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神ナリシ模倣者ト神門審判  作者: 高木カズマ
第三章 災厄ノ来訪者ト死ノ狂宴
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第四十三話 宴の終焉Ⅰ――巨人殺しの英雄《ジャイアントキリング》

 血が零れる。

 肉が、臓物が、命が、零れて零れて零れて、流れ落ちていく。

 血を失いすぎた『寄操令示』はもう間もなく生命活動を停止するだろう。

 けどそれだけ。

 『寄操令示』に恐怖はない。

 『寄操令示』に苦しみはない。

 『寄操令示』は『寄操令示』の死に様を何度だって眺めてきた。

 『寄操令示』の命の燃え尽きるその瞬間の自らの魂の輝き。こんな醜悪な存在でも、平等に美しく輝けるその瞬間が『寄操令示』は好きだった。

 死は繰り返される刹那で、命とは途切れ途切れの永続。

 掌一つで命を生み出す『寄操令示』にとって、死とは恐れるべきものではなく受け入れるものだ。

 

 だから、だから、だから、だから、だから、だから、


 だから、■■■■は見つけて欲しかった。


 自意識のほとんどを失い。浸食され尽して、それでもなお残り火のように揺蕩たゆたう人格の欠片が、すくいを求める。

 

 助けて(ころして)、と。 誰か■■■■を見つけて、と。

  


☆ ☆ ☆ ☆



 勇麻が一歩大きく踏み込むと同時、血溜まりから立ち上がった寄操が触手を滅茶苦茶に振り回し始めた。

 伸縮自在の触手が、辺り構わず破壊をまき散らす。

 手当たり次第で狙いなど何もない、まるで死に際の悪あがきのような攻撃。

 狂乱乱舞のその様に、勇麻はそれ以上近づく事ができない。

 さらに寄操は、追い打ちをかける。

 血塗れの掌を翳した先に宿る、紫の燐光。そして光が霧散した先に、新手の昆虫達が数十匹ほど出現した。


(……チッ、こんな瀕死の状態だってのに、平気な顔して神の力(ゴッドスキル)使いやがって。仮にこいつが偽者ダミーだったとしたら本物はこれより化け物だってのか? 勘弁してくれよ……っ!)


 寄操が指示を告げる間もなく、生命を与えられた寄操令示の創造物達は主を救うために勇麻目掛けて一直線に突っ込んでくる。

 勇麻の弱点を突くためか、そのどれもが硬い甲殻を脱ぎ捨てたスピード型。流線系のボディを持つ昆虫達は、手数でもって勇麻を圧倒せんとする。


 が、先ほどまでとは違い、東条勇麻は冷静だった。

 

 一歩。大きく後ろに飛んで間合いを取った勇麻は、大きく拳を後ろに引き絞ると、全力全開の一撃を大理石の地面にお見舞いした。

 地面が割れる爆音が轟き、粉塵と粉砕された瓦礫が舞う。

 そしてそのまま流れるような動作で、宙に浮かぶ瓦礫を散弾銃の如く蹴り飛ばした。

 ズガガガガガッッ!!

 水平方向に飛ぶ対空射撃の雨あられに、空を飛ぶ昆虫達の羽根は次々と食い破られ、地面へと落ちていく。

 ギギィッ!? という背筋に悪寒が走るような断末魔の叫びだけが、彼らの生きた証となって消えていく。


「同じ手を、そう何度も食うかよ……!」


 まさに一掃。

 かろうじて難を逃れた虫達も、油断なく繰り出される勇麻の右拳の前に、次々と短い命を散らしていく。


 その様子を見た寄操令示が笑うように吠えた。

 暴れ狂う伸縮自在の触手がその速度を上げ、今度は明確な狙いをもって勇麻に襲いかかる。

 寄操の放った虫達への対処をとっていた勇麻は、二十メートル以上先から振り下ろされたその攻撃への反応がわずかに遅れた。

 回避は間に合わない。直感でそう悟る。

 だから、しなる鞭のように叩き付けられたその大質量の一撃を、

 東条勇麻は握力に物を言わせて右手一本で強引に受け止めた。


「ぐ……ぅッ!」


 衝撃が勇麻の骨を軋ませ、筋肉をズタズタに傷つけていく。勇麻の身体を伝播して伝わった莫大な衝撃が地面をたわませ砕き、放射状のひび割れを走らせる。

 これは防御ではない。勇気の拳(ブレイヴハンド)がこれを防御だと判断した途端に、おそらく勇麻は力を失い敗北する。

 だから勇麻は、この行動を次の攻撃に繋げることだけに全ての意識を向けていた。

 イメージは背負い投げ。

 相手の勢いや体重をそのまま攻撃に転じて、より力の強く大きな相手を投げ飛ばす巨人殺しの一撃(ジャイアントキリング)


