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1-16 事件の始まりを告げる裁きの業火

 保健室で思春期の闇を目の当たりにし、俺は何とも言えない憂鬱な気分になりながらニナとロッシーが待つ校外へと移動する。


 ただ具体的にどこで待っているのかはちゃんと決めておらず、俺は校門に向かったがそこに彼女はいなかった。


 スマホで電話をして確認してもいいが少し面倒だ。数カ所ある出入り口をぐるっと全部回れば見つかるだろうし、適当に出店を見ながら探してみるか。


 憧れの名門校とはいえ所詮はこんなものか。学校は社会の縮図とは言うが、精神が不安定な子供達ならばなおの事問題が起きてしまうのも無理はない。


 今回は盗撮事件を内密に処理するため学校に潜入したが今の所モンスターペアレント、パワハラ顧問、生徒の不和など他にもトラブルを招きかねない要素はたくさんある。こりゃそう遠くないうちにまた揉め事が確実に起こるだろうな。


 だからこそ俺の様な人間が求められる。警察は民事不介入であり、彼らが動くのは基本的に何かが問題が起こってからだ。


 捏造探偵としての仕事を正当化したくないが、ルールを護っていては救えないものも存在する。それは紛れもない事実なのだから。


 ……………。


「すまんニナ、ここにいたのか」


 しばらく探索をし、俺は裏門でリードを持って待っていたニナをようやく発見する。ロッシーはまだ不安なのか、クゥーンと切なそうに鳴いてしまった。


「人間は事実から物事を都合よく解釈するものだ。友情なんてものはその最たるものだろうね」

「ニナ?」


 だがニナは大人びた声になりそう語る。それは普段の稚拙な彼女の言動とはまるで似ても似つかず、別の人間が乗り移ったかのようだった。


「ねぇサンチョ君。彼女の想い出は真実なのかな? ひょっとしたら彼女が友人だと思っている人間は、殺したいほど彼女の事を憎んでいるかもしれないね」

「っ」


 サンチョ君。ニナは確かに俺をその名で呼んだ。今となってはもう呼ばれる事がない、あいつが俺を呼ぶ時に用いた仇名を。


 ニナが言う彼女とは誰の事なのだろうか。聖愛か、それとも桂里奈か。それともそれ以外の誰かなのか。だが俺はそれを聞く事が出来なかった。


「さあ、サンチョ君。君はどんな真実がお好みかな?」


 そして振り向いたニナはあいつの様に不敵な笑みを浮かべた。正義の味方とも悪の権化とも解釈出来る、得体の知れない戦慄を覚える笑みを。


「真矢……?」


 ジリリリリ!


 俺が思わずその名を呟いた時けたたましく火災報知機が鳴ってしまう。咄嗟に校舎を振り向くと、屋上から黒煙が立ち上っているのがすぐに確認出来た。


 まさか火事か。しかし何故あんな火の気がなさそうな所から炎が出ているのだろうか。教職員たちは慌てて移動しているのでイベントではなさそうだが……。


「現場に行かないのかい? きっと最高にグロテスクで面白いものが見れるよ」

「オウン?」

「……ッ!」


 ニヤリと笑うニナの言葉で俺は良からぬ事が起きていると直感した。平穏無事に生きていたい俺としては進んで面倒事に首を突っ込みたくないが、懲戒免職になったとはいえ俺は元警察官、正義の心が全くないというわけではない。


「すまん!」


 俺は人波を掻き分けながら急いで校舎に戻り階段を目指す。もう手遅れかも知れないがとにかく急がないと!


「堤さん!」

「聖愛!」


 また聖愛も騒ぎに気が付き途中で合流、共に階段を駆け上がり屋上へと向かった。校舎内にいた人々は突然の事態にどうしていいかわからない様子だったが、非常ベルが鳴っているのならちゃんと逃げて欲しい。


「何が起こってるんですか!?」

「わからん、けどきっとかなりヤバい事が起きている!」


 俺は状況を把握していない聖愛にそう伝え最上階に到着、屋上への扉を開ける。するとそこにはやはり火元の原因となった炎が存在した。


 様々な資材を集めて作られたその炎はきっとキャンプファイヤーを意識して作ったのだろう。昔の文化祭ならばオクラホマミキサーとセットでシメの定番だったが、今は近隣住民への配慮からあまりする事は無い。


「誰だ! こんな事をしたのは!」


 屋上には教職員が既に集まっており把握していないイベントに激怒した。勝手に炎を燃やせば確かに問題になるが、きっとそんなレベルでは済まないはずだ。


「っていうかこれ中になんか……?」


 教職員は次第に違和感に気付いたらしい。俺は急いで校舎内に戻り消火器を回収、再度屋上に移動した。


「どいて下さい!」

「え!? あ、ああ!」


 俺は突然の事態に何も出来ない教職員に怒声を浴びせキャンプファイヤーに消火器を噴射、白い消火剤は炎を瞬く間に消し去り次第に小さくなっていく。


 やがて炎と黒煙が消え去り、消火剤によって出来た白い霧も晴れていく。


 俺は恐る恐る近付いて様子を伺うと炎の中には黒い塊があった。はっきりとはわからないが、それは人の形をしている様に見えた。


「っ!」

「あ、あ、ああ……!?」


 幸か不幸か、早めに火を消す事が出来たので辛うじてその人物の顔は確認出来た。だがそのせいでより悍ましい姿になっており、聖愛や教職員は言葉を失ってしまう。


 きっと恐怖と苦痛に満ちた最期だったのだろう、焼け爛れた顔の彼女は口を大きく開けて顎が外れていた。


 喉元には刺し傷があり悲鳴を出す事も出来なかったらしい。人の死に方にもいろいろあるが、これは決して真っ当な人間に与えられるべきではない残酷な死に方のはずだ。


 その焼け焦げた遺体は何を隠そう、クラスの中心人物の桂里奈だった。

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