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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
第四章 悪意ノ伝道師
138/415

第一五話 それぞれが対峙する壁Ⅱ――迫る決断と揺らぐ意志

 北ブロック第五エリアの学生寮のベランダでは、未だにアリシアとチェンバーノ=ノーブリッジとの睨みあいが続いていた。


「……」

「……」


 互いに無言のまま、硬直状態が続く。

 傍から見れば、二人の間だけ時間が停止してしまったかのような、そんなおかしな情景に見えるだろう。

 互いに互いの様子を見るような視線が交わされるだけで、そこから一切の進展が見られない。場が動かず、もどかしい展開が続く。

 アリシアのごく当然の問いかけにチェンバーノが顔を真っ青にして固まってから、既に五分ほどの時間が経過していた。 

 

 アリシアは確かに常識知らずの箱入り娘(物理的)ではあるが、決して馬鹿ではない。

 天然だとか現世音痴だとか酷い事をたびたび勇麻に言われてはいるが、それでも間近に潜む危険の匂いさえ感じ取れないような鈍感馬鹿ではないのだ。

 チェンバーノという明らかな不審者に対しても、アリシアは十分以上の疑念と警戒心を抱いていた。

 それでも彼女があえて彼に話しかけたのは、犯罪者の心理上、怯えて部屋の隅でうずくまっているよりは、むしろこちらから話掛けられれば驚いてその場から逃げ出すのではないか、という予測があったからだ。

 あったからなのだが……アリシアの予測はものの見事に外れてしまったようだ。

 目の前の男は一切動じない。

 いや、精神的な面だけ見ればもうぐらんぐらんと揺れまくりなのだが、外見上だけ見ると全くもって身動きがない。何というか物理的に動いてくれない。


 ――どちらか、先に動いた方がやられる。


 そんな訳はないのに、不思議とそれが正しい認識であるかのような独特の世界に引き摺り込まれていく。

 チェンバーノという男の持つ、独特の雰囲気にあてられている。

 そう理解してなお、アリシアは何故か固まったまま動く事ができなかった。


 そんな西部劇にも似た揺さぶり合い腹の読み合いを二人が繰り広げていた時だった。

 どこか棘のある声が、膠着状態をぶち壊しにかかる。


「何故そこのアホがアンタの名前を知っているかだって? そりゃアンタ、狙った標的の事を調べるのは当然の事だろ?」


 ややハスキーな女の声だった。


 酒を飲み過ぎた翌日のようにどこかいがらっぽく掠れている声にも聞えれば、喉を潰して引退した歌姫の声にも聞える、そんな声だった。

 反射的に声の方向に視線を向けると、ベランダの縁。幅三センチほどの鉄柵の上に浅黒い肌と乳白色に染めた髪の毛が特徴的な背の高い女が立っていた。


 最初、驚きが勝ってポカンとその場に突っ立ていたアリシアだったが、女の言葉の意味を正しく認識した途端、金縛りが解けたようにすぐさま臨戦態勢に入った。

 逃げる、という選択肢はなかった。女とアリシアとでは体格が違いすぎる。小柄なアリシアの足では、一〇〇メートルも進まないうちに追いつかれ捕まってしまうだろう。

 ならば多少のリスクを負ってでも神の力(ゴッドスキル)で撃破したほうが安全だ。そう判断したのだ。

 視線を鋭く細めると、アリシアという少女から眠たげでどこか抜けたような印象が一瞬で霧散する。

 一気に高まる緊張感。

 しかし次の瞬間には、その空気を台無しにする絶叫がチェンバーノの口から放たれていた。


「リコリス! 何してくれちゃっているんだ君って奴は! せっかく僕が穏便な接触に成功したのに!! いや別に彼女が可愛らしいから仲良くなりたかったとかそういう意味で邪魔するなとか言ってないけどぉ!?」

