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第5話『恐怖』


『人に裏切られない方法が知りたいのか? 俺が教えてやるよ。安心ってヤツは他人を支配することで得られるんだ』


『金でも力でも知恵でもいい。絶対的なものを見せつけて裏切ることを損にする。それだけが人から裏切れない方法で、それを人は魅力と呼ぶ』


『誰にも認められなかったから力を使って認めさせるんだ。それの何がいけないことなんだよ?』


『俺たちだってそうだった。何も持っていない自分が不安だった。だから宇宙海賊なんてやってたんだ。暴力だけが俺たちの拠り所だった』


『なにもない俺たちに頼れるものはそれしかなかった』


『それさえあれば、金にも女にも仲間にも困らなかった』


『お前だって同じだろ?』


(その)能力がなかったら、お前に何が残るって言うんだ?』


 霊が2体、僕に憑りついていた。先日殺した2人の宇宙海賊、その成れの果て。


 幽霊というものは基本的に生者に干渉できない。


 だから温厚なものだし、肉体を失って感情的な部分が強くなってるから自分の話をするのが好きだ。


「そうかもね。でも僕は、生前の君たちを見て幸せそうだとは微塵も思えなかったんだ」


 2体の霊に向かって手を振りかざす。


 僕の力……霊力とでも呼べばいいのか。それを込めれば普通の霊なんて簡単に消滅していく。


『……あの女に真実を話す気はないクセに』

『……力を誇示しなければ人はすぐに裏切る』


 宇宙海賊『薪火のゴーゾニック』と『迷君マポリオン』の霊はそんな言葉を残して逝った。



 ◆



 目が覚めてリビングに行くと朝食が用意されていて、僕以外の2人はもう席に着いていた。


「おはようミロク、センリちゃん」

「おはようテンメイ」

「おはようございますタナカさん。朝食までお世話になってしまい申し訳ありません」

「1人で食べるより楽しいから」

「おいおい悲しいことを言わないでくれよ、私がいるじゃないか」

「ミロクはロボットじゃん」


 僕はセンリちゃんの隣の席に座り朝食に手を付ける。

 このベーコンエッグうま。

 ミロクは料理系の技能もインプットしてるんだろうな。


「センリちゃん醤油とってもらってもいい?」

「どうぞ」

「ありがと」


 センリちゃんがこの船に乗って1週間が経った。


 この船は今日の早朝に目的地だったビクティリア連邦の首都惑星『ビクトリア』に到着していた。


「タナカさん頬にご飯粒が、とりますから動かないでください」

「え、ごめんね」

「いえ」


 だからこの朝食は、センリちゃんと一緒にする最後のご飯ってことになる。


 でもなんか、今日はいつもより距離が近いような気がした。


 センリちゃんは軍をクビになったって言っていた。だったら、このまま僕と一緒に傭兵やったりしないかな?

