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「一也!」


教室に入ると一也は席についていた。


「ごめん、待たせた。」


一也は俺を見付けると左手を軽く挙げた。


「いや、俺も今来たとこ。こっちこそ悪いな、昼休みなのに。どっか行ってたのか?呼び出し?」


「いや、貴斗と屋上で弁当食べてた。」


「ふーん。あれ?貴斗は?一緒じゃないのか?」


一也が教室を軽く見回すが貴斗の姿はない。


「まだ屋上にいると思う。それよりほら勉強教えてやるから見せて。」


「お、おう。えっと…この問題。」


一也が指を指した問題は少し応用が効いているが格別難しいわけではないので俺でも解ける問題だった。


「んーと、これは…」


ノートの端っこに解説を書きながら説明をする。


「あーなるほどなー!やっぱ和希のは解りやすいな!」


「そうか?」


「マジで助かった。もうさ、授業聞かないで和希に教えてもらいたいよな。」


「いや、ちゃんと授業聞けよ。」


「あははは。解んなくなったらまた聞くわ。ありがとうな。」


「どういたしまして。じゃ、俺歯磨いてくるから。」


「おー、いってらー」


ひらひらと手を振る一也から視線を壁に掛かっている時計に移す。残り時間はあと少しだった。


さっと磨いてこよう。


教室から少し離れたところにある水道で素早く歯磨きを終わらせ、廊下にあるロッカーに歯ブラシを片付ける。


ついでに次の英語の教材をロッカーから取り出して教室へ入った。



教室に戻ってくると貴斗も戻ってきたようで自分の席についてケータイを弄っていた。



席についた途端チャイムが鳴り、少ししてから息を切らした英語教師が入ってきた。


教師の元気な声が教室が響き、生徒が懸命にノートをとる。


自分もノートをとるが、去年よりもピリピリした雰囲気だからか、なんだかみんなに置いていかれるような、変な気分だ。


授業なんて集中すればあっという間だし、去年までの俺からすれば考えられないくらい勉強してる気がする。


自分にはこれと言って特技がないから、苦手を作らないようにしないと受験には勝てない。


受験生は精神的に辛いよな。


ノートの端に落書きしたい衝動を押さえて、黒板に書かれた問題を書き写した。



…………

………

……



放課後を告げるチャイムが校舎に響く。


「うわあ〜行きたくないよ〜!和希助けて〜!」


貴斗が隣で駄々をこねる。子供がお菓子をおねだりしているかのようだ。


「離せって。」


俺の制服の裾を掴む貴斗とそれを引き剥がそうとする俺を見てケラケラ笑う一也。


「オラ、行ってこい!」


「他人事だと思って…。お前も道連れにしてやろうか?」


近くに立ってた一也の腕を掴まえようとしたらサッと逃げられてしまった。


「絶対にヤだね。今日は春香と買い出しに行く約束してるから。」


春香とは一也の妹だ。一也と3つ違いの中学3年生で、赤髪の一也とは違い綺麗に伸ばされた黒髪にぱっちりとした目をしていて清楚な感じがする。

時々会うが、こんな俺にもなついてくれるいい子だ。


一也の両親は共働きで度々帰りが遅くなるようで、よく兄妹で夕飯の買い物に出掛けていると前に聞いたことがある。


「くっそー!可愛い妹と買い物かー、羨ましいな。」


「そ。だからお前らとは付き合ってらんないの。」


一也は自分でも認めるシスコンで、春香ちゃんの話をするときはなんとも楽しそうな顔をする。今だって待ちきれないというようにそわそわしているのが分かる。


「じゃあな、また明日!」


「おー。またな。」


早歩きで教室から消えた一也を見送り、俺たちは重い足取りで職員室へ向かった。




1階に位置する職員室に着くと、いろんな生徒や教師が出入りしているのが見えた。


「…行くぞ。」


「うん…。」


横引きの扉を開ける。軽いはずの扉が重く感じる。


「失礼しまーす。」


挨拶をすると、原田が俺たちに気付いたようで「おーい」と片手を挙げた。


「よし、来たなお前ら。さて、宿題を忘れてきたお前たちにはこのプリントをやってもらう。」


「これ…ですか?」


「うっわぁ…分厚ぅ」


渡されたプリントの束を持ち上げてペラペラとページをめくる貴斗を見て原田が苦笑いをする。


