第十話 喧騒に染まる街Ⅰ――袖すれ違うは
さて、端的な事実のみを述べるとしよう。
……東条勇麻は夜の天界の箱庭を走っていた。
「ホント、毎回思うんだけど俺っていつも走ってないか……!?」
そんな悲しい独り言が漏れ出てしまうくらいには、心が疲弊しているのだろう。
毎度毎度ワンパターンとか文句を言ってくる輩には、とりあえず三十分以上ペース無視の全力疾走を続けた後に殴り合いをする事の辛さを学んで来て欲しいところである。
暴徒化した人達を調べた後、アリシアの『天智の書』を用いてクライム=ロットハートにまつわる情報を集めようとしたのだが、結果は芳しくなかった。
アリシアがクライム=ロットハートを見た事がない為イメージを天智の書と共有できず、直接的に検索を掛ける事が出来ないのも痛手だった。それでもどうにかクライムの影に近づこうと、関連する項目からネットサーフィンのように綱渡りを試みたのだがこちらも不発。
それどころか『創世会』関連の“有益な”情報は一つとして出てこなかった。
アリシアの推測では『創世会』に関する情報にプロテクトのような物が掛けられている可能性があるとの事だった。
以前、シーカーについての情報を引き出そうとした時も同じような事があった事から考えて、どうやら『創世会』に関する情報は『天智の書』をもってしても調べられないようになっているらしい。
どういう仕組みになっているのか分からないが、えげつない技術やら力やらが使われているのだろう。具体的な方法については知りたいとも思わないが。
圧倒的に思えた『神器』にさえ対抗するだけの力を『創世会』は持っている。
勇麻の知らないうちにここまで世界に対して『創世会』という組織の影響力が及んでいたのかと思うと、背筋に寒気を感じざるを得ない。
(それにしても、本当にどうなっちまってるんだよこの街は。そこらじゅうから爆発音や銃声やらが響いてくるなんて、どう考えてもまともじゃねえ。あのネバーワールドの時みたいに、当たり前の常識さえ通用しない世界になっちまったって言うのか!?
クライム=ロットハートの神の力の標的になりえるのは、あの『ネバーワールド』で起きたテロ事件――ネット上など一部では『死の狂宴』などという物騒な名前で呼ばれているらしい――を経験した人間だ。
それはつまり、勇麻もターゲットになりえるという訳なのだが、レアードはその可能性を否定した。
『君は……おそらく大丈夫だろう。君が暴徒化の対象に含まれているならば、もうとっくに頭がおかしくなって暴れ回っている頃だ。今も正常を保っているという時点で、おそらく何らかの条件にひっかかっていないのだろうね。つまり、まだ明かされてない条件があるという訳でもあるんだけどね』
かなり投げやり……というか、別段どうでも良さそうにそう言ったレアードの言葉が正しければ、今この時点で暴徒化していない人間は白……すなわちクライム=ロットハートの神の力によって干渉される危険性は少ない、という訳だ。
「その考えで行くとアリシアも除外されるとして……問題なのは俺やアリシア以外、楓に勇火に泉か……」
安否を確認したいのは山々だったが、この混乱の影響で電話は繋がりにくくなっている。一応災害用SNSにメッセージは残しておいたものの、今のところ返事が返ってくる気配はなかった。
それに、無事を確認する作業に自己満足以上の意味がある訳でもない。結局の所、大元を止めなければ永久に被害は拡大し続ける。多量の水を吐き出し続ける蛇口と同じだ。いくらバケツで水を掬って外へ搔き出そうとも、一時的に水量は減っても根本的な解決にはなりはしない。
今無事だからと言って、一時間後や二時間後に無事である保障などどこにもないのだから。
要するに、悩んでいる暇があるなら動け、という事だ。
