…recollection
竜視点。
やっと咲き始めた桜は青空によって一層綺麗に見える。
歩き慣れた住宅街をゆっくりと歩いていると、ふと昔の事を思い出した。
詳しい日付とかは覚えてないけど、かなり自分が幼かった時の記憶・・・。
どっかの建物の中にいた時、ピンクのヘアゴムで髪を二つに縛った女の子が俺に近づいてきたんだ。
「りゅうくん、いっしょにあそぼ?」
その子は俺に小さな手を差し出した。
「・・・。」
人見知りの激しい俺は中々その手を取ろうとせずに立ち尽くしていた。
「ほら竜行ってこいよ。」
隣にいた和希が俺の背中を優しく押した。
だけど、
「・・・やだ。」
「竜?」
「・・・やだもん。」
空中を漂った手は和希のTシャツに辿り着き、キュッと握り締めた。
拒否した声は小さかったからか、俺の声は女の子には聞こえていないらしい。首をかしげながらこちらをじっと見ている。
「…そっか。」
諦めたように和希が呟き、自分より小さい女の子に少しだけ近づいた。
「ごめんな、また今度誘ってくれないかな?」
「うん、わかった!」
そう言って女の子は別な所へ駆けていった。
和希は俺と違って人見知りしないし、自分より小さい子の世話が上手かった。だからトモダチは年下、年上関係なくいっぱいいた。
女の子が去った後、和希は俺の目線に合わせるため、少しだけ膝を折った。
「竜、友達作らないとダメだろー?」
右手をぽんと俺の頭の上に置いて髪を梳いて俺の反応を待つ。
優しい手つきと優しい眼差しに心がいっぱいになって…
「にいちゃんがいるからいいんだもん。」
って、思ってたことを素直に言ったら、一瞬手が止まった後笑い声が聞こえて髪をクシャクシャになるまで撫でられた。
「わかった、わかった。俺はいつも竜のとこにいるからさ。」
その言葉はさっきの手つきや眼差しより温かく俺の心にしみ込んでくる感じがした。
「ほんと?」
「うん。だから友達作らなきゃダメだぞ?…作れるよな?」
確認を取る和希はいたずらっ子みたいな顔をしていた。
「うん!つくる!トモダチいっぱい!」
「よし、竜はいい子だなぁ!」
また頭を撫でられた。
歳が1つしか違わないのにこの差は何だろう。
まるでもっと歳の離れた兄みたいだ。
優しくて大好きな兄・・・。いてくれるだけでトモダチなんかいらないとさえ思っていた。
きっとこの頃にはもう、兄弟としての“好き”ではなくなっていたんだ。
・・・・
・・・
・・
・
それからは和希にいつも一緒にいてほしくて約束通りトモダチをいっぱい作ることにしたんだ。
だから、小学生になった俺にはトモダチがたくさんいた。
ある日和希のトモダチが家にやってきた。
「和希、遊びに行こうぜ!」
「おぅ!今行く。」
「兄ちゃん?」
「あ、竜。遊んでくるな!母さんに言っておいて!」
「待って!兄ちゃん!」
俺の声は和希に届くことなく、和希は行ってしまった・・・。
その後も和希は俺を置いて出かけることが多くなった。
約束したのに…。
トモダチいっぱい作ったのに…。
何で俺から離れてしまったの…?
嘘つき…!
あんなに大好きだった兄は俺の中で裏切り者になった。
・・・・
・・・
・・
・
その後、和希とは少しだけ距離を置くようになった。
そんな俺を見て、
「竜も成長したなぁ。昔は俺にベッタリくっついてたのに。」
と和希は言った。
違うんだ・・・。
本当はもっと近くにいたい…。
すっごく好き…。
ブラコンだって自分で分かっている。
だけど、また離れて行ってしまうのを見るのが嫌なんだ。
だったら自分から離れた方がまだ気持ちが楽だった。
・・・・
・・・
・・
・
中学生になった時は普通のどこにでもいる兄弟になっていた。
その頃からだろうか、和希を【兄貴】と呼ぶようになったのは…。
俺は校舎でよく和希を見かけた。
あの性格だから和希の周りにはいつだって誰かがいた。
女子であれ男子であれ、楽しそうに喋ってるのを見かけるとなんかこう…モヤモヤというか、イライラというか…そんな気分になった。
だから俺もトモダチと喋って自分の気持ちを誤魔化したんだ。
・・・・
・・・
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・
中学を卒業した後、髪を明るい色に染めた。
高校生になってからは女の子と良く遊びに行くようになった。
・・・和希に振り向いてほしくて…。
嫉妬してほしくて…。
だけど和希は今までと変わらない様子で俺と接した。
何だか無性に悔しかった。
・・・・
・・・
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・
高2になった4月、そう昨晩のことだ。
俺は和希と付き合うことになった。
どんな方法であれ、和希を自分のモノに出来たのは凄く嬉しい。
だって高校は一緒のところに入学出来たけど、和希が大学生になったらきっと会えなくなる。
一生ってわけじゃないけどさ。
何でいつも俺より早く卒業してしまうのだろうってずっと思ってた。
双子だったらどんなに良かったか…。
園児の時も、小学生の時も、中学生の時も、和希がいなくなった最高学年の一年間は辛かった。
どんなに頑張ったって一つ先を行く和希には追い付けない。
だから、恋人になってこの一年で今までの距離を埋めたかった。
俺がどんなに好きかを分からせたい。
そして和希が俺に対する“好き”を俺が和希に対する“好き”に変えたい。
本当に頭がどうかしちゃうくらい好きなんだよ、和希…。
・・・・
・・・
・・
・
いろいろ考えているうちに目的地に着いた。
でっかい桜の木があり、満開に咲いていて実に綺麗だ。
ここが今日の泊まる場所。
インターフォンを押す前から早く帰りたいと思ってしまう俺はかなり重症。
でも、かなり前から約束してたし、ドタキャンは出来ない。
だからこれを最後にしようと決意し、インターフォンを押した。
・・・明日は早く帰ろう。
【つづく】