2-14 第二の変態とのバトル
もふもふ君謹製の愛情がたっぷり詰まったカリフワ豆腐タルトでお腹も心も満たされ幸せな気持ちになっていると、急に外が騒がしくなってしまった。
「バウバウバウッ!」
「ちー!」
「のすっ」
「?」
「どうしたの? ロッシー、」
ロッシーたちは随分と興奮しているが何があったのだろう。ニナは不思議に思い窓から外を覗き込むが、
「痛てっ、噛みつくなコラ! あ」
「あ」
そこにいた防弾チョッキと目出し帽を装備した男を発見、互いに一文字だけ言葉を発し硬直してしまった。
ロッシーとネズミ君は男に噛みつき、しばらくして彼は自分の手におパンツが握られている事に気が付いた。おそらく暴れている最中にうっかり掴んでしまったのだろう。
「また変態がおるよー!」
「いや違っ、これは!? じゃない、そうだ俺は元フランス外国人部隊のおパンツハンターだ!」
ニナが叫ぶと変態は一瞬否定したがすぐに認めてしまう。若干様子がおかしかったのが少し気にかかったが……。
「うむ、ちゃんと正直に言って偉いな。ではそこにおパンツを置いて立ち去れ」
俺は間抜けな男を観察するがどう見てもその装備は下着ドロにしては過剰だ。ミシェルの関係者か、あるいはシンプルに恨まれる心当たりがある過ぎる俺を狙ったのか。
「チィ! やってやるよ! 神よ、私をお守りくださいッ!」
「っ!」
素早く起き上がった彼は変態からヒットマンに変貌し戦闘態勢に入る。こいつがフランス外国人部隊だったという情報が事実かどうかは不明だが、コンバットナイフの構えを見る限り素人ではなさそうだ。
「お前はおパンツのために人を殺すのかよッ! 下がってろ!」
いずれにせよ場合によってはニナたちを護る為に戦わなければならないだろう。荒事には巻き込まれがちだしなんとかなるだろうか。こいつ相手ならばギャグ補正による守護も発動しそうだし。
「へんたいはだめよー!」
「ぎょえー!?」
「ありゃ」
「わわ」
だがそれ以上の化け物が存在した。もふもふ君は俊敏な動きで変態に滅○豪昇龍を決め、空中コンボを決めて秒殺してしまう。哀れ、ぽっと出の彼は殺意の波動に目覚めたもふもふによって一切見せ場もなくKOされてしまった。
「おお! 瞬○殺も出来たりするの?」
「しゅんもふさつならできるよー」
ニナはゲーセンで使用禁止になりそうな程の強さに驚嘆する。女性が一階で一人暮らしなんてちょっと心配になったが、ここまで強ければその心配はないだろう。
「お前ただのもふもふじゃなかったんだな」
「このもふもふはパワードスーツなんだ。だからぼくのちからじゃないよ」
「そういう設定だったのか」
「って、ちがうちがう、なかのひとはいないよー」
もふもふ君は裏設定を口にして慌てて自らの発言を否定した。流石にパワードスーツは設定だろうが、ワンパンでプロのヒットマンを倒すなんて一体このもふもふは何者なのだろうか。
「ち、畜生……!」
「あ、まだ生きてる」
しかし人外なのは変態も同じで、彼はコテンパンにされたというのにまだ立ち上がりナイフを構えた。鬼気迫る表情になった彼は手負いの獣となった事でより狂暴になり、目を見開き充血させギリギリと歯を削るほどに歯ぎしりをした。
「そこまでです」
「ッ!?」
ヒュ――ッ!
だがやはり彼は所詮噛ませ犬だった。凛とした声と共に戦場に乱入した人間は高速の蹴りを変態の頭部に放ち、目にもとまらぬ速さで連撃を浴び再度吹き飛ばされてしまう。
「クソがッぐぇ!?」
野獣の様に襲い掛かる変態に対し、ミシェルはブレイクダンスを踊るかの様に華麗な足技で退け、怯ませたところで後ろに回り込み延髄蹴りを決めてようやく昏倒させた。彼女もまたもふもふとは違うベクトルの人外組だったらしい。
「のすっ!」
「おかえりなさい、ジローラモ」
ジローラモは主と再会出来たのが嬉しくよちよちと近付き、ミシェルはしゃがんで家族を抱きかかえる。よし、これにてペット探しの依頼は完成だな。
「すげー! 今のカポエイラ!? お姉さん実は格闘家だったの!?」
プロレス好きなニナは特徴的にも程がある戦闘スタイルの正体を即座に見抜いた。カポエイラは南米の格闘技であり、実用的ではないが見栄えは良いのでプロレスとの親和性も高く、カポエイラの選手と兼任したレスラーやカポエイラの動きをベースにした技も存在する。
「いいえ、私はただの観光客ですよ。この変態は一緒に旅行に来た仲間に引き渡しましょう」
「まだ観光客って言い張るのか。つーかエンタメ特化の格闘技のカポエイラを現実で使っている奴なんて初めて見たぞ」
「極めればどんな格闘技でも最強になりますよ。あとは相性の問題でしょうか」
彼女は涼しい顔でそう語り、その最中にどこからともなく現れた黒服がバンの中に変態を押し込んで去っていく。仕事が早いにも程があるな。
「もふもふさんは……別に構いませんね。今見た事は他言無用ですよ」
「うん、いいけど」
「ちー」
もふもふ君とネズミ君は何が起こったのかわかっておらずキョトンとしていた。もっともこんなもふもふが今見た事を話した所で誰も信じない気もするけど。
「オウフ」
「怖かったねー、ロッシーも。悪い人をやっつけてくれてありがとうね、ミシェルさん!」
「いえ、無事で何よりです」
ニナは腕っぷしの強いミシェルをすっかり信用して尊敬の眼差しを向けた。やはりプロレス好きな彼女からすれば力こそが全てなのだろうか。
「それでは堤さん、ジローラモを見つけてくれたお礼と言っては何ですが今晩一緒にバーに行きませんか? 親睦を深めながら、ね」
「報酬はもう受け取ってるんだがな。だが逃げてもどうせまたしつこく絡んでくるんだろ? 今回だけだぞ」
「ありがとうございます」
「むむ? このラテン系美女とアダルティーな展開になるの?」
「ならん」
ミシェルの提案はやや強引で筋が通らなかったが、観念した俺は渋々申し出を受け入れた。いい加減彼女の目的や正体も把握して安全かどうかを確認しておきたいが、素直に口を割ってくれるだろうか。