「……アンタのその惚れっぽさはまあいつもの事だから置いておくとして、だ」


 リコリス、と呼ばれた女はそこで一度ゆっくりと溜め息を吐くと、


「何してくれちゃってるんだ、だと? ……それはこっちの台詞だドアホウ!! あのね、アンタみたいな勘違いアホシストを真っ先に送り込んだのはここで東条勇麻戦を想定していたからだ。その馬鹿メンタル含めて一点集中殴り合い特化のアンタなら、勇気の拳(ブレイヴハンド)と当てても勝算がある。そう判断したからアンタを一番手にした。……だってのにその東条勇麻はいねえし、秘密裏に接触する予定だった標的にも警戒されまくりって一体何をしでかしたらこんな悲惨な点数を叩き出せるんだ?」


 リコリスはプルプルと小刻みに肩を震わせながらそう言った。

 顔の筋肉が引き攣ったような、どこか無理やりなにこやかな笑みを浮かべている彼女の目だけが全くもって笑っていない。どうやら相当お冠らしい。

 リコリスの怒り具合を理解したのか、チェンバーノの口から今度は情けない悲鳴が漏れた。


「で、でもリコリス。確かに僕は彼女に怪しまれてはいたけど、まだ警戒されてはいなかったんだ。あと三十秒もあれば、的確な回答を導きだして、彼女の信頼を得られていたはず……」

「だからテメェにそんな腹芸求めてねえっつってんだろうが役不足なんだよボケカスナルシ野郎ォ!!」

「ひぃッ!?」


 ビクビクぅっ! と、惨めな小動物みたいにその場で縮こまるチェンバーノ。

 リコリスはしばしその場で荒い息を吐いていたが、やがて心を落ち着けるように深呼吸を幾度か繰り返すと、何かを切り替えるように一度目を閉じて改めて視線をアリシアへと向けた。


「さて、と。とんだ茶番に付きあわせてしまったね」

「お主達は、一体何者だ……? 見た所『創世会』でも『汚れた禿鷲(ダーティーコンドル)』でもないようだが……」

「本当はチェンバーノの力で『マーキング』して無理やり連れて行く予定だったんだけど……まあ、うん。気が変わったわ。こっからはアタシのやり方でやらせて貰うよ」

「……答えろ! さっきから何を言っているのだ。お主らは何者で、私に一体何の用だ!?」


 こちらの言葉に一向に取り合わないリコリスに、アリシアは思わず大きな声をあげていた。

 彼女を良く知る人が聞けば、間違いなく驚いたであろう。大声をあげるのはおろか、感情を表現する事さえ苦手なあのアリシアが、怒りを露わに語尾を荒げて叫ぶなど、ただ事ではない。

 こいつは危険だと、アリシアの中で警報が鳴り響いているのだ。

 それだけ状況は切羽詰まっていた。


「ふふふ、そんなに気になるかい? いいさ、だったら答えてやろう。この際だから単刀直入に行くぞ。アタシらは『未知の楽園(アンノウンエデン)』の神の能力者(ゴッドスキラー)だ。そんでもって此処に来た理由はたった一つ。神門審判ゴッドゲートのアリシア、アンタを貰いに来た」

 

 耳を疑うような発言が、女の口から飛び出した。


「端的に言おう。来いよ、未知の楽園(ウチ)に。ぶっちゃけここはひでえよ。まるで悲劇の温床だ。ゴキブリみてえに一匹ソイツを見つけたと思えば、うじゃうじゃうじゃうじゃどこまでも際限なく湧いてきやがる。アタシらはそういうのまとめて全部ぶっ壊そうって集団だ。アンタも一緒に薄汚えモンぶっ壊さないかって誘ってんの」


 分かるかな? と片目を瞑ってそんな事を嘯いた女の瞳はどこまでも本気の色を湛えている。

 冗談でも無ければ伊達や酔狂で言っている訳でも無い。混じりけのない一〇〇パーセントの本気。本心からの言葉だ。

 その瞳に、存在感に、威圧される。まるで、丸裸の状態で獰猛な肉食の獣と対峙しているかのようなプレッシャー。

 受け答え一つ間違えれば即座に切り捨てられてしまう、そんな予感のような錯覚がアリシアの口の滑りを悪くした。

 アリシアは、ゆっくりとリコリスの言葉を吟味するように舌のうえで転がしてから、彼女の問いかけに対して返答する。


「……お主達は私を、私の持つ天智の書(チカラ)が、欲しいのか?」

「そうさ」

「……そうか。なら、私の答えは一つ。わざわざ思案するまでもなく“否”なのだ」


 アリシアの拒絶の言葉にもリコリスは顔色一つ変える事なくただ静かに言葉を返した。


「……理由を聞こうか」

「お主達は、この街を悲劇の温床だと言ったな。自分達はそういった悲劇を破壊する集団だと、そう言ったな? なら私はお主達を認めないのだ。正義を理由にすれば何をしても許されるとでも思っているならそれは間違いだ。無秩序に『力』を求め得ようとするお主達のような存在こそが、新たな悲劇を生み出す温床に他ならないのではないのか!?」


