行間Ⅲ
もう無理だ。
私達はお終いだ。
食料は底を尽きた。
お金も職も私財も何も無い。全て『白衣の悪魔』とその『使い魔』達に奪われた。
『操世会』は状況を知ってなお動かない。
……分り切っていた事だ。連中はグルなのだ。
自分達にとって都合の良い物だけを守り、都合の悪い物を『白衣の悪魔』とその『使い魔』達を使って排除する。
我々が作った相互互助組織も、有志を募って作った治安維持組織も、その全てが『白衣の悪魔』の『使い魔』によって抹殺された。
『操世会』は、世紀末の世界を望んでいる。
秩序を破壊し、規律を壊し、一部の特権階級だけが全てを奪い全てを得る。
この街は神の能力者の楽園などではない。紛れもないただの地獄だ。
だが今更それを理解したところでもう遅い。
次の粛清の対象は、おそらく私になるだろう。
妻と子供を残したまま死ぬのは恐ろしいが、それでも己の選択を悔いた事はない。
我々は戦った。
誰もがひたすら逃げ惑う中、それでも誇りを捨てなかった。
その結末は後悔に値するような敗北でしかなかったが、それでも戦いを貫いた我々は人間を保って終わりを迎える事ができるだろう。だから、結果はともかく選択に悔いはない。
けれど。
……あぁ、もし願いが叶うのならば、誰でもいい。誰か、この街を、この街に暮らす人々を救って欲しい。
誰もが平等に幸せな世界が欲しいとは言わない。神の能力者というだけで差別されるこの世界に、今更そんな夢物語を求めたりはしない。
ただ、頑張った分だけ報われるような。理不尽に、何の脈絡もなく全てを奪われることのない世界にしてほしい。
我々は強く生きようとした。そしてそれすらも奪われた。息の詰まるような管理された世界で、もっと自由に生きたかっただけなのに。
救世主なんて望まない。
英雄なんて必要ない。
それでも、この声が届いたのならば、
名前もない何処かの誰かよ、この街を。未知の楽園を救ってくれ。
……強大な災厄から逃げ続けたこの街の人々が、いつか立ち上がってくれる事を信じて此処に記す。
――崩れ落ちた民家から見つかった誰かの走り書き――




