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第4話 無能の確認

 そうして恩寵(チート)を披露した後、南那が通された部屋こそがこの小部屋だった。

 そこに足を踏み入れた時、既に他の四人は空いている椅子に座り沈黙を保っている状態で、中では気まずい沈黙が流れていた。


 南那を案内してきた鎧姿の男が、事務的な口調で口を開く。


「皆様は【保護組】と呼ばれる、所謂戦闘する事ができないと判断された方々の集まりとなります」


 彼はさらに言葉を続ける。


「こちらがお呼びした以上、皆様の生活を最後までお世話させていただく所存ではございます。しかしだからと言ってただで禄を食ませている程の余裕は私達にはございません。ですので皆様には明日より他の勇者様がたの為に雑用などを行っていただく事になるかと思います」


 男は一方的にそれだけを告げると、「まずは皆様方でご歓談を」と言い残して退出していった。




 その後、このままじゃどうにもならないとあの自己紹介をして。

 南那たちは、ようやくぽつりぽつりと交流し始めた。




「結局わたし達は下働きの集まりって事?」


 そういう麻美はどこかホッとした声色をしていた。


「正直魔王と戦えとか言われても、困るよ」


「まあ、そうですよね……」


 自分と同じ考えの人が居てよかった。

 南那は自然と頷いていた。

 よくわからない力を与えられて、良くわからない化け物(おそらく、だが)と戦えと言われてハイヨロコンデーなんて言える奴はそうそう居ないだろう。

 少なくとも、彼女の判断ではそうだった。


 だというのに嬉々としてそこに飛び込もうとしている人間の方が大半というのは、彼女にはまったくもって理解不能としか言いようがなかった。


「俺は別に構わなかったんだけどな」


 その琉覇のつぶやきは、どことなくつまらなそうに聞こえた。


「でも恩寵(チート)とやらが向いてないって無理矢理ここに連れてこられちゃってさァ。ま、しゃーないわな」


如何にも喧嘩慣れしてそうな眼の前の男であれば、喜び勇んで戦場に飛び込むのは分からないでもない。

 もう絵に書いたようにそういうの好きそうだし。

 だって見た目からして格闘漫画から飛び出してきたようだもの、この人。


「僕は嫌ですよ、戦場に行けだなんて」


 反対に、あからさまに嫌悪感を示したのは帆だった。


「怖いですよそんなの。だって死んじゃうかもしれないんですよ!? ……無理矢理連れられて使い捨てにされるよりはこういう立場の方が全然良いですよ……」


「それが普通の感覚だって。帆……だっけ。そっちのデカいのと違ってマトモそうな男子が居てちょっと安心したわ」


 よろしくねー、と麻美は帆に笑いかけるが、当の帆は気不味そうに視線を逸らした。

 やっぱ女子と話せないタイプか、と南那はより確信を深める。


「言うねェ~。ま、マトモじゃないのは自覚してるからいいけど」


 そして揶揄られた琉覇も特に気にした様子は無いようだった。


「でも正直、興味有ったんだけどな。魔族って奴」


 ゆっくりと、掌を握りしめたり開いたりを繰り返しながら。

 呟く琉覇は本当に残念そうで、そして何かをこらえきれないようにも見えた。


「出来るなら()ってみたいんだよなァ……」


「どこの格闘マンガから出てきたんだっつの」


 呆れたような麻美を見ながら、やっぱり格闘技とかやってたのかな、と南那は心の中でごちる。

 どうやらこの男の先輩は初見に抱いた感想通りの人間らしかった。


「平和が一番だよ、君」


 たおやかな笑みを浮かべながら確かめたのは、推定お嬢様の未来だ。


「君は危険を好むのだろうが、大多数の人間は暴力などとは無縁でいたいと考えるものだよ」


 そうだろう?と見渡す未来に、麻美は強くうんうんと頷き、帆は「まあね……」と小さな呟きで返した。

 そして南那も勿論、ゆっくりと頷き肯定を示す。


「うーんマイノリティ。ま、ですよねェ~」


「自覚しているようなら、何より」


 さて、と仕切り直すように。

 未来は話し始める。


「余り物扱いで雑用係として任命された私達なわけだが――とりあえず親睦を兼ねてお互い秘密を打ち明けあってみるのはどうだろう?」


 悪戯っぽく笑う未来に、こういう表情もできるんだ、と南那はちょっと驚いた。

 もっと物静かな人かと、そう思っていた。


恩寵(チート)とやらの発表会でもしてみようじゃあないか。ここに居る時点で危険を呼ぶような大仰なものじゃないのは確定してるんだ。隠し芸大会だとでも考えて、見せあってみないかい?」


