第31話 エピローグ 約束されし未来・崩壊序曲
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それは遥か未来の光景。
これから起こるべき、運命の姿。
彼は時の彼方にそれを見る。
光の民反抗の象徴、ヴェネリサール王国。
その首都ヴェリスは勇壮なる都として知られていた。
衛星国の者達には想像もできない贅沢な暮らしがそこには存在し、人々は戦時とは思えぬ豊かさを享受し毎日を過ごしていた。
だが美しい都は今、見るも無惨な姿に変わり果てていた。
人々がごった返した大通りには瓦礫が転がり、都民が足繁く通った店は既にその姿を消していた。
人の気配もまるで感じられず。
そこは静寂と闇に支配された死の都のようであった。
そして中心に見えるヴェリスの、ヴェネリサールの象徴。
美しき檻華宮殿は大きく崩れ、炎に巻かれ燃えていた。
この国の主たる王、ヴァレリアン3世の前に、その女は立っていた。
女は、地獄を背負ってやってきた。
月夜に照らされ。
美しくも恐ろしく。
そして絶望を伴いやってきた。
「ごきげんよう」
その女は気安く、窮地の友に語るように。
優しい声色で語りかける。
「パーティー会場はここで良かったかな?」
「き、貴様……」
その姿を見れば、知らずとも理解できる。
かつて魔王を退け人界を救った勇者の民族。
黒き髪がそれを象徴していた。
「寝返ったか、恥知らずめ!」
「寝返る?」
女は不思議そうに、小首を傾げた。
何を言われているかまったく理解できぬとばかりに。
「王都を落とすなど」
ヴァレリアン3世は唾を飛ばす程に激昂していた。
「魔王に与しなければそうはならんであろう!」
「ああ」
なるほど、と。
女は納得がいったように頷く。
「何か勘違いしているようだが」
彼女は大きく手を広げる。
ゆるりとした優雅な動きが、闇夜に映える。
その様は怒りを覚える王ですらはっと息を呑む美しさだった。
「私が殴りたいから殴っているだけだ」
にっこりとして。
そう、告げた。
「魔王とやらはお前の後。ただ、やりやすい順番にやってるだけだよ」
こいつは何を言っているんだ。
ヴァレリアン3世は、虚を突かれたような顔で暫し固まる。
「一体」
彼は、声を絞り出す。
「一体、何が目的だ!? 世界を平らげでもする気か!?」
この王国を下し、魔王も下すというのなら。
それはもう、世界の王と言っても差し支えあるまい。
しかしその答えに、女は可笑しそうにくつくつと笑う。
「お前らのような人種は大好きだよな、権力」
でも、と。
静かに、女は言う。
「生憎私はそれに毛ほどの価値も見出していない。私が欲しいのは、もっとささやかなものだ」
彼女の瞳に、星が映る。
数多の星と、月と、どこまでも広がる夜の闇。
その先すら、彼女には見えていた。
「隣人たちが笑いあい、ただ静かに慎ましく幸せに暮らす、たったそれだけ」
くるり、くるりと。
闇夜に漂い、女は舞う。
ふわりとスカートをたなびかせ、軽いステップをしながら。
「それだけで、十分なんだ」
ぴたと。
女は止まる。
「だから、お前を殺しに来た」
言ってる事は解る。
だが、何故その結論が出てくるのか理解できない。
王は今、ただならぬ混乱の中に居た。
「貴様らのような存在、一切合切何もかも」
狂っている。
こいつは狂っている。
「ただの一人も残さず、鏖殺し尽くす。私が、それをやる」
だがその狂気をなし得るだろうという圧倒的な説得力が、女には有った。
だってそうだろう。
これを見せられた上で、誰がそれを笑えようか。
あまりにも狂気的で冒涜的なそれを為した者なら、どうしてできないと言える?
ヴァレリアン3世の目に映る光景は、それ程までに常軌を逸している。
遅まきながら、彼は理解した。
我々は、魔王よりも恐ろしいものを世界に招き入れてしまったと。
女は手を合わせる。
祈りではない。
だがそれは、限りなく祈りに似た行為ではあった。
「安心しろ」
女の背後で、地獄が開く。
「私は、やると言った事は最後までやりとげるタイプだ」
そうして、ヴァレリアン3世の絶望が始まった。
ここから語られるのは、勇者が世界を救う話ではない。
化物が世界を侵す物語である。