 なんて、期待しすぎはよくないね。


「ミロクさん、すごく美味しいです」

「ありがとうセンリ・ゴールドバーグ。テンメイはあまり言葉に出して褒めてくれないから嬉しいよ」


 そういえば昨日とセンリちゃんの服装が違う。


 誘拐されていた人を助けたりもするから、この船には女性物の服が積まれている。

 好きなのを着ていいって言ってあるからその内の1着だろう。


 軍服の時は凛々しい雰囲気だったけど、今はそれに比べるとかなりラフな印象だ。


 ショートパンツとスニーカー、カジュアルめなジャンパーを羽織ったセンリちゃんは昨日よりも少し、なんていうかギャル味が増した。


 軍服もクールだったけど、これはこれでカッコいい。


「タナカさんは個人傭兵ですよね。仲間を作ろうとは思わないのですか?」

「そりゃいい人がいればね」

「いい人とは? 例えば入団の条件などはないのですか?」

「例えばセンリちゃんみたいな人なら大歓迎なんだけどね」


 TWの操縦技術はピカイチで、元軍人だから知識も豊富。


 活動範囲の宇宙地図を覚えているほどの学習意欲と記憶力もある。

 あと根が真面目で信用できる。


 けどこんないい人材引く手数多だろうし、個人でやってる僕なんかに誘われても困るだろうな。


「タナカさん……」

「ん?」


 空になった食器から視線を離さず、センリちゃんは呟くように僕へ問いかける。


「タナカさんは、いったいどんな力を持っているのですか?」


 やっぱり気になるに決まってるよね……

 でも……


 人差し指を唇の前に立てて、僕はセンリちゃんに言った。


「ないしょ」


 ゴーゾニックやマポリオンの霊が言っていた通り、僕にはまだ霊能力のことをセンリちゃんに話す勇気はない。


 センリちゃんは僕に懐疑的な視線を向ける。

 いつも通り、みんなと同じように。


 それは僕の孤独の元凶。

 それは僕の劣等感の元凶。


 それはもう、生者には明かさないと誓った僕の秘密。


 この世界とは相容れず、誰にも理解されることはない、異能。


「そうですか……タナカさん、私は軍をクビになりました」

「知ってるよ、通信聞こえてたし」

「タナカさん、どうか私を雇ってください……」


 え?


「と、私はそう言おうと思っていました。でもダメですね。私は『恐怖』してしまっている」


 気持ち悪い。無理。消えて。喋らないで。お前怖いよ。あなたが怖い。君怖いね。怖いこと言わないで。怖いからやめて。怖くてたまらない。


 怖い。恐い。(こわ)い。


 そう言われてきた。何度も……


「そっか」

「今すぐは難しいのですが、TWの修理費は衣服や食事の代金と合わせて必ずお支払いいたします。改めて、ここまでお送りいただきありがとうございました。失礼いたします」


 そう言ってセンリちゃんは僕の船から降りていった。


 宇宙港を通って、宇宙エレベーターの内部へ続く廊下を進んでいくセンリちゃんが、リビングの強化ガラスを通して見えた。


「テンメイ、彼女は善い人間だ。私が見てきたどんな人間よりも、純粋で、正義感に溢れている」

「そうだね」

「だからこそ、君とは相容れない。わかるだろう?」

「そうだね……」

「君の力は人とは違う。特別で圧倒的で驚異的だ。でもそれは君が他者より劣る要素じゃない。むしろ逆だ。人を統べる、それこそが君に与えられた天命(テンメイ)なんだよ」


 ミロクは変わらないね。

 まるで魔王さまみたいだ。


 まったく期待しなかったわけじゃない。

 センリちゃんならもしかしたらって……


 こうやってすぐに期待してしまうから、僕はいつも詐欺に引っかかるんだろう。


 僕の中には、たしかに誰かと一緒にいたいという願いがある。


 だけど、今までの人生で僕と長く一緒にいてくれた人間は1人もいなかった。


 センリちゃんが悪いわけじゃない。変なのは僕の方だから。


「ミロク、ありがとう。人間を嫌いにさせようとしてくれて」


 僕が人間を嫌いになれば、僕は人間に期待しなくなる。

 そして僕はもう悲しまなくて済む……

 ミロクは本当に、僕には優しい。


「テンメイ……」

「大丈夫だよ、独りには慣れてるからさ」



 ◆



 私にはもう行く場所がない。


「タナカさんの船は、なんだか居心地がよかったな……」


 私はきっと憧れているのだろう。


 私にはできなかったことをタナカさんは笑みを浮かべながら軽々とやってしまう。


 マポリオンを討伐し、隕石を砕いて撃ち返した。


 そんな偉業を成し遂げて、だけど本人はケロッとした顔をしている。


 うぬぼれるわけでもなく、自慢気に振る舞うこともしない。

 どこが自分を卑下しながら、お金のためだと、ただの気分だと言って、他者からの感謝すら求めない。


 私も、そんな人間になりたかった。


 だからこそ、そんな浅ましい私が彼と一緒にいてはいけないと、そう思った。


 怖かったんだ。未来の私がタナカさんに甘えていくのが。


 浅ましくも、軍をクビにされてすぐに彼に頼ろうとしたことがその証拠だ。


 依存して願うだけの愚かな自分になることが……どうしようも怖くて、私はあの場所にはいられなかった。


 貯金は少ない。タナカさんへの借金や軍学校の奨学金の返済もある。


 税金も、年金も、保険料もある。

 軍をクビになったから寮も使えない。


 私はもう軍人じゃない。

 私もタナカさんみたいな傭兵になる?

