模擬戦 クリスチーム 対 クラムチーム
「それじゃあ、今日は模擬戦を行います」
全員が円になって座り、俺は用意していたチーム編成を発表した。
俺のチームが“魔獣側”。
クラムのチームが“人間側”。
設定はシンプルだ。
人間側は“宝物を守る”。
魔獣側は“宝物を奪う”。
制圧すれば勝ち。
制圧できなければ、宝物を保持していた側の勝利だ。
俺が手を挙げると、空気がぴんと張りつめる。
「両チーム、スタート」
互いに距離を取りながら、様子を見る。
(クラムは……戦況を読む力はある。ただし――)
「奇襲だ!」
クラム側の一人が叫んだ。
そう、そこだ。
アドリブに弱く、意外と“勢い”で判断しすぎる。
能力と体力が優れている分、詰めが甘くなる。
(ここを伸ばせば、このチームは化ける)
「今だ。宝物を奪え!」
俺の指示で、魔獣側が一気に飛び出した。
連携の甘いクラムチームの守りを割り、宝物を奪取する。
「くっ……! やられっぱなしでいられるか!」
クラムが動いた、その瞬間。
足の踏み込み。
間合いの詰め方。
全てが鋭い。
さっきの何段階も上。
(……今の“力”)
思わず背筋がぞわりとする。
俺は瞬間的に木刀を構えたが——
クラムは普通に宝物を奪い返して、笑った。
「お、取り返せたぞ!」
いつもの調子だ。
ついさっきの“獣のような気配”は跡形もない。
(……気のせい、か?)
そんな違和感を飲み込みながら、模擬戦は続いた。
数度の攻防の末、最終的に——
「……まだまだだったね」
俺のチームが勝利を収めた。
青年団は悔しがりながらも、
確かな手応えを感じている様子だった。
そしてクラムは、汗に濡れた額を拭いながら、
悔しそうに、しかし楽しそうに笑った。
(——強くなる。こいつは、確実に)
そして同時に。
(……あの“瞬間”だけは、忘れないようにしよう)
胸の奥に、わずかな警鐘が鳴っていた。
※クラム視点
くそ……負けた。
模擬戦とはいえ、悔しさが腹の底に残っている。
あいつ、本当に十一歳か?
冷静な判断。
迷いのない指示。
そして、身体能力も実戦経験も桁違い。
(……これが天才ってやつか)
だが、悔しさよりも先に湧き上がる感情があった。
――すげぇ。
――あいつがいれば、もっと上に行ける。
青年団も、俺も、目に見えて強くなっている。
クリスが“強さの基準”を明確にしてくれるからだ。
ただ……
「慎重すぎるよな、クリスは」
訓練は完璧だ。
動きも、連携も、前よりずっと良くなった。
なのに、なかなか導きの森へ行かない。
浅瀬だぞ?
今の青年団なら十分戦える。
俺だって、もっと森の奥へ行きたい。
――深層へ。
(導きの森の異変を止められる可能性……
俺たちの手で村を救える可能性……
あいつとなら、夢じゃない)
領主様の言葉が脳裏をよぎる。
『封印が緩みつつある。
繕えるのは、村の血を引いた者だけだ』
『次男のお前こそ、村の発展に必要だ』
それが本当なら――
俺が深層へ行くべきなのだ。
ただし、ひとりでは無理だ。
必要なのは、圧倒的な実力者。
(クリスさえ動けば……道は開く)
訓練で結果を出した。
青年団も自信をつけた。
俺自身、以前より遥かに戦える。
そろそろだ。
そろそろ――
“あの話”を、クリスに打診してみる時だ。
そうすれば……
俺は拳を握りしめた。
(きっと、全部がうまくいく)