「……あぁ、クソ! ほんと『創世会』って組織には碌なのがいねえよッ!」
結果、クライム=ロットハートのいそうな場所を虱潰しに探し回るという、人手不足にも関わらずに人海戦術のような策に走らざるを得なくなっていた。
走る足音は勇麻一人分。
先ほどまで一緒に居たアリシアは先に学生寮まで送ってきた。
勇火が戻ってきた時の為にと、アリシアを連絡要員として残す事にしたのだ。
勇麻の決定にアリシアは最初は不満そうな顔をしていたが、東条勇火という理由を与える事によって渋々ではあるが留守番を納得してくれた。
勇麻としては、これ以上彼女を危険に巻きこみたくないというのが本音なのだが、それをそのまま伝えて彼女が素直に引き下がるとは思えない。
アリシアを退場させる合理的な理由が必要だったのだ。
一方、レアードはレアードで勝手に行動を開始していた。共に馬が合わないのは理解していたつもりだが、まっとうに協力する気さえないとは嫌われた物である。
勇麻に場所も告げずに一人で探索を開始してしまったのだが、連絡手段もないのに一体どうやって合流するつもりなのだろうか。
最悪スネークを中継すれば連絡は取れるのかもしれないが、それにしたって考えなしにも程がある。
さっきまでサイレンの音から逃げるように意識を逸らそうとしていたのが懐かしい。
だが、事情を知りここまで深入りしておいて、今まさに起きている悲劇を見過ごす事は勇麻にはできない。もしそれだけの胆力があれば、東条勇麻は英雄の代役を背負う事などなく今ものうのうと暮らしていたはずだ。
どんなに心が弱っていても、本質的な部分は変わらないというか、律儀なまでの正義像への忠誠と呼ぶべきか。
拳を握りたい理由を獲得したところで、拳を握らなければならない理由から解放されたという訳では無いのだろう。
そこに東条勇麻の意志が本当に介在するのかどうか、と本人にももう分からなくなっているのかもしれない。
意志ある水牛の群れが肉食動物に襲われた途端に制御を失いバラバラに逃げ惑うように、手綱を握っているはずの勇麻自身ですら、自分が進んでいる先が分からなくなっているような。
そんな底なしの思考にハマりそうになりつつも、東条勇麻は目的地に向けて足を進めていたのだが。
「……くそ、どいつもこいつも好き勝手しやがって……!」
夜の闇を照らすように閃光が迸り、人々の悲鳴が木霊する。
耳障りな音だった。
無意識のうちに逃げ出す為の言い訳ばかりを探していた勇麻の耳に、それは感情の奔流を伴って突き刺さる。逃げ道を奪うように、東条勇麻を闘争へと引き込むように。
そこにあるのはどうしようもない悲劇だった。
誰かが誰かを望みもしないのに傷つけて、誰かが悲しんでいて、そんな痛みばかりが勇麻の頭の中へと流れ込んでくる。
分っている。
大元であるクライム=ロットハートをなんとかしない限り、この騒動は根本的な解決へは至らない。
だから、ここで悲鳴の聞こえた方角へと足を向ける事がどれだけ愚かな行動かなど。そんな事は分かっている。
でも。
「ふざけんなよ……こんなの。逃げてなんて、いられねえじゃねえか……!」
荒い息と毒を同時に吐き出しつつ、目的地へ進んでいた足の向かう方向を変えた。
その足取りに未だ迷いはあったけれど。
あの戦いの果てに、大切なモノを取りこぼしてしまった東条勇麻という男に一体何が出来るのか、という弱気が、頼りなく揺れ動くその瞳に浮かんでいたけれど。
それでも、そこにある悲劇を知ってしまった以上、放り出す事なんて出来る訳もなかった。
その性質が故に東条勇麻という男は、今も過去の咎に縛られているのだから。
道に迷い、進むべき方向が分からなくなったとしても。
それでも人は、立ち止まりたくなければ止めどなく足を動かし続けるしかない。
