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「ハァ、ハァ、セーフ…。」


一時は遅刻を覚悟したが、なんとか校門に入ることが出来た。


頑張って走ってきたおかげで、登校してきた生徒がまだ校門に沢山いた。


「お前、余裕そうだな。」


一緒に走ってきた竜を見ると全く疲れた様子も無く、額に少し汗が見えるものの、涼しい顔をしていた。


「まぁ、このくらいはね。」


けろっとした顔で言いながら、額に掛かった前髪を掻き上げた。そのせいで普段はほとんど隠れているシュッと上がった整えられた眉とか、くっきりした二重瞼が今はハッキリと見えた。


「さ、爽やかだ…。」


「え?何か言った?」


「いや何も!」


「ふーん?」


おっと、本音が思わず口に出てしまったらしい。聞き返されたけど悔しいから教えてやらない。


不思議そうに首を傾げてそう言って玄関に向かって歩き出した竜の後ろを追い掛けるように歩き出す。


でもまぁ、さすが部活で身体を鍛えてるだけあるよな。体力の差を思い知らされたわ。それにこのガッチリした肩とか、広い背中とか綺麗に引き締まってんな。マジ男らしい。俺も帰ったら筋トレしようかな。


「和希」


「んあ?」


一歩程前を歩いていた竜が立ち止まり、振り返った。


「…久々に楽しかった。」


そう言って珍しく照れくさそうだった。


「俺も竜と登校できて良かったよ。待っててくれてありがとな。」


少し高いところにある目を見ながら笑うと、竜もつられたように笑った。


ああ、なんかいいな。こういうの。


「あのさ、帰りに…」




「あ!竜くん、おはよー!」


「どうしたの竜くん。珍しいね、こんな時間に登校するなんて〜。」


竜が何か言いかけた気がしたが、それは俺と竜の間に立ち塞がった女子達によって遮られてしまった。


「…おはよ。」


「なになに今日元気無くない?」


「いつもこんなんだよねー?」


「ねぇねぇ、放課後空いてない?皆で遊びに行こうよ〜」


あっという間に竜は数人の女子に囲まれてしまった。

少女漫画にありがちで、現実では難易度のかなり高いことをやってのけるとは…。


羨ましいんですけど!


女子に押される様にして少し俺と離れてしまった竜たちが一体何を話しているのかは良く聞こえない。ただ賑やかな声が聞こえるだけだ。


俺を置いて楽しそうにしやがって…。

ちぇ、俺めっちゃ惨めじゃんかよ。




「あのさ、ちょっと待っててもらっていいかな?兄に話があるから。」


「えー!竜くんってお兄さんいたのー?」


「どれどれ?」


「えーと…あれ。」



不貞腐れて少し遠くで竜を眺めていたら、突然竜に指を指され、それに従って取り巻きたちが一斉にこっちを向いた。


「へ?」


何で皆こっち見てんだ?


しかも女子たちの驚いた様な顔。


あー、そーゆことか。



ここは…


逃げる!


「あははは、モテモテだなぁオイ!俺邪魔ならないように先に教室行くわ。じゃな!」


竜に聞こえるように、ぎこちない笑顔で早口に言って玄関までダッシュ。


「ちょ、和希!」


止めるな弟よ!俺はなぁ、俺は…


お前と比べられるのが大っ嫌いなんだよ!!!


俺だってさっきの女子たちの反応を見ればなんとなく分かるさ。どうせ竜の兄だと知って比べられたんだろう。


俺なんか竜と比べたら背も高くないし、かっこよくないし、運動だって劣るし、女子と付き合ったことも無いし…。


うわ、ヤバい。考えたら涙出てきそう。


「―ッ、」


玄関に入り下駄箱の前で立ち竦む。


さっきまであんなに楽しかったのに。


「あーあ、情けないなぁ…。」


その場から逃げ出した自分に嫌気がしてポツリと独り言を呟くと、足元を見ていた視線の先に黒い影が俺の影と重なった。


「和希じゃん。おはよ!」


声のした方を見ると身長190㎝超えの男がいた。


「あ、おはよう。」


その男は同じクラスの成田一也(なりた ひとや)だった。


その身長と才能のおかげでバスケ部に入部後すぐにレギュラー入りした。加えて目立つ赤いツンツン頭のおかげで校内では知らない人の方が珍しい。人当たりも良く、運動神経も抜群で男女共に人気がある。

まぁ勉強は苦手らしく、テストの順位は下から数えた方が早いのだが。


一也とは2年の時にクラスが一緒になり、その時にゲームの話で盛り上がり意気投合した。


俺の友人の一人だ。


「どうした?そんなとこで突っ立って。虫でもいたか?」


「いや、何でもない。」


「…そっか。早く教室行こうぜ。」


先に歩き始めた一也に続いて俺も急いで靴を履き替えて3階にある教室へ向かった。




俺のクラスの3年4組の教室は階段から一番奥に位置している。もうすぐチャイムが鳴るというのに、廊下にはまだたくさんの生徒達がいた。


「一也くん、おはよう。」


「おー、おはよう。」


「よぉ成田。今日昼休み部室来てくんね?」


「分かった。飯食ったらすぐ行く。」


「なるべく早くな!じゃ、昼にな。」


教室に行くだけだというのに一也の周りには人が吸い寄せられるように集まる。


なんというか、流石だ。敵なんか居ないんじゃないかと思われるほどの人気っぷりだ。


「今日もモテモテだな、色男。」


「そーか?じゃあ、その色男の頼みなんだけど…。」


一也が少し困った顔で頭を掻く。


「勉強か?」


「正解!宿題で分からないとこあるから教えて欲しいんだけど。」


ほらな。いつものことだから別に良いけど。


宿題なんて教科書読めば大抵理解出来るもんなんだけどな、コイツの場合人に教えてもらわないとダメみたいだ。


「はいはい。何の教科?」


承諾すると一也の顔が一気に笑顔に変わった。


「ありがとっ和希!えーと、英語。」


「英語か。英語って確か5限だったよな?昼休みでいいか?」


「おう!ありがとなホント。あと数学なんだけど…」



数学…?


…ん?


「あ!宿題やってない!」


「マジ!?じゃあ貴斗に訊くかなぁ。」


「あー、でもあいつもやってないと思う。しかもまだ来てないし。」


教室を見渡しても貴斗の姿は無かった。


「げ、ホントだ。うあ〜数学1限なのに!」


「もう山本に訊けばいいだろ。」


「山本?」


「お前山本のこと好きじゃん。」


「ち、ちげーし!」


「席も隣だし、これを機に仲良くなったら?」


「い、いいって!和希に教えてもらう!」


一也をからかうのは面白い。リアクションがでかいんだよな。芸人にでもなればいいのに。


「ほら、もう席についた方がいいぞ。朝会始まる。」


「くっそー!ここ今日あたりそうなのにやり方わかんねー!マジで原田の授業意味不明だし。和希、後で教えてくれよな。」


「はいはい。」


っていっても、俺も宿題終わってないからヤバイんだけどな。朝会で終わるか微妙なとこだな。





………



「じゃあ宿題集める。後ろから回せ。忘れてきたヤツ、手ぇ挙げろ。」


「はーい…。」


結局朝会の時間で終わるわけもなく俺は今教室でただ一人手を挙げている。


「あ?お前いつもやってくんのにどうした?」


「いや、つい寝ちゃって…。」


「ほう。今日の放課後職員室に来い。まだ来てないバカも一緒にな。」


「…はい。」


最悪だ…。


原田の補習はなかなか終わらないことで有名だ。


俺は今日の帰りが遅くなるのを覚悟した。




【つづく】

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