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捏造探偵2~カラマーゾフの贖罪~正義と真実の狂信者【完結】  作者: 高山路麒


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28/50

2-11 加熱する憶測合戦とメディアスクラム

 ――堤三千世の視点から――


 翌朝俺はニナと行きつけの喫茶店を訪れ、コーヒー片手にスマホを眺めて約束の時間まで時間を潰した。


『校長の衝撃の過去を関係者が告発「彼女は虐め殺人事件で隠蔽をしました」』

『殺害された教員は入試問題を作成 裏口入学の疑惑』

『入試問題の漏洩 事実を認める』

『死亡した女子生徒 妊娠していた』

『闇に葬られた教団の性虐待疑惑』


 ネットニュースはどれもこれも聖カラマーゾフ学園の事件に関わるものばかりで、世間の高い関心がうかがえる。中には真偽不明の情報もそれなりにあったが、閲覧している人間にとって信憑性なんてつまらないものはさほど重要ではなかったらしい。


『答えてください! 逃げるんですか! 真実を話してください!』

『……………』


 顔にぼかしはあったが無言で急いで逃げているのは鵯校長だろう。彼女がどのような表情をしているのかはわからなかったが、マスコミは声を荒げながら校長を追い掛け回していた。


 なお顔が隠されていたのはあくまでも報道だけで、動画サイトでは普通に素顔や個人情報が晒されていた。ここまでは想定の範囲内だったが、問題はその中の動画の一つに見覚えのある顔が映っていた事だった。


『鵯先生! あなたが務めを果たしていれば小宮山君は死ぬ事は無かったんです! あなたはいつだってそうでした! 生徒のためとか言いながらいつだって保身の事しか考えていませんでした! また無かった事にするんですか!?』

『ごめんなさい、有吉さん……今は……!』


 映像を見る限り、夜中に離れた場所から隠し撮りをされたもののようだが校長に詰め寄っている女性は聖愛だろう。


 元々小宮山と入谷の事件で因縁はあったが、どうやら正義感の強い彼女はいてもたってもいられず暴走してしまったらしい。彼女が動画を投稿したわけではなさそうだが、こんな事をしてしまえば確実に問題になるだろう。


 まったく、あのバカは何をやっているんだ。俺みたいに上から目を付けられて警察をクビにならなきゃいいけど……。


 これ以上のめぼしい情報はなさそうなので俺は動画の視聴を止めた。取りあえずコーヒーでも飲んでこのモヤモヤした感情を黙らせるか。


「相席良いですか?」

「ん」

「ありゃ、ミシェルさん」


 だが出来るだけ余計な事を考えない様にしているとまたしても不確定要素の塊が現れた。クリームメロンソーダを飲んでいたニナは、あまり絡みのない人間がそんな提案をしたので少し戸惑ってしまう。


「いや普通に空いてるだろ。つーか待ち合わせしてるから」

「私がその待ち合わせ相手ですよ。はい、お土産です」


 ミシェルは老舗和菓子店の和のテイストを感じる紙袋を渡したが、中を除くとそこには贈答用のちくわの箱が入っていた。


「なんで豊巻とよまき名産のちくわなんだ」

「こういう時にはおまんじゅうを渡すものでしょう? 本当は山吹色のおまんじゅうが良かったのですが、無かったので折衷案で袋だけそれっぽいものにしました」

「ああそう。貰って困るものじゃないからいいけど」


 ミシェルは今時パロディでしかあまり見かけない時代劇ネタを口にし、俺はちくわの箱と一緒にSDカードが入っている事を確認した。取引相手というのは嘘ではない様だ。


「まあいい。んで、用事はそれだけか?」

「そうですね、本来ならばそれだけだったのですが想定外の事態が起こりまして。堤さんに依頼をしてもよろしいでしょうか。もちろんこれは普通の依頼です」

「喫茶店で話せる内容なら引き受けてもいいぞ」

「ご心配なく。実は目を離した隙に私のペットが逃げ出してしまいまして、その捜索をお願いしたいのです。報酬はそのちくわをタダでプレゼントする、という条件でどうでしょう」

「随分と高級なちくわだな。だがそれくらいならいい。ペット探しは探偵のメインの収入源だからな」


 彼女は困り果てた様子で俺にどうでもいい依頼をした。この様子を見る限り策略とかではなく逃げ出したというのは本当らしい。


 ヤバそうな仕事ではなさそうなので引き受けても問題ないだろう。大体相場と本来支払うはずの情報料も同じくらいだし、そちらも問題ない。


「んで、どんなペットなんだ? 動物の種類によって値段も変わるが。出来ればドーベルマンとか見つけやすいのがいいんだが」

「ジローラモ……うちの子は狭いところに入りたがりますが、足も遅く日本では珍しい生き物なのでそこまで難しい依頼ではないかと。こちらが写真です」

「ふむ。アルマジロか」


 ミシェルはスマホで撮影したペットの写真を見せる。それは南米ではその辺にいるが、動物園以外ではまず見かけないアルマジロが昼寝している写真だった。


「あ、これこの前見た事ある! ロッシーが追いかけてた!」

「本当ですか?」

「SNSにも目撃情報がたくさんある。割と楽そうだな」

「はい。本当は私が探したいのですが、外せない用事がありまして……代わりに探していただけませんか?」

「了解、見つけたら伝えるから連絡先を教えてくれ。」


 スマホを覗き込んだニナは興奮した様に叫び、また街中でアルマジロを見かけるというのは日本ではまずありえないのでSNSにも大量の手がかりが残されていた。ヒントは多いし比較的難易度は低いだろう。


 んじゃ、コーヒーを飲んだらさっさと依頼に取り掛かるか。

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