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【毎日更新】崩界のオブリテレーター(旧題:クソザコチート召喚~戦闘で役に立たな過ぎる最弱能力を持たされた高校生が異世界を渡り歩いていきます~)  作者: エチゼン鏡介
第一章 暁のサン=ヴォワイエ――役に立たなすぎるチートしか貰えなかった高校生は生き残る事ができるのか
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第13.5話 不遜な稚技

最新話はカクヨムで先行投稿しています。

 鬱蒼とした森の中、一際《《やかましい》》集団が存在した。

 

「ハハハ、燃えろ燃えろ!」


 気まぐれのように目についた動物たちに火球を投げかけ、その身を焼き焦がしているのは中島健人だった。

 彼の放つ火球は圧倒的な熱量を誇りながら、自分が燃やしたいと考えた相手以外、その周りに延焼が及ぶ事すら無い。

 炎であって、炎でない。

 不可思議な赤いゆらめきは、「チート」と呼ぶに相応しい性能を誇っていた。


「素晴らしいですわ健人様!」


「流石勇者様!」


 周りではこのような場にはあまりにも不釣り合いな、着飾った女たちが彼を口々に褒め称えている。

 その声援を受け健人は気をよくしたのだろう、さらに火球をぽんぽんと放ち動くものを尽く焼き尽くしていった。


「俺の方も見てよー。健人ばっかじゃなくてさぁ」


 そう叫んだ少年が、大きく腕を振るった。


 ぶぅん、と。

 

 子供が戯れにそうするように、大きな弧を描かせその腕を横に薙ぐ。

 すると、不可思議な事に。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 梶間浩輔(かじまこうすけ)


 彼が与えられた恩寵(チート)は、自らが振るった腕の先に衝撃波――便宜上そう表現するが――を発生させ、その軌跡上の物体を消滅させる力であった。

 射程距離は約10メートル。

 彼が腕を振るだけで眼の前の物体はこの世自体からこそげ落とされる。

 完全に攻撃特化された強力無比な能力であった。


「だからテメェは動くなクソが!」


 健人が苛立ったように叫んだ。

 

「獲物が消えんじゃねーか! 少しは頭使えチビ!」


「イキってんじゃねえぞライター風情が! 消すぞ!」


 浩輔は四人の中では際立って小兵であった。

 それが個性でもあり、彼にとってはコンプレックスでもあった。

 その逆鱗に触れる事は彼の殺意を喚起させるに十分だった


「まあまあ、落ち着いてください勇者様」


 隣に侍っていた騎士が、落ち着いた口調で二人を宥める。


「狩猟された数はきちんとこちらで記録しております。浩輔様の狩りの数も貢献数に含まれます故、どうかご安心を」


「チッ、最初から説明しとけよ! 知らねえよバーカ!」


「申し訳ございません」


 笑顔を崩さず、一礼する騎士。

 しかしその顔が地面に向けられた瞬間、能面の如く豹変する。

 全ての感情を凍らせたかのような、そんな表情だった。

 

「しかし入れ食いだな」


 機嫌を直した健人が嬉しそうに言う。

 

「これは俺達の威光に動物たちが集まって来てんじゃねえの?」


「かもな」


 浩輔も既に機嫌を直し、健人に追従する。

 実際、狩りが始まってから、まるで彼らに向かってくるように動物たちが殺到してきていた。

 狐、鹿、兎。

 よりどりみどりの獲物達が勇者の下へ馳せ参じてくる。

 彼らはその献身に対し十全に応え続けていた。

 

「こりゃあトップは確定だなあオイ! やっぱ俺達は持ってるモンが違うなあ!」


 ――集団より少し離れた場所。

 

 軽装の騎士二人が、森を分け入っていた。

 彼らは互いに緊密な連携を取り、また気配を殺しながら進む。

 やがて眼前に目標が現れる。

 

 鹿か。

 

 それを認めた一人が、ゆっくりと静かに矢をつがえる。

 そしてその足元めがけ、それを射った。

 

 鹿の足元へと吸い込まれるように着弾した矢は、どす、と鈍い音を僅かばかりの衝撃を発生させた。

 臆病な鹿はそれを鋭敏な感覚で察知し、驚き飛び跳ねる。

 突如発生した異常。それに恐れおののき、そこから逃げ出そうと駆け出す。

 奇しくもその先は健人達が居る方向であった。


「一匹追い込んだ」


 兜に手を当てながら、騎士が言葉を放つ。

 近くに居る相棒相手にではない。

 まるで違う誰かに話しかけるよう、彼は言葉を続けた。

 

「このまま暫く()()を続ける。せいぜい猿をおだてておいてくれ」


 二人は再び無言となり、先へと進む。

 蒙昧白痴な、芸をする猿を喜ばせる為に。


 

 少し離れた場所では、また違う少年が歩いていた。

 彼はこの危険な森をまるで散歩するかのように歩いていた。

 無防備に、気楽に。

 

「お?」


 彼の目に、大柄な何かが現れる。


「へぇ、熊じゃん」


 それは熊であった。

 その身長は2メートルはあるだろうか。

 これが日本に生息するものであればヒグマにも相当する大きさである。

 その全身からは漲る殺気を溢れさせ、既に臨戦態勢を取っていた。

 眼の前の存在が敵である事を見抜いているかのように。


「いいよ、来て見ろよ」


 対する少年は、まるでなんの危機感も抱いていない様子で熊に言葉を投げかける。


「ほら。来いよ。ビビってんのか?」


 言葉を解したかどうかは理解できない。

 しかし舐められている、という事は解ったのだろう。


 ガアアアア!

