団長の入団試験
「ルールは簡単だ」
団長が言う。
「俺に一本入れたら、お前の勝ちだ」
「……一本で、いいんですね」
「ああ」
「力を使っても構わん」
「ただし」
団長はにやりと笑う。
「こっちも、攻撃するぞ」
「団長、それは……」
「分かりました」
副団長は慌てて言った。
「団長、相手は子供です」
「大怪我だけは……」
「そんな余裕があったらな」
――嫌な予感しかしない。
「それじゃあ……始めるぞ」
次の瞬間。
俺は足にマナを一点集中させ、
全力で踏み込んだ。
(――速さで勝負!)
最速で間合いを詰め、
斬りにいく。
「はえぇな」
団長は楽しそうに言った。
「だが――動きが単調だ」
紙一重でかわされ、
即座に反撃。
「……っ!」
俺はマナを体内で移動させ、
防御に回る。
「甘いな」
団長は、
マナの流れを“読んで”いる。
マナが薄くなった箇所を、
正確に突いてくる。
「くっ……!」
「それも、よけるか」
「なかなかだな」
……強い。
実力は、
完全に向こうが上。
魔法剣は使えない。
このままじゃ、じり貧だ。
(……この人がいながら)
(なぜ、ラガン村は壊滅したんだ?)
一瞬、そんな疑問がよぎる。
「どうした?」
団長が踏み込んでくる。
「来ないなら、こちらから行くぞ」
今は――
目の前に集中しろ。
(どうする……)
「お前の力は」
「こんなものか?」
「……くそっ!」
その瞬間、
俺は思い出していた。
――師匠との稽古。
どんな敵も、
どんな魔物も、
攻撃の前には必ず“癖”がある。
予備動作。
視線。
重心。
(……あった)
団長は、
攻撃をかわした直後、
必ず次の攻撃先へ、
ほんの一瞬だけ視線を送る。
今も――。
「終わりだ」
団長が踏み込んだ。
俺は、
その視線の先へ、
木刀を差し出した。
――ガッ。
鈍い音。
団長の腕に、
確かに当たった。
「……一本、取ったぞ」
静寂。
団長は一瞬、
目を見開き――
そして、
大きく笑った。
「……ははっ」
「なるほどな」
俺は、
からくも一本を取ることができた。
勝ったわけじゃない。
だが――
確実に、
成長していた。
※副団長視点
――嘘でしょう。
団長に、
一本……?
「見えなかった……」
「すごいじゃないか」
「なんだ、あの動きは……」
庁舎のあちこちから、
ざわめきが上がる。
……当然だ。
あの試合を見せられたら、
誰だってそうなる。
私は、もともと入団試験には反対だった。
十一歳の子供を、
実戦に関わらせるなんて論外だと思っていた。
――けれど。
今は違う。
この子の成長を、
見てみたいと思っている自分がいる。
団長と渡り合う実力。
それだけじゃない。
まだ何かを隠している……そんな気配。
私は、戦闘向きではない。
剣を振るより、
状況を読み、
作戦を組み立て、
人を動かすほうが得意だ。
団長と私は、
そうやって二人で、
この魔獣討伐隊をまとめてきた。
たまたまこの地に流れ着いたアレストは、
魔獣討伐隊では実質ナンバー2の実力者だ。
だが――
この隊は、明確に団長ありきの組織だ。
団長以外にはない力。
それを中心に回っている部隊。
もし、ここにクリス君が加われば。
団長の負担は、確実に減る。
それは――
私がずっと待ち望んでいた形でもあった。
だが同時に、
規律を曲げれば、
隊が崩壊する危険もある。
魔獣という“災害”から村を守るには、
個の力よりも、
チームの力が必要だ。
だから私は、口を開いた。
「……団長、どうですか」
「こいつは、俺に一本入れた」
「合格だろ」
「はい」
私は頷き、
続ける。
「ただし、規律として」
「入団は十五歳からです」
「それまでは」
「魔獣討伐見習いとするのが妥当かと」
「見習い?」
団長は不満そうだ。
「こいつの実力を考えたら……」
「団長」
私は、はっきり言った。
「ここは魔獣討伐隊です」
「規律を守るのも、団長の仕事です」
「……しかしな」
「団長」
しばしの沈黙。
「……わかったよ」
団長は、ため息交じりに笑った。
「だが、こいつは強い」
「これから、もっと強くなる」
「ええ」
それは、私も同意見だ。
「俺は、こいつと中層に潜る」
「魔獣討伐を行う」
「……中層!?」
思わず声が出た。
「こいつは中層以上の実力がある」
「中層で経験を積ませて」
「俺のそばで、直接教える」
「ですが……」
「だが、じゃない」
団長は即断した。
「これは決定事項だ」
「それにな」
団長は、視線を鋭くする。
「導きの森の異常は、報告を受けているだろ」
「……はい」
「各村の討伐隊が対応に追われている」
「実力のある人間は、一人でも欲しい状況だ」
「……分かっています」
「それに」
団長は、低い声で言った。
「あいつは――俺と同じ力が使える」
……やはり。
「……私も」
「団長と同じ力を、感じました」
「村を守るために、必要な力だ」
「……分かりました」
私は、静かに頷いた。
「クレストさんには」
「私から説明しておきます」
「ははは」
団長は気楽に笑った。
「あの人なら、大丈夫だろ」
「……そうだといいのですが」
胃の奥が、きりきりと痛む。
私は覚悟を決め、
クリス君と――
クレストさんのもとへ向かった。