 フッ、TWもないのにどうやって?


 そもそもタナカさんの真似事をしたところで、私はあの人のようにはなれない……


 私には圧倒的に力が足りない。

 私の夢はもう消え去ったんだ。


 仕事を探そう。

 部屋を探そう。


「弱くてごめんなさい」


 誰に謝ってるんだろ……私……



 ・

 ・

 ・



「いらっしゃいませ……ご主人様……」


 そう言ってお客様を迎えるのが今の私の仕事だ。

 フリルのメイド服は正直着せられている感が強いと自分でも思う。


「ちょっとセンリちゃん、いらっしゃいませご主人様♡、でしょ? もっと元気よく接客しなきゃ!」

「は、はい。すいません」


 恥ずかしい。

 男の人とお付き合いしたこともないのに……


「声ちっさ……なにあれ……」

「さぁ? なんかプライドでもあんじゃない?」

「でも正直ノリ悪いし邪魔だよね~」

「目つきも悪いしね」

「わかる。元気ないし常に無表情だから客ウケも悪いし」

「アレに似てるよね、えっと~能面?」

「うわ似てる~」


 TW操縦士として受ける改造手術によって私の五感は人より鋭い。

 けど言い返す言葉なんてない。


 自分がこの場に不相応なことは理解している。


「センリちゃん顔がいいから雇ったけどさ、これだと歩合給(バック)も多く出せないよ?」

「すみません、精進いたします」

「精進って……まぁ、頑張ってね。休憩入っていいよ」

「はい」


 小太りな女店長に頭を下げながら、私は店の裏手にある裏路地で休憩をとる。

 バックヤードは居心地が悪いから。


 私は何をしているのだろう。

 この仕事を始めた2週間前から毎日そう考えている気がする。


 空を見上げれば、今日もビクトリアの空は7色に輝いていた。


 この星はビクティリア連邦国の首都惑星。

 惑星環境だけではなく太陽すら管理され、防衛機構もしっかりとしている。


 7色の空は、惑星全体を覆う7重のエネルギーシールドが太陽光を歪めているからだ。


 あの綺麗な結界のように、私も少し前まではこの国を守る軍人の1人だったはずなのに……今はメイド喫茶の店員。


 ここで働いている人を、私のできないことをできる人を、尊敬する。


 でも私には、ここで何をすればいいのかまったくわからない。


 だけど私には力も知恵もなかった。

 海賊から星を救ったのはタナカさんで、私には上官の不正を白日の下に晒すこともできなかった。


 何もできなかった私は、これから何をしていけばいいのかわからない。


「ね、ねぇいいじゃん、今日だっていっぱい注文したし。こ、これ以上待たされると流石にムカついてくるっていうかさ。ね?」

「いや~、でも今日はちょっと予定があるから。また今度にしよ?」


 そんな男女の話声が曲がり角の向こうから聞こえてくる。


「いい加減にしろって、お、お前にいくら貢いだと思ってんだ!?」

「わかってるって、感謝してるから。でも今日はちょっと……」


