school day
「うわあああああああぁぁぁああ!」
窓から差し込む朝陽によって夢から覚めた俺は目覚まし時計を両手で持ち上げて頭の中が真っ白になった。
そこには8時2分27秒と標されていた。いつも起きる時間より1時間以上過ぎている。
「うそ、だろ…?」
寝起きの頭で昨夜目覚まし時計をセットし忘れたことを思い出した。
「やっべー…これは遅刻確定だな。」
今日は月曜日。学校に行かなくてはならないのだが、家から学校まで15分。門から教室へ入るまで5分。学校が始まるのが8時40分。
とすると、あと20分もねーじゃん!
「ちょ、わ、どうしよう!とりあえず着替え…」
「おーい、和希。いつまで寝てんの?ってか起きてる?」
ぐしゃぐしゃの髪のまま制服に着替えていると、ドアの向こうから竜の声がした。
「起きてる!でもヤバイかも。遅刻する!」
「はあ?寝坊かよ。」
確実に呆れている声がする。
「ってか何か用?」
ネクタイを締めながら、いつもならもうとっくに登校しているはずの竜がいることに不思議に思った。
「あ、いや、一緒に行こうかと思って…」
待ってた、と言葉が続く。
え…
な、なに!?一緒に登校だと!竜と一緒に学校行くのって小学校以来じゃないか?中学生ではもう思春期かって思ったくらいに俺への対応が冷たくなったし。その時以来一緒に登校したことないじゃん!うぅ、兄ちゃん嬉しいぞ!
嬉しいけど・・・
俺の寝坊のせいで竜まで遅刻させてたまるかぁあ!
「竜、その気持ちはすっごく嬉しいんだけど先に行っててくれ。」
「何で?」
「マジで間に合いそうにないんだわ。走んなきゃいけなくなるし、この時間ならまだ間に合うだろ?先に行ってろ。」
「…待ってる。」
「いいから!俺に構うなって!」
「走ったっていいし。」
「ダメ。俺はともかくお前はまだ2年生なんだし、ちゃんと単位とらないと進級できなくなるんだから、学校に行けるうちはしっかり行けって。」
そこまで言うと少し間を開けた後に
「…わかった。」
と声が聞こえ、ゆっくりと階段を降りる音が聞こえた。
どうやら理解してくれたらしい。よし、俺も早く支度しなきゃな。ってか、時間的に朝飯食えないよな。でも食いたい。5分で食べれるか?
「…うっし、食う!」
時計とにらめっこした後、朝飯を食べる決断をし、大急ぎで準備をして鞄を持って階段をかけ降りた。
リビングに入ると母さんが仕事へ行くための準備をし終えていて、洗濯物を畳んでいるところだった。
「おはよう和希。朝から騒がしいわね。転んで怪我しないようにしなさいね。」
そう言って笑った母さんの目は竜の笑った目にそっくりだった。さすが親子だ。俺も血は繋がってるはずなんだけどなぁ…。どっちかって言うと俺は目も髪の質も父さん似だ。
「おはよう。大丈夫!…いただきまーす。」
急いで席について目の前の朝食にがっついた。
若干冷えていたけど、それでも母さんのご飯は美味かった。
「ごちそうさまでした。やべ!時間!」
なんとか大急ぎで食べ終わった。でも俺は肝心なこと忘れてた。
皿洗い!
これは完全に間に合わない…。くそぉ…。
落胆しながら食器を流し台に持っていくと洗濯物を畳み終わった母さんが近付いてきた。
「和希、時間大丈夫なの?私が洗うからそのままにしておきなさい。」
神降臨!
「え、いいの?」
「仕方ないでしょ。ほら、早く支度して行きなさい。」
母さんマジで助かった!ありがとう!
「ごめん、ありがと!」
皿洗いは母さんに任せて歯磨きと洗顔を高速で終わらせ、玄関のドアを開けた。
「いってきます!」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
キッチンから母さんの声がした。
「はーい!…って、え?」
家から出ると、そこには数分前に家から出たはずの竜が立っていた。
俺を確認すると今まで読んでいたであろう本を鞄に仕舞った。
「何でいるの?」
「待ってた。」
「はあ?先に行けって言っただろ。何で待ってんだよ。あーあ、こんなに冷たくなって…。」
竜の頬に手を当てるとひんやりとした体温が伝わってきた。
やっぱり寒かったのかな。頬が赤くなってる。
春といえどまだ肌寒い。きっと手も冷たくなってんだろーな。なんか待たせてしまって申し訳ないな。
「別に寒くないし。ってか一緒に行きたかったから。」
何だろう。目線を合わせないでぶっきらぼうに言った竜が無性に可愛く思えた。
いやー、弟ってやっぱり大きくなっても可愛いもんだな。
「よーし、分かった。んじゃ走るぞ!」
トンと竜の背中を叩いて走り出すと、なんだか竜が笑った気がした。
【つづく】