青年団との出会い
「とうっ!」
「やっ!」
朝日が森に差し込む頃、俺と団長はすでに導きの森の中にいた。
毎日、朝から魔獣狩り――それが討伐部隊見習いとなった俺の日課だった。
昼前に狩りを終えると、団長は他村との会議へ。
俺は下っ端らしく、討伐隊の雑務に追われる。
最初こそ、
『狩りで疲れてるんだから休んでろ』
と気遣ってくれていたが……
「クリス、この資料まとめといてくれ!」
「悪い、こっちも頼む!」
気づけば、雑務は全部俺のところに流れてくる。
(……俺、見習いじゃなくて雑用係じゃないか?)
ソレナ村で経験を積んだからこそ対応できているが、
本来これは十一歳の子供がこなす仕事じゃない。
「クリス! こっちも!」
「はいはい……」
そんな日々が続いていたある日のことだった。
——ガチャ。
「邪魔するよ」
ふらりと庁舎に入ってきたのは、体格が良く人当たりの良さそうな青年だった。
「クラム様、いらっしゃいませ。今日はどうされました?」
「ちょっと青年団で相談があってね」
クラムと呼ばれた青年は、落ち着いた笑みを浮かべる。
「最近、魔獣の出現が増えてるだろ? 村民の中に不安を抱いている者が多いと聞いてさ。
……俺たちにも何か出来るんじゃないかと思ってね」
その眼差しは真っすぐで、嘘偽りのない“村を思う気持ち”がにじんでいた。
「ただ……もしものことがあれば。村長の息子に危険を……」
「村長の息子?」
クラムが首を傾げると、副団長がハッとしたように口を開く。
「坊主、名乗ってなかったな」
クラムは豪快に笑った。
「俺はこの村の村長の次男、クラムだ。よろしくな」
……眩しいほどの笑顔。
「クリス、ほら挨拶しろ」
「は、はじめまして。クリスです」
「よろしくな、クリス」
その瞬間、副団長が俺に声をかけてきた。
「クリス見習い、クラム様と一緒に青年団の状況を調査してきてくれ」
(……え、めんどくさ……)
「クラム様、クリスは団長と中層に潜るほどの実力者でして……」
「坊主が、噂のクリスか」
クラムは感心したように俺を見た。
「ありがたい。ぜひ協力してくれ」
「……はい」
(断れない空気……完全に押し切られたな)
こうして俺は――
嫌な予感を抱えながら、クラムと青年団の元へ向かうことになった。
青年団の拠点には、十人ほどの若者が集まっていた。
皆、十代後半くらい。体格もよく、気持ちだけは前のめりだ。
「どうだった、クラム兄ちゃん」
「おう、魔獣討伐隊からこの子を派遣してもらった」
その言葉に、青年団の視線が一斉に俺に集まる。
「派遣って……まだ子供じゃないか」
「いや、噂の“見習い討伐隊”だぜ」
「まさか、あの噂の……?」
「俺たちを見てくれるってさ」
(……いや、聞いてないぞそんな話)
「あのー」
俺が言いかけたところで――
「よし、じゃあ早速、導きの森に行くぞ」
「待ってください!」
強めの声を出してしまった。
「どうした、クリス?」
クラムが優しく振り向く。
「俺たちは早く行きたいんだけど?」
青年の一人が急かすように言う。
「いやいや、実力も把握していないのに森へ入るのは無謀ですよ」
「そこは君が見てくれるんだろ?」
「え、いや……そんな責任は持てませんよ!」
「そんなの持たなくていいよ。もしもの時に助けてくれれば――」
その瞬間。
──ドンッ。
鈍い音とともに、一人の青年が後ろに倒れた。
「……なっ……ク、クラム兄ちゃん……?」
殴ったのはクラムだった。
普段の温和な顔が信じられないほど怒気を帯びている。
「なんだその言い草は」
「え、だってこいつ……ただの見習いだろ……?」
「お前、何を聞いていた?」
クラムは青年の胸倉をつかみ、睨みつけた。
「この人は“あの団長と渡り合った”クリスだぞ」
「え……?」
「力も知らずに守れると思うのか。
彼は“子供”だからじゃなく、“実力者だから”派遣されたんだ。
それを、なんだその態度は」
青年はうつむき、小さく言った。
「……ごめんって……」
クラムはひとつ息を吐いて手を離す。
「クリス、悪かった。俺の指導不足だ」
「いえ……。俺も、ちゃんと青年団の実力を見たうえで、行動します」
「それでいい」
クラムは柔らかく笑う。
その笑顔は、仲間を導く者の顔だった。
(……思ってたより、ちゃんとしてる人だな)
青年団は未熟だが、
クラムは本当に“村のため”に動いている。
ここでの俺の仕事は――
見習いとしての実力を示し、青年団の力を底上げすること。
嫌な仕事かと思ったけど……
(まあ、たまにはこういうのも息抜きになるか)
俺はそう思い直し、青年団の輪に足を踏み入れた。
俺は青年団の全員と順番に手合わせした。
十人ほど。それぞれ体格は悪くないし、力もそこそこある。
ただ――。
(動きがバラバラだ。足元を見ていないやつもいる。
無駄に力むせいで、息がすぐ上がる……)
筋力はあっても「実戦」がまったく足りていない。
最後の一人との模擬戦を終えて、俺は息を整えながら言った。
「……うーん。このまま導きの森に行くと――」
全員の視線が集まる。
「たぶん青年団は、すぐ瓦解します。
ちりぢりになって……帰ってこられなくなるでしょう」
「えっ……」
青年団の空気が固まった。
俺は続ける。
「そもそも質問なんですが――
“魔獣討伐隊がいるのに、なぜ青年団が魔獣狩りをしようと思ったんです?”」
その言葉に、クラムが前に出た。
「それは俺が答えよう」
クラムの声は落ち着いているが、責任を負っている者の声だった。
「最近、村の外周で暮らす人々から“魔獣被害が増えている”と相談があったんだ。
確認したら、魔獣が田畑を荒らしていた」
「田畑に……? いつもなら、魔獣は村には近づかないはず……」
「そうだ。だが討伐隊は外での討伐が中心だろ?
村の周囲まで手が回らないこともある。
だから“近場の魔獣だけでも俺たちが”と思ったんだ」
なるほど。
確かに理屈は通っているし、村人から見れば自然な流れだ。
俺は静かに頷いた。
「事情は分かりました。理由があるなら、俺も協力します。
この件、討伐隊にも共有しておきますね」
「助かる……」
クラムは安堵したように肩を落とした。
「何度か団長に話したんだが、上手く伝わっていなかったようでな……」
その表情は、ほんのわずかに寂しそうだった。
(……本当に村のことを考えてるんだな)
だからこそ、危うい。
善意だけで“魔獣討伐”に踏み込めば、
村は救えず――逆に崩壊することだってある。
だから俺は言った。
「それでは。
まず、魔獣と戦う前に――」
青年団全員を見渡す。
「俺と模擬戦をしましょう。
“何ができて、何ができないのか”を、正確に把握するために」
青年たちの喉が、ごくりと鳴った。
クラムだけが、静かに頷いている。
(よし……まずは“現実”を知ってもらうところからだな)