 リコリスは言っていた。

 本来ならアリシアを無理やり連れて行くつもりだった、と。

 己の行動全てが正しいと信じ込み、その信念を貫く為ならばどんな物だって犠牲にしても構わない。

 そんな考えを抱く連中の掲げる正義こそ、悲劇の火種に他ならないのではないだろうか。

 自分は正しい。どんな事をしようとも、正当な目的の為ならば間違いではない。

 あまりにも妄信的なそれは、もはや狂気と違わない。どんな大層な理想を掲げていたとしても、決定的に人として間違っている。そんな人間達の誘いに乗る事はアリシアにはできなかった。


 もしかしたら、彼らは本当に悲劇を破壊する側の人間なのかも知れない。けれど同時に、間違いなく破壊をまき散らす側の人間でもあるはずなのだ。

 そして破壊は、確実に悲劇を産む。それ以外の物を産むのだとしても、破壊と悲劇はワンセット一括りだ。


「なるほどね。悲劇を破壊するだの綺麗ごとをほざいている癖に、簡単に秩序を破り暴力に頼るアタシらは信じられないと、アンタはそう言う訳だ」

「そうだ。そんな奴らに私の力を渡す訳には――」

「――あー、やっぱり駄目だなこりゃ。無理やり連れてくのやめて正解だ。こんなヘタレてるんじゃやっぱ使い物にならねえよ」


 アリシアの言葉を上から塗りつぶすように、リコリスの乱暴な言葉がその場を支配した。


「なぁ、アンタさ。本当にこのままでいいと思ってる訳?」

「な、何がだ。何の事を言っている……?」 

「とぼけるんじゃねえよ。東条勇麻だよ、東・条・勇・麻・!」

「ッ!?」


 リコリスは面倒くさげに乳白色の髪を掻き毟って、


「だいたいさぁ。アンタ、東条勇麻をこのままスネークとかいう化物に任せておいてイイと本気で思ってんの? このままだと使い潰されるぜ、東条勇麻」

「……私や私の友人の恩人を悪く言うな。あの男は……スネークは、そんな事をするような男ではない……!」

「は? いやごめん意味分かんねえ。何でそんな簡単に信じる? いや信じられる? 相手は汚い大人だよ? 嘘と建て前と見栄と虚勢で固められた部分しか見せない、合成着色料の塊みたいなモンだぞ? スネークがアンタらに何も隠していないとどうして言い切れる。命を救われたから? あいつが正義の味方だから? ……おいおい、頭ん中お花畑かよ、失笑すらおきないんだけどいやホント笑えねえ」


 正義の味方は無条件で信じる理由になりはしない。

 結果として大勢を救い、悪を挫き平和を守っているのだとしても、倒される悪がある限りかならずスネークのやり方には傷つく人間という物が存在する。

 だからこそ、リコリスは問うのだ。

 自分の綺麗な側面ばかりを全面に押し出そうとするような、正義の味方ヒーローなんて物を、どうしてそう無条件で信じられるのか? と。

 普段見えているその一面が、本当に正しいスネークという小汚い大人の全てなのか? と。


「……、お主の言葉には、どうにもフィルターが掛かっているように感じれるのだ。お主が大人に対して悪感情を抱いているのは分かった。だが逆に言えば分かったのはそれだけだなのだ。色眼鏡で見聞きした情報にどれほどの正しい価値がある? 少なくともスネークと碌に関わってもいないお主に、スネークの事を判断できるはずもない」  

