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【毎日更新】崩界のオブリテレーター【第一章完結済】  作者: エチゼン鏡介
第一章 暁のサン=ヴォワイエ――役に立たなすぎるチートしか貰えなかった高校生は生き残る事ができるのか
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第11話 唐突な布告

最新話はカクヨムで先行投稿しています。

 それからさらに一週間。

 南那達が召喚されて二週間が経った。

 

 砦の責任者であるフレデリック・ド・カスタルノーは執務室の窓から召喚者達の訓練を鋭さを隠せぬ瞳で眺めていた。

 彼女は王国の重鎮・カスタルノー伯の一人娘であり、此度の召喚を主導する人物でもあった。

 将来を期待される俊英として、自らの野望の為、そして王国の繁栄の為この計画に従事していた。

 

「仕上がりはどうか」


 感情の乗らぬ声で、彼女は傍らに控える部下に問う。


「大凡問題無いかと。我が家の犬の後塵を拝する程度には使えるようになっております」


「犬と比べられる程度には使えるようになったか。大変結構」


 カスタルノー卿――いやさフレデリックは顎に手をやり、暫し思案を重ねる。


「そろそろ次の段階を考える頃合いなのかもしれんな……」


「指示されている出荷日まであと二週ほど。よい時期かと」


「ならば良し」


 訓練場で砂に塗れ動き回る召喚者の群れを眺めるフレデリックの顔には、凄絶なまでの笑みが浮かんでいた。


「奴らに牙の使い方と肉の味を覚えさせろ。家畜を猟犬に仕立てるのだ」




 その日は、朝からいつもと違っていた。


「本日は総員、朝食後訓練場に集まるように!」


 食堂に突如入ってきた騎士が、足りない栄養を必死に補給する皆に対してそう告げてきた。

 唐突な発言に、俄に食堂はざわつき始める。

 自分たちがここに来て二週間ほど、初めての出来事だった。


「勇者全員だ。いいな、勇者全員だぞ!」


 そう、念押しされる。


「つまり私達もって事ね……」


 厨房に入るドアを開きワゴンを押し入れながら、南那はそう考える。

 これまでの期間、自分たちと他の組は殆ど交流する事すら無かった。

 徹底的な分断状況。

 とにかく組毎に横の連携をなるべく取らせないような措置が行われていたのは、彼女達も早々に気づいていた。

 それがここに来て一同を集めるという行動を取ったのは、どういう事だろうか。


「なんにせよ、行ってみないとわかんないよね」


 自分たちに選択権は無いのだから。不自由故の諦観で、彼女は考える事を諦めた。

 




 朝食後――自分たちは給餌をしていたので、急いでパンと肉の一欠だけ口に入れて――殆ど歩いたことが無い砦の一階の廊下を通り、訓練場へと出ている。

 

  この砦にある訓練場は、やや奇妙な構造をしていた。

 高い壁に囲まれたサン=ヴォワイエの更に内側、そこに外壁よりもやや低い壁が建てられ、その内側に訓練場はあった。


 訓練場は壁と砦の主となる建屋で囲まれ、そしてそこに至る出入り口は二つしか用意されていない。

 南那達が召喚された地下へと続く扉と、その他には砦の建屋の中に続く扉しか存在しなかった。


 また建屋より訓練場の中が望めるような窓は一階には存在せず、高い階層――見た感じは三階よりは上――にしか存在していなかった。


 さらに一階側とそれより上の階はほぼ交わらない構造となっており、一階部分とそれより上は独立した構造となっていると言っても良かった。


 彼女たち保護組の清掃作業でも、一階に立ち入る事はまず無かった。

 それはおそらく保護組と他の組の接触を避ける為なのだろう、と南那もあたりを付けていた。


 特に自分たちは給餌の時を除いて他の組と出会う事が無いよう細心の注意を払われている――とは未来の言だっただろうか。

 その為、未だ他の組とは殆ど他人と言って差し支えのない関係性を保っていた。

 同郷ではあるが、トトのように共に働く現地の人間よりも余程他人だと、南那にはに思えてならない。

 

 そんな召喚者達が今、この場で一堂に会していた。

 あの、召喚の日以来に。


 だが皆の様子はあの時と同じには見えなかった。

 皆の瞳に見え隠れする影。

 二週間の過酷な日々が刻んだ、形容し難い濁りがそこには映り込んでいるように見えた。


「一体なんだろうね」


 麻美も不安そうに辺りを見回していた。

 きょろきょろと落ち着き無く、どこか決まりが悪そうに。

 

「特別組・戦闘組・補助組だけなら理解できるのだけど」


 こちらは落ち着いた様子で、まるで観察するように他の組を眺めながら未来は呟く。

 

「私達も、となると……少々気にはなる」


 男性陣二人は、なるようになれと黙したままに見えた。

 最も琉覇のそれは自信から来るものに見えたし、反対に帆は諦めからのもののように見えた。

 

 他の召喚者達は、やはり同じ組同士で固まっていた。


 その様子は、特別組が主であるかのように中央にまず陣取り。

 戦闘組が人数の多さ故か、仲の良い複数の集団ごとに分かれている様子で、まるで特別組を取り囲むよう――遠巻きにしているとも言う――その周囲で様子を伺っていた。

 補助組と自分達保護組はさらにその周囲、端の方で小さくなっているという感じだ。

 

 他の組の人間もこれから何が起きるか不安を持っていたのだろう。ひそひそと言葉を交わしあい、困惑を共有しているようだった。

 その中でも唯一特別組の四人だけは変わらず、ふてぶてしい態度で居るようだった。持ち込ませた椅子に座り込み、やはり周りには女を侍らせにやにやと笑いながら談笑している。

 

 そうして周りの様子を伺っている間に、見覚えのある人物がやってきた。

 自分たちを召喚したと思われる人物、巫女のアウレリアだ。

 彼女は騎士たちを伴い召喚者達の前に現れると、優雅に一礼を行う。


「皆様、よくお集まりくださいました。貴重なお時間を割いていただき感謝致します」


 あの時と同じような柔和な笑みを浮かべ、彼女は続ける。

 

「日々鍛錬を重ねる皆様のご様子には、(わたくし)も胸が打たれる思いでございます。ですが同じ事の繰り返しでは心も疲れ果ててしまいましょう。そんな皆様の為に、鍛錬を兼ねた息抜きをこの度は提供しようと考えた次第でございます」


 一歩下がったアウレリアと入れ替わるように、騎士の一人が前へ出る。

 彼は手に持った羊皮紙を広げると、その内容を読み始めた。


「今日より二日後、砦近郊にて狩猟を行う! 期間は三日、二泊三日! その期間にどれだけの獲物を獲れたかで競い合うものとする!」


 ――狩猟!?

 

 現代日本に住んでいる限りまずお目にかからない状況に、南那は一瞬混乱した。


「なお班分けは基本的に各組毎とし、人数の多い戦闘組のみ複数班へと編成するものとする! 各班には最低限の食料と野営道具、そして仕留めた獲物を捌く補助役を一名付ける! 獲れた獲物は規定場所へと納める事! それにより初めて各班の成果とする!」


 続く説明に、辺りも次第にざわつき、それがどんどん大きくなり始める。


恩寵(チート)の使用も自由に許可をする! ただし砦内と同じく、互いを害する行為は固く禁じる。これを犯したものは『教育』を行う事となるので留意せよ! 各々体調を整え、当日に備えるように!」


 そして最後に、一際大音声を放った。


「なお最優秀班には陳情権を与えるものとする! 可能な範囲で諸君らの要求を叶える事を確約するもの也!」


 ――陳情権!?


「陳情権ってなんだよ」「好きなお願い叶えてあげますって事だろ」「マジかよ」「俺達もあいつらみたいな扱いにしてもらえたりもするって事か?」


 最後に判明した「ご褒美」に、辺りのざわめきはより一層声を大きく、困惑を含んで辺りを包み込む。

 戸惑いの表情と、何かの期待。

 周りに見える顔は、確実に来た時よりも明るいものになっていた。


「解散! 各々本日の勤めを果たすべし!」

 

 その号令で、他の組が動き始める。

 こんな所からはさっさと立ち去りたいとばかりにまず特別組が女を連れ立ってその場の後にする。

 戦闘組と補助組は何かに操られるように、無秩序のように見える秩序だった動きで訓練場から出ようとしているように見えた。

 

「狩猟って……何を狩るんだ。獣?」


 琉覇は腕を組みながらうーんと唸っている。


「俺狩りなんてしたことねェんだけど!?」


「多分誰もしたこと無いと思いますよ」


 一般的高校生に狩猟経験が有ると考える方がおかしい。

 誰がハンティングなんてした事有るんだよ。

 私ら高校生だよ?


「実は私は少し経験が有るのだけどね」


「未来さん!?」


 フフ、と未来は少し照れくさそうに笑っていた。


「中学の頃、ちょっと海外に留学していてね。当時嗜み程度にした事が有るのだけど」


 そう言いながら肩を竦める。


「流石にこう本格的に、しかも銃器無しでは私も初めてだ。立場的には君たちとほぼ変わらないはずだよ」


「未来さんってやっぱり見た目通りお嬢様なんですね」


 はえーと麻美が感心したように呟く。

 南那自身もイメージ通りの人なんだなあ、とちょっとした感嘆を覚えていた。

 そもそも玻璃ノ宮女学院自体が資産家でもないと通えないような学校なのだから、そうでない方が不思議なのだが。


「でも狩りしろって言われてもさ、僕達そんなの出来ないだろう」


 だが水を差すように。

 後ろ向きな感情丸出しで帆が言う。


「やるならあいつらだけで勝手にやれよ。こっちは何もしなくて良かったんじゃないのかよ」


「学校行事は全員参加が基本だろ。諦めな」


 おめェ体育祭とかサボってたタイプだろ、と琉覇が帆の肩を叩いた。


「それに初めてなのは他の連中だってそうだろ。気楽にやればいいんだよ気楽に」


「でも、他の組の人たちって……恩寵(チート)は私達より狩り向きなのばっかだよね多分。というか間違いなくさ」


 麻美がの心配は尤もだった。

 自分たち五人の能力はどう考えても戦闘向きじゃない。

 恩寵(チート)は自由に使って良いと言われても、こんなのどうやって狩りに活かせというのか。

 何も無いのと同じようなものじゃない?

 南那は頭を抱えた。


「ペナルティ無くて良かったですね……」


 あったらそれを受けるのは確実に自分たちだろうと南那は思った。


「強制参加で罰ゲームまであったら堪ったもんじゃないって」


「ケツを叩いて有効なのは、自発的にやってる状況か、命がかかってる時だけだからな」


 鞭無しで飴のみという状況の時点で、アウレリアが言う通りこれはレクリエーションに近いものなのだろう、と当たりをつけた。

 そう考えると、不必要に身構える事も無いのかな、と南那は思い直す。




「油断しすぎるのは、良くないよ」




 ――まるで心を見透かしたかのような一言。

 

 余りにも完璧なタイミングでかけられた未来の言葉に、南那は心臓を掴まれたかのような感覚を覚える。心臓が一際強く拍動し、体自体が揺れてるようにすら思えた。


「砦の外がどうなっているかはまだ分からないが、人の手が入っていない自然環境である事は想像に難くない」


 諭すように、言葉が続く。

 

「自然はただ自然であるだけで、人には脅威だ。畏敬の念を持って、十分な心構えで望むべきじゃないかと、私は思うよ」


 それは経験から来た言葉なのか。聞き流せない圧力がそこには有った。

 

「そうだな、舐めてかかるのだけは良くない」


 琉覇も、神妙に頷く。

 

「人間なんて、犬一匹にでも本気で襲われたらまずやられちまうんだからな」


 甘く考えるなよと。

 年長者二人の言葉は、南那達一年生三人の心に深く突き刺さっていた。

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