女という少女が忘れ去られる事のないように。
……輩屋災友は、夢見る少年のように、かつてそう仲間達に語っていた。
「これはその為の基盤。誰もが掲げる合言葉。知らずして世界に浸透する象徴にして概念」
『救国の聖女』の偉大さを。
『白衣の悪魔の遺産』の恐ろしさを。
「いつかいつの日か。逃げる事を止め真実を直視する勇気を持つ人が現れた時。きっとそれらを語り継げるように」
決して忘れてはならない戒めとして、この世に残す。
「いつかいつの日か。再び少女が停滞を打ち破る時に、その横に並び立てるように」
そうしていつか、逃げ続けた人々が再び自分の意志で彼女と向き合うと決めたその時にこそ。
「だからそれまでは、せめて少女の望みを叶え続けよう。それが我らの罪滅ぼし。全てを彼女一人に背負わせのうのうと逃げおおせてしまった逃亡者達の、精一杯の献身」
クリアスティーナ=ベイ=ローラレイの物語を始めよう。
「……ホント、何で俺なんかに全部放り出して一人で逝っちまったんだよ、もったいねえよ。ほら見てみろよ。何もかも、アンタの言う通りになりそうだぜ。……ああ、そうだ。俺は、俺達は――」
――その名は、確かに彼らの心の中にいつの間にか染み込み、当たり前のように存在していた――
『――そうさ……アタシが、アタシらこそが「逃亡者の集い旗」だッ!! 「悪魔」でも「救国の聖女」でもない、ただのクリアスティーナ=ベイ=ローラレイという名の少女の隣に並び立つ。それが今の今までおめおめと逃げ続けたアタシらに出来る、唯一の罪滅ぼしさッッ!!』
この三年間で浸透していたその言葉は人々の胸にすんなりと違和感なく染み込んでいき――
――そして、その瞬間。未知の楽園の人々のボルテージはついに最高潮を突破した。
『『『――ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!』』』
国が割れんばかりの大歓声が崩れゆく街並みに木霊する。
崩壊の縦揺れを上回る勢いで歓声が大地を震わせ、人々の心をさらに焚き付ける。
手を頭上に掲げたまま誰もが立ち上がり、魂のままに吠えた。
皆で生きて帰る。その為に少女の力になる。
たった一つの幸福な結末を求めて、未知の楽園に生きる全ての逃亡者がたった一つの旗の元、その想いを結集し団結して一つとなった。
その時だった。
人々の大歓声に押されるように、クリアスティーナ達を押しつぶした瓦礫に僅かに罅が走る。僅かに生じた隙間から赤紫の光りが零れて――『悪魔の一撃』が瓦礫を内側から押しのけて世界を朱色に染め直した。
瓦礫に押しつぶされたクリアスティーナ達は無事だった。圧死する寸前、クリアスティーナがドーム状に張った『次元障壁』によって三人は瓦礫から守られていたのだ。
少女達の生還にいっそうの大歓声が注がれる。
さあ、役者は揃った。
――みっともなく逃げ続けてきた逃亡者達による逆襲の時間が、今始まる。
☆ ☆ ☆ ☆
……熱い。
熱い熱い熱い熱い熱い……ッ!
