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2-1 悪意に満ちた好奇心と、郡山紅葉の決意

 ――郡山こおりやま紅葉くれはの視点から――


 電子の世界では今日も変わらずスクランブル交差点の様に情報が飛び交っていた。彼らにとっては凄惨な事件であろうと日々の退屈な生活に刺激を与えるスパイスに過ぎず、名門校で起こった事件を面白おかしく語っていた。


『学校の屋上に女子生徒の焼死体を発見 殺人か』

『同日同校の教員も遺体で発見、警察は関連がないか慎重に捜査』


 始めにニュースサイトに報道機関からの速報が表示される。当然情報らしい情報もなく、当事者である自分ですらほとんど把握していないので無関係な人間には全容を把握する事も出来ない。それこそこれが事故なのか、事件なのか、あるいは自殺なのか、誰が殺されたのかも。


 しかし彼らにとってはそれだけで十分だった。


 カラマーゾフ学園は新興宗教団体によって設立された名門校であり、かつて起こった虐めによる死亡事案で不適切な対応をした教師が校長を務め、同日に二人の人間が死んでしまい、度々批判されがちなチャリティー番組の密着している最中にこのセンセーショナルな事件は発生した。この事件にハイエナの様な連中が好みそうな情報はいくらでも存在したのだから。


 文化祭は中止、学校は当然臨時休校になってしまい紅葉は時間を持て余していた。本来ならば友人の晴れ舞台を舞台袖から見ていたはずなのに、なぜこのような事になってしまったのだろうか。彼女は理不尽過ぎる残酷な現実にひどく絶望してしまう。


 自室のベッドの上で寝転がっていた郡山紅葉は何が起こったか把握しようとしていたが、スマホに表示されたSNSの書き込みは途中から悪意に満ちたものに変わり、死にたくなるほど精神が疲弊したのでそれ以上見るのを止めた。


『なんか滅茶苦茶叩かれてた』

『知ってる』


 彼女は仕方なくグループチャットに参加、同級生にそう告げる。このリアクションだと友人たちも同様にネットの書き込みを見てしまったのだろう。


 ただ憶測が飛び交うという点では似たり寄ったりだが、ここにいるのは全員が当事者であり同じ学び舎で過ごした友人なので比較的秩序は保たれていた。


『もうわけわかんない やっぱ桂里奈は殺されたのかな……』

『最近勉強についていけないって悩んでたけど 自殺はないか』

『いくらなんでもそれはないだろ 自殺するにしてもあんなのないって』

『サプライズがどうのこうのって言ってたよね そもそもなんで桂里奈は屋上でキャンプファイヤーの準備なんてしてたの?』

『だよね サプライズにしても意味わかんないし面白くない 本当に桂里奈がそんな事したのかな』

『テレビで桂里奈の家映ってたけど滅茶苦茶ボロアパートだったんだけど』

『私も見た』

『実家がお金持ちって言ってたけど嘘ついてたって事だよね なのになんでブランド物とか高級バッグとか持ってたんだろう』

『ひょっとしてよくない事をしてたとか』

『隅地先生もなんで死んだんだろう 関係ない事は無いよね』

『先生ってなんか変だったよね、用事もないのに教室にいたり女子トイレの近くをうろついてたり』

『わかる 気持ち悪かった』

『エリちゃんに聞いたけど、隅地先生は保健室でペットボトルのお茶を飲んで死んだんだって』

『それってひょっとしてエリちゃんの飲んでた奴かな』

『え、それじゃあ誰かが来島先生を毒かなんかで殺そうとして、間違って隅地先生が死んだって事』

『あのさ、探偵みたいな事するのは止めようよ 人が死んでるんだよ』


 紅葉が桂里奈に抱いていた感情は必ずしも肯定的な物ばかりではなかったが、同級生達の会話は望ましくない方向に向かっていったので紅葉は友人を諫めてしまう。やはり結局は彼らも好奇心のままに人の心を踏みにじる悪意に満ちた連中と同じなのだろうか。


『芙蓉は何か知ってる? サプライズが何なのか 文化祭は中止になったし今更隠す必要もないけど』


 紅葉は仕方なくここ最近桂里奈と密接に関わりがあった友人に訪ねた。今ここで直接彼女に聞けば、サプライズが実は焼身自殺ショーだったという馬鹿馬鹿しい推理は否定されるのだから。


『知ってるけど絶対に言えない』

『どうして』

『紅葉、ごめんね』

『芙蓉?』


 だが芙蓉は拒絶と謝罪の言葉を口にし、再び呼びかけたがもう彼女が返信する事は無かった。


(芙蓉……なんで?)


 おそらく彼女はサプライズが何なのか知っていたはずだ。しかし何故それを言う事が出来なかったのだろう。サプライズはその様な狂気じみた事ではないと、あるがままの事実を伝えれば亡くなった友人の名誉が多少なりとも回復されるというのに。


 紅葉は悩んでしまう。芙蓉や死んだ人間のために自分は何をすべきだろうか。


 そして彼女はある事に思い至り、友人を救うための準備をした。その愚行がやがて残酷な真実を暴いてしまう事になると深く考えないままに。

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