「――う、ぉぉおおおッ! がぁッ、ぁぁああああああああああああああああああああああ!!?」


 血管が千切れんばかりに力を籠め、その心意気に応えるかのように勇気の拳(ブレイヴハンド)が白熱する。

 右の二の腕が一回り膨れ上がるように膨張し、湧き上がる血管がまるで複雑怪奇な紋様のように腕を走る。

 びくともしなかった巨大な触手を背中で背負うように抱えて、そのまま両脚で死ぬ気で踏ん張り――そして、二十メートル以上の長さのある触手を寄操令示ごと投げ飛ばした。

 まるで怪獣映画のようにスケールの麻痺しそうな豪快な投げ技は、既に半壊しかかっていた大聖堂を全壊させ、瓦礫の山へと変貌させながら、寄操令示の身体をノーバウンドで隣接する建物へと叩きつけた。

 轟音と共に新たな瓦礫の山を生み出して、しかしその山の上の寄操令示はまだ息がある。

 ノロノロとした動作で再び立ち上がった彼は、六本ある触手の一つを“身体から切り離した”。

 切り離されてなお自由自在に動く触手は、地面に根を張るように己の足場を確立すると、自分自身である寄操令示を掴みあげた。

 すると触手はまるで振り子のようにその身をしならせると、そのまま勇麻目掛けて自分自身を投げ飛ばした。


「!?」


 自分を自分で投擲するという強引な方法で、急加速、急接近を図る寄操令示。

 それは最早単純明快な体当たり。

 まるで野球の剛速球ばりの勢いでのシンプルな突進に、驚愕で身を固める勇麻はまともに対応する事ができない。 

 身動きも取れずにそのまま莫大な運動エネルギーを一身にあびた勇麻は、玉つき事故のように寄操の勢いを引き継いで、そのまま先程まで寄操のいた瓦礫の山に衝突してこれをぶち抜いた。


「げはっ!? ごぼっ……がぁッ、痛っ!!?」 

 

 痛みで麻痺する身体に力を籠め、右手を地について何とか身体を起こす。 

 骨格の至るところにヒビが入っていてもおかしくないような鋭い痛みに顔をしかめ、しかし気持ちが萎える事はない。

 正面、ふらつく寄操令示も膝に手を当てて、肩で息をしている。

 互いに身体はボロ雑巾のような有り様で、血で滲んでいない所を探すのが難しいくらいに満身創痍だった。


 でも終われない。


 頭の悪い突撃だという事は百も承知。

 それでも、寄操令示が不死だろうと何だろうと、徒手空拳しか武器のない勇麻にできる事はこれしかないのだから。


(……俺が寄操令示に感じている違和感。これをもっと明確な言葉にできれば、あるいは……) 


 自慢ではないがそこまで頭が良くもない勇麻には、体当たりで情報を集める以外にできる事がないのだ。


 再び東条勇麻が割れた地面を蹴って風のように地を駆け、それを寄操令示がうなる触手で迎え撃つ。

 展開としては先ほどと何ら変わらない、同じような攻防の繰り返しでしかない。

 だが、


(なんだコイツ!? さっきよりも死にもの狂いに……ッ!?)


 死に体であるはずの寄操の攻撃は、それなのにいっそう速度と手数を増して勇麻へと襲いかかる。

 まるで弾幕の如き密度で叩き込まれる六本の触手――既に切り離した分は生え変わっている――による、文字通り死力を尽くしているとしか思えない連撃に、勇麻の足が僅かに鈍る。

 己の神の力(ゴッドスキル)の関係上、防御が出来ない勇麻は、その全てをステップと対捌きで躱して受け流していくしかない。 

 が、回避だけならともかく、前に進むとなると、些かこの弾幕はきつすぎた。

 全力での回避にほぼ全リソースを割いた結果、勇麻の疾走は止まってしまう。


(く……ッ、これを潜り抜けてアイツにこのまま近づくのは、流石に無理だぞ……!)

 

 躊躇い、攻めあぐねてたたらを踏む勇麻。そんな少年の左横を――グロテスクな物体が通過した。


「……?」


 時が止まったような錯覚の中。勇麻はスローモーションな視界で、勇麻はそれをはっきりと視認していた。


 一定のリズムでもって不気味に脈動するソレは、生命体と呼ぶには余りにも形がいびつで、だが確かに生きていた。

 握りこぶし大のソレはあまりにも不釣り合いな羽をはばたかせて寄操の元へと飛んでいく。

 思わず、反射的に手を伸ばそうとする――が、壊れた左腕はぴくりとも動かず、最後のチャンスをふいにしてしまう。

 脈動する醜悪なその肉塊は、狂ったように暴れる触手にはたき落される事も無く――むしろ触手がそれを避けているかのように――あっさりと寄操の元へとたどり着いた。

 そして寄操令示は、一切の躊躇なくソレを口の中に招き入れて――丸呑みにした。



☆ ☆ ☆ ☆


 