 男の方の声にはどんどん怒声が混じっていく。


「じゃあいつならいいんだよ!?」

「んー? そのうち?」


 女性の声には聞き覚えがある。

 さっき私を能面のようだと言っていた先輩、ミレさんだ。


「こ、このアマ、あ、あんま調子に乗ってんじゃねぇぞ!」


 ドン、と何かが蹴飛ばされて、パリンと何かが割れる音が響いた。

 割れた酒瓶が私の足下へ転がってくる。

 私は立ち上がり、曲がり角の向こうを覗いた。


 ミレさんが、眼鏡をかけたソバカスの男に首を締め上げられていた。


「今すぐにミレさんを放してください」

「な、なんだよお前、お、俺が悪いって言いたいのかよ!?」

「事情は知りませんが、あなたが今していることは暴行です」

「う、うるせぇなぁ! お、俺の父親が誰かわかっ――」


 姿勢を低くしながら私は男へ突っ込む。


「えっ? はっ?」


 両手を使ってミレさんの首を締め上げている男の横腹に、回転蹴りの要領で踵を突き刺す。


「グホッ!」


 悶絶した男は両手で私が撃った場所を抑えて蹲る。

 私は男の右肩へ腕を回し、そのまま捻り上げた。


「痛ぃ、痛ぇって! は、放せよ!」

「このまま警察へ行きましょうか」

「ふ、ふざけんな……! そ、そんなことしても無駄だぞ……」


 私はもう軍人じゃない。


 でも、目の前で起こっている不幸くらいはどうにかしたいと思った。


「やめて。その人を許してあげて」

「どうして……」

「お願い。放してあげて」


 そう懇願するミレさんに負けるように、私は男から手を放した。

 男は表通りへ逃げていく。


 人混みに紛れられればもう簡単には見つけられないだろう。


「助けてくれてありがとうセンリちゃん、あなた強いのね」

「いえ、首は大丈夫ですか?」

「えぇ、彼だって本気で私を傷つけるつもりはなかったと思うわよ。そんなに苦しくもなかったし」


 はぁ……と長い溜息を吐いて、ミレさんは座り込んだ。


「感謝はしてる。でも、その助け方ならもう助けてくれなくて大丈夫」

「え?」

「親がお金持ち。お金でしか人にちやほやして貰えない。大きく出る度胸もない。良い客だったのに、こんなことがあったらもうお店には来ないでしょうね。それに彼のお父さん軍のお偉いさんらしいし、何か報復されるかも……」

「その時も私が守ります」

「24時間どこでも? 守れたとしてもそんな生活ストレスでしかないわ」

「……申し訳ありません」

「……私40なんだけどさ」

「…………ぴゃっ?」

「何その反応、ちょっとワザとらしすぎるけどあんたも頑張ってるのね……」


 嘘。40歳?

 見えなさすぎる。


「子供がね、3人いるの。夫には逃げられたから私が育てないといけない。私と違って子供たちはいい学校に通わせてあげたい。最新のアンチエイジングに整形までして昼も夜も働いてるの……ごめん、愚痴りたいわけじゃないんだけどさ……」