「まぁ集中してやれば1時間もかからないで終わるはずだ。終わったら持ってこいよ。採点して合格したら帰って良し!」


「まじかぁ…帰り遅くなるじゃん。」


貴斗が力の抜けた声を出しながら原田に抗議するが、何の意味も成していない。


「さ、教室戻れ。」


「はーい」


さっさと職員室を追い出された俺たちは仕方なく教室に戻った。


教室にはまだ数人が帰り支度をしたりお喋りをしたりしている。


「お、今回の課題貰ってきたか!」


戻ってきた俺たちを見つけたクラスメイトが、持っていたプリントを手に取る。


「はー結構あんな。ま、頑張れ〜」


ニヤニヤしながら俺にプリントを返すと、「じゃあな」と言って数人が教室を出ていった。


邪魔をしないように出ていってくれたのかは分からないが、大分静かになった気がする。


それでもまだ残っている生徒もいるし、廊下で喋っている生徒もいて賑やかなことには変わりなかった。





数十分、席についておとなしく課題を解いていると、辺りがさっきよりも静かになったことに気付いた。


ふと顔を上げて辺りを見回すと俺と貴斗以外に誰も居なかった。


あれ。もう皆帰ったのか?


「おい、貴斗。今どの辺?」


前の席に座る貴斗に声をかけだが返事が無い。


「貴斗?」


少し立ち上がり、背中を叩く。


「スー。スー。」


はっきり聞こえた。これは…寝てる!


「寝てんじゃねえ!起きろ貴斗!」


今度は強めに叩くと、さすがに起きたのか、「痛い痛い!」と叫んでいる。


「何すんのー。」


振り返り、俺を睨む貴斗。欠伸をするな。


「何寝てんだよ。課題は?終わったの?」


「え、あーもうちょい。」


言いながら貴斗は目線をススっと左横に移す。これは嘘をついているときに見せる貴斗の癖だ。


「嘘だな。全然やってないんだろ?」


「いや、ホント。もう少しだよ。」


「見せてみ。」


「あ、ちょっと!」


立ち上がり、貴斗のプリントを取り上げる。


そこには俺が数分前に見た問題が無回答のままだった。


「ほらな、まだ半分もやってないじゃんか。」


「うー。」


いたずらが見つかった子供のように口を尖らせる。


「別にいいじゃん。今日早く帰る用事もないんだし。」


「でも早く終わらせたいだろ?」


「別に。和希ともっと一緒にいたいし。」


たまに貴斗は子供のようになるときがある。


「はぁ。」


口を尖らせた貴斗に思わずため息が出た。


「買いたい本があるんだ。帰り、ゆっくり探したいから早く終わりたいんだよなー。貴斗にも一緒に探して欲しいんだけど?」


別に今日寄らなくてもいいんだけど、下校の道草のお誘いをすると尖らせた口はどこへやら。跡形もなく消え、代わりに下弦の月の様な形になっていた。


「行く行く!仕方ないなー。こんな問題、すぐ終わらせるから!」


そう言った途端、カッカッカッと物凄いスピードで問題を解く音が聞こえた。


本当に単純だ。昔からずっと一緒だったから貴斗の扱いは馴れたものだ。


俺も解き欠けの問題を解いていると「終わった!」と声が聞こえた。


あそこから俺より早く解き終わるなんて…


そうだった。元々頭は良いんだよな。ただやらないだけで。


「和希、終わった?ってあれ?まだ終わってないの?」


清々しい顔が俺の問題用紙を覗き込む。


「今終わるから支度して待ってろ。」


「早くねー。」


ちょっと悔しいが、頭の出来は勝てないので気にしないことにしてる。


5分後、やっと終わった。


量ありすぎだろ原田。


すっごく疲れた。


「終わった?早く行こうよ!」


ケータイを弄りながら俺を待っていた貴斗はすぐに立ち上がり、俺を引っ張って職員室へと向かった。





「おーやってきたな。」


原田にプリントを渡すと採点を始めた。

採点されるのって緊張するな。


「よーし、合格!帰っていいぞ。」


原田から帰宅の許可が出たのは5分後だった。


「やった!和希、早く行こ!」


またしても俺を引っ張り、職員室の出口へと急ぐ貴斗。


「廊下は走るなよ!気をつけて帰れー!」


「はーい!さよーならー。」


遠くで注意する原田に元気いっぱいに返事をする貴斗。


廊下はさっきよりも人人通りはなく、夕陽が差し込んでオレンジ色に染まっていた。



【つづく】

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