 泉修斗の容態がどうにか持ち直した。


 高見はその事実に一抹の安堵を覚えつつ、しかし別の意味でなお悪い状況に歯噛みする。

 既に泉の処置はあらかた終わっている。……正確には、高見ができる処置は、だが。


「アリシアちゃん、本当に大丈夫なのか?」


 本気で心配そうな高見に、青ざめた顔のアリシアが応じた。


「……うむ、心配はいらないのだぞ、高見。勇麻もお主も皆が戦っているのだ。私だって、皆の為に戦いたい。それに、泉にはいつもお世話になっているしな」


 泉の出血は酷い物だった。

 寄操令示の触手が貫通した脇腹の傷を高見は早急に塞ぐことに専念した。

 劣化複製フルダウンエディションによって模倣コピーした始祖四元素ビギニングフォースの『炎』で傷口周辺を炙り、強引に塞ぐ。そして浄化と癒しの効力を持つ『水』の力を応用、塩分濃度を操作し生理食塩水を生成、即席の輸血を行う。ここまで僅か五分。的確で素早い処置は、確実に泉の寿命を延ばしたはずだ。

 しかしこれではせいぜい応急処置レベル。

 破れた血管を繋ぐことはできないし、失われ続ける体力を回復させてやることもできない。泉はこのままでは確実に衰弱して命を落とすだろう。

 寄操令示との最終決戦に備えて治癒系統の神の力(ゴッドスキル)換装シャッフルしてしまったのが此処に来て仇となった。新たに模倣コピーし直そうにも、片眼鏡型映像再生端末モノクルは壊れてしまっていて使い物にならない。

 ほんの数時間前の高見ならば治癒できた傷は、しかし今の高見にはどうする事もできない大きな問題となっていた。

 所詮は間に合わせの借り物の力。自ら修めた訳でもない力を制約を越えて振り回そうとするなど傲慢が過ぎると言うのだろうか。

 己の力と力の無さを呪うしかない高見。

 

 そんな絶望的状況を救ったのはアリシアだった。

 彼女は『天智の書』からありったけの医療知識を引っ張り上げると、それをすぐさま理解。

 そして神門審判ゴッドゲートの力を応用して、破れた血管と血管の間の空間を異空間内で繋げて即席のバイパスとして、血液を循環させるルートを構築したのだ。

 さらには失われた生命力マナの補填までアリシアの神門審判ゴッドゲートに頼り切りの状況だ。彼女にかかる負担がどれか大きな物なのかは想像もつかない。

 

「だから行ってやって欲しいのだ。さっきの勇麻は、その……少し、……怖かったのだ。だから、高見が勇麻を助けてやってくれ。泉は私が助けて見せる」


 アリシアは真剣な表情をその顔に浮かべ、泉の治癒に全神経を集中させている。

 まるで貧血をおこしたかのように青白い顔に脂汗を浮かべているその姿は、病人にしか見えず明らかに正常な状態ではない。


 アリシアが半ば人工的に作られた『神の子供達(ゴッドチルドレン)』だという話は高見も聞いていた。

 その強力な『神の力(ゴッドスキル)』の使用回数に制限がある事も、長時間の使用に耐えられるような身体の造りをしていない事も分かっている。

 しかもアリシアの力では、根本的に泉の負傷を治癒する事はできない。

 応急処置で命を繋ぐのが限界なのだ。

 適切な処置を行うまでその力を行使し続けた場合、アリシアが倒れてしまうのは目に見えている。

 そして、そんな事は他の誰よりも彼女自身が一番熟知しているはずなのだ。

 それなのに、アリシアは自分の消耗など一切考える事無く、全身全霊で仲間を、友達を助けようとしている。

 決意に満ちたその横顔を、覚悟を見てしまっては、アリシアを止めるなどという無粋な事はできなかった。 

 一刻も早くこの事態を終わらせると、そう決意を新たにして、高見はこう答えた。


「……分かった。泉を、俺っちの“友達”を頼んだ」


 アリシアはこちらに振り向く事も、返事もしなかった。ただ、絶対に助けるという意志が痛いほどに伝わってくる。

 この少女も、どこの誰に似たのだか、根本的な所で負けず嫌いのかも知れない。

 そんな場違いな考えに思わず和み笑みを浮かべつつ、痛む身体を引きずって、高見は勇麻の助勢へと向かう。

 予想外に消耗が大きく、今の高見では空間移動テレポートはそう何度も使えない。

 始祖四元素ビギニングフォースは、出力を考えればまだしばらくは持つだろう。

 そして…… 


(……最後の一つ。寄操にもまだ見せていない俺っちに残された唯一の切り札。俺っちの現ストックの中で寄操令示相手に決定打を叩きこめるのは、おそらくこれしかねえ。だが、強力故にそう撃てるもんでもねえ。おそらくチャンスは一回。それを逃せば勝ち目はない。そのうえ射程はほぼゼロと来たもんだ……我ながらシビアすぎて笑えてくるぜい)


