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第7話『試練』


 デニムのショートパンツは健康的な素足を覗かせ、黒のコンバットブーツに白のタートルネックTシャツ、カーキのオーバーサイズジャケットを羽織った姿は強さを感じさせる。


 胸についたシルバーのチェーンネックレスの中央にあるドッグタグには大きな鳥が描かれていて、何者にも囚われない意志を象徴しているようだった。


 さっきまでメイド服だったからギャップがヤバい。


「誘いを受けてくれてありがと」

「こちらこそ、お誘いくださりありがとうございます」


 居酒屋の個室に入った僕らの会話は、そんな社交辞令から始まった。


「センリちゃんなに頼む? 僕お腹減ってるからおでんでも頼もうかな。飲み物はネグローニにしよ」

「私もお腹は減ってます。では海藻サラダとからあげを。飲み物はノンアルコールでタナカさんと同じものをお願いします」

「おっけい」


 ホログラムタブレットに注文を入力して送信すると、ピコンと音が鳴って『少々お待ちください』と表示される。


「タナカさんは20歳を超えていたのですね。年下かと思ってました」

「うん、これでも22歳だよ。158センチしかないからよく中学生に間違われるけどね」


 センリちゃんは女の子にしては背が高い。

 僕より少し高いくらいだから160センチくらい?


 5分と待つことなく配膳用のロボットが頼んだ品を運んできて、机の上に並べてくれた。


「とりあえず乾杯しよっか」

「はい」

「それじゃあセンリちゃんの入団を祝して、乾杯!」

「よろしくお願いします」


 グラスを重ねて1口呷ると、いつもよりずっと強くアルコールを感じた。


 命を狙われたセンリちゃんには悪いかもだけど、僕にとっては今日は最高に良い日だ。


 この状況が僕のお酒の回りを早くしているような、そんな気がする。


「でさ、面接とかってわけじゃないんだけど……センリちゃんからなにか要望とかある?」

「要望ですか?」

「そ、僕は今まで個人傭兵だったけど、センリちゃんが参加することで『傭兵団』になるわけだよ。その時の業務体形とか支給品とか、給料とかどう決めていいかわからないから」


 ずっと1人だったから相場みたいなものがまったくわからない。


 正直、センリちゃんが望むならなんでもいいんだけど……


 いや、こんな考えだから詐欺に引っかかるのはわかってるんだけど、考えるのとか、揉めるのとかも面倒くさい。


「なるほど。ですが、私はタナカさんの部下という立場ですの、でタナカさんが決めたことなら従います。もちろん、意見が欲しいのでしたら意見を言います」

「それじゃあ質問していい? もちろん答えたくないことは答えなくて大丈夫だから」

「はい」


 頼んだご飯を食べながら、僕はセンリちゃんに色々と質問してみることにした。


「休みはどれくらい欲しい?」

「いりません」

「給料は?」

「いくらでも問題ありません。その時々の仕事の出来をタナカさんに評価していただく形でも大丈夫です」

「センリちゃんってTW乗りだよね? 僕的にはTWを支給したいと思ってるんだけど」

「あのような高額な武装の代金をタナカさんに出してもらうわけにはいきません。貯金して私が買います」


 ……休みなし。

 ……給料は僕の良い値。

 ……仕事道具は自腹。


「……ちょっとまって、うちって超ブラック傭兵団じゃない?」

「ん? 私は構いませんよ?」

「ん? 僕は全然無理だよ?」


 帰ったらミロクにどうしたらいいか聞こう。


 僕とセンリちゃんで話すとロクな結論にならなそうだ。


「センリちゃんはさ、どうして僕と一緒に傭兵をやりたいって思ったの?」

「どうして……?」

「凄腕のTW乗りなんて引く手数多だろうにいいのかなって」


 別にナイーブになってるってわけじゃない。単純に疑問なのだ。


 マポリオンの城での戦闘を見た感じ、センリちゃんのスペックはそこら辺の傭兵よりずっと高い気がする。


 それこそ、僕みたいな個人傭兵として活動しても生活費くらいなら余裕で稼げるほどに。


 なのに、傭兵団ですらなかった僕のところに来るのは才能の損失なんじゃないだろうか?


「私は……1度は逃げた人間です。諦めた人間です。自分の不出来を呪って、自分の性格に嫌気がさして、私は戦いから逃げました」

「……」

「私はあなたのようになりたかった。圧倒的な力で不条理を破壊するあなたに憧れた。他の場所ではダメなんです。あなたの傍であなたを見たいのです」


 そんなことを言われながらセンリちゃんの鋭い瞳に見つめられると、少し照れる。


「タナカさんは私を尊敬すると言ってくれましたが、私もあなたを尊敬しています。それが私があなたに雇って欲しい理由です」


 純粋で、正義感に溢れている。


 ミロクはセンリちゃんをそう評した。

 僕もそう思う。


 だからこそ、そんな人に尊敬されるなんて言われると……


「タナカさん? どうして目を逸らすんですか?」

「え? いや別に。この部屋ちょっと暑いな……」


 顔を手で仰ぎながら愛想笑いしかできない僕は、やっぱり対人経験をもっと積んだ方がいいんだろう。


 暑さを和らげようとお酒を呷ると、もっと顔が熱くなっていく。


「私になにか不備があればいつでも仰ってください」

「いやいや、センリちゃんに悪いところなんてないよ。ただちょっと……」

「ちょっと?」


 青い瞳が僕を見ている。


 てか目でっか。まつ毛綺麗すぎでしょ。

 なにそのちょっと心配そうな顔。

 いつも目つき鋭いのに、不安気なのギャップやばい。


「いや、嬉しいなって……尊敬するなんて始めて言われたから……」


 本当に、生きている人間からそんなことを言われたのは初めてだった。


「……私もです。私もタナカさんに認めてもらえたことが嬉しかった」

「はは、なんか照れるね」

「ふふ、そうですね」


 ぎこちなく笑い合って、僕らは同時にグラスに口をつけた。


 今まで『同僚』なんて存在ができたことなかったから、どういう風に接すればいいのかわからない。


 思ったことがすぐに口に出る……


 いや、これはきっとお酒のせいだ。


 センリちゃんと飲むのはなんだか楽しい。



 ◆



 ヤバい、飲み過ぎた。

 ということに気が付いた時には、僕はいつの間にか外にいた。


 夜風が気持ちいい。それにすごく良い匂いがする。


「ここどこ?」


 ていうか今どういう状況?


「お目覚めになりましたか? あの時とは逆ですね」


 どうやら僕はセンリちゃんにおぶられているらしい。


「もしかして僕寝てた!? ごめんね、降りるよ」

「いえ、もうすぐ船に着きますから、このまま休んでいてください」


 たしかにここは宇宙港の中だった。

 深夜だから人は多くないけど、それでも全くいないわけじゃない。


 めっちゃ恥ずかしい……


「ありがとう」

「いえ、そういえばタナカさんのお力についてですが……」

「あ……」


 そりゃ同僚になるんだから、自分の戦力は共有しとかないとだよね……


 ふぅ……言う、わかってる。言わなきゃいけないんだ。


「言わなくても大丈夫です」

「え?」

「タナカさんにどんな力があるのかは気になりますが、秘密にしているのには理由があるのでしょう。だからもう聞きません」


 甘えすぎはよくないってわかってる。


 センリちゃんが善い人だからこそ、その善性に甘えたり寄りかかったりしたくない。


 だけど、少しだけ覚悟を作る時間が欲しかった。


「ありがとう、ごめんね」


 この恩は必ず返すよ。


「いえ、それにタナカさんが言いたくないなら自分で調べるだけです」

「1人でゲスラの不正を暴いたセンリちゃんが言うと怖いね」

「頑張って隠してみてください」


 そう言って、センリちゃんはクスリと笑った。


 彼女は僕が力を隠すことすらも肯定してくれる。


 宇宙港のロビーを抜け、停泊所に停められた僕の……〝僕ら〟の船に戻った。



「おかえりテンメイ、それにセンリ・ゴールドバーグ」

「ただいま」

「あの、私は……」

「わかってるよ。うちに入るんだろ?」

「はい。よろしくお願いします」


 センリちゃんの背中から降りると、ミロクが僕に酔い覚ましの薬を渡してくれた。


「はいこれ」

「ありがと」


 用意がいいな。


 薬を呑みながらミロクを見ると、どこか好戦的な顔をしているように見えた。


「先に言っておくけど私はテンメイほど優しくないよ」

「なに言ってんのミロク?」

「テストをしようか、センリ・ゴールドバーグ」


 テスト……? ミロクがセンリちゃんを?


「わかりました。タナカさんに受け入れて貰えたのは嬉しいですが、ちょうど自分の力を示しておきたいと思っていたところです」

「なにさせる気?」

「ただの遊び(ゲーム)だよ。VRルームに行こうか? もし疲れているなら明日でも構わないが……」

「いえ、今からで問題ありません」


 僕らはVRルームに移動する。


 基本的にミロクと僕がゲームをする時にしか使わない部屋だけど、機材の質はそれなりのものが揃っている。


「好きなTWを設定していいよ。相手は私が決める。全3ラウンドで全ての敵を倒せば君の勝ちだ。ラウンド毎に君のTWのエネルギーとダメージは全快する設定で」

「TWの戦闘シミュレーションシステムですか……軍学校時代は毎日使っていました。ルールも了解しました」


 そう言って上着を脱いだセンリちゃんは、VR用のコクピットに入っていく。


 慣れた手つきでコンソールを操作すると、コクピットの扉が閉まった。


「ミロク、何する気?」

「ゲスラを調べている時に彼女の面白いデータを手に入れたんだ」

「面白いデータ?」

「軍学校の主席卒業。TWの操縦技術に関しては歴代最高得点。しかも軍役中の敗走数は0」

「えっ?」


 主席卒業? 歴代最高? 敗走0?


 マポリオンの惑星で出会った時から強いとは思ってた。


 その時は20機のTWと大量の罠に囲まれながら10機も破壊していた。それも敗因はエネルギー切れで、撃破されたわけじゃない。


 それに隕石を跳ね返せるなんて自信は、相応の実力を持ってないと湧いてくるものじゃないだろう。


「もしかしたら、私たちが思っている以上にセンリ・ゴールドバーグは才ある人間なのかもしれない」


 そう言いながらミロクがVRルームのホログラムモニターを点けた。


 ホログラムモニターには宇宙空間とセンリちゃんが乗り込んでいるであろうTWが映し出されていた。


 VRヴァーチャルリアリティとは、使用者の脳が発する電気信号を解析し、同時に外から電気信号を送ることで仮想世界を体感させる技術だ。


 今モニターに映っているのは、センリちゃんが体感している世界ということになる。


「準備はいいかい? センリ・ゴールドバーグ」

『はい』


 白い機体に桜色のブースターエフェクト。通常のTWよりは若干小型に見える。


 桜色のレーザーブレードと鉄塊のようなブレードを両手に装備した2刀流。足には6連ミサイルが左右2つ。肩武装はない。


 軽量型だろうか? けど(メイン)武装が両方近接攻撃系って普通じゃないよね?


「そうだ、普通にやってもつまらないし。賭けをしないかい?」


 またなんか言い出したぞ、この性悪執事。


『賭けですか?』

「そう。もし君が私の出した試験を全てクリアできたら、君が設定したそのTWを君に支給しよう。テンメイが」

「僕かよ。まぁいいけど」

『いえ、そんな無駄遣いをさせるわけには……』

「代わりに、負けたらクビってことでどうだい?」


 数瞬の沈黙……そして、覚悟の籠った声でセンリちゃんは言った。


『了解しました』

「よし、それじゃあスタートだ」


 そう言ってミロクは通信を切った。


 通信してたらセンリちゃんも集中できないかもしれないから、それはいいんだけど……


「ミロク、どういうつもり?」

「どうせ彼女はテンメイにTWを買ってもらうことを良しとはしないだろ? だから賭けの形にしてあげたんだよ。ほら、私って気が利くから」


 めちゃくちゃ怪しい顔でミロクはそう言った。


「じゃあセンリちゃんのTWを購入するための方便ってこと? ってことはミロクは負けるんだよね?」

「……この船が向かう場所は常人にとっては危険すぎる。君もわかっているはずじゃないか。特別を持たない人間に、この船の乗員になる資格はない」

「いや、あのさ……」

「テンメイ、彼女の味方をするのなら少しは期待してあげなよ。彼女は君に守られることなんて望んではいないのだから」


 ミロクは本当に口が上手い。


 僕を支えたいと言ってくれたセンリちゃんのためにも、僕はセンリちゃんに期待しなきゃいけない。


 だから僕は、この遊びに介入できない。


【R1――クリア。タイム4:24】


 ホログラムモニターからそんな自動音声が流れる。


「どうやら最初のラウンドをセンリ・ゴールドバーグがクリアしたらしいね」

「はっや」


 画面上に映っているのは無傷のセンリちゃんのTWと、敵対していたTWの残骸だ。


「ビクティリア連邦の軍用最新式モデルが10機、しかも乗せてるAIは軍内でも1VS1突破者10%未満のマスターランクだったんだが……」


 1対1で10人に1人しか勝てない人工知能を搭載したTWを10機同時に出したってこと……?

 1ラウンド目から本気過ぎない……?


 今確信した。この悪魔執事、手加減する気なんかない。


 けどホログラムモニターに映るさっきの戦いの録画映像を見る限り、センリちゃんは余裕そうだ。


 ミサイルを巧みに使って牽制し、一気に接近、ブレードを捻じ込んで一撃必殺。


 それにTWの残骸を盾にして相手の攻撃を防いだり、一対多の戦闘にも慣れてそうに見える。


『ミロクさん、私はエネルギー無限モードにおいてマスタリーAIとの百機同時組み手をノーダメージで完勝しています。もう少し難易度を上げてもらっても構いませんよ』

「あぁそう。わかったよ」


 なんか……センリちゃんもヤル気だな。


【R2――スタート】


 VR内の宇宙空間に現れたのは1機のTWだった。


 違和感があるとすれば、その機体はセンリちゃんが操る機体と全く同じビジュアルをしていた。違うのは配色くらいか。


 真っ白なセンリちゃんのTWに対して、敵機は灰色っぽい。


「あれなに?」

「あれはセンリ・ゴールドバーグが造った機体を模造したものだ。全く同じ武装とパーツが使われている」

「それじゃあ操縦者の腕で勝敗決まるんじゃないの? センリちゃんに勝てなくない?」

「いや、あれはセンリ・ゴールドバーグの機体を模倣した上でその性能を全て1・5倍にしてある」

「そんなことできるの?」

「現実世界では不可能だよ。だがあそこはVR空間、現実では不可能な性能も付加できる」

「めちゃくちゃチートじゃん」


 本気過ぎでしょこの式神執事……


「そして、パイロットとして私が憑依する」


 ミロクが憑りついているのは、この船を操る統括管理AIだ。


 それはつまり、この船に搭載されているこのVRデバイスすらもミロクの憑依先となっているということ。


 ミロクならVR空間内のTWを操作することも簡単だろう。


 そして、ミロクは憑依先の肉体性能を120%引き出せる。


 そもそもの性能が1.5倍で、ミロクが憑依したことで更に1.2倍。

 センリちゃんのTWとのスペック差は約1.8倍。


「流石に厳しそうだけ――」


【R2――クリア。タイム0:20】


「わお」


 ブースターを吹かせて突進したミロクの斬撃を完璧に回避したセンリちゃんは、カウンターでミロクの機体の右腕を斬り落とす。


 それによってミロクの近接攻撃手段が半減。


 追撃で放たれたレーザーブレードによる三連突きは、武人と見紛うほどのキレを発揮し、片腕しか残っていないミロクの機体に風穴を空けていく。


 その間、ミロクの機体も藻掻くように武器を振るっていたが、センリちゃんは全ての攻撃を完全にいなしていた。


 ミロクの動きが完全に見切られてる……


 速度もパワーも装甲強度も2倍近い相手を技量だけで圧倒してる。


「まぁミロクって別にTWの操縦なんかほとんどやったことないでしょ。当然っちゃ当然か」

「く、クソぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「まぁ、ドンマイ……」


 四つん這いになって地面に拳を叩き付けるミロクの背中をポンポンと叩いてあげると、ミロクはホログラムモニターを睨みつけるように顔を上げた。


「だが、まだ試験は1つ残っている……!」


 そう言ってニヒルな笑みを浮かべるミロク。


 もう諦めればいいのに。


【R3――スタート】


 自動音声が流れると共に、5機のTWが宇宙空間に出現する。


 しかし、そのTWには特別変わったところはなく、僕には量産品にしか見えなかった。


 これなら最初の10機の投入の方がよほど難易度が高そうだけど……


「パイロットが超優秀とか? それともまた機体の性能を限界突破させてるの?」

「いや、パイロットは並みだし、機体性能は標準的なものだよ」


 ミロクの言葉が真実であると証明するように、開始10秒と経たず1機目が撃破された。


 その瞬間――僕の【霊感】が霊の気配を感じ取った。


「ミロク……もしかしてだけどあの機体って……」

「気が付いたみたいだね。そうだよ、あのTWには私の力で霊を憑依させてある。生前は宇宙海賊だったTW乗りだよ。そして彼らにはこう伝えてある」


 最高に悪い顔で、ミロクは嗤う。


「【撃破されたら消滅させる】ってね」


 ミロクがそう語った瞬間、ホログラムモニターに映っていた全てのTWが停止した。


 センリちゃんの乗った機体を含める全ての機体がだ。


「実力的に彼らではセンリ・ゴールドバーグには勝てない。だとしたら霊たちは何をするかわかるかい?」


 ミロクがホログラムモニターに手を翳すと、会話音声が流れ始める。


『た、頼むよまだ消えたくねぇんだ!』

『見逃してくれ、俺たちはあんたになにもしてないだろ!?』

『存在を消されるのだけは嫌なんだ』

『ただ静かに暮らしてぇだけなんだよ……』


 それは、残り4機の敵TWとセンリちゃんとの通信音声。海賊たちも必死だ。


 そりゃ消えたくないよね。幽霊って女風呂とか除き放題だし。


『AI? 違う、こんな合理性のない命乞いをAIがするわけがない……あなたたちは一体何者ですか!?』


 その問いに答えたのは僕の隣にいるミロクだった。


「センリ・ゴールドバーグ、それは本物の人間だよ。そしてその人間たちは君に負けたその瞬間に、完全な死を迎える」

『ここはVR空間です。そんなわけ……』

「信じる信じないは君の自由だ。だが1つ言っておくよ、君がなろうとしている〝傭兵〟というのは、〝人を殺して〟金を得ている者たちだ」


 ミロクの言葉は正論だ。傭兵の最たる生業は賞金首の討伐。


 人を殺すことができない人間に、この仕事は務まらない。


 そして、センリちゃんは〝善い人〟だ。


「選びたまえ、センリ・ゴールドバーグ。その人間たちを殺すか、テンメイの仲間になることを諦めるか」


 無言の時間が続く。


 僕にはなにも言えることはない。


 僕は今まで多くの人間を殺しているから。


 ミロクは僕とセンリちゃんは相容れないと、そう言った。


 センリちゃんの善性が僕という殺人鬼を認めないのなら、やはり僕と彼女は相容れない存在なのだろう。


 だからセンリちゃんがどんな答えを選んでも、僕は彼女を否定しない。


『私には罪のない人間を殺すことはできません……誰かを守るためにしか力を振るえません』

「だったら約束通り、君の入団は認められないね」

『ミロクさん、今わかりました。私はあなたが嫌いです』

「私もだよ。私も〝人間〟が嫌いだ」


 生き生きとした表情でミロクはセンリちゃんを責めたてる。


 しかし、センリちゃんの意志も揺るぎない。


『タナカさんが人間ではないとでも?』

「テンメイの能力は人間という種族を超えている」

『だとしても、タナカさんはれっきとした人間です!』

「君がいくら喚こうが、そこで止まっている君にはテンメイの隣にいる資格はない」


 なんというか、目の前で喧嘩されると居心地が悪すぎるんだけど……しかも原因が僕っぽい感じになってるし。


 ていうかこの2人なんで喧嘩してるの?


『タナカさん……』


 センリちゃんは静かに僕の名前を呼んだ。


「なに?」

『私は罪なき人を殺すつもりはありません。そんな私と仕事をするのは嫌ですか?』

「いいや、それでこそセンリちゃんだと思うよ」


 僕がそう言うと、センリちゃんは小さく笑った。


『ミロクさん、私には彼らを倒せません』

「だったら当然不合格になるけどいいんだね?」

『はい。ここで私が私を曲げたら、それこそ私はタナカさんの傍にいる資格を失ってしまう』


 それがセンリちゃんの答えだった。


「そうか。残念だ」


 そう言ってミロクはこっち側のマイクをミュートにした。


 決着はついた――


「ミロク、やり過ぎだよ」

「わかってるさ。これは単なる遊び(ゲーム)、最終的な決定権はテンメイにあるよ」


 ――かに、思われた。


『今だ、やっちまえ!』

『こんな命乞いに騙されるなんて馬鹿なヤツだぜ』

『こちとら海賊だっての!』

『ぶっ殺してやる!』


 宇宙海賊は、幽霊になったところで所詮宇宙海賊だった。


 ホログラムモニターに映った4機のTWがセンリちゃんの機体へ迫る。


「あーあ、やっぱり人間というのはバカな生き物だね……」


 センリちゃんの反応は一瞬遅れていた。


『良かった。悪人なんですね』


 にもかかわらず、その遅れなど関係ないと言わんばかりに、センリちゃんは4機のTWをほぼ同時に一閃した。



【R3――クリア。タイム10:23】



 VRデバイスの扉が開き、センリちゃんが外に出てくる。


「おめでとうセンリちゃん。流石だね」

「ありがとうございます、タナカさん」

「センリ・ゴールドバーグ、私が君に言った言葉は嘘でも方便でもない。私はそういう存在だ」

「理解しました。ですが、だからこそ私はこの傭兵団に入ります。あなたの思想が間違っていると証明するためにも」

「そうか。テンメイと君がそう決めたのなら否定はしないよ。これからは仲良く嫌い合おうじゃないか」

「はい、改めてよろしくお願いします」


 そう言ってミロクとセンリちゃんは握手を交わしていた。


 仲良くなったのか悪くなったのか微妙なところだ。

 まぁ、考えればこの2人の性格って真逆だしな。


 でも2人とも性格が大人だし、一緒に生活するのに支障があるようには思えない。


 きっとなるようになるだろ。


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