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「あ〜和希の匂いする〜」
「ちょ、バカ、離れろ!」
「やだ。」
飯を食い終わり、風呂から上がった俺がリビングに戻ると、ゲームをしていた竜はコントローラーを放り投げて抱きついてきた。
「子供かお前は!」
「そーかも。」
ソファーに座り、隣で俺の首筋に顔を埋めながらじゃれつく竜。こんな竜を見るのは久しぶりな感じがする。
学校でのクールなイケメンはどこいった?
「アホか。だいたい、同じシャンプー使ってんだから、俺もお前も匂いなんて一緒だろ?」
生乾きの髪に鼻を埋める竜をなんとか引き剥がす。
「全然違う。和希は和希だけの匂いがするんだから。」
「…よくわかんねー。」
「そう?」
「あらあら、今日は随分仲良しさんね。」
うお!母さん!いつの間に?
気が付くと後ろにパジャマ姿の母さんが立っていた。全く気付かなかった…。
「やることやったら早く寝なさいね。明日からまた学校なんだから。」
「はーい。」
そうか、明日学校かぁ…。貴斗の家に泊まりに行ってたから曜日感覚がおかしくなってたんだな。ぶっ通しでゲームしてたし。
「じゃあね、二人とも。おやすみ。」
「おやすみ〜」
「おやすみ。」
ドアの閉まる音がして、ドアの半透明の硝子の部分から母さんの姿が見えなくなるまでそこを見つめていた。
「じゃ、俺も部屋戻るな。」
明日は学校っていうのもあったし、ぶっちゃけ少し眠いってのもあって俺も自室へ行こうとソファーから立ち上がると、服の裾を掴まれた。
「和希。」
「ん?」
「やることやったら…だってさ。」
「…?」
俺を笑顔で見上げている竜の言っている意味が分からずに首を傾げる。
やること…やること…?
「風呂には入ったし、歯磨きもやったし…。あ!宿題まだ終わってねーじゃん!うわ、俺もう寝ようと思ったのにー!」
そうか、宿題残ってたんだ。すっかり忘れてた。
「あー、今からやるのとか面倒いな。明日起きてやるか〜?いやいや、朝なんて頭回らないしなぁ…。」
宿題を思い出して慌てたせいで俺の脳はすっかり覚醒してしまった。今は残されたままの宿題で頭がいっぱいだ。
そんな俺を見たからか、竜は呆れたように溜め息をついた。
「違うだろ。そこはおやすみのチュウ、だろ?」
「・・・。はあ!?」
一拍置いて俺の声がリビングに響いた。
おやすみのチュウ、だと…!
「お、お前はまた何言ってんだ。そんなもんしねーからな。」
「何で?いいじゃん、恋人同士だし。それに俺、キスしてる和希の可愛い顔、もっかい見たいな。」
その言葉にさっきのキスシーンがフラッシュバックした。
「ッ絶対にヤだ!」
「あはは、顔真っ赤。」
「うっさい!」
兄ちゃんをからかうのがそんなに楽しいか、弟よ。
兄ちゃんだってなぁ、好きで赤くなってんじゃないんだからな!これはあれだ。人体の不思議ってヤツでだな。…あれ?何ワケわかんないこと考えてんだ俺は。
とりあえず、しないからな!
「寝る!おやすみッ!」
「はいはい、おやすみ。」
夜にも関わらず大きな声を出してしまった俺に苦笑しながらヒラヒラと手を振った竜には目もくれず部屋を後にした。
急いで自分の部屋に戻り、1日ぶりのベッドにダイブすると、重みでギシっと音がした。
枕に顔を押し付けてここ数日の出来事を思い浮かべる。
「なんだかなぁ…。」
弟のペースにのせられている感じが嫌だし、いちいち慌てる自分自身も嫌だ。
そもそも何で竜はあんなにガンガンくるんだ?
これが恋人ってゆーもんなのか?そうなのか?兄ちゃん知らなかったよ。
まぁ、彼女いない歴=年齢の俺には到底知ることのないことだったけどな。
あー、くそぉ…。
ぐるぐると考えている内にそのまま夢の世界へ行ってしまったらしい。
次に目が覚めると閉め忘れたカーテンから黄金に光る朝陽が俺を照らしていた。
【つづく】