 もしこれが決まれば、たとえ寄操令示が本当に死なない不死者なのだとしても有効打たりえるだろう。

 絶対に外す訳にはいかない一撃だ。最悪、刺し違えてでも寄操令示を打ち滅ぼす。


 高見がそんな決意を固めた、その時だった。


 触手を振り乱して暴れ回る寄操令示が飛来するグロテスクな肉塊を捕食する光景が、高見の視界に飛び込んで来た。



☆ ☆ ☆ ☆



(今のは……心臓……?)


 どこか既視感のある光景に、勇麻は世界が止まったような錯覚を覚える。

 実際、視線の先の奇操は先ほどまでの暴れぶりが嘘のようにその動きを止めて息を潜めている。

 勇麻が『心臓』だと認識した何かを口にした途端、奇操の動きが完全に停止したのだ。

 死んだ……訳ではないだろう。

 なぜならこうしている今も、奇操令示が放つ圧倒的な存在感は消える事もなく高まりつつあるからだ。

 この圧倒的な気配は、とてもじゃないが死にかけの人間が放っていいような物ではない。


「……ッ!?」


 とここで、勇麻の脳裏に鉄パイプで殴られるような重たい衝撃が走った。

 探っていた既視感の正体にようやく辿り着いたのだ。


(……ちょっとまて。高見がトドメを刺した時にも似たような事があったじゃねぇか!)


 どうしてこんな重要な事を忘れていたんだと、あまりに無能な自分自身に嫌気が差す勇麻。


 ……実はこの戦いにおける一部の記憶が“とある要因”によってほとんど失われかけている事に、勇麻は気がつかない。

 『心臓の補食』というかなりショックの強いキーワードでようやく薄れた記憶の一部を思い出す事ができたのだが、そんな認識さえ今の勇麻にはなかった。


(そうだ、確かアイツは心臓を取り込んだ後、急に立ち上がってそれで……)


 と、勇麻の思考を遮るように不意に変化が訪れた。今の今まで身じろぎ一つしなかった奇操令示、その背中をぶち抜いて生じていた六本の触手が、何かに苦しむようにうち震えたかと思うと、ずぼりと奇操の体内に引っ込んだのだ。

 変化はそれに留まらない。

 脳内で再生されるノイズ塗れの光景をなぞるように、奇操令示が口から血肉の塊を吐き出した。  

 遠目からでも分かる。あれは、吐き出されたその肉塊は。


(……あれもそうだ、古い……心臓……!?)


 弱々しく脈動するそれを、奇操は自らその足で踏み潰す。

 同じだ。

 全く同じ光景を、勇麻は一度その目で見ている。

 あの時は余りにも想定外の自体が重なった為頭が混乱していてそれどころではなかったが、今なら分かる。

 

 奇操が吐き出した肉塊をすぐさま踏み潰すのも、その正体が露見する事を防ぐ為だ。

 間違いない。

 これが、おそらくはこれこそが、奇操令示が何度死んでも蘇る理由。

 

(ヤツは、不死身だった訳じゃない。力尽きる寸前に、新しい『心臓』と交換していたんだ……ッ!)

 

 それもおそらくは単なる心臓ではない。当たり前だ。ただの人間に心臓を交換するなどという離れ技が出来る訳がないし、そもそも致命傷を心臓一つ取り換えただけで何とかできるのもおかしい。

 あの心臓は十中八九奇操令示の神の力(ゴッドスキル)によって創られた物だ。

 ならば当然、ただの心臓に留まる道理も無い。

 あれこそが奇操の何らかの“核”なのだ。


 新たな心臓を手にした奇操令示の死に体だった身体に、力が戻る。

 触手を喪失した代わりだとでも言うように、今度は肩甲骨のあたりの皮膚を突き破って一対の羽が生える。透明に透き通ったその羽は、スズメバチやトンボなどの羽に近い形状をしている。

 そして、新たに生えそろった羽の後を追うように、右腕の形状もみるみるうちに変化していく。

 五指が束なり一つになって、肌色は鈍い銀にその色合いを移ろわせ、ついには鋭くとがった一つの巨大な毒針の槍と化す。

 まるで昆虫の変態のように、奇操令示の身体の構成が根本から変わる。

 より鋭角に、攻撃的に。対峙する敵の命を刈り取る形へと。 


「――うん。まだだ。まだ遊べるよね、東条勇麻くん?」


 ブォンッ!! と、重々しい羽音が響き、一陣の砂埃を残して寄操の姿が勇麻の視界から消滅する。

 