全力で地面を蹴り続けると、景色が後ろに流れていく。
息を吐き出す度に肺が痛む。
こう見えて病み上がりだ。寝たきり入院生活で失った体力は、まだ完全には回復していない。
だが刻一刻と変化する状況は勇麻の事を待ってなどくれない。
例えどんなに最悪の条件下でも、勝ち取りたい物があるのならば進むよりほかに道は無い。
主要道路から脇へと入る。細い道だ。周囲の雰囲気も変わる。住宅街へと入ったのだ。
住宅街の、それも裏道のような狭い通路に入り、何度か角を曲がって少しだけ大き目の道路に飛び出す。すると一変した視界の先に――悲鳴の発生源が存在した。
「……勇、火……?」
雷の翼が、夜の街に鮮烈な輝きを焼きつけていた。
愕然とする勇麻の耳朶を刺すように刺激する、火花の散るような音を何倍にも増幅させた爆音が響く。その音の発生源たる四対計八枚の雷翼は、勇麻にも見覚えのある物だった。ただし、そのサイズが勇麻の知る物より二倍か三倍ほど大きかったが。
東条勇火。
出来の悪い勇麻と違い、文武両道成績優秀な、優等生然とした真面目な弟。
適当で割と大雑把な勇麻と違い、几帳面で生真面目で、時間や決まりごとに小うるさい、東条家の良心。
勇麻が全幅の信頼を置く、血を分けた兄弟。
その弟が宙へと伸ばした腕の先、首を絞められ宙に吊り上げられた男性が泡を吹き白目を剥いていた。
足元には、その光景を目の当たりにし、腰を抜かして恐怖に震える女性もいる。
何かの悪夢と錯覚したくなるような、そんな光景。
けれど、目の前のその悪夢は紛れもない現実だった。
「何を……しているんだ、お前は……!」
呻くように声をあげる。
自分で言って自分の言葉に酷く現実味が無い。
答えを求めた問いかけでなく、きっとそれは否定を求めた物だったのだろう。
悪い夢なら醒めてくれ。そう願う勇麻の思いは、夢にしてはあまりにも鮮明な声によってかき消された。
「……ああ。なんだ、兄ちゃんも来てたんだ」
最初は、勇麻を急に襲った人達と同じように東条勇火も暴徒化しているのだと思った。
けれどそれにしては何かがおかしい。もしクライム=ロットハートの神の力の干渉下にあるのならば、まともに意志の疎通ができる訳がないのだ。
ならば、この狂行は一体何だ?
そんな疑問と熱に頭を支配される中、駅前で偶然知人に出会ったような、そんな軽い調子の言葉が返ってくる。
「で、こんな所でどうしたのさ、兄ちゃん」
場にそぐわない弟の声色に、おかしな幻か偽物を見ているような気分が加速していく。
「それはこっちの台詞だ。……勇火、その人を放せ。お前は一体、何をしているんだよ……!」
「ん? ぁあ。何って、人助けだよ。見て分からない? 兄ちゃんと同じさ」
「人、助け……?」
「そうだよ。急に暴れ出した人達を、こうして無力化して回っているんだよ」
勇麻の言葉が何を指しているのか、ようやく気が付いたのか、勇火は一人得心したような声をあげた。
その間にも、勇火の手によって首を絞められ続けている男は苦しげに悶え続けている。
このままでは彼は窒息死してしまうかもしれない。
勇麻は口の中が急速に干上がっていくのを感じた。
「……分かった。分かったから、とりあえずその人を放してやれ。もう、十分だろ……っ」
「んー……」
勇火は勇麻の言葉にしばし考えるような素振りを見せた後、まるで興味のないゴミを捨てるような動作で男の首から手を放した。
重力に逆らう手段を失った男が、壊れた人形のように地面に落ちた。
勇火は、必死で酸素を取り込もうと咳き込む足元の男に意識を向ける事もなく淡々と、何かを確認するように足の裏でそのドテっ腹を踏みつぶした。
カエルの潰れたような声と共に、男が動かなくなる。
「……よし。これでちゃんと意識は奪ったし、しばらく目が覚める事もないだろう。ひとまずはこんなとこかな」
「勇火……」
「さて、と。この辺りは一通り掃除したんだけど……まだ爆発音は止みそうにないな。暴れ回ってる人間があとどれだけいるのか知らないけど、全員を止めるのは少し骨が折れそうだな。急がないと」
「勇火……!」
叫んで、それでようやく、勇火の意識を再び自分に向ける事に成功する。
ゾッとするほどに温度の低い瞳が勇麻を射抜き、思わず足が震える。まるで道端に転がる石ころでも見るような、勇麻に対して微塵の興味も抱いていない目だ。
それを身内から向けられているという事実を、勇麻は正しく認識する事が出来ない。
勇火はそんな兄に対して鬱陶しげに溜め息を一つ吐いた。
「あのさ、兄ちゃん。俺、今忙しいんだよね。見て分からないかな? 悪いんだけど兄ちゃんに構ってる暇はないんだよ。それに、その様子だとどうせ兄ちゃんだって、何かやらなきゃならない事があるんでしょ? 俺なんかに構ってないで、そっちの心配したらどうなのさ」
「勇、火……。お前、分っているのか? ……今の自分が、どれだけおかしいか」
「おかしい? ははっ、何を言っているのか分からないよ。兄ちゃん」
くるりと、兄に背を向けて、弟は乾いた笑い声をあげる。
そのまま、まるで何事もなかったかのように、勇麻から遠ざかって行こうとする勇火。そこに決定的な決別がある気がして、言いようの無い危機感が勇麻を襲った。
反射的に一歩踏みだし、届きもしないのに手を伸ばした。
何か、ここが重要な分水嶺であるかのように思えたのだ。
必死に、藁にも縋るような思いで叫びをあげる。
「ちょ……待てよ勇火! 今、この街がどうなってんのか分かってんのか!?」
「分かってるよ。だからこうして動いてる」
「馬鹿野郎! 一人じゃ危険すぎる! 動くにしても、俺や背神の騎士団のやつらと協力して――」
「――またそうやって俺の事を邪魔者扱いするんだね」
突き放つような言葉が、勇麻の説得を遮った。
その言葉の鋭さに、思わず口籠ってしまう。
選択肢を誤った。
過程も理屈も通り越して、その結果だけを直感的に理解してしまった。
――お前……馬鹿だろ。
いつかネバーワールドで泉修斗に言われた言葉が、何故か頭の中で反響している。
「な、にを……」
「いいよ。俺は俺で勝手にやる。アンタの指図に従ってても、意味がないってよく分かったし」
「待ってくれ勇火。お前が何を言ってるのか分かんねえよ。俺がいつお前を邪魔者扱いした? 指図って、そんな偉そうに俺が何か言った事あったかよ。だいたいお前の方が出来損ないの俺なんかよりよっぽどしっかりしてる。そんな事、お前が一番分かってるはずだ。違うかよ!?」
「……しっかりしてる、ね。ああそうさ。俺はしっかり者の弟。出来の悪い兄ちゃんと違って、文武両道の真面目くさい優等生だよ。そんなありきたりな枠で括られるような、つまらない人間さ。でも兄ちゃん、アンタには分からないだろ。アンタみたいな男と比較されなきゃならない俺の気持ちなんて」
「おい勇火……」
「じゃあね、“東条勇麻”。俺は俺で好きにやるよ。力を手にした今、俺より弱いアンタに従う意味なんて何も無いし。何より、横でそんな辛気臭い顔されたら負け犬が移りそうだ」
「負け犬、だと……?」
「ああ、そうだよ。泉修斗も、天風楓も、東条勇麻も、あの場にいた背神の騎士団の連中も、全員がくっだらねえ負け犬だ。……だって俺達は、結局失うばかりだったじゃないか」
「……っ!? おい、まて勇火ッ!?」
最後の呟きに込められた魔力のような力が、勇麻の心臓を射抜いた。身体が怯み、結果、一瞬動き出すのが遅れる。
巨大な雷翼が禍々しいまでの輝きをさらに強め、高圧電流の弾けるような甲高い音が響き渡る。