 

 熊は怒りの咆哮を上げながら、大きく腕を振りかぶる。

 鋭い爪が空を裂き、少年の体を捉えようと進んでいく。

 熊の膂力は人の10倍に迫る。その筋力とそれに伴う質量、そして鋭い爪が人体を襲えば損壊は免れないのは必定であろう。

 

 ――だが、現実は真逆であった。


 熊の爪が少年の体を捉えたと思った刹那、砕けたのは熊の腕の方であった。

 

 その痛みと衝撃に、巨体が大きく揺らめく。

 二、三歩たたらを踏み、まるで後ずさるように少し後方へ。

 獣はまるで何が起こったかわからないとばかりに、困惑を見せていた。


「ハハッ」


 自らを凌ぐ圧倒的な巨体が怯む。

 その様に、少年は愉悦を覚えているのは間違いなかった。


 山下大和(やましただいや)

 彼の能力は「あらゆる衝撃を自動的に跳ね返す能力」である。

 物理的な攻撃に対してはほぼ無敵。

 浩輔と対局を成す防御の極みとも言える恩寵(チート)だった。


 熊は困惑を見せながらも、反対側の手で再び加撃するが――

 その結果は、言うまでもない。


「学習しろよ、学習」


 大和のにやけ顔は、万人が醜悪と評すだろう見苦しさを備えていた。

 そこには圧倒的強者である自負と見下しが隠されてもいなかった。


 二度の不可解な反撃を受け、この獣にも逡巡が生まれていた。

 逃げるべきか、それとももう一撃を加えてみるか。

 

 しかし――

 

「チッ」


 ()()()()に、大和は苛立ちながらも急いで下がる。

 対して熊は、不意に敵が下がった事に、戸惑うよう首をもたげる。

 

 そして熊が異常な重圧を覚えた頃には、全てが手遅れだった。


「お前はさあ」


 熊の後ろ。大和の視線の先から、さらなる少年がやってくる。


「攻撃能力無いんだから下がってろよ。邪魔だっての」


 大和が舌打ちをして距離を取ったのは、熊の反撃を恐れたからではない。

 歩み寄ってくる彼――大島毅おおしまつよしの展開する無差別な()()()()に巻き込まれるのを嫌ったからだ。


 大島毅(おおしまつよし)。それが、彼の名である。

 その恩寵(チート)は「自分の周りの重力を強める能力」。

 彼の周囲の重力は彼を中心とし、彼に近くなる程その重力が増加していく。

 彼と密着に近い状態であればその負荷は想像を絶するものとなる。

 それでいて、彼自身にその影響は及ばない。

 攻守共に使える汎用性が高く強力な能力に相違無かった。


 毅が歩みを進める毎、熊の体は潰れていく。

 己の巨体、そこに詰まっている肉がその重みで損壊を引き起こしていた。

 両の手が衝撃で粉砕され手傷を負っている状況でさらなる高重力という地獄。

 そこに、この獣は嵌まり込んでしまった。


 ズゥン、と音がし、熊の巨体が地に伏す。

 しかしそれでも尚、毅は進む。

 やがて熊の皮膚は裂け、そこより血と臓物がまろび出た。

 ぴくぴくと蠢くそれは最早脅威を齎す害獣ではなく、潰された虫である。

 

 熊はか細く、叫び声をあげようとする。

 だがそれは誰の耳にも届かない。

 届けたかった誰かにも。

 眼の前の、残虐なる殺戮者にも。


「これ、やっぱポイント高いんかな」


 毅はボス討伐だぜ、と喜びを隠さない。

 今までの兎や狐とは違う大物。

 その狩猟に心が踊った。


「勇者様!」


 毅達についていたであろう、お付きの騎士が向こうから走ってくる。

 大和や毅はこうした監視を嫌い、その目を盗み歩き回ることが度々存在した。

 幾度注意されようと、彼らがその行いを改める事は今日まで無かった。


「これは……」


 近づくと、騎士もその巨体に気づいたのだろう。

 目の色が明らかに変わるのが見て取れた。


巌塊熊(グラドレム)……」


「やっぱ、ヤバい奴?」


「この森では、一番凶暴な獣と言えましょう」


 その言葉に大和も毅も自尊心を大いに刺激される。

 やはり自分たちは強いのだと。


「しかし……」


 対照的に、騎士は難しい顔をする。


「同じ一頭は一頭です。ポイントとしては大きくないでしょう。それどころか、解体し運ぶ手間の分損かもしれません」


「はぁ!? そんなの有りかよ」


「とは言え、狩猟頭数を競う場ですので……仮に増して数えるとしても、二頭分がせいぜいでしょう」


「罠モンスじゃねーか!」


 その場で全てを潰してしまわない程度の理性は、まだ毅には備わっていた。


「これはここに捨て置きましょう。勇者様であれば、他の獲物は幾らでも狩れます故」


 勇者(おこさま)二人は、納得が行かない様子であった。

 しかしこれを運ぶ手間分不利だという事も一応理解はしていた。

 最終的にしぶしぶと、「俺らが活躍した事ちゃんと報告しろよ」と言葉を残しその場を後にする事とした。

 

 二人の後に続く騎士は、無惨に潰れた巌塊熊(グラドレム)()()を見つめていた。


「不味い事をしてくれたな」


 騎士の声には、呆れが含まれていた。


「こいつは子熊だ。間違いなく来るぞ。怒り狂った母熊が」


「もし持って帰ったら、キャンプまで確実に来ますね」


巌塊熊(グラドレム)成体は、万全な状態でも正直相手にしたくないからな」


「このままここに打ち捨てましょう。幸いキャンプからも遠いですし」


「絶対持って帰れ! なんて言われなくて良かったよ」


 騎士たちは哀れな子熊の遺体を省みる事もなく、踵を返した。


 彼らはこれが後の犠牲の切欠になるとは知る由もなく。

 そしてその犠牲に感心を払う事自体がそもそも無かった――

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