「く……ッ!?」


 反応できたのは奇跡以外の何物でもなかった。

 瞬間移動もかくやという速度で強襲してきた寄操の一撃を、紙一重で躱す。

 槍のように突き出された針に、勇麻の髪の毛が数本宙を舞う。 

 

「へえ、躱すんだ。すごいね、うん」

「生憎、こちとら光りの速度を体験済みだ。今更そんなので驚いてたまるかよ……ッ!」


 回避から流れるような体重移動で繰り出した回し蹴りが寄操の顔面に直撃する。

 肉と骨を打つ轟音と共に寄操は吹き飛ぶが、背中の羽根を震わせて空中で姿勢を完全に制御。そのままの勢いで右腕を突きだし一本の槍と化すと、頭上から勇麻に襲いかかる。

 あわや串刺しになるところを、どうにか右に身体をスライドさせて回避。スレスレを擦過した鋭い切っ先に背筋が凍る。

 破壊音と共に大理石の床に深い穴が穿たれ、そこを中心に地面に亀裂が走る。その凄まじい破壊力にゾッと血の気が引いた。

 大慌てでバックステップを踏み、寄操との距離を取ろうとする。

 冷や汗を搔く勇麻の前で、ゆっくりと寄操は地面から右腕を引き抜いた。

 そして、ポツリと。今までのテンションからは想像できないような低いトーンで寄操は囁くように言った。

 

「ねえ……。どうしたのさ。つまんないじゃないか。うん。また、まただ。折角もうちょっとで見えそうだったのに……」

「……は?」


 勇麻の困惑の声に、珍しく寄操が苛立ちを含んだ声を上げる。

 ブォン!! と、またも重厚な羽音を響かせて一瞬のうちに距離を詰める寄操。

 次々と繰り出される右腕での刺突と粗めの斬撃を、首を振って、後ろに跳んで、どうにか回避していく。


「さっきまでの殺意は!? 怒りは!? 君は僕が憎くないのかい!? 憎いんだろ! 殺したいんだろう!? ……折角僕が色々頑張って面白い事をしたのに。どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!! どうして僕を無視するんだ! どうしてそんなに落ち着いてる! あぁ、つまらないよ。うん。まったくもって面白くない! 僕を見ろ。僕を僕を僕僕僕僕僕僕を!!」

「なんだ、こいつ……っ!?」


 掻い潜った斬撃の先に、寄操の足裏が飛び込んで来た。

 ドテッ腹を強烈に打った蹴りに、勇麻の身体が擦過痕を引いて大理石の床を滑る。

 そのまま勢いでどうにか寄操と距離を取るが、大した威力の無い寄操の蹴りでふらつくほどに、体力の消耗とダメージの蓄積は激しかった。


「ぅ、ぐ……っ」

「……その魂は僕の物だ。なのに……うん。気に入らない、気に入らない気に入らない、僕を前にして僕以外を見ている君が気に入らない! あぁムカつく!! そうだ。うん、殺しちゃおう!!」

「は、はぁ!? 何なんだよいきなり! 元からイカレてるっつっても、キャラぶっ飛びすぎだろうがチクショウ!?」


 支離滅裂な絶叫と共に寄操令示の鋭く尖った右腕が、勇麻の顔を拳銃のように真正面から照準する。

 勇麻の生物としての直感が危機を告げ、それに従うように力を振り絞って横っ飛びに回避すると同時。

 青紫の閃光が炸裂した。


 カッ!!

 まるで紫苑の太陽が顕現したかのように、視界を紫の光りが埋め尽くす。

 衝撃の余波で勇麻の身体が地面を何度も転がり、身体中に擦り傷を増やしていく。

 ようやく止まった勇麻が見たのは、青紫の閃光の直撃を受けてドロリと溶解した地面だった。

 

(強酸……なのか? テッポウ魚みたいに、強烈な溶解液を爆発と共に高速で射出した?)


 直撃すれば即死は免れないであろう一撃を目の当たりにして瞠目どうもくするしかなかった。

 心臓がきゅっと縮まるような悪寒、そして絶望感。そんな勇麻を見て、ようやく少しだけ満足したらしい寄操が再び笑みを浮かべた。


「僕、決めたよ。もう一度だ。うん。もう一度君を絶望に叩き落とす。そうすればまた……きっと楽しくなるよね? うん」


 可愛らしく首を傾げるのと同時だった。

 ボッ!! と、まるで蝋燭に一斉に火が灯ったかのように、寄操令示を囲む周囲一帯に青白い火の玉が生じる。

 一秒も掛からずに多量の命の輝きを量産した寄操。

 そして寄操はそれらを、大口を開けて次から次へと吸い込んでいく。


「――ぉ、ォオ……オオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


 瞬間。

 寄操令示が、膨張した。


 文字通り、言葉のままの意味だ。

 青白い光を体内に取り込んだ寄操の体積が、二秒と経たないうちに数倍に膨れ上がったのだ。

 可愛らしい少年サイズだった寄操は、いまや見上げるような巨体へと変貌している。

 目算ではあるが、その全長は十メートル近くに及ぶのではないだろうか。

 それだけではない。

 