身体が火照ったように熱をもっている。だが嫌な感覚ではない、むしろ逆だ。
四肢にまで漲るのは途方もない全能感。
今なら何だって出来る気がした。誰にも負けない。どんな破滅の運命だって跳ね返せる。
『ウロボロスの尾』から供給される干渉力の量と質が先ほどとは比べものにならないレベルで上昇しているのを感じる。『ウロボロスの尾』は大気に満ちる干渉力を吸い上げ、接続した者が消費した分だけ干渉力を供給する。その供給が一気に跳ね上がったというのならば、その原因は明白だ。
世界に満ちる干渉力の総量が上昇し、『ウロボロスの尾』が吸い上げる干渉力の総量も一気に上昇した。
そして、ディアベラスが供給効率を無視する程の量を『ウロボロスの尾』から汲み上げクリアスティーナへ与え、結果としてクリアスティーナの消費する干渉力もまた増加した。
まさに負を覆す正のスパイラル。
何故世界に満ちる干渉力が増加したのか、理由は言うまでも無いだろう。
「ディアくん」
隣で呟くクリアスティーナに頷き返して、ディアベラスが繋いでいた手を彼女の指に絡めるように繋ぎ直す。
今のディアベラスは、完全にクリアスティーナへと干渉力を受け渡す変換アダプタとして機能している。
『ウロボロスの尾』とおかしな接続をしたせいだろうか、彼は人でありながら半ば神器の機能を帯び始めているのだ。
本来ならあり得ないその光景を見ていた和葉は、呆れたように嘆息し、それから微笑んで。
「ディアベラス。私の力も使って。どうか、皆で勝利を掴めるように……!」
「……ああ。そうだなぁ。絶対に勝とう」
握手するように差し出した和葉の手をディアベラスは空いている方の左手でしっかりと掴んだ。
『ウロボロスの尾』の形成する無限の循環の一部となっていたディアベラスに直接接続し、和葉は己の干渉力を注ぎ込むようにディアベラスへと直接受け渡す。
すると集められた人々の群れから、その光景を見ていた一人の子供が飛び出してくる。
六歳くらいの少年は緊張と恐怖に足を震わせながら、それでも勇気を奮い起こしてつっかえつっかえにこう言った。
「おねーさん、ボク、みんなを守りたいんだ。だから、ボクも……!」
和葉は驚いたように目を見開いた後、差し出された小さな手に優しい微笑を浮かべて、
「ええ、私達を助けてくれるかしら? 小さな勇者さん」
ぱあっと、少年の顔がほころび、そしてその顔をひきしめるように力強く頷いた。
その光景を見ていた人々もしきりに顔を見合わせ頷き合う。
勇敢な少年に敬意を表すように、精悍な顔立ちの青年が跪き、頭上へと掲げていたその手を少年へと差し出した。
――手を繋ぐ。
さらに家族の為に働く冴えない中年男が、――手を繋ぐ。双子の姉妹が、――手を繋ぐ。艶やかな娼婦が、――手を繋ぐ。太ったおばちゃんが、――手を繋ぐ。八百屋のおじちゃんも強面の大工も病院の先生も盗賊もホームレスも孤児も誰も、――手を繋ぐ、――手を繋ぐ、――手を繋ぐ、――手を繋ぐ、――手を繋ぐ。
誰も彼もが手と手を繋ぎ、一つになっていく。繋がっていく。
――逃亡者どもは彼の旗の元、一つに集い手を取り合う。
「私もいいか、アスティ……?」
「――ええ、勿論」
目に大粒の涙をためながら照れくさそうに微笑みかけてきたレギンにクリアスティーナは微笑み返し遠慮がちに差しだされた手を取った。
それを最後に、手を繋いだ人々の列に終端がなくなり巨大な輪ができる。
無限の循環がもう一つ、此処に生まれ落ちる。
この場に敵なんていない。
この瞬間、未知の楽園の人々は確かに分かり合い、一つになっていた。
城門前にはいつの間にか一つの大きな環が誕生していたのだ。
その光景を、半ば途切れそうになる曖昧な意識の中で東条勇麻は目撃した。
「……あれ。は、……」
「ああ、クソみたいに不格好な輪だな。勇麻、お前がガキの頃に描いたパンダそっくりだ」
「……あの話は、無しだって、……言った、だろ。てか、パンダじゃない、僕は龍也にいを描いたんだよ……」
半眼でぼやく寝ぼけたような勇麻の返答に、泉は嘆息する。