「……はぁ。存外頑固だな、アンタ」

 リコリスは、何かを諦めるように息を吐いて、


「なら、質問を変えよう」


 諦める事なく、その瞳をギラつかせた。


「次のアタシの質問はこうだ。なあアリシア、今の東条勇麻の状態はマトモだってアンタは断言できんのか? おかしいトコは一ミリも存在しないって、そう胸を張って言えるのか? なあ教えてくれよ、おい」

「それは……」


 勇麻におかしなところなど何も無い。

 そう断言しようとして、けれどアリシアは言葉に詰まる。

 詰まってしまう。


 思い出されるのは幾つかの光景。

 ネバーワールドのテロ事件終盤。奇操令示の手に落ちたアリシアと高見と幼い少女の三人の絶体絶命のピンチを救ってくれた、禍々しいまでの威力を秘めた正体不明の一撃。

 ネバーワールドから帰ってから今日までずっと、どこか不安定な勇麻の挙動と言動。

 そして時折見せる、何かに憑かれたように憎悪と殺意に捻じ曲がった悍ましい表情が、まるで勇麻が勇麻じゃなくなってしまったようで、アリシアを死ぬほど不安にさせるのだ。

 

 何もないなどと、断言できる訳がなかった。


 むしろその逆だ。

 ネバーワールドでの一件以来何もかもがおかしくなってしまった。

 勇麻も勇火も泉も楓もそして高見も……みんなみんな……! 

 そしてきっと、それはアリシア自身も同じなのだろう。


 誰も彼も何かが、あの日を境に何らかの変化に直面している。

 もう過去は戻らず、楽しかった時間は帰ってこない。きっとどこまでも致命的で取り返しがつかなくて、だからこそアリシアは不安で押しつぶされそうになるのだ。

 大好きなこの時間が、大好きになれたこの日々が、このまま終わってしまうのではないか。そんな不安に。 


 言いよどみ押し黙るアリシアの反応を肯定と受け取ったのか、リコリスは明確な返事を待たずに言葉を続ける。

 心の隙間に、付け込むように。

 不安をより、煽るように。


「その異変を仕組んだのはスネークだよ。十中八九な。……ネバーワールドでのテロ事件を思いだしてみろ。そもそも事件を解決するだけなら、わざわざ奇操令示と東条勇麻が戦う必要なんて無かったんだ。スネークが奇操を殺せば、それで全ては片付いていたのさ。それをあいつは最もらしい理由を付けて、東条勇麻を戦わせた。そこに何か理由があったと考えるのはおかしい事か?」

「……スネークがそうしたのは楓を守る為、必要だったからなのだ。だから、違う。そんな陰謀論のようなふざけた話が、真実な訳が……」

「信じたくないならそれでいい。だがいいか、よく聞けよ。これだけは確実にそうだと言い切れる。スネークの目的は『シーカー』の野郎をぶっ殺す事。その為ならアイツは、東条勇麻でさえ使い捨てる。……アンタはそれで本当にいいのか? 知ってるぜ、命がけでアンタを『創世会』から救ったのは東条勇麻なんだろう? アンタを絶望の底から救ってくれた白馬の王子様が、スネークやシーカーなんて言う腐った大人どもの掌のうえで哀れに踊り果てて壊れていく様を、指をくわえて見つめてんのがアンタの望みなのか?」

「違う、私は……」

「だったら別にいいさ。壊れた人形みたいになっちまった東条勇麻を抱きかかえて、悲劇のヒロインよろしく滂沱と涙を流して絶望に暮れていればいい。ヘタレのアンタにはそんな結末がお似合いさ。所詮、東条勇麻に対する想いも、その程度で諦められるモンなんだろ? お涙ちょうだい展開に持っていければ役どころとして美味しいなとでも思ってんだろ?」

 

 するり、と。

 頭の中に滑り込んでくるのは悪夢のような光景だった。

 東条勇麻を見捨てたアリシアが、壊れて廃人と化した勇麻を愛おしそうに抱えて泣き笑っている。その顔はどこまでも安らかで眠っているみたいなのに、もうアリシアに喋りかける事も、笑いかける事もない。