「隠し芸大会」


 言いえて妙だなあ、と南那は思う。

 自分の能力はまさにその程度でしかない、大道芸みたいなものだ。

 きっと他の五人も似たようなものなのだろう、と予測をする。

 少なくとも派手で目を引くようなものでないのは間違いないと。


「私はいいよ」


 横の麻美が、未来の言葉に乗った。


「どうせ見せた所で減るもんでもないし」


 あとほんとしょうもないし、と麻美は目を逸らした。


「俺も構わないが……この様子だと皆似たようなもんなんだろうな」


 琉覇もどこか気不味そうだった。


「いやソイツも言う通り恩寵(チート)とやらがしょうもなくてさ。見ても笑わないでくれホントに」


「うーんこれは恥を晒し合う感じになるのかな?」


 二人の様子に未来は苦笑しながら、立ち上がる。


「じゃあまずは私から見せよう」


 そしてそのまま、椅子の上に登ると――


「見逃さないで欲しいな。ちょっと、短いからね」


 虚空へ一歩、右足を踏み出した。

 そのまま空を切るかと思いきや。彼女の足は、何も無い場所に留まった。ぴたりと、見えない階段を踏みしめたように。


「わっ」


 空中に立つ、という現実離れした光景に、南那は思わず声を漏らした。

 ぴんと美しい姿勢で空に立つ未来の姿は幻想的にすら感じられた。


 しかし――


「おっと」


 それが続いたのも僅かな時間。

 すっと体が下へと落ちるが、未来は器用に音もなく床へと着地して見せた。


「見ての通り、空中に足場……かな。それを作れる能力だよ。しかも時間は一秒程度。使った後は再度使用まで一定時間待たなきゃならない」


 ふう、とついた溜息が、未来の心情を表しているようだった。


「宴会芸には丁度いいと思うのだがね。これが強そうかと言われたら間違いなく違うだろうね……」


 やれやれ、と未来は再び席につく。


「次はお二人の内、どちらが芸を見せてくれるのかな?」


「二番、牧内麻美。いきます!」


 麻美は学生鞄の中から一冊のノートを取り出すと、それを皆の前に突き出した。鮮やかな青い表紙のノートだった。


「このノートの、表紙のとこ。私が触ってる辺りね」


 ここ、ここらへんと彼女は指差す。


「よーく見ててね。ちょっと時間かかるから」


 そうしてノートを掲げて、暫し。


 待つ。

 待つ。

 只管待つ。


 四人は目を凝らし、待ち続けた。


「何も起きないんスけど」


「焦るな、待てっつーの」


 さらに待つ。

 待つ。

 待つ。


 ………………………………。


 どれだけの時間が過ぎただろうか。


「お」


 漸く、変化が訪れた。


「これ、なんか……」


「色が薄くなってる?」


 眼の前に有るノートの表紙、麻美の触っている付近が鮮やかな色から淡い感じへ、徐々に変じていた。


「これがわたしの恩寵(チート)、色を薄くする能力」


 ノートでもずっと持ってるのは疲れるって、と麻美はノートをテーブルに落とす。


「ずっと触ってないといけない上に、こんだけ時間もかかる。ついでに言うとなんの役にも立たない」


 確かにこれはなんの役にも立たないと南那も納得した。


 先程の未来の能力はまだ使い道らしきものは頑張って考えれば有りそうな能力だった。

しかしこれは本当にどうすればいいのか分からない。

 申し訳無いが、どうしようもない。

 ハズレと言っても限度が有るんじゃないだろうかと、恩寵(チート)とやらを授けた神がなにを考えているのか分からなくなった。

 何故全員に一律強力な能力を配らないのか、まったく理解できない。


「いやーもう笑ってよ。てか笑え」


 当の麻美も半ば自棄になっているようだった。

 凄い能力を貰えるとなってこんなものしか貰えなかったらそりゃやさぐれるよね、と思った。

 使うか使わないかは別として、それはそれとしてどうせ貰うなら凄いものが欲しいよね?


