3-3 再び結成するバディ
病院でニナの手当てを行い、幸いにして大事は無かったが、親しい人間が狂ってしまった姿を見て彼女はひどく落ち込んでいる様に見えた。
「……どうしたんだろうね、聖愛ちゃん」
「さあな」
俺は明確な回答をする事が出来なかった。あの狂人となった聖愛は俺の知らない聖愛であり、人の形をした何かでしかない。そもそも俺は聖愛の事をそんなに知ってはいないのだが……。
「私じゃどうにもならない?」
「多分な」
「そっか」
俺であろうとニナであろうと、もう彼女は誰にも救えない。もし救える存在がいるとすればそれはきっと彼女達が信じている神なのだろう。たとえそれが人の心を惑わすまやかしだとしても。
「……お願い、真矢ちゃん。私の代わりに聖愛ちゃんを助けて」
「……?」
だがニナは覚悟を決めた表情でそう呟き木組細工の髪留めに指を添える。弱々しくうなだれていた彼女は、しばらくしてから自信あふれる表情に変わってしまったんだ。
「それじゃあ行こうか、サンチョ君」
「ニナ」
そして彼女は俺をかつての師匠の様にその名前で呼んだ。その凛々しい姿はまさしくあいつと一切遜色なく、俺は変貌した娘の姿に呆気に取られてしまった。
「行くってどこに」
「もちろん聖愛を助けるためだよ。彼女は全てが始まったあの場所にいるはずだ。今ならまだ間に合うからね」
ニナはずかずかと歩き出したので俺は狼狽えながら彼女の後を追いかけ、そのまま病院の外に出てしまう。
すると外では不安げなロッシーを引き連れたミシェルが待っていた。ここに彼女がいるという事は、おそらくミシェルもまた全てを見通しているのだろう。
「やあ、出迎えありがとう」
「ええ、では行きましょうか。あちらに車を用意しています」
「クゥーン」
ロッシーは別人となったニナを寂しげに見つめていたが、彼女にリードを握られ仕方なく歩き出す。
「お前は何者だ」
俺は思わずそんな馬鹿馬鹿しい質問をしてしまった。目の前にいる彼女が愛娘のニナである事は明らかだったというのに。
「僕が何者なのか、その真実は君が決めるといい。ただ区別をするため今は真矢、って呼んで欲しいな」
「真矢……」
彼女はあいつの様に自信あふれる笑みを浮かべていた。
彼女はニナだが同時に真矢でもある。それはきっと誰にも証明出来ないだろう。しかし俺はミステリー小説の戒めを無視したあり得ないロジックを認めざるを得なかったんだ。
あるいはそれは、ただの願望だったのかもしれないけど。




