帰ってきた「ラガン村」と魔獣討伐隊
一年以上ぶりに戻ったソレナ村での時間が、
あまりにも濃密だったせいか――
ラガン村の景色が、
ひどく懐かしく感じられた。
これから先、
四年後に起きる悲劇を、決して起こさせない。
そのために、
俺はこの村を守る。
そう心に決めていた、そのとき――
「クリス! 帰ってきたの?」
不意に名前を呼ばれ、
振り返る。
そこには、
驚いたような表情のエマが立っていた。
「うん」
「修業が一段落ついたから、村に戻ってきたんだ」
「へぇ……」
エマは俺をじっと見てから言った。
「確かに、何か変わった気がする」
「え、そうかな?」
「出ていくときも、いつものクリスと少し違ったけど」
「今のクリスは……うまく言えないけど」
少し考えてから、微笑む。
「前より、もっと大人になった感じがする」
「はは……そうかな」
エマは昔から、
こういうところが鋭い。
「早く帰らないと」
「みんな、心配してるよ」
そう言って手を引かれ、
俺は久しぶりの家へ向かった。
「ただいま」
懐かしい我が家。
詳しいことは伏せたまま、
村の雑用と剣の修業に明け暮れていたこと、
そしてこれから――
村の仕事と、森の魔獣退治にも参加したいことを話した。
「魔獣退治だと?」
父は眉をひそめる。
「それは、まだ早いんじゃないか」
「そうよ」
母も続けた。
「まだ十一歳なんだから、十五歳まで待ちなさい」
「……俺は」
「この村を、守りたいんだ」
部屋が静まり返る。
しばらくして、
父が深く息を吐いた。
「……そこまで覚悟を決めているなら」
「村の魔獣討伐隊を、紹介してやる」
「え、あなた……」
「ただし」
父ははっきりと言った。
「認められなかったら、十五歳までは諦めろ」
「いいな?」
「……うん」
「分かった」
こうして俺は、
ラガン村の魔獣討伐隊に紹介され、
試験を受けることになった。
※魔獣討伐隊視点
「おいおい」
「クレストさんのところの息子が、試験を受けに来るらしいぞ」
「聞いた聞いた」
「なんでも、他所の村で修業してきたから入りたいんだと」
「……十一歳だろ?」
「冗談じゃない」
「試験なんてさせずに、門前払いでいいだろ」
魔獣討伐隊には、誇りがある。
命を賭けて村を守ってきたという、自負がある。
だからこそ、
特別扱いで試験を受けに来る“子供”を、
快く思う者はいなかった。
「まあまあ」
そう言って場を収めたのは、副団長だった。
団長は他村との会議で、席を外している。
「試験を受けさせるだけ受けさせて」
「それで帰らせればいいじゃないか」
「……どんな試験にするつもりですか?」
「アレスト」
副団長は若い団員の名を呼ぶ。
「魔獣討伐隊で、最年少はお前だったな」
「はい」
「お前と木刀での模擬戦だ」
「分かりました」
「……怪我をさせても?」
「大怪我は困るが」
「少し痛い目を見せないと、分からんだろう」
「了解です」
アレストは二十歳。
冒険者としてこの村に流れ着き、
自ら志願して魔獣討伐隊に入った男だ。
(この村の人間は、戦いに向いていない)
(早く諦めてもらおう)
そう考えていた、そのとき――
庁舎の空気が、変わった。
全員が、同時に振り向く。
入口に立っていたのは、
まだ幼さの残る少年だった。
「はじめまして」
「クリスと申します」
※クリス視点
「はじめまして」
「クリスと申します」
魔獣討伐隊の庁舎に足を踏み入れると、
一斉に視線が集まった。
……まあ、当然だ。
十一歳の子供が来たら、警戒もする。
「お前、何者だ」
「改めまして」
「本日、魔獣討伐隊の試験を受けに来ました」
「クリスです」
ざわり、と空気が揺れる。
「なるほどな」
副団長らしき男が、
面白そうに俺を見ていた。
「俺はアレスト」
「お前の試験官だ」
そう言って、木刀を指差す。
「それを持て」
「実力を見せてもらう」
「はい」
木刀を握る。
「……じゃあ、行くぞ」
アレストが踏み込んできた。
(魔獣討伐隊か……)
(前世では、関わりがなかったな)
そんなことを考える余裕があった。
動きが――遅い。
間合いの取り方も、甘い。
(そもそも……)
――どがっ。
次の瞬間、
俺はすでにアレストの懐に入り込んでいた。
木刀の柄を、
そのまま胸元に叩き込む。
「……っ」
アレストの体が崩れ、
そのまま床に倒れ伏した。
気絶。
静まり返る庁舎。
俺は、倒れた男を見下ろして言った。
「その実力じゃ」
「中層には行けませんよ」