「全然笑えねえって」


 琉覇は置かれたノートを手に取ると、「ちょっと貰うぜ」とページを一枚引き裂いた。


「俺のも負けず劣らずヤバいんだよな、これが」


 敢えてだろうか、汚く引き裂かれたその紙を机に置くと。


「……大体この辺りだな」


 鍛え抜かれた太い指が、引き裂かれた紙の一辺、その真ん中らしき部分を指し示した。


「これが、どうしたの」


「ここが中心だ」


 気不味そうに琉覇が続ける。


「…………物の真ん中を正確に測れる能力。それが俺の恩寵(チート)って訳」


 うん、これも酷い。


 南那は想像以上の惨状に頭を抱えた。

 神は何か四十八願琉覇という男に恨みでも有ったのだろうか。

 これの何が戦いに役に立つのかさっぱり分からない。


「なかなか……まあ、どちらも興味深い能力だと思うよ」


 配慮しただろう未来の言葉が、逆に彼らの惨めさを際立たせているように南那には聞こえた。


「で、そちらのお二人さんはどうするよ」


 そう問われた南那は、思う。


 ――ぶっちゃけこの二人よりは私マシじゃない!?


 酷いが、本気でそう思った。

 自分がワースト1かと思ったら全然そうじゃなかった。嬉しい……嬉しい? ともかく、心が軽くなった。

 この流れなら見せても恥ずかしくないんじゃないか、というちょっと後ろ暗い打算が彼女の心の中に生まれようとしていた。


「あ、じゃあ――」


「なら僕も見せるよ。似たようなもんだし」


 そうして南那が意気揚々と晒そうとした時、存在が限りなく薄くなっていた帆に先手を取られた。畜生。


「僕の能力は単純だよ」


 帆が指で机を叩く。叩いたはずだった。


 しかしそこで聞こえるはずの、とん、という軽い音が、南那の耳には届かなかった。


 そして数秒後。



 とん。


 想像していた通りの音がそこから発せられた。


「音を遅らせて発生させる能力。大体五秒くらい遅れるらしい」


 繰り返すように彼は何度か机を叩くが、やはり音は聞こえない。

 そうして――彼が申告する通りなら約五秒――暫し後、音が机から溢れる。


「これで隠し芸には困らなくなったよ。有り難いね」


 もういいだろ、とばかりに彼は俯いて話を打ち切った。


「これは……難しいけど使えない訳じゃ無いんじゃねえ? 撹乱とかに向きそうだけど」


「僕が一応僕が目に入った範囲なら使えるらしいんだけどさ、これ」


 琉覇の疑問に、帆が投げやりに答える。


「わざわざ何の音か自分が把握してないと駄目なんだよこれ……もうちょっと使い勝手良かったら色々できただろうけどさ」


 でもそのお陰で戦わなくて済んだんだけど。

 そう呟く帆の声音は、むしろ喜んでいるようだった。


「やはり皆派手さは無いみたいだね。まさに芸止まりか」


 ふむん、と納得するように未来は言う。


「多分貴方もそうなんじゃないかな。――衣目川さん」


「は、はい!」


 結局また最後になってしまった。

 何故いつも最後に披露する羽目になるんだろうなと南那は思った。


「私の能力も大した事無いです。本当に」


 つ、と机に指を這わせる。ゆっくりとなぞるように。


「――これが、私の能力です」


 指の軌跡の後には――「ころめがわ なな」という文字が、くっきりと描かれていた。


「ものに文字を書き込む能力。これ以上でもこれ以下でもないです」


「戦うのにはどうにもならないけど、俺らより絶対使い道有るよなこれ」


「使い道有りそうなだけマシだよねえ」


 正直、この中では一番マシだと思います!


 ちょっときょどりながらも、心の中ではそう思っている南那だった。

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