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verbal agreement


コンコン…



「んー。」



部屋の中から気の抜けた声が返ってきた。



「入るぞ?」




ゆっくりと部屋のドアを開けると声の主は着替え中だった。



「あ、ゴメン。」



「いーよー。」



一旦着替えが終わるまで部屋から出ようとしたが、竜が気にしないそうだからドアを閉めた。




立っているのもなんだからベッドに座ると、ギッというスプリング特有の音がしてベッドは俺の体重を支えた。



それから竜を改めて見上げると丁度下だけ着替えて、寝巻からジーパンに履き替えられていた。


だから今度は上を着替えようと着ていた服を脱ぎ始めた。



それを何気なく見る。



本当に良い身体してる…。俺もそれなりに筋肉はあるが部活は途中で辞めたから竜の肉体には及ばない。丁度よく引き締まってるからなお羨ましい。


俺もなんかやらないとなぁ…。




「和希どーしたの?」



「んー?」



気付くと竜はすでに着替え終わっていて次に装飾品を付け始めていた。服装は大人っぽく着こなしている。流石イケメン君。



「は・な・し、あるんだろ?」



サッと装飾品を付け終わって俺の隣に座った竜の重みでまたベッドがギッと音を立てた。



「何の話?」



その問い掛けに、オホンと咳払いをして竜の方へ身体を向ける。


プロポーズする瞬間でもあるまいし、こんなに畏まらなくてもいいんだけどな…


とか内心思った自分に苦笑した。



「昨日のことなんだけど、」



そこまで言うと「あぁ!」と竜が口を開いた。



「俺が和希の分のポテチ食ったこと?」


「違う!」



間髪入れずにつっこむ。



「おやすみ言わないで部屋に行ったこと?ごめん、眠かった。」



「ち・が・う!」



俺のツッコミに楽しそうに笑ってんじゃねーぞ!



「じゃぁ…」



「ええい!言わんでいい!」



まだ続きそうなので思い切って話を止めた。


だってまた違う答えが来るかもだしさ…いや、“かも”ってより絶対来る!



そして「何?」みたいな顔で俺の目を直視するのは止めてほしい。



言うの恥ずかしくなってきたじゃないか!



「あーと・・・そのだな・・・」



目を逸らして発せられた俺の声は小さすぎて反響もせず消えていく。



やっぱり答え出るまで喋らせておけばよかった。なんて今思っても後の祭り。



話を切り上げた俺に非があるから仕方ないんだけど…。


でもここで立ち止まってはいけない!(オトコ)を見せろ!




「…き、昨日の夜にさ、つ、付き合うとか、言ってただろ?」



かなりテンパってるのが分かる。だけどなんとか文になってよかった。



竜が一つ相槌を打ったのを確認して話を続ける。



「それって冗談だろ?…俺のこと呼び捨てにしたり、俺をからかってるだけだよな?だったらちゃんと前みたく兄貴って呼べよな!」



取り敢えず言いたいことは勢い任せに一気に言ってやった。


隣にいる竜はきょとんとしている。




「何言ってんの、俺は本気だけど?」



「え?」



何言ってんだ、コイツ。“本気”ってなんだよ!


俺に本気?…ないないない!


と自問自答。



「俺が告って和希がOKしたんだから、両想いになれてハッピーエンド!でしょ?」



“でしょ?”って、お前な…。



「ちょっと待て!頭大丈夫か!?だってあの時は…」



母さんが、と繋げようとした時、竜が俺のセリフに割り込んできた。





「じゃぁさ、和希は俺のこと嫌いなの?」





・・・・。




何これ。



何で上手く行かなくなったカップルみたいな状況になってんの!俺悪いのか!そうなのか!?



でも、横目で見た竜の表情は真剣で、なんだか少し悲しそうで…。


よく分からないけど、もしかしたら本当に本気なのかなって思ったりして。


だから俺も少し落ち着いて



「好きだよ。でも俺たち兄弟だろ?そんな関係になるのっておかしいよな。」



って、小さい子をあやすように出来るだけ優しい声で言う。



「おかしくないよ。俺は和希のこと好きだし和希は俺のこと好きなんだろ?」



さっきよりも泣きそうな顔になっているのは気のせいじゃないはず。



「俺の“好き”っていうのは兄として弟が好きということで…っ!」



喋っている途中に抱き締められ、俺の言葉は続くことはなかった。


昨夜とはまた違った甘い香りが俺を包んだ。



「竜…?」




「和希…好きになってよ…。」



正面から抱き締められたせいで顔はよく見えない。



けど、竜の胸から回された腕から全身に体温が馴染んでくる感じ…。



「俺こんなに好きなのに…。ずっと、ずっと前から好きだった。」



更に力が込められ、どうすることも出来ずにいる俺ってかなり情けないよな…。



でもな、竜。俺とお前の“好き”はきっと違うんだよ。



だからさ、



だから・・・




「わかった。付き合おう。・・・条件付きでな。」



だから俺はこうする。



お前がもし本気なら、兄貴として本気で相手してやるよ。



「条件?」




その声の後、ゆっくりと竜の身体を離す。



よかった、泣いてない。




俺は胸を撫で下ろし、それから考えた条件を発表した。



「1つ、期間は俺が卒業するまで。


2つ、母さんには言わない。


3つ、兄貴ってちゃんと呼ぶこと。


4つ、俺の勉強邪魔しないこと!


…以上です!」



言い終わると明らかに不満がありそうな顔が目に入る。



「あのさ、卒業までってあと1年もないじゃん。」



俺は高3で今は4月の半ば。

確かに卒業するまで1年も無い。



「仕方ないさ」



だってさ、俺大学行くと思うし。そうなればこの家から出ていくし?



そしたら、もうその感情は無くなるでしょ?



いつどこで間違ったかは分からないけど、竜にはまともな人生を歩んでほしい。



この“恋人ごっこ”だって何年も経てば笑い話になるんだから。



だって兄弟が付き合うのはやっぱりおかしいだろ?



どこまで本気か分からないけど。





「あと、さ。」



「何?」



「二人の時は和希って呼んでもいい?」



「んー、まぁ、二人の時だけな。」



そのくらいなら、な。


了承を得た竜の顔が嬉しそう。


昔と今じゃ見た目も声も大分変わってしまったけど、この笑顔は変わらない。


それを見てなんだかホッとした。









「さて、と。」



「ん?」



急に立ち上がった茶色い頭を目で追う。



「行ってくる。」



「どこに?」



「トモダチのとこ。」



「・・・はい?」



『あ、そっか!』というよりも先に『何で?』という思いの方が強かった。



だってさ、この流れありえなくない?


今、たった今「好き」とか言ってたくせに女の子のトコに遊びに行くんですか?


何なの、コイツ。



真剣になってた俺がめっちゃ恥ずかしいじゃん!



唖然とする俺を余所に上着を着た竜はもう一度近づいて来て、



「早く帰ってくるね。」



と言って、前髪の上から額にキスされたということを理解するまで少し時間がかかった。




バタンと部屋の扉が閉まる音がしたのは竜が出ていったことを示していた。




「・・・ッ、//」




一人になった空間で、ドキドキとモヤモヤが合わさって変な感じがした。



『乙女か!』とか自分につっこんで気持ちを紛らわし、ドキドキするのはきっと竜がかっこいいからだと自分で納得して。



でもその言葉信じてもいいかな、ってちょっと思ったりもして・・・。



なんだか自分でもよく分からない気持ちのままただ茫然と、開くことの無い扉を見つめ続けた。




【つづく】


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