直後、地球の重力と勇麻の静止の声を振り切って、東条勇火は稲妻のような速度で飛翔した。
「何なんだよ、……意味。わかんねえ……」
説得はおろか引き留める事も出来なかった。
ドッと、脱力したようにその場で尻餅を着いた情けない兄の姿のみが、その場に残った全てだった。
☆ ☆ ☆ ☆
東ブロック第四エリア。中央ブロックとも隣接するこのエリアには、創世会の主導する重要な実験や研究を請け負う研究施設やチームが数多く存在する。大学や博物館その他数多の研究施設を抱える東ブロックにおいても、極めて重要度のレベルの高いエリアだと言えるだろう。
そしてこの地に、創世会の幹部『三本腕』が一人、クライム=ロットハートの研究所――つまりは彼の拠点も存在した。
「キヒッ、キヒヒヒ……順調順調、経過は順調ちゃんよ。特定の感情値入力による東条勇火の『神化』を確認。『神化』直後の暴走状態のキープにも成功っと。うひゃあ、やっぱり一時的とは言え、世界に対する干渉力の値がとんでもない事になってんな~」
普段はお気に入りの映画を上映するだけの娯楽装置と化してた巨大モニターにかじり付き、ロットハートは腹の底から愉快げな嗤い声を上げていた。
研究所、とは言っても体裁だけ取り繕った名前だけの施設である。
「いやぁ~俺チャンってば有能すぎて自分が怖いわぁー。天風楓との接触も滞りなく完了しちゃったし、これもうほぼタスククリアちゃんなんじゃね?」
その実態は、クライム=ロットハートの遊び場だ。
周囲にクライム以外の人影は見当たらない。研究員などのスタッフやクライム直属の部下など、本来いなければおかしいハズの人員までも誰もないない。
この部屋にある物と言えばクライムが持ち込んだテレビや据え置き型ゲーム機などの私物と、“かつてクライム=ロットハートの部下だった何か”くらいの物だ。
クライムの玩具にされ廃人と化した成れの果てが施設の至る所に生きる屍として転がっているが、そんな人間としても玩具としても欠陥品なゴミの事などどうでもいい。
クライム=ロットハートは『三本腕』の一角なのだ。
足りなくなった人員など後からいくらでも補填される。
そんなくだらない些末事に気を掛ける必要など、微塵もないのだ。
「“外の方”もイイ感じチャンだぜ~。これだけ『憎悪』の感情を刺激したんだ、必要な値に達するのも時間の問題っしょ!」
持ち込んだスナック菓子をばりぼりと口の中に突っ込みながら、クライムは歓喜に唾を飛ばす。
経過は極めて順調。シーカーに言われていたノルマは達成したも同然である。
ならば彼を待つのは、『お楽しみ』だけだ。
「さぁーってとぉ~。今日はだぁーれで遊ぼうかなぁ……?」
キヒヒと、邪悪に口の端を歪め、モニターから視線を外したクライムが椅子ごと身体を半回転させる。
クライムの私室と化したモニタールームに持ち込まれたベッドが、一八〇度回転した視界に収まった。
「キヒッ! ヒヒヒヒハハハ……ッ! まあそう睨むなって。可愛い子チャンが台無しチャンだぜ?」
下卑た笑いを浮かべたクライムがベッドに近寄る。
言葉を投げ掛けた相手から返事が返ってくる事はない。当然だ。さるぐつわを噛ませているのだから。
獣のような唸りによる威嚇と、殺気の籠った視線が突き刺さるのも無視して、クライム=ロットハートは拘束具の備え付けられた些か特殊なベッドに縛り付けられているその黒髪長髪の少女を、舐めるように視姦した。
「可哀想になぁー使いモンにならなくなったから売られちまったんだって? キヒッ、いっちいち良い表情すんなぁホント。俺チャンってば、アンタみたいに強気で生意気な女をぶっ壊しちゃうのが大好きなんだよねー。なぁ、最後まで抗ってくれよ? 元、汚れた禿鷲チャン?」




