青年団との模擬戦
※クラム視点
……想像以上だ。
俺は思わず息を飲んだ。
魔獣討伐見習いのクリス。
そう聞いた時は、正直半信半疑だった。
だが――目の前の現実は違う。
青年団十人を相手にしながら、
一撃ももらわず、
ただの一度も無駄な動きがない。
攻撃の軌道も、間合いの詰め方も、
まるで“訓練される側の俺たち”の方が、
逆に実力を測られているような感覚だった。
(あの団長と渡り合った――噂は本当だったか)
いや、もしかすると噂以上かもしれない。
この年齢で、ここまでの実戦の“匂い”をまとえる人間がいるのか。
胸の奥に、畏敬の念が静かに生まれた。
──もし、この力が俺たちに貸してもらえるなら。
導きの森の異変。
深層に眠る封印の緩み。
領主様は言っていた。
『封印を繕えるのは、この村の血を引いた者のみ』
『お前こそ、村の発展のために必要な男だ』
そう言ってくれた。
……俺にしか知らされていない秘密だ。
そして、その深層に辿り着くには――
実力が必要。圧倒的な力が。
(クリスがいれば……夢物語ではなくなる)
青年団の未来も。
村の発展も。
この“異変”すら、止められるかもしれない。
胸が熱くなる。
俺はクリスを見た。
(こいつは……本物だ)
※クリス視点
青年団全員と模擬戦をした結果。
分かったことが一つある。
――実力は、クラム以外はドングリの背比べ。
体格は悪くない。
力もある程度ある。
ただし実戦経験がなく、
そのせいで動きに無駄があり、
体力の消費が激しすぎる。
(このまま森に入ったら、まず死ぬな)
でも“やる気”だけは本物だった。
その一点だけは、確かな光だ。
浅瀬の魔獣なら、鍛えれば戦えるようになるかもしれない。
(じゃあ……やるしかないか)
俺は青年団の顔を見渡しながら、
頭の中でトレーニングメニューを組み始めていた。
基礎体力。
反応速度。
回避に特化した訓練。
集団戦の連携。
(まずはそこからだな)
やがて、自然とため息が漏れる。
「……忙しくなるな」
でも、
少しだけ楽しみでもあった。
見習いとしての忙しい日常に、
青年団とのトレーニングが加わった。
と言っても俺が鍛えられるわけではなく、鍛える側だ。
最初は走るだけで息を切らし、
木刀を振れば腕が震え、
回避訓練では転びまくっていた青年団も――。
(まあ……よくここまで食らいついたよな)
俺が提示したメニューを、
全員が形にできるレベルまで成長していた。
中でも一番伸びたのは、やはりクラムだ。
動きに無駄がない。
俺の技術を見て、理解して、次の瞬間には実践。
さらにそこから応用までしてくる。
(……こういうのを天才って言うんだろうな)
だが、個が強くなっても意味がない。
魔獣との戦闘は“集団戦”だ。
一人が突出すれば、他がついてこられずに死ぬ。
だから俺は、
“クラムを中心にしたチーム編成”を考えた。
クラムが先導し、
青年団が連携して各個撃破する形。
それなら――浅瀬の魔獣程度なら、
十分に戦えるだろう。
「今日はここまで。
明日からは実戦形式でいくぞ」
青年団がざわつく。
「実戦形式? 何をするんだ?」
「二つのチームに分かれてもらう。
指令を出すから、それぞれ課題をこなしながら、
相手チームの課題の邪魔をする」
「おお、それ面白ぇ!」
緊張と興奮が入り混じった声。
この反応は悪くない。
俺は続けた。
「指令は俺とクラムが出す。
チームはできるだけ実力差が偏らないように編成した」
「了解だ、クリス」
クラムは頼もしく頷いた。
今回の訓練は、
“魔獣側”と“人間側”に分かれて模擬戦を行うものだ。
もちろん木刀のみだが、
判断力・回避力・連携力は本番とほぼ同じになる。
いずれ本物の剣を持つ時、
この訓練の差が生死を分ける。
それに――。
(まずは青年団を鍛えて、ラガン村を守り切れる力をつけることだな)
そう思いながら、俺は木刀を握り直した。