「こいつまさか……取り込んだって言うのか!? 自分の造り出した虫を……」

 

 変化はその大きさだけに留まらなかった。

 

 ――右腕はさらに鋭さと禍々しさを増して、一種の槍と化して。


 ――左腕は一閃にして軌道上の命全てを刈り取る長大で凶悪な鎌へと変貌して。


 ――その巨体を支える下半身が異常な太さに成長し、凶暴なほどの筋肉を蓄え始めて。


 ――額からは立派な角が生じて。


 ――背中から生じた薄く透明な羽根をコーティングするようかのように分厚い甲殻が生じ、その巨体をさらに凌駕するような巨大な翼に。


 ――身体の至る所から伸縮自在の触手が皮膚と肉を突き破ってうねうねと踊り。


 ――皮膚の上から全身を防備する分厚いメタリックな甲殻が生じる。

 

 ――さらにその鋼色の装甲と装甲の間から、まるで戦車の主砲のような筒状の部位が生じて、その砲口を勇麻目掛けて向けていた。


「トウジョウ……ユウマァァァぁぁあああああああああああああああああああ!!」


 やけにくぐもった低い叫びが辺り一面に木霊する。


 直後、砲撃があった。


 轟音を轟音が塗りつぶし三半規管にダメージ、のっぺりとした光が視界をぐちゃぐちゃに塗りつぶした。

 直撃を免れたものの、余波と衝撃波だけで四肢がもげるかと思った。いや……、そもそも自分が今この瞬間を五体満足で迎えられたかどうかが怪しい。

 それでもしばらくして手足に痛みというより莫大な熱を感じ、自分がまだ五体満足で生きている事をようやく確認する。 


「グゥウルルルゥ……ゥゥウウうァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」  


 言う事を聞かない身体を無理やりに立ち上がらせ、滴る汗を右腕で拭う。

 衝撃波でかなりの距離を飛ばされたのか、数メートルの距離しかなかったはずの寄操との間合いが、再び十数メートル以上に膨れ上がっている。

 飛び散った瓦礫が当たったらしく、右の目蓋が開かない。

 おそらく、鏡を見ればドス黒い痣と出血とが確認できただろう。

 勇麻は圧倒的危機を前に、しかし冷静に現状を把握しようと努める。


(砲撃の正体は多分起爆虫……! あの砲塔みたいな部位から、直接砲弾代わりに発射してるんだ。でも、一番やばいのは……っ!?)


 狭まった視界が、青紫の閃光の瞬きを捉えた。

 瞬間全身全霊を振り絞ってその場から跳躍。着地時の受け身など全くもって考えない、頭から大理石の床に突っ込むような無様な回避で、ようやく一命を取り留めた。

 直視してもいないのに世界を紫の光りが包んで、数瞬前まで勇麻の居た地点が、スライムかなにかのようにドロドロに溶けて崩れていく。

 ガリガリと顔面を削って血塗れのまま、背後を振り返って戦慄する。

 

(“こっち”を喰らったら、それこそ跡形も残らねえぞ!!)


 未だに東条勇麻が存命しているのがそんなに楽しいのか、巨大化した寄操令示がもはや騒音としか思えないような耳障りな笑い声をあげる。

 反射的に耳を塞ぎながら、勇麻は考える事を決して止めない。

 思考の停滞は、すぐさま死に直結する。可能性を、絶対に存在する勝利への道を最後まで模索する。


(どうする? 本当にどうする!? ……奴の弱点は分かった。新しい『心臓』の補給さえ封じちまえば、寄操はもうコンティニューできなくなる。だからタネが割れた今、実質これが寄操のラスト一機。これさえぶっ潰しちまえば、俺らの勝ちだ。でも……)


 そう。既に寄操の不死のトリックは割れた。

 心臓の捕食さえ食い止めれば、寄操令示がゾンビの如く復活してくることはもうないのだ。

 だが、いかに勇気の拳(ブレイヴハンド)で身体能力を強化したとしても、平均的な男子高校生の身長しかない勇麻では、根本的な質量差をカバーできない。

 身長十メートル越えの化け物が相手では、いかに強力な一撃を放てたとしても、大したダメージにはならないだろう。


 じゃきり、と。再び構えなおした寄操の巨大で鋭い右腕が勇麻に照準される。

 命を握られている感覚に背筋が震える。


(それと目の前の寄操を倒せるかどうかは全くの別問題っ! 左腕は完全におじゃん。視界は半分。身体のどこもかしこもガタが来始めてて、とてもじゃないが万全の状態とは言い難い。こんな状態で、巨大化した寄操令示に致命的な一撃を与えられるのか……っ!?)