どうやら意識が満足に覚醒しきっていないらしい。それどころか記憶が混雑し、幼い頃に一人称が戻っている。
炎の翼をはためかせ空を飛ぶ泉に抱えられながら、勇麻は上空からどこか焦点の合わない瞳でその輪を直視していた。
凸凹で、綺麗でもなんでもない。不揃いでどこか歪んだ円形が、巨大なミステリーサークルのように中心区に誕生している。
「ま、パンダに間違えられた龍也の野郎も本望なんじゃねーの? あのアホ勇麻の絵空事が、こんな形で実現したって知ったらよ」
「……うるさい、馬鹿……」
きっとあの円には中心なんてものはなくて、誰もが平等に誰もがたった一つの結末を目指して心を繋いでいるのだろう。
――誰もが幸せで笑い合っていて、皆が手を取り合って分かり合う平和な世界。
それは幼き勇麻の思い描いた絵空事の、体現であった。
勇麻はあの輪の中に混ざれない自分を悔しく思いながら、心の中を温かい物で満たして再び意識を襲う眠気に身を委ね目を閉じた。
――ここに逃亡者の集い旗は成った。
ならばもう負ける要素などどこにもない。一人の少女の隣に寄り添い支え合う彼らがいる限り、クリアスティーナが倒れることなどもうありえない。
と、不意に隣のディアベラスがどこか言いにくそうに口を開いた。
「……クリアスティーナ。あー、そのな、こんな時に何だが、一つ言っておきてぇ事がある」
「なに? ディアくん」
「さっきは何つーか有耶無耶になっちまったかんなぁ。ちゃんと言っておく。……俺はお前が好きだ、アスティ。家族としても勿論、一人の男として女のお前も愛してる。……迷惑かぁ?」
照れ隠しなのか、視線を逸らしながらぶっきらぼうに最後にそう付け加えたディアベラスをクリアスティーナはポカンとした表情でしばし見つめて、
「ぷっ、あはははっ」
何だかおかしくて、つい噴き出してしまった。本気でショックを受けたような顔をするディアベラスがさらにおかしくて、クリアスティーナはひとしきり笑った後に目元に涙を浮かべて、
「ううん、嬉しい……です」
「そう、かぁ。それは……あぁ、嬉しいなぁ」
ぎゅっと、二人は繋ぎ直した手と手に込める力を強め、そんなやり取りがやっぱり面白おかしくて、視線を合わせて再び笑った。
……力が溢れてくる。
温かい想いに乗せられた莫大な干渉力が、クリアスティーナの身体の隅々まで行き渡る。
供給効率など無視した飽和的な干渉力の供給によって、クリアスティーナの『支配する者』がその力を最大限に発揮する。
「……アスティ、」
「うん、ディアくん」
手を繋ぐ二人は一度だけ視線を交わらせて、そして決意に口を堅く引き結んだ。
「この街を、皆を救おう。私だけじゃない、私達の、皆の力で……!」
「あぁ、誰一人欠けることなく皆で見るんだぁ。未知の楽園の朝焼けを……!」
身体中の血管という血管から血を噴き出し、身体中を赤く滲ませディアベラスが力の限り吠える。
クリアスティーナを包む流れる髪と同色の金色の輝きがより一層強く激しくなる。粉雪のように少女の身体から湧き上がる金色の鱗粉、純白の天使の羽根が舞い、幻想的な光景を生み出す。
二人の雄叫びに重ねるように、手を繋いだ人々が喉を枯らして絶叫する。
想いを乗せた咆哮が、崩壊する未知の楽園に朝の到来を告げる祝砲のように響き渡った。
……手に取るように空間の全てを把握できる。人々の座標、その動き、その流れ、一秒後の動きさえ完璧に予測して、余すことなく次元さえ越えて空間全てを支配する感覚。いける。単なる事実として、クリアスティーナは自身の勝利を半ば確信へと至らせる。
問題は時間との勝負。
クリアスティーナが全てを支配し、転移するのが先か。未知の楽園がその崩壊と共に全てを瓦礫の下に呑み込むのが先か。
次元と空間を支配するクリアスティーナの干渉力が未知の楽園一帯を全て覆い尽くして――
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未知の楽園は巨大な地鳴りとともに完全崩壊。
全てが瓦礫の下に、呑みこまれた。