 そんな狂気に侵されたような、穏やかな絶望。


「……やめろ、……違う。……こんなのは……私、は……!」


 それが自分の選択の結果だと、この結末を望んだのは自分なのだと、声は言う。

 否定する。泣きそうになりながら、心で涙を流しながら、気が付けばアリシアは意味も分からずにその場で絶叫していた。


「っ!!? っはぁっはぁはぁ……はぁ、はぁっ、っはぁはぁっ……!」


 他者から神の力(ゴッドスキル)による干渉があった訳ではない。アリシアが読み取ってしまったのは未来の可能性。


 神門審判ゴッドゲートという異空間と異空間とを繋げる扉を開く神の力(ゴッドスキル)をその身に宿す彼女は、無意識のうちに己の意識を数ある可能性のうちの一つの世界にある己の意識と繋ぎ、半ばリンクしたような状態へと一時的に陥ってしまっていたのだ。


 ごく一般的な呼称を使うのならば、それは予言や、神懸かると評される類の物だ。


 つまりそれは、決して否定できない可能性の一つ。

 アリシアの選択によっては確実に訪れる未来。

 首を横に振る。

 恐怖や不安、怒りと絶望。様々な感情がごちゃ混ぜになって、アリシアは声を途切れ途切れに叫ぶ。

 

「違う、のだ。私。私、はそんな……ふざけるなっ。……私は、私、は……ッ! 私、がっ、そんな事を望んでいる訳がないだろッ!!」


 刹那、リコリスの身体がベランダの柵の上から消えた。

 稲妻のような速度でアリシアの懐に飛び込むと、天智の書のぶら下がった胸元左手一つで掴みあげ、手近な壁に力一杯叩き付ける。

 バン! と、乾いた音が鳴り、背中から壁に叩き付けられたアリシアの呼吸が強引に寸断される。

 無理やりに息が排出され、喘ぎ、盛大に咳き込むアリシアにリコリスがぐいっと顔を近づけ、至近で唾を飛ばす。


「だったらもう動けよ! 真偽なんて関係ねえだろ。今動かないと手遅れになる可能性があるなら迷ってねえで動けよ! 何で悲劇が来るのを手ぐすね引いて待ち構えてんだよアンタは! いいか、このままじゃ東条勇麻は確実に壊れる。原型さえ残らず崩壊する。そうなるようにスネークによってチューニングされているからだ。ならどうするか? 話は簡単なんだよ。後はアンタが乗るかどうかだけだ。なぜなら手っ取り早く悲劇を回避する方法が、目の前に転がってるんだから!」


 息を荒げるリコリスと、荒い呼吸を繰り返すアリシア。両者の視線が正面から交差し、沈黙が場を統べる。

 覗きこんだリコリスの瞳は、綺麗な青をしていた。

 やがてリコリスは掴みあげていたアリシアの胸倉から手を離し、得物を見つけた狩人のような笑みをその顔に浮かべる。

 

「簡単な話さ。スネークが東条勇麻を使い潰す理由をアタシらで奪っちまえばいい。……大人ってのはどいつもこいつも薄汚え糞野郎ばかりだ。だからアタシらは、そういうモンを全部ぶっ壊す。アンタ、言ったよな。“悲劇を生み出す温床はアタシら自身だ”って。別にそれでいいじゃねえか。悲劇をまき散らす事になろうが、それでも食い止めたい悲劇があったんだから。所詮人間如きに、全てを救うなんて事はできる訳がない。だったらアタシは、罪を被ってでも最後に地獄に堕ちようともろくでなしと蔑まれようとも、アタシが許せねえと思った悲劇を自分勝手にぶっ潰す。……シーカーも、スネークも、くだらない思惑だのなんだの抱えた糞みたいな権力者共も、全部がアタシ達の敵だ。アタシの世界を悪どい大人共の好きにはさせねえ。それがアタシら『逃亡者の集い旗(エスケイプ・フラッグ)』だ」


 つまり、リコリスが言っているのは……。


「選べよ神門審判ゴッドゲート。アタシ達と共に来て東条勇麻を救うためにシーカーの野郎をぶっ殺すか、それともこのまま、大人共の掌の上で東条勇麻が壊れ狂っていくのを指を咥えて見ているのか。……アタシは待つのが嫌いだ。でも今回だけは特別だ、二分間も待ってやる。アタシの慈悲深さに感謝しつつじっくり悩んで決めろ」

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