 紫の閃光が瞬く発射の前兆を掴み取り、転がるようにして全てを溶かす紫苑の光りを躱す。

 若干かすめたのか勇麻のTシャツの端がドロリと溶解する。

 前転の要領でそのまま起き上がり走り出した勇麻を、しかし寄操は逃さない。

 巨大化した背中の翼が五月蠅い程に震えて、さらにそのビルの柱のような脚で地面を蹴った。その踏み込みの動作だけで地震のような振動が足場を揺らし、勇麻の行動を阻害する。

 そしてその巨体からは想像できない悪夢のようなスピードで超質量が殺到し、視界が一瞬のうちに寄操で埋まる。

 

「く、そ……っ!?」


 揺れる大地に足を取られ、満足に回避もできなかった。

 柱のように巨大で強靱な脚から繰り出される蹴りは、もはや凄まじい速度で迫る壁と変わりなかった。

 人の肉体を超越した鋼のような密度と硬度を誇る剛脚にプレスされ、勇麻の骨格が大変愉快な音を奏でる。

 点ではなく面。

 まるでスケールの違うその一撃に、身体全体を一度に打たれた勇麻の身体は成すすべなく吹き飛ばされる。

 まるで野球ボールのように跳ね飛んで十数メートル先の瓦礫の突っ込み、全身の痛覚が狂ったように悲鳴をあげる。

 おそらくだが身体中の至るところで骨が折れているのだろう。身じろぎひとつするだけで、その場で飛び上がりたくなるような激痛が走る。

 意識が明滅し、それを意志の力を振り絞って、どうにか途切れずに踏みとどまる。

 しかし身体の方は限界もいい所だった。喉に湧き上がる不快感に、そのまま盛大に吐血。ごっそりと身体から、勇麻の生命が零れ落ちていく。

 

「痛い……硬ぇ……、」


 まるで金属バットで全身をくまなく殴打されたような痛みに、呻きをあげる。

 メタリックで重厚な甲殻を全身に纏った寄操の打撃は、いまや致命的な威力を誇る一撃へと昇華している。

 あれだけの硬度を持つ巨大な物体が、凄まじい速度を伴って突っ込んでくるのは脅威以外の何物でもない。いまや寄操令示は、単純な打撃だけでこの場にいる神の能力者(ゴッドスキラー)を圧倒できるだけの力を手にしていた。

 

 強い。

 圧倒的な力の差。

 何度やっても、どれだけ抗おうとも、神の子供達(ゴッドチルドレン)を名乗る化け物は、勇麻の必死の抵抗を嘲笑うように予想の遥か上を越えていく。

 生態系の頂点を、まだ膝の笑っている小鹿がおびやかそうとするような無謀さがそこにはあった。  

 端的に言って、東条勇麻に勝ち目など見えない。

 たかが寄操令示の不死のギミックを見抜いた所で、どうしようもないだけの差が彼我の間には横たわっている。


 でも、だからって。


(そんな些末な事……俺が、戦うのを止める理由には、ならねえんだよ……!)


 できるかどうかは問題ではない。

 勝てるか勝てないかなど、気にすべき点ではない。

 ただ、認めたくないから。抗いたいから。負けたくないから、だから立ち上がる。

 だって、負ける訳にはいかなかった。

 勇麻の敗北は、すなわち大切な人達の死だ。

 アリシアも楓も勇火も泉も高見も、その誰もを失いたくない。

 もう、目の前で大切な誰かが死んでいくのを見るのは嫌だったから。

 またいつものように皆で笑いあう日常に帰還する。皆で帰る。そのためなら勇麻は、何度地面を転がっても立ち上がる事ができるだろう。


 拳はまだ握れる。

 震える両脚は、だけどまだしっかりと地を掴み、勇麻を立ち上がらせる。

 まだ、戦える。


 だから。


(紛い物の英雄ヒーローだとか、南雲龍也の代役だとか、そんな物はもうどうだっていい。俺が折れる訳にいかない理由は、俺の中にだってちゃんとあるんだから……!)


