いびつな魂を持つクリス
※神名視点
…ふむ。
どうやら、あの子は――クリスは早々に“気づいた”ようじゃな。
マナの存在に。
そして、自分がまだそこに触れられていない理由に。
まあ当然といえば当然じゃ。
魂を修復したとはいえ、あの子の魂は“完全”には程遠い。
未来の記憶を抱えたまま時を遡るという行為は、
本来なら魂を砕き、存在そのものを霧散させてもおかしくない。
第三皇女が最後の力を振り絞り、
奇跡の形で彼を“つなぎ止めた”だけにすぎぬ。
だから今の状態では――
神名の儀を受けさせるわけにはいかん。
儀とは、“心の器”が満ちた者だけが進める段階。
器が歪んだまま注げば、いずれ割れてしまうからのう。
……つまり、必要なのは“時間”じゃ。
外から修復できる部分もある。
じゃが、最も大事なのは――
クリス自身が、自分の心に向き合い、
受け入れ、積み重ね、覚醒すること。
これは、誰かが教えたり与えたりできるものではない。
本人が掴むしかないのじゃ。
幸いにも、ソレナ村は神界に近い。
この地にいるだけで、人の心は“形”を整えていく。
土に触れ、
風に吹かれ、
仲間と笑い、
時に涙し、
一日一日を丁寧に積み重ねていけば、
自然と心の淀みは溶けていく。
焦らず、逃げず、
日常という名の試練を受け止められるか――
それが、この村での最初の関門じゃ。
そしてやがて、あの子の“心の器”が満ちたその時。
クリスは初めて、“自分のマナ”を宿す。
マナとは……人によって千差万別じゃ。
身体能力を底上げする者、
精神力が飛躍的に高まる者、
剣技に特化して発現する者、
魔法に偏る者、
中には創造の才に目覚める者もおる。
それらは才能ではなく、心の在り方そのものの反映じゃ。
だからこそ、儀の前に“心”を整える必要がある。
今のクリスは――
まるで砕けた器を無理やり形に戻したような状態。
いびつで、脆くて、しかし確かな輝きを持っている。
(さて……)
あの子が器を満たしたとき、
どんな色のマナを宿すのか。
力か、鋭さか、優しさか。
あるいは――まだ誰も見たことのない新しい形か。
その未来を思うと、
わらわの胸も少しばかり高鳴る。
「頼んだぞ、アレンよ。
あの子を壊さぬよう、導いてやってくれ」
わらわは静かに現世への視線を閉じ――
再び、神界の静寂へと戻っていった。




