3-12 ここじゃないどこかへ
――郡山紅葉の視点から――
群衆が行きかう駅の構内で、私は時を刻む銀の時計を見つめていた。
何度も見てきた駅のシンボルとも言える時計だけれど、もう私はこの時計を見る事もないのだろう。
別にこの時計に対して特別な想い出はないので見ても何の感慨もわかないはずだった。けれど針が動くたびに、私の心は振り子のように揺れ動く。
やがてタイムリミットが訪れ、私は駅の改札へと向かおうとした。
行先は特に決めていない。旅先で何をするのかも。だけどもしも死ぬのなら誰にも見つからない場所が一番いいだろう。死んだ後に迷惑なんてかけたくはないし。
「紅葉」
「芙蓉」
だけど彼女はまるで待ち合わせをしていたかの様に銀時計の下にやってきた。彼女は妄想の果てに友達を殺した私に対して、普段と変わらない顔で笑いかけてくれたんだ。
「どうして……」
「一緒に行こうか」
「でも」
「私は最期の時間を紅葉と過ごしたいの。駄目かな」
「っ」
病に侵された彼女はわかっていたんだ。自分の命の灯がそう遠くないうちに消えてしまう事を。だというのに彼女は最期の伴侶に私を選んでくれたんだ。
「私なんかでいいの?」
「うん。紅葉じゃなきゃダメなの」
その結末はきっとわかりやすいハッピーエンドではない。
万人受けするお涙頂戴の結末ではない。
私は彼女のために断るべきだったのかもしれない。
「そう。いいよ」
だけど私は最期の最期で親友を求めてしまったんだ。その先にあるのが破滅だとしても、私は独りぼっちで死にたくなかったから。
「ねえ芙蓉、これからどこに行く?」
「紅葉とならどこだっていいよ」
「そう。行こうか、ここじゃないどこかへ」
私と芙蓉は手を繋いで駅の改札を通り、群衆の中に消えていく。人生最期の修学旅行の行先は決めていないけど、どうせなら綺麗なものを見てみたいな。
何も見なくていい。何も聞かなくていい。親友の芙蓉さえいればそれ以外は何もいらない。
そして私たちは、誰もいない場所へと旅立った。