 僅かに残る体力を絞り尽す。足りない物は意志の力でカバーする。

 そんな旧世代の根性論もびっくりの精神論を現実させるだけの荒唐無稽な力が、その拳には宿っている。

 痛みを強引に掻き消すような熱量が、右腕を中心に広がっていく。

 勇気の拳(ブレイヴハンド)の脈動が、その力が、全身に巡る。勇麻を支える。

 これなら、行ける。

 

 ある種の臨界点を越えた瞬間、勇麻の足裏が莫大な力で地を蹴った。


(勝機はある)


 勇麻の傷だらけの身体が、瓦礫の山から飛び出す。満身創痍とは思えない速度で疾駆する勇麻に、次々と砲撃が襲いかかる。

 が、当たらない。

 流れる景色と共に爆発をも後方に置き去りにして、勇麻は寄操との距離を詰める。

 

(寄操令示、確かにお前は俺らみたいな雑魚とは格が違う怪物だ。でも、お前は致命的なミスを犯した)


 限界を無理やり引き出し続けるような無茶に、勇麻の身体が内側から砕け悲鳴をあげる。

 事実上、これが最後の攻撃になるだろう事は明白だった。

 例え結果がどうなろうと、次に止まった時、勇麻の身体はもうまともに動く事も儘ならないだろう。


(あの一撃で気が付いた。見た目の派手さに目を奪われて、気が付かなかったのが馬鹿みたいだ。こんなにも致命的な弱点を、寄操は堂々と晒してるのに……!) 


 自分の攻撃が当たらない事に苛立ちを覚えたのか、寄操が禍々しい怒号を上げる。

 思わず耳を塞ぎたくなるような異音に顔をしかめ、けれど疾走する足が止まる事はない。


(あのバカみたいに分厚くて硬い装甲……! 他でもない俺にとっては、その堅牢さこそが付け入るべき弱点だ!)

 

 手当たり次第に己の創造した虫達を取り込んで結果、寄操令示の進化は、自身でも御しきれない物になってしまっていた。

 属性の混在、特徴同士を潰し合ってしまうような、無理やりな後付け。

 膨れ上がった膨大な特殊さが生んでしまった、確かな弱点。

 狙うは一つ、もっとも分厚く強固な胸部装甲。

 防御の意志さえ感じさせるそのメタリックな甲殻を、勇気の拳(ブレイヴハンド)で打ち抜くのみ。


 さらに苛烈さを増す弾幕に、飛び散る破片と瓦礫の雨に、少しずつだが確実に勇麻の身体は新たな傷を増やしていく。

 出血量は当の昔に意識を保てる量を越えている。

 骨も、どこにひびがはいっていて、どこが折れてるかも分からないくらいに全身が痛む。

 けど、とまらない。

 寄操令示との距離が、見る見るうちに縮まっていく。


「寄操……令示ぃいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!!」

「グぎゃぁああああああああああォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」


 耳をつんざく絶叫と共に振るわれるは、死神の鎌。

 命を刈り取る冷徹無比な一撃を、勇麻はまるで曲芸師のような体捌き――前方宙返り――で華麗に躱して見せ、そのまま巨大な鎌の峰の上に飛び乗った。


「う……おお、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」


 そのまま峰を駆け抜け、大鎌となった寄操の左腕をつたって前へと進む勇麻。

 己の身体を這いまわる鬱陶うっとうしい子鼠こねずみを叩き潰そうと、寄操の右腕が勇麻目掛けて容赦なく振るわれる。

 己の左腕ごと切り落とす勢いの斬撃を、しかし勇麻は僅かな隙間に滑り込むようにして掻い潜る。

 背後、大量の血が噴き出し大鎌が落ちる音を聞きながら、勇麻は疾走を再開する。

 

「寄操令示、これで――」


 もはや自分の身体に対する配慮もなく降りかかる砲撃の嵐を躱し、左腕から勇麻は大きく跳躍。

 空に躍り出て無謀備な勇麻を、さらに砲撃が襲う。

 身動きの取れない空中では回避など不可能。

 しかし勇麻はその絶体絶命の状況を前に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。

 自ら己の身体をさらけ出すようにしてその砲撃の直撃をあえて受け、爆風の勢いさえ利用して、東条勇麻は寄操の胸部へと到達する。


「――ゲームオーバーだッッッ!!」


 愚直に振り抜かれたボロボロの拳が、寄操の身を包む鋼の甲殻に触れた途端、赤黒いオーラが明滅して――


――圧倒的な破壊が華を開いた。


 まるで爆発音のように盛大に甲高い破砕音が響き渡り、寄操令示の身を包む硬い装甲が一瞬で木端微塵に粉砕された。

 遅れて力が伝播したのか、まるで粘土で作った怪獣が崩れ落ちるかのように、ボロボロと、その巨体を崩していき、剥離した装甲片が、東条勇麻の振り切った拳の圧倒的な拳圧に呑み込まれて散り散りに跡形も無く消滅していく。

 その断末魔の叫びさえ呑み込んで、破壊の音が世界を包み込んだ。 

 

 神の子供達(ゴッドチルドレン)の一人。

 干渉レベルSオーバーを誇る災厄の来訪者、寄操令示。

 彼は、下半身をまるまる消失し左腕を失った元の子供の姿で、噴水のような血飛沫を上げながら地面に落下していった。

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