 どうやら、私は彼女のしている努力の邪魔をしたらしい。


「いえ……申し訳ありませんでした」

「……助けてくれてありがとう」


 そう言ってミレさんはお店の中へ戻っていった。


 もし今の現場を目撃したのが私以外の店員や店長なら、もっと穏便に解決したのだろうか。


 お客さんを失うことなく、怒りをいさめさせて、あの男性もミレさんも困らないような、そんな解決をしたのだろうか。


 私はそんなこと微塵も考えていなかった。

 私はただミレさんを助けたかっただけ。


 いや、違う、助けることなんてできてない……


『ありがとう』


 ……そうか、私はただ感謝されたかっただけなんだ。


 力を見せびらかして、褒められたかっただけ。


「本当に、何してるんだろ……」


 仕事を終えて、帰り道の自動販売機で機械が作り機械が運んできた総菜を適当に買って、家賃の安いマンションへ帰る。


 こんな毎日を送っていると、テクノロジーが進化するほど人と人は遠くなっているような気がしてくる。


 安いマンションは女性の1人暮らしには適さないけど、私なら武器を持ったチンピラくらいなら素手で制圧できる。


 だから家賃を節約できる。


 もう私が軍人だった意味はそれくらいしか残っていない。


「はぁ……」


 曲がり角を曲がると、私のマンションがある通りの道路を封鎖するように人間が壁を作っていた。


「え……?」


 しかも全員が強化スーツとビームライフルで武装している。


「やぁ、センリ2等操縦士」

「……少佐」

「失敬、()だったね。センリくん」


 武装兵の中心にいたのは私の直属の上司だった人物だ。


 初老に差しかかった男の黒と白が混ざった髪は、ワックスによってキッチリと纏められている。


 無精髭を撫でながら他者を馬鹿にするような笑みを浮かべる姿は、以前から全く変わっていない。


 なんだか少しミロクさんに似てるな。

 まぁ、ミロクさんに比べるとあんまり顔の造形がよくないけれど。


 しかし彼は、ビクティリア連邦軍の第7艦隊を率いる男だ。


「ゲスラ・オーバルト少佐、何のご用でしょうか?」

「あぁ……それより何故君はメイド服にコートなんだね?」


 ポカンとした表情で私の衣服を指さす少佐を見て、私も自分の姿を思い出す。


 クリーニングに出すつもりで持って帰ろうと思って、じゃあ着替えるのもめんどくさいと思ってそのまま着て帰ってたんだった。


 上からコートを着てれば周りからはわからないし。

 でも家の前まで来て、コートの前を開けてたんだった……


「こ、これはその……気にしないでください!」

「いや冗談だ。君のことは息子から聞いている。まさか軍をクビになったあとメイド喫茶で働いているなどとは思いもよらなかったがね」


 知ってて聞いたんですか……

 相変わらずですね……


 それより、


「息子?」

「ひ、昼間はどうも……ぶ、ぶっ殺してやる……」


 少佐の後ろから現れたのは、昼間にミレさんを締め上げていたお客さんだった。


 なるほど、奇妙な縁もあるものだ。

 しかし私の働き口が元上官にバレたというだけで、こんなことになるとは思っていなかった。


「言っておくがこのバカの報復なんてくだらない要件ではないぞ」

「あなたの不正を知る私を消そうということですね」

「その通りだ。見たのだろう? 調べたのだろう? 俺の秘密を」

「はい」


 違和感を覚えたのは入隊してすぐだった。

 第7艦隊が動く事件の件数が担当地区の広さに比べて少なすぎた。

 何かあると思って私は独自に調査をした。


 その結果わかったのは、目の前にいるこの人物が汚職に塗れた人間だったということだ。


 守護を対価とした辺境惑星への裏金の強要。

 宇宙海賊を雇って邪魔な惑星を滅ぼしたこともある。


 その腐敗は、私個人ではどうにもできない規模にまで拡大していた。


 上層部への告発文を作成していた時に、ユーズニアスからの懇願書を目にし、我慢できなくなった私は我を忘れて出撃した。


「心配しなくても、もうあなたの不正を公にするつもりはありませんよ」


 だけど今は自分の無力さを痛感した。


 私にはなにも変えられなかった……きっとこれからも……


「だとしても危険な芽は摘むに限るだろう? それに軍をクビになった今の君が死んでも上層部が我が艦隊を調査することはない」

「だから私をクビにしたんですか……?」

「加えて、君が上層部に文書を送れぬように軍人としてのアカウントをロックする必要があったという理由もあるな」

「なるほど……手慣れていますね……」


 少佐が手を上げると、光線銃で武装した兵士たちが一斉に銃口を私へ向ける。


 ヘルメットを被っているからわからないけど、きっと元同僚もいるのだろう。


 少佐とその部下以外の人通りは全くない。

 銃も消音性能があるビームライフルだ。

 すでに私の後ろにも銃を持った兵士が展開している。


 助けを期待できるとは思えない。


「……バチ、ですね」


 要領が悪くて、感情的で、弱くて、浅ましくて、誰かを助けたいなんて分不相応な夢を抱いた。

 そんな愚かな私への罰が銃口を向けているのだと、そう思えた。


「ごめんなさい。TWの修理費すら返せなくて……」


 小さく私はそう呟いた。


「心配するな、まだ殺しはせん。データを隠している可能性もあるからな。だが、これから先の君の人生にもう腕と足は要らんだろう」


 少佐が上げた手が私を向く。


「やれ」


 前後に展開する20を超えるビームライフルの銃口が一斉に光る。


 もう終わりなんですね……


 まぁ、それでもいいか……


 そう思った、その瞬間――


「調和の吉将・()たる中道・東の星――名を【六合】」


 それはいつか朦朧とする意識の中で聞いたタナカさんの声だった。


 声と同時に、発射された光の弾丸が私の目の前で